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第六部‐王族は気付かれぬまま仕留められる。

 あんな事があってから30日ほど、驚く程に吸血鬼族からの音沙汰は無かった。 「相変わらず…書類が多いよ」  美玲はいつも通りに仕事をしていた。 「ま、職場としては悪くないし、頑張るしかないだろ」  陵はそんな呟きに、ペンを走らせながら答える。 「貴方達が居てくれて、本当に助かってるわ」  陵と美玲に軽く労いの言葉を掛けるミリ。そんな彼女も黙々と書類のチェックや許諾のハンコを押したりしていた。 (これは…そういう奴隷に任せれば良いわね。家を組み立てるだけなら設計図が書ければいいし…)  建設関連の報告書を見て、ミリはそれに許諾のサインを入れる。  こうして日常は流れていく筈…だった。 「!?」  彼女は突然飛来する複数の何かに気が付いた。…だが、防ぐ術を持たなかった。  今は運悪くシンとレイが"ヘブンズガーデン"に居るせいで、その何かを防ぐ誰かは居ない。  やがて轟音が鳴り響き、屋敷の庭に落ちるのだった。 ☆☆☆☆ 「クリスタルさん、大丈夫ですか??」 「…ああ、助かったよ。ティル殿」  間一髪、自身らの頭上に落ちてきた何かを、ティルはクリスタルを抱えて躱しきった。 (他の奴らはレオン師匠に任せてあるから…助かったな)  今までティルに剣を習っていた孤児達は、レオンがこの地に帰ってきてからは、彼が買い取ってきた戦闘奴隷と共に戦闘訓練に励んでいるので今は居ない。  それでも、夜に近くなると孤児達の寝床である屋敷の近くで、練習している者も居るので、今がそんな時間で無くて良かったと、ティルは心の底から安堵した。 (ハイルは生きてっかな…?)  彼は、シンが居ない中、庭で1人、剣を振っていた弟の事が気にかかった。 ☆☆☆ 「庄司、元太、奏乃さん、花蓮さん、生きてるな??」  一方、隆二ら勇者組は子供達と共に外に出ていた為、今の爆発に巻き込まれ掛けた。 「ああ、後ろの子供達も、目に砂が入っただけだ」  元太は連れていた小さな子供達の安否を確認しながら返す。 「じゃあ、さっさと子供達を屋敷の中に避難…」  ドンっ!!  隆二が指示を出そうとして、近くに居た庄司に弾き飛ばされた。  そして弾き飛ばした当の本人には…赤黒い杭のようなものが突き刺さった。 「庄司っ!?」  突き飛ばした彼の口からは血が止めどなく溢れる。 「があっ!?」「!?」「がっ…」  だが、そんな行動も無に返される。  立て続けに、奏乃、隆二、元太の胸にあっという間に大きな赤黒い杭が突き刺さった。 「あ…あ…」  花蓮はその場に腰を抜かして座り込んでしまった。 「くはははははっ!!! あれが居ると聞いてみればこの程度だとはなあっ!!」  高笑いとも雄叫びとも取れる声が、その庭に響き渡る。 「くははっ!!そこの女は我が貰ってやろう。なあに、1晩あれば充分だとも」  その声の主は、容姿故に花蓮には攻撃を加えなかったらしい。 「その後ろの稚魚共は…死ぬが良い」  そして、勇者組の後ろに避難していた子供達にも魔の手が延びる…  キャイン!? キャインっ!? 「…これ以上、好き勝手をやらせる訳にはいきませんよ」  その赤黒い杭を弾いたのはハイルだった。手にはシン作のあの杖剣が握られていた。 (時間稼ぎが精々…)  ハイルは目の前に現れた人型に勝てるとは思っていない。だから…他が来るまでの時間稼ぎをするつもりのようだ。 「王族である我に不敬であろう?」 「・・・」  それが何かを言うが、ハイルは会話をする余裕が無い。これは初めての殺し合いなのだから。 「会話も楽しめぬとは…」  一瞬でハイルの横に降り立った人型。  それに気付きハイルは距離を取ろうとするが… 「があっ!?」  明らかに人外な蹴りをぶち込まれ、吹き飛ばされしまった。 「その程度で楯突くとは…気に入らぬ、殺してやろうぞ」  先程から人型が打ち放っていた赤黒い杭を、宙に大量に精製した。恐らくはハイルの事が気に入らず、見せしめに残虐に殺そうと言うのだろう。  そうして放たれる寸前、人型の眉間に光弾が撃ち込まれる。 「…何だ??」  人型は間一髪で躱し、飛んできた方角に目を向ける。 「くはははははっ!! とうとう出てきたかっ!!神祖の吸血鬼っ!!貴様を貰いに来たぞっ!!!」  そして嘲笑をあげた。その人型の彼の視線の先には、黒髪の男女と彼が探し求めていたミリが居たからだ。 「…言いたい事はそれだけか??」  その嘲笑の一瞬で、彼の体は-刀-貫かれた。 「…は?」  動いたのは彼が探し求めていた神祖の吸血鬼ではない。だって、その彼女は、彼に貫かれた人族を救出しようとしていたのだから。 「あれ?? 聞こえなかった?」  刺さった刀は彼の肉体を引き裂いた。 「ぐあああああっ!?」  彼の肉体からは、血がぼとりぼとりと落ちる。 