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第六部‐吸血鬼現る。
とある朝の早朝、シン、ミリ、レイは眠っている部屋に何者かが視線を向けていた。
(…いったい何処の誰なのでしょう?)
1番始めに目を覚ましたのはレイだった。レイがよく手合わせをしている妹‐隠密神アイリス‐に比べ、視線を向けている存在は、気配の消し方がお粗末過ぎた。
「ん…」
レイと、背中をくっ付け合っているミリはまだ目覚めていない。
『レイ、起きてるか?』
その段階で、ミリに抱き着かれて眠っている筈のシンからレイに念話がとんできた。
『はい、どうしますか?』
『捕まえられるか?』
『…そうですね、捕まえましょう』
レイは自らの主に伺い立てる必要も無かったと思い、ベッドから起き上がる。
「んう…、…レイ?どうしたの? それに…シンも起きてる…」
自身の背中がモゾモゾと動いたせいで、ミリも目を覚ましてしまった。
「先程から誰かに見られているのです。だから…今から捕まえに行ってきますね」
「見られてるって…まあ、そういう事もあるわよね」
突飛に説明されたのにも関わらず、ミリは驚きもしない。
レイはベッドから降り、いつもの一張羅に着替えた。
「主、食堂で会いましょう」
「ああ、待ってる」
それだけの言葉を交わし、レイは転移した。
「さて、そういう訳だから、食堂に行こう」
「ええ、そうね。いったい誰なのかしら?至福の時間を邪魔したのは…」
ミリも服を着て、シンもいつもの服に着替え、そして一階の食堂へと向かった。
☆☆☆
「貴方ですか。…人の家を盗み見る不届き者は」
レイは自身らを見ていた存在の後に立った。ここは屋根の上である。
「!?」
見ていたそれは、突然のレイの再来に驚きながらも冷静に彼女から距離を取った。
「貴方はいったい何処の誰なのでしょうか? 大人しく私達の元で話す気はありませんか??」
レイは争いに発展させる前に言葉を発する。
だがしかし、それに対する答えは拳だった。その何者かはレイに対して殴り掛かったのだ。
「なるほど、それなりに優秀な方ですね。何処かの暗部でしょうか?…ですが、甘い」
その拳を一切微動だにせずに片手で抑えたレイは、そのまま顔面に殴り返す。
それは当たらず、何者かは躱して距離を取ろうとした。…が、捕まったもう片方の腕は離されていなかった。
「諦めた方が身の為ですよ?」
「・・・」
「…そうですか」
レイはあっさりとその脚を切り落した。そして切り飛んだ足を自らの亜空間に仕舞う。
そして、その切断部を凍らせて、レイは自らの主が居る食堂へと転移した。
☆
「御苦労様、レイ。それが犯人か?」
レイが帰ってきたