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第七部‐第二王子と出会う。

「デカい街壁だけど…、クリスタル達はちゃんと言いに行ってくれたかな?」  敵だと思われて射掛けられてしまえば、陵も美玲も、奴隷騎士達も容赦無く敵対行動に移るだろう。  真に彼らが怖いところは、人死を何とも思わない所かもしれない。  敵に回れば、"敵だ"という判断の元、説得も何も無しに、突然の総攻撃を仕掛ける事になってしまう。 「あ、門が開き始めたよ」  美玲は街門の入口が開けられた事に安堵した。 「話せる人が出てくると良いんだけど…」  陵は心に願いつつも、開けられた門に、何らかのアクションが無いかを見つめる。  すると、門の出入り口に屈強な男が現れ、彼は彼らの視界に入り込んだ。 「どうも、援軍として来た陵です。貴方は…?」  陵はそんな彼に自ら近付き、握手を求めた。 「私はこの国で騎士団長をしているグレンだ。援軍を寄越してくれて助かった」  彼は陵の手を取り返した。 「…あれ? 騎士団長って」  陵も美玲もクリスタルの顔が浮かんだ。 「ああそうだ、私がクリスタルの父だ」 「それはそれは…その、娘さんとは仲良くさせて頂いてます」  陵はもう1度頭を下げた。 「それは気にしなくて良い。…後ろの騎士も疲労しているだろう? まずは彼らを休ませ、その後に私達に説明して頂きたいのだが…」  彼は少し申し訳無さそうに告げる。 「態々気を回して頂いてありがとうございます。状況の説明は、喜んでさせて頂きます」  陵はそれに感謝をしつつも、当然の義務だと騎士団長に返した。 「そう言ってくれると助かる。では…案内しよう」  騎士団長である彼が踵を返し、街中へと案内しようとする。 「騎士の皆さん、私達について来てください」  彼の動作を見た陵は、1度だけ振り返って奴隷騎士達に指示を出し、街中へと入って行った。  それから、奴隷騎士が寝床とする兵舎に案内され、奴隷騎士達と彼らはそこで別れた。  陵と美玲は、そのまま、この街の大きな屋敷へと、真っ直ぐに案内された。 「ここが、この街の領主が住まう屋敷だ」  騎士団長である彼は、目の前のそれなりに立派な建物を見せる。 「随分とご立派ですね。ここで報告を?」  世辞を交えながらも、訊ねる。 「ああ、ここで色々と説明してもらう事になる」 「わかりました。時間が惜しいので…案内をお願いします」  陵も美玲も、何者かが彼らの後ろをついて来ているのを理解していた。それと同時に、何者かが味方である事も理解しているようだ。  "時間が惜しい"と告げたのはそれが理由だった。 「すぐに案内しよう、ついて来てくれ」  グレンはそんな理由には当然気が付かない。彼は屋敷の門番に話を付け、彼らを屋敷に招くのだった。  陵と美玲が招かれた屋敷は、それなりに芸術性に富んだ建物だった。壁の至る所には、成金雰囲気とは別な方向性でアピールをしてくる絵が掛けられていて、どれも価値の高そうな物ばかりだった。 「こちらに、今回の戦争に関わった者達が居る。言うまでもないが、くれぐれも無礼の無い様にな」  騎士団長がそう告げた事により、陵と美玲は彼よりも位の高い人物が居る事を理解する。 「大丈夫です」  ただ一言だけ、陵は告げるだけだ。今回も、淡々と状況説明をするだけにして、余計な事を話す気は無い。 「では、開けるぞ」  そうして、騎士団長の彼の手によって扉が開けられた。  中の部屋には円卓が置かれていて、円卓を取り囲むように偉そうなお人が腰掛けていた。 「神祖の吸血鬼であるミリ様の命でこちらに来た陵と言います。こちらが妻の美玲です。何卒よろしくお願いします」  厳密に言えば、まだ挙式もしていないし、その類のプロポーズも(してもしなくても未来は変わらないだろうが…)していないが、あらぬ所で唾を掛けられぬ様にする為に、陵は美玲の事を妻だと表した。 「リョウ殿は補佐官だと聞いたが?」  中の一番偉そうな男が、陵に訊ねる。 「それは妻も同じく…です。私達は二人でミリ様を支えております。…して、貴方様の名前をお教え願えますでしょうか?」  美玲はもちろん、陵もここに座っている全員の顔も名も知らない。  その発言に眉を顰める者も居たが、そもそも、知らないものは知らない。 「ああ、それはすまないな。私はこの国の第二王子であるカエサテだ。改めて、今回の件について礼を言おう」  どうやら王子だったらしい。確かに自国の王子が知られていないとなれば眉を顰めるのも無理はないだろう。 「あー…その、申し訳ありません。実は私達は異界から来た存在でして…その、こちらの著名人の方の顔をほとんど知らないのです。ご容赦頂けると助かります」  陵はその非礼を詫びる。詫びる事で少しでも空気が緩和されるのなら、頭は下げるべきだろう。 「…というと、勇者と同じ存在だと言えるのだな? ああ、立ちっぱなしは辛いだろう、そこの空いている二席に座りたまえ」  疑問を投げながらも、陵ら二人に、カエサテは座る様に指示を出した。 「「失礼します」…、そうですね、あれと出身が同じ事に変わりはありません」  2人は丁寧に会釈をして、円卓の空いている席に座った。 「…含みのある物言いだな」  少し眼光を光らせながらも、カエサテは陵に告げる。 「ええ。…ですが、勇者と私達の違いは、立場をもってして当然の様に理解できると思います」  そんな言葉もひらりひらりと躱してしまった。 「まあ…そうだな。騎士団長である彼に聞けば、神祖の吸血鬼殿は人族至上主義に真っ向から対立しているのだとか…」 「その認識は正しいようで正しくありません。正確には…邪魔者を排除しただけです」  そも、ミリは人族至上主義で勇者召喚をしたグランディス帝国だからと要注意している訳では無い。むしろミリからすれば、重要度はあまりに低い。だからこそ、どこぞの皇子を餓死させてしまう訳で…。 「敵とすら認識していないと…?」 「はい、至上主義があっては街の発展はありませんから」  陵は淡々と問われたことに答えるだけだった。 「…して、何時ごろから、戦況の説明を始めたら良いのでしょうか? 私は交渉に来たのではなく説明をしに来たはずなのですが…」  だがしかし、それも終わりだ。この場は戦場についてを話し合う場だ。それを解っているからこそ、彼は本当に"戸惑い"を顔に浮かべながら、本題は何時からなんだと問うた。 「あ、ああ、そうだな。では、今の戦況を説明して貰おう。本来はこちらに合流するのが先だったのだろう?」  こちら…とは王国軍の事だ。第二王子である彼は、陵にペースを崩されて少しだけ慌てる。 「はい。その件についてはクリスタル…いえ、騎士団長の娘さんと代表の子をそちらに向かわせました。…彼らはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」  彼らの身の安全が確保されているかの、問い掛けである。 「客室に泊まらせている。こちらは…彼を護衛だと聞いたが?」  神祖の吸血鬼が息子認定している事を第二王子は知らなかったようだ。 「間違っていません。彼は代表の子として扱われていますが、今回は彼の娘さんの護衛として来ています。一応ではありますが、彼は単騎でランドドラゴンを狩れるほどの人材です。戦力的には安心して貰って構いません」  ついでに、ティルの身柄に保険を掛けた。 「あの若さで?」 「はい」  事実を述べただけで着色は一切加えなかった。故に、深く聞こうとしたであろう第二王子の言葉にも、"はい"としか答えなかった。 「…そうか、続けてくれ」  第二王子は渋々、彼に続きを促した。 「結果から述べます。まず…聖国軍の勇者を7人程討ち取りました。敵貴族や神官も討ち取りはしたのですが…」 「待て待て待て、勇者を討ち取ったという事は真なのか?」  勇者処理の報告をし、貴族の報告をしようとすると、王子に割り込まれた。 「…逆に、嘘を付く理由が何処に?」  "何を言ってるんだこのバカは"と考えている事が、ありありと感じ取れてしまう様な目を、思わず彼は王子に向けてしまった。 「い、いや、そのだな。勇者というのは手強く、彼ですらも、苦戦して何度か引いているのだ」  王子はそんな目を向けられた事が初めてで、騎士団長を手で示して、必死に弁明した。王族にそんな目を向ける存在はほとんど居ないのだろう。  第二王子である彼が、陵らが帰国した後にバカにされては困る。 「ああ…もしかしなくても正面から戦ったんですか?」  普通の人よりは、少なくとも身体の性能が良い勇者に対して、彼らは愚策にも正面から戦ったのだろうと彼は予想した。  と、同時に、騎士団長でありクリスタルの父である彼が、苦戦して引いた事に驚いた。 「防衛戦だったからな」 「助言…という訳ではありませんが、勇者は奇襲や汚れた戦いには滅法弱いと思いますよ」  そこで認識のズレを、陵は理解した。  確かに常在戦場を戦い抜いてきた騎士が、奇襲に滅法弱いなんて事は無いだろう。  だが、勇者は違う。