「貴様アアア…何だ…と??」  すぐ様に振り返り、彼は自身を刺した不届き者を赤黒い杭で串刺しにしようとした。  …が、その時には既に赤黒い杭は原型を留めて居なかった。  彼が対峙しているのは陵だった。そして、それが原型を留められなかった原因は陵の能力"相思狂愛"が、彼の能力を全て封じたからだ。  何もして来ないとわかった陵は、(それ)の頭を掴み、容赦無く地面に叩き付けた。 「お前さあ、いきなり現れて人の友達に何してくれてるわけ?」  叩き付けた顔を消しゴムを擦る様に地面にずりずりしながらも、陵は問い掛ける。  消しゴム扱いされているのは、実は吸血鬼の王族なのだが、元々異世界人である彼にわかるわけもない。 「き…さっ…!?」 「貴様って言おうとしただろ? 本当は今すぐ殺してやりたいんだけど、ここは我慢した方がいっぱい手に入るってミリさんが言うんだよ」  それが口答えしかけた瞬間に、"投影"された刀を、地面にそれを縫い付けるように陵は刺し込んだ。 「吸血鬼…なあ、何で夜じゃないのに動けるんだろ?」  答えが無いと解っているのにも関わらず、陵か問い掛けながら1本1本刀をそれに突き刺していく。 「ミリさんの言う通りで、本当に生命力強いんだな…」  突き刺していく中で、ミリに説明された通りの、人族には有り得ない生命力の強さに陵は感心した。 「…これくらい刺しておけば問題ないだろ」  そして、完全に地面に縫い付け終わった事を確認し、陵は自らの元同級生の元へと歩いた。 ☆ 「ミリさん、隆二達は大丈夫?」  陵は戻って来て、ミリに容態を聞く。因みに美玲は、勇者組が面倒を見ていた子供達と花蓮を屋敷に移動させている為、この場には居ない。 「…大丈夫よ。1番良い薬を使ったわ」  勇者組だけでは無く、ハイルにも…だ。 「そっか。で…ミリさんに言われた通りに生かして置いたんだけど…どうすれば良い?」 「それはこっちに任せてくれれば大丈夫よ。はあ…まさか、昼間に吸血鬼が襲ってくるとは思わなかったわ」  ミリはこの惨状を見て、思わず溜息を吐いた。 「吸血鬼って昼間は動けないんだっけ?」 「正確には活発には動けない…よ。でも…あれはどう考えても、活発に動いてたわよねえ」  陵の認識に訂正を入れつつも、それでも吸血鬼として可笑しい事は認めた。 「ミリさんは上位種だって話だっけ?」 「ええそうよ、私はそこらのとは違うわ。ま、だからどうとか、微塵も思ってないのだけれど…」  会話をしながらも、ミリは奏乃と元太を肩に背負った。 「ティルっ!! 食堂にハイルを連れてきてくれないかしらっ!?」  少し離れた場所に居た、丁度駆け付けたティルにミリは叫んだ。手が足りないのだ。  それに対して、ティルは手を振って答えた。 「陵くんは2人…行けるわよね?」 「問題無いよ」 「じゃあ、行くわよ」  そうしてミリと陵によって、残りの勇者組も屋敷に連れ込まれるのだった。 「ははっ、怒涛の展開だったな」  そんな指示されたティルと共に行動していたクリスタルは、庭に縫い付けられている吸血鬼を見て笑う。 「そうですね」  ティルはそれに味気なく頷いた。 「そう言えばティル殿は、いつまで堅い口調であるつもりだ?」 「えっ!? それはいつまででもですよ」  突然のクリスタルの問い掛けに、ティルは少し驚きながらも言う。そして、転がされていたハイルを抱えた。 「私としては是非とも、普段使いの口調で接して欲しいのだが…駄目だろうか??」  クリスタルは澄んだ青色の目をティルに向けて、問い訊ねる。 「ええ…その…、うっ…わかった…ハイハイ、わかったよ。だからそんな目で見んな」  じっと見られて、ティルは根負けしてしまったようだ。 「ふふ、要望を聞いてくれてありがとう。後…さっきは助けてくれてありがとう。…私は気が付いてなかったからな」  クリスタルは今の事と先程の事にどちらもお礼を告げた。 「それは…まあ、気にすんな。それより…クリスタルさんはどうすんだ?」 「くくっ…さん付けはしなくて良い。その口調だと変に聞こえてしまう」  口調が変わるだけでここまで印象が変わるのかと思う反面、彼女には新鮮な感じがする。 「じゃあ、クリスタルも俺の事は呼び捨てろよ? 上下関係を作るのは色々不味いだろ?」 「それは…そうだな。ああ、そうしよう」  ティルの言っている事ももっともだったので、クリスタルは素直に了承した。 「えっと、じゃあクリスタルはどうすんだ? 俺はこのままハイルを母様の所に置いてきちまうけど…」 「私も行こう。串刺しにされた吸血鬼が居る中で、剣など振れないからな」  クリスタルの言ってる事も最もだと思い、ティルはそのまま頷きを返し、ハイルを含めた3人は食堂へと向かう事になった。 ☆  ティルの両手が塞がっている為、クリスタルが代わりに食堂の扉を開けた。
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