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第六部‐与えられた力。

「いやー…元気にしてた? 僕から見ると元気そうなんだけどさ」  あーちゃんこと天照大神が、固まっている陵と美玲の前に出て来て問い掛ける。 「なっ、なっ、なんでいるのっ!?」 「いやいや、だって、シンって僕の取引相手だし?」  天照大神が言う取引内容は、陵と美玲の身柄の確保と保護だ。 「あ、えっと」「まずはそっちだよな…」 「「力をくれてありがとう。お陰で生きていけてるよ」」  ここまで生き延びる為の力を与えたのは彼女だから、彼らはお礼を言わないといけない。 「ふふっ、それは良かった。…本当に良かった…」 「わわっ、泣いちゃダメだよ、あーちゃん」  そして、天照大神と美玲はお互いに抱き合った。 「陵も来る?」 「俺は…いいや」  美玲が"仲間に入る?"と陵に聞くも、彼は拒否した。流石に女2人に男が抱き着く訳にもいかないだろう。 「ぐずっ…ずずず…、色々あったんだねえ…陵も美玲も変わっちゃったね…」  天照大神は美玲を抱きしめながら、彼らの変化を感じた様だ。明確にわかってしまう程には…彼らは変質してしまっている様だ。 「そうかなあ?…変わったかなあ??」  美玲には、当然心当たりがない。 「人外寄りになっちゃってるね」 「ぇぇえっ…」  流石に"人外寄り"と言われると、美玲も陵も顔を顰めてしまう。 「でも、力とかは…ほら、スーパーマンみたいじゃないんだよ?」  美玲に自覚が無いのは、自身に明確な人間離れした力が備わっていないからだ。 「それは私が前に説明しただろう。"相思狂愛"とはそういう能力なのだと」  そこで初めて、シンが彼らの会話に割り込んだ。 「…あ、シン、ごめんね」  天照大神はシンを無視していた事を謝る。ついつい、陵と美玲に夢中になってしまったようで、完全にシンの存在を忘れていたようだ。 「いや、別に気にしてはいない。どうだ? 話すなら私の家で話さないか?」 「あ、うん、そうしてくれると助かるよ〜。陵も美玲も行こう」  シンの提案を聞いた天照大神は、彼と彼女の手を引いた。 「あっ」「えっ」  呆気に取られながらも、最上級神であり、日本の主神である天照大神に力で勝てるはずも無く、彼らは引き摺られてしまう。  それ以上に、彼らの見知った顔が嬉しそうにしてくれている事実が、彼らにその腕を振り払わせなかっただけ…。  それから、"ヘブンズガーデン"内のシンの家へと陵と美玲は招かれた。 「シン様、こんな遅くに何用でしょうか?」  家のメイドである中級神ガウリエルが、シンらを出迎えた。 「ああ、気にしなくて良い。場所を使いたいだけだからな」  そんなガウリエルに、シンはヒラヒラと振って手は要らないと告げる。  すると、ガウリエルは一礼して、さささっと彼らの前から下がっていった。 「レイさんよりメイドっぽい? 服装はあれだけど…」  陵がそう呟くように、メイドらしいメイドに見えた。服装-ギリシャ神話の女神の様な-は置いておくとして…。 「はは、そう思うのも仕方が無いだろうな」  そんな言葉を笑いながら、シンはリビングルームへと彼らを案内した。 「そこのソファにテキトウに腰掛けてくれ」  陵、美玲、それから天照大神にそう告げて、シンは彼らを座らせた。 「…で、俺達は何をすれば??」  陵も美玲も、突然家に招き入れられてしまっては何を喋れば良いのか、何をしてはいけないのかもわからない。 「好きにすれば良い…と言いたい所だが、話しにくいというのなら、私が先に要件を話してしまおうか」  シンは彼らの様子を見て提案した。 「あ、うん、お願いします」  そうして貰えると助かるかなーなんて、そう思い、美玲は軽く頭を下げる。 「なら、そうしよう。まずはこれだな」  シンが取り出したのは、1つの剣を取り出した。 「剣だ」「剣だね」  陵も美玲もそれを見て言う。天照大神は美玲の隣で黙って見ている。 「天照大神から受け取った力で…これを複製してみろ」 「ええ…、…わかった」  陵は少し嫌そうな顔をしながらも、その剣をじっと目視して記憶する。  その剣は、ハンドガードもしっかりと付いている、極めて普通の剣だ。 「えっと…こんな感じ? 結構疲れた気がしたんだけど、今はそんなに」  それの偽物を手にした陵は、"投影"した感想を述べる。どうやら、投影を行っている間に気だるさに襲われてしまったらしい。 「陵、それ…僕に貸して」  天照大神が陵が創り出した剣に手を伸ばす。彼はその手を迎える様に、自ら剣を手渡した。 「…陵、随分と"投影"の腕を上げたね。それに…この武器って、地球人が創り出せるもので無い事は理解してる?」  天照大神は少しだけ驚きつつも、陵に問い訊ねる。 「そうなの?」 「普通はガス欠になっちゃうんだけどな〜…」  陵の顔を見た天照大神は"理解していない"事を理解した。 「でも…ならないんだけど?」  陵からすれば、"なってないものはなってない"というだけの話だ。 「…シンが僕を呼んだ理由がちょっとわかったよ。確かにこれ…正しく知っとかないと危ない力だね」 「「えっ!?」」  天照大神が、今までに無いくらいに神妙な顔をしたので、陵も美玲も焦る。 「あーちゃん様、ウチの子は治りますでしょうか?」  美玲がネタなのか本気なのかわからない言葉を超真面目な口調で吐き出す。 「あー、ごめんごめん。別に君達に問題がある訳じゃないよ。それに美玲も例外じゃないから」 「ええぇぇえ?」  自分達に問題が無ければノープロブレムなのでは?と美玲は思う。 「ま、僕もあの世界に居るうちは問題無いと思うけどね…」 「地球の神々からすれば、幾らラフタの生命が死のうが関係無いからな」  シンも天照大神に頷く。 「そういう事だよ。えっと…じゃあまずは、僕が君達に与えた力の説明をしよっか」  天照大神はそう言って微笑んだ。陵の美玲も、そんな彼女に神妙に頷く。  こうして始まった、天照大神の能力講習。  彼女が陵に個別に与えた能力は、"投影"、"射影"、"転移"、"絶対記憶"の4つ。  彼女が美玲に個別に与えた能力は、"転移"、"アイテムボックス"、それから、能力とは違うが、アイテムボックスの中に入っていた道具の数々だ。  そして、2人に共通して与えた能力は"鑑定"、"言語翻訳"、"ステータス偽装"、それから…"人有らざる強靭な肉体"の4つだった。  天照大神は"人有らざる強靭な肉体"を陵にも美玲にも与えていた。その肉体は、鋼鉄をも簡単に飛車げられるくらいの力を引き出す事が出来たはずなのだ。  だがしかし…陵も美玲もあくまで一般人程度の運動神経しか持っていないし、力も持っていない。  その能力の塊は、彼らの肉体では無く、脅威的な能力を目覚めさせる鍵になってしまったのだ。  神が人に力を与える。それは神が自身の加護を与えて、眷属化する事と同義である。  だが、陵に美玲が眷属化されていない。それは眷属としての繋がりが、地球からラフタに転移した際にブチッと切られてしまったからである。  それにより天照大神が与えた力が、彼女の監視下を離れ変質しやすくなってしまったのだろう。  更に彼らは、その身に天照大神以外の神々を宿してしまった。  その2つの条件が天照大神の与えた力の、本来有るべき姿を変異させてしまったのだ。 「…それが"相思狂愛"に?」  陵はそう結論付けようとする。 「それだけじゃあ、無理だよ。その能力の元は…陵も美玲も元から素質があったんだと思う」  けれども、それに待ったをかける天照大神。 「陵は交通事故で車にはねられたのは覚えてるよね?」  そして、そう続けた、 「あー…うん、覚えてる。待って、待って、美玲、怒らないで…」  陵がそう言うと同時に、美玲はポカポカと陵を殴った。 「殴られても仕方ないでしょ? あの時はホントに自殺しようと思ったんだから…」  美玲は口を尖らせて言う。  その交通事故というのは、陵と美玲が付き合って1年くらいが経った頃に、まだ、陵の家族も全員生きていた頃に起きた事故だった。  陵は車にはねられ、生死を数日間さ迷った。  そして、そこで初めて陵は天照大神と顔を合わせた事になる。  実はこの話題は、陵と美玲の間では本当に禁句だ。美玲が怒るから…。  だってそうだろう? "愛した人を残して不慮の事故で亡くなりました"なんて、笑え無さ過ぎる冗談だ。  そういう訳で、その話になると美玲は必ず怒るのだ。それもあって、陵も滅多に口には出さない。 「あはは、美玲のそこら辺にしてね。で…あの時、陵はそのまま幽体離脱のまま、魂がすっぽり抜けたまま、植物状態になる筈だったんだ」 「…待って、それは俺も聞いてない」  唐突の暴露に、陵は待ったを掛ける。 「だって言ってないもん。でも…そうはならなかった。それは…」 「…間違い無く"相思狂愛"が干渉したな」  シンはそれに続けるように言った。 「そういう事さ。だから…本当はあの頃から兆しはあったんだ。…それが僕の与えた力を変質させる事で覚醒した」  表に出てくる程に、能力として形を持つ程に、当たり前の事象として陵と美玲に備わったのだ。 「その能力は…さっき"投影"した剣が投影出来た原因でもある。どんな風にそれが関わってくるのかは、後でシンに聞いてくれると嬉しい。それから、シンは嘘は教えないから…そこまで警戒しなくても大丈夫だからね」  天照大神は最後に、シンに聞けば大丈夫だと彼らに口添えした。 「それと後は、その能力が周りに与える影響なんだけど…なんて説明したら良いかな?」  天照大神は、そこでシンに話を振る。 「先日、私は彼らの幸せを壊す物を破壊するモノだと教えた。それで間違いでは無いはずだ」 「うん…それは、そうなんだけどね。その範囲が広過ぎるでしょ? 僕が刀を抜いて襲い掛かったとしても…恐らく僕もそれの影響を受けるだろうし」 「だから…人の枠では無いと言った」 「でも、シンも説明し切れてない自信はあるでしょ?」 「…ああ」  天照大神もシンもどう説明をしようか悩んでいた。 「「・・・」」  陵も美玲も、シンと天照大神が頭を悩ませるのを見て、お互いに顔を見合わせた。 「1度戦って見ればわかるか?」 「戦いだけに作用する能力じゃない。それに…彼らは命の危険があると判断しない限りは、その能力は発動しない」 「難しいな」「難しいね」  シンも天照大神も悩む。 「えっと、じゃあ、何が起こるのかだけ教えてよ」  美玲はそんな彼らに訊ねる。 「それが決まってたら苦労しないんだよね…」 「何に影響するか言えない、というのが正直な所だ」  その問いに対しての答えは、それらだった。 「今考えても…答えは出ないな。なら、取り敢えず保留にして…」  シンは考えるのを止めたらしい。そして、何処かの亜空間を開いた。そしてそこから、多種多様な武具を陵と美玲の前に取り出す。 「…何?これ?」 「3日後までに、全て複製して来てくれ。オリジナルは渡しておく」 「…わかった」  訝しい目を向けながらも、シンの指示に渋々従う事にしたらしい陵は、その武具を自身らのアイテムボックスに丁寧に仕舞って行った。 「…午前0時」  シンは唐突に、部屋に掛かっている時計を見て呟く。 「…完全に深夜」  陵もそれを聞いて、少しやっちまった感を味わった。 「陵に美玲、このまま天照大神を話したいのであれば、明日、また私が迎えに来るが、どうする??」  シンは少し慌てた様に訊ねる。 「あー…うん、もっとあーちゃんと話してたいんだけど、フィルドが居るから…」  陵も美玲も、聖神と鬼神に任せてるとはいえ、放置するのは少し怖かった。 「今度もまた会えるよね??」  美玲は天照大神の顔を覗き込んで聞く。 「うん、君達が生きてれば会えるよ。後は僕が消滅しない限りはね」 「良かった〜、なら帰れるね。シンさん、私達も帰るよ」  更に心底安心した表情で、天照大神をハグしながら言った。 「そうか、ならば…早速転移しよう、天照大神は…そうだな、好きに帰ってくれ」 「言われなくてもそうするって」  天照大神はシンの言葉に苦笑で返す。  シンはその言葉を聞いて頷いた。そして次の瞬間、天照大神を残して、彼らは屋敷-ラフタ-へと帰って行くのだった。 (取り敢えず、元気そうで安心したよ。…不老不死になったんだから、少し待ったら、また一緒にゲームとか出来るね)  取り残された彼女は、少しだけ、これからの未来に想いを期待をしながら、心の中で思うだけに留めたのだった。
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