所詮日本というクッソ安全に見える国から来た学生が、経験も何も積まずに騎士団長らと同じ力を手に入れただけだ。  奇襲に弱いなんて…相当に頭が可笑しくない限り、当たり前だろう。 「…ほう? 何故だ?」  王子の1度目の問い。 「あれは経験が無いんです。騎士団長殿と"対等"に"正面"から戦える能力を持っていたとしても…経験が追い付いてないのです」  単に事実だけを述べる。陵や美玲だって、奇襲に対しての警戒レベルは相当に高くなっているのは、始めに帝国と敵対したからに他ならない。 「それは…何故だ?」  王子の2度目の問い。 「まず1つ目の理由ですが…私達が住んでいた国は、刃物を携帯する事すら許されなかった地であり、争いとは無関係に見える土地でした。そして…勇者が持っている力はこの世界に来て初めて与えられたモノです」 「…つまり、その手の話が身近に感じられず、尚且つ、力は彼らが元々持っている物ではない。故に…使いこなせていない」  王子は自身の理解にそれらの話を落とし込んだ。 「そうです。それから2つ目の理由ですが、力が欲しいと呼び出した勇者が制御不能になってしまった場合…処分出来なくては、帝国側も困るでしょう?」  これは実際に見聞きした訳では無いが、外れない理論だろう。  勇者を正面から軽々しく叩き潰せる力があるのなら、勇者召喚などをする必要は無いからだ。 「理由は納得した。だ、だが…その、それではあまりに君達の雰囲気から掛け離れてしまうと思うのだが…」  王子の目から見ても、陵と美玲は何処か異質に映る。いや、映らなくては可笑しいだろう。 「そうですか? そこまで自覚は無かったのですが…」  陵もそこまで変な風に見えるとは思っていなかった。けれども…納得もしていた。  あれだけ大量に、自身に言い訳1つせずに、自身の為だけに人を殺して来たのだ。日本に居た頃と雰囲気が変わってない方が寧ろ可笑しいだろう。  元々、日本に居る時から特殊だった…という線も無きにしも非ずではあるが。 「ですが、それだけ短期間に経験を積んできたのだと、そう理解して頂ければ幸いです」  だが、それすらも拒絶はせずに、むしろ受け入れ、相手に対して緊張感を持たせる物言いを返す。 「…話を戻しますが、貴族の処理は、私達の元に来て頂いている王国の使者に任せてしまっています。その点において…仮に失敗したとしていても、こちらに一切非は無い物だと思っています」 「ほう?」 「どうやら彼は、暗部で上位の方の様ですが…まあ、それは良いです。私達は確認出来た勇者を全て討伐し、貴族を数名この手で殺しました。援軍の手柄としては十分だと思いますが…如何ですか?」 「…十分だ」 「では、説明はこれにて終わります」  陵は自身があくまで仕事で来ているのだと、そう印象付ける様に、報告という名の説明の一切を終了させた。  王子も周りの人間も驚いていた。使者として送られた彼は暗部の長であり、所謂お偉いさんである。それを知っている事も、それを知りながらも彼に丸投げしたと告げる陵にも…だ。 「それは些か不誠実では無いか?」  そこで初めて、第二王子以外の人物が口を開いた。 「正面から正直にお伝えしているのにも関わらず、貴方は不誠実と言うのですね。少々残念に思います」  きっぱりとそう告げるだけで、それ以上に言葉は続けない。残念に思っているのは事実だ。 「正直、理解に苦しみます。暗部を使い監視をしたり、使者を偽ってこちらを試したり…まるで、こちらの国が上位であると鼓舞している様な物ではありませんか」  そして、一呼吸をおき、陵は告げるつもりでは無かった事実を、"不誠実"と罵られたお返しに叩き付ける。 「不誠実なのはどちらなのか…是非ともお教え頂きたいのですが?」  じっ、と彼は王子を見つめた。 「…わかった。こちらに非が有った事を認めよう。すまなかった。それから…羽休め出来る部屋を用意し終えた。部屋を用意するまでの戯れだったと思ってくれ」  すると王子は謝った。陵は内心で舌打ちする。ここで"そんな証拠はあるのか?"と詰め寄ってくれば、証拠を提示した後、更に交渉において優位に立つことが出来ただろう。  つまり、それをこの王子は知ってか知らぬか、回避したのである。だてに王子と呼ばれている訳では無いのだろう。 「戯れだったのですか。…ついつい本気にしてしまいました、申し訳ありません。では、心遣いは有り難く受ける事に致します」  内心を封じ込め、陵は何食わぬ顔で、王子にそう告げるのだった。
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