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第六部‐王族の吸血鬼を尋問…したかった。

「むっ…何かあったな??」  シンは書斎部屋に転移すると、そこにミリも陵と美玲も居ないのを確認して、そう結論付けた。 「偶々居ないだけでは?」  対して、シンと共に転移してきたレイは疑問を呈する。 「…取り敢えず食堂に行ってみよう」 「そうですね」  シンとレイは食堂に足を進めた。 ☆☆☆ 「あら、シンにレイ、随分と遅かったじゃない」  ミリは入ってきたレイとシンを、そちらの方は見ずに声を掛けた。 「…フィリカが居るという事は、そこに寝ているのは怪我人か?」  奴隷を管理しているフィリカがこちらに居る。そして、地面に寝かされている5人を見て、予想する。 「ええ、その怪我もさっき問題が無いって結論になったわ」 「…そうか、犯人は誰だ? 手早く滅ぼしてしまおうか」  早速、シンは報復する方向で話を進めようとする。 「驚かないで聞いて欲しいのだけれど…犯人は吸血鬼よ」  ミリは少し躊躇いながら告げた。 「…真祖か?」 「いえ、普通の吸血鬼よ。…でも王族ね、私は見た事があるわ」  シンの問い掛けに、ミリは記憶を辿る様に答える。 「そうか。…普通の吸血鬼は陽射しの中では到底戦えないだろう??」  シンの言う通りで、夜には最強種族と言われる事もある吸血鬼だが、陽が出ている間は最弱ゴブリンよりも弱くなってしまう。 「わからないわ。…その結果、この子達には怪我をさせてしまった。…エリクサーもかなり使っちゃったわ」  ミリは弱った様に言った。  今回は、シンにとっても完全に想定外であった。  シンは、吸血鬼が喧嘩を吹っ掛けてくる可能性があったのは解っていた。だからこそ、夜を重点的に警戒していたのだが…まさか、日が差し込む昼間に、しかも自身らが居ない間に手を出されるとは思わなかったのだ。 「…で、軍を動かす許可をくれないかしら?」 「私に聞くという事は…」 「ええ、レオンとフィリカを私に貸してちょうだい」  ミリは売られた喧嘩は買うつもりのようだ。 「…念の為に聞くが、フィリカは良いのか?」  シンはミリのすぐ側で、椅子に座ってのんびりとしているフィリカに訊ねる。 「私は構いませんよ。ミリと私の仲ですから」  フィリカはミリとかなり仲が良いので、断る確率もかなり少なく、案の定断らなかった。 「そういう事よ。後は…貴方に許可を出してもらえれば良いの」  レオンはシンの戦力なので、レオンもフィリカもシンの許可が無ければ動かない。 「ふむ…私はそれでも構わない。だが、別に今からその国に私達が行っても良いのだが…」  力のままにシンとレイが殺戮の限りを尽くせば、それで終わる話でもあるのだ。 「何言ってるのよ。破壊するだけじゃダメに決まってるじゃない。…搾り取るのよ」  ミリは破壊ではなく、吸血鬼のその国を対外的に叩き潰し、周りの国の抑止力にして、吸血鬼の王族が持っているであろう財宝を根こそぎ奪う気でいた。  吸血鬼の国を知っている国々であれば、その国が潰れれば、潰した彼らに対して、戦争などはしたくないと思うだろう。 「許可を出す。ミリに考えがあるのなら任せよう」 「ありがとう。それから…陵くんと美玲ちゃんの奴隷である彼らを、お詫びとして奴隷から解放しようと思うのだけれど…どうかしら?」  そして、シンが来る前に決めた物事をシンにも話す。 「私は構わないが…良いのか?」  陵と美玲に目を向けて問い訊ねる。 「ミリさんが、こいつらの面倒を見てくれるって言うから問題無い」 「うん。でも…何か変なことしても責任取れないからね?」  陵と美玲は既に話が付いているので、口々にそう言うだけで反対しなかった。 「なら、好きにすれば良い。だが…レオンが奴隷を与えると陵か美玲かに約束したと聞いていたのだが…?」  だいぶ前の話ではあったが、約束は約束である。 「ああ、それなら…彼らを安く買い叩かせて貰ったわ」 「なるほど」  つまり勇者組は、一旦ミリに買い取られ、奴隷から解放されるという訳だ。 「だから、まず始めに…奴隷化の解除をお願い出来るかしら?」 「彼らが起きてそれを受け入れなくては無理だ。それまでは待て」  いくらシンと言えど、自身が生み出した契約を、勝手に壊すという事は多くの労力を有する。 「なら…フィリカ、レオンにお願いして軍の編成をして貰っても良いかしら?」 「わかりました。明日になったらここに来ますね」 「ええ、わかったわ」  フィリカは最後に患者の容態を流し見てから、その食堂の外に出て行った。 「陵くんと美玲ちゃんには来てもらうとして…シンもついて来てくれるかしら?」  まだ話は終わっていないようで、ミリはシンを誘う。 「…まだ何かあるのか?」 「ええ、今回の襲撃者が外で磔になってるのよ。陵くん作よ?」 「その言い方はやめて欲しい…」  陵はその物言いに思わず不満の声を上げる。 「あら?そう? だって迷いなく串刺しにしてたものだから…」 「うっ…」  だが、陵もそう言われると文句が言えなかった。 「まあ良い、少し楽しみだから早く見せてもらえないか??」  シンは陵の戦闘風景が少し気になったらしい。それでも試す様な真似は失礼なのでしないが…。 「ふふっ、そういう事だから行くわよ。レイは…いつも通りよね? 夕食の支度をしながらで良いから…少しだけ彼らの面倒を見てもらえないかしら??」  そして最後、ミリはレイに勇者組とハイルの面倒を見て貰えるようにお願いした。 「ええ、任せてください」 「ありがとう。じゃあ、行くわよ」  レイの返事を聞いて、ミリを含めた4人は食堂を後にした。 ☆☆☆  そして、少し暗くなった庭に彼らは出て来た。 「ほう…? 陵、あれは陵が作ったのか?」  庭に磔にされている吸血鬼を見て、その磔にしている刀を見て、陵に問い訊ねる。 「ん? そうだけど??」  それがどうした?と言わんばかりに陵は告げる。 「陵、美玲、夕食後に私の元に来てくれないか??」 「え…、何で?」  陵はその提案に対して、いかにも面倒くさいオーラをか持ち出して理由を聞く。 「それこそ…理由は後で話す」 「…わかった」 「ちょーっとーーっ!? 今はそっちの話じゃないのだけれど??」  陵とシンが、今は関係ない話をしていた為、ミリが不服そうに会話をぶち切った。 「悪い悪い、その吸血鬼の話だろう?」 「そうよ。何で日中に動けたのか…調べて貰えないかしら??」 「こいつが死んでも構わないか?? 原因はわかる」  "森羅万象の眼"で見ただけではあるが、わかったらしい。 「あら流石ね。…絶対に死ぬの?」 「いや、7割の確率で生き残る」  あくまで可能性というだけであり、だからと言って、いきなり襲ってきた襲撃者に気を使う気も起きない。 「あら、なら良いわよ。死んだら運が悪かったって話だものね」 「なら、始めよう」  シンは黒衣を腕に纏い、刃物状にしてそれの胸を貫いた。そして、血が溢れ出るのも無視して心臓から何かを取り出した。 「魔道具だな。…吸血鬼が日向で生活出来る様にしたのはこの道具なのだろう。かなり高価そうだからな…流石王族と言った所か」  そして取り出した物をミリに見せて言った。 「私が居ない間に随分と進んだのねえ…」  見せられたそれを手に取り、ジロジロと見ながらミリは言葉を返す。 「陵、口に刺さっている刀を抜いてくれないか??」  ミリがそれに夢中になっている間に、シンはお願いした。  吸血鬼が今まで何1つ話さなかったのは、声帯をも刀が貫いていたからだ。  陵は容赦が無さ過ぎる、それは間違い無かった。 「はい、消したよ」  陵は"投影"していた武器を分解する。 「…あー、これは…話せる様になるまで時間が掛かりそうだ」 「そうねえ…随分と弱ってるもの。体の再生力も落ちてるわ」  シンがボヤき、ミリが"確かに"と思う。 「陵、この刀はもう使わないか?」 「え? 使わないと思う」 「なら…こうしよう」  シンは未だに刺さっている刀ごとその吸血鬼を石化させ、オブジェにしてしまった。 「これで良いだろう。ミリも良いな?」 「ええ、助かったわ。陵くんと美玲ちゃんは引き続き…仕事を頑張るわよ…」  ミリは今までの騒動で、仕事をするべき何時間かを無駄にしてしまったので、少しグロッキーになっている。 「「は〜い」」  それは陵も美玲も同じだった。 「…私も手伝おう。明日からは代表の代理は私がするから…その引き継ぎも含めて、纏めて終わらしてしまおう」  そんなグロッキー状態な彼らを見て、シンは少し苦笑しながらも手伝う事にしたようだ。 「シンが手伝ってくれるなら百人力よ。頼りにしてるわっ!! もちろん陵くんも美玲ちゃんも頼りにしてるわっ! 夕食前までに終わらすわよっ!」 「「おー…」」  こうして、吸血鬼の王族がやって来た一件は幕を閉じたのだった。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  それから夕食の時間が過ぎ、シンに言われた通りに、陵と美玲は彼の元を訪れていた。 「態々足を運んでもらって悪いな」  シンは彼らの姿が見えると同時に声を掛ける。 「…何で態々夜遅くに?」  もう他の人々は寝静まっている時間だった。 「あまり人に聞かれたくない事と、お前達に関して…だ」 「「…?」」  陵も美玲も思わず首を傾げた。 「まずは座ってくれ」  シンは彼らに向かいのソファに座る様に示す。  彼らは少し警戒しながらも、そのソファに座った。 「まずは…そうだな。これは提案なんだが…私の元でもう少し力を付けてみる気は無いか?」 「…どういう事?」  要領を得ない言葉に、美玲はまたもや首を傾げる。 「言葉のままの意味だ。わかりやすく言えば…陵の能力に必要な武器を記憶させてやっても良い」 「…何となく言いたい事はわかった」  そこでやっと何が言いたいのかを理解出来たらしい。 「俺達が強くなるのは良いとして…それでシンさんは何を得するの??」 「強くなったお前達を私が手に入れる世界に連れて行こうと私は思っている。…ああ、もちろん嫌ならば構わないがな」  これはシンの勧誘である。 「あー…えっと、ちょっと待って? スケールデカ過ぎでしょ…」  美玲は突飛な提案に思わず、頭を抱えそうになった。 「その世界って何があるの??」  陵は前向きに情報を集めようとする。 「何があると言われても…高大な自然が広がっているとしか説明出来ないな」  またもやシンから、要領を得ない言葉が紡がれた。 「…人は?」 「居ない」 「動物は?」 「居る」 「植物は?」 「生えてる」 「海」 「ある」 「山、森、雨、雷」 「全てある」  一通りの陵の質問に、シンは答え終えた。 「それってさ…人が生まれてない星って事だよね?」  美玲は一連の話を聞いて問う。 「そう…だな、そう言うのが正しいだろう」  シンはそれを肯定した。 「俺達はその世界に行って何をすれば良い?」 「いつもと変わらず、ミリの補佐をして貰う。ミリがお前達の事を随分と気に入っていてな」 「…ミリさんは何をするの?」  美玲は更に問う。 「ミリには星の王になってもらう」  それに対するシンの答えは、物語が収束してしまう程の暴露だった。 「…あれ? シンさんがなるんじゃないの?」  だが、そんな事よりも美玲はそっちの方が気になったらしい。 「私がやるのは世界の管理だ。王と管理者は別に置こうと思ってる」  世界の管理者がシンで、世界の王がミリになるという事だ。 「シンさん、まだその星は手に入れられてないんだな?」  陵はそれがまだ未来形であるが故にそれを問う。 「ああ、私達がこの世界を去る時…その世界は私の管理下になる」 「・・・」 「・・・」 「どうした?」  陵と美玲の動きが止まった為、少し心配になりながらも問い掛ける。 「…いや、スケールデカ過ぎ。本当っぽいって言えばそうなのかもしれないけど…」 「…うん、気持ち半分で信じてて良い?」  対して陵と美玲は口々に言った。 「それでも構わない。で…最初の話に戻る訳だが、どうする?」 「それは…うん、お願いします」  美玲は今までの話を聞いて、素直に頭を下げた。陵もそれに合わせて頭を下げる。デメリットが無かったから。 「そうか、受けてくれて助かった。…"相思狂愛"という能力が善悪を分けているのか?」 「あれ? シンさんって俺達の能力も見えるの?」  自身らも詳しく知らない能力の名をシンが呟いたので、少しだけ驚いた。 「見える…というよりも漠然とわかるだけだ。しかし…よく、そんな能力を持っていて正気を保ってられるな?」  シンからすれば"相思狂愛"という能力はそんな能力だ。 「そんな危ない能力だったっ!?」  美玲はその呟きに思わず叫ぶ。 『美玲…主らは既に狂っておるよ。狂った結果が今の主らじゃ』  しかし、そんな叫びを、まさかの、首に掛かっていた牛神が否定した。 「…狂ってる?」 『主らの心が壊れた結果が今の主らなのだ。だから心配する事は無い』 「「・・・」」  思わず陵も美玲も、その牛神の物言いに顔を顰めることしか出来なかった。彼らは"相思狂愛"を正確に把握していないのだ。 「神が3柱のお前達と繋がっている。…結果人の身を超越した訳だが…ふむ、その能力に関して言えば私が少し説明しよう。なに、お前達が私の元で力を付けるための手付金のような物だ」 「「わかるのっ!?」」  陵と美玲は叫ばざる得なかった。 「うん?ああ、大体だがな。その能力は決まった効果が無い、そして…中枢にある効果は自身らの幸せを破壊する物を排除する事だ」 「う〜ん?」「…よくわからない」  シンの説明に理解が及んでいない。 「…例えば、私が魔法を使ってお前達を殺そうとしたとする。すると…魔法がその能力によってかき消されるんだ」 「…もしかして、吸血鬼の杭がバラバラになったのって」 「お前達のその能力が相手の能力に干渉したんだろう」  陵は昼間過ぎに、心当たりのある現象があった事に気が付いた。 「その能力は…私も恐ろしく強力だと思う。発現した理由は恐らく…お前達を送り出した天照大神が原因だろう。それに関しては、また今度会う時に彼女に聞いてみると良い」 「あの神様が天照大神だったんだ…。いや、うん、手紙でもPS天照大神って書いてあったからそうだと思ってたけど…」  彼らは何だかんだ言って、彼らに力を与えた神様の名を知らなかった。正確には、何となくなく把握していたが確証は無かった…というものだ。 「だがまあ…、そんな能力が発現してしまう事は想定外だっただろうがな」 「え? …狙ってやったんじゃないの??」 「それはそうだろう。自慢では無いが私は天照大神よりも上位な存在だ。そして…そんな私に干渉する事の出来る力だぞ?」 「「・・・」」  シンの物言いに、彼らは少しだけ沈黙した。 「いやいや、私達はただの人間だよ?」  その沈黙を破る様に、美鈴はシンに告げる。 「そうだな。神らしい怪力は備わっていないし、自由に現象が引き起こせる訳でもないな。…その答え合わせは天照大神とやってくれ、私と話していても答えは出ないだろう」  美玲の問い掛けに、シンはそこまではわからないと匙を投げる。 「…わかった」 「会えたら聞いてみる」  陵と美玲が諦めたのを見て、シンは頷きを返した。 「まあ…何であれ、話すべき事は全て終わった。後は…何か聞きたい事があれば聞けば良い。とは言っても後30分程しか取れないが…」  シンにタイムリミットがあるのは…それはミリが寝室で待っているからだ。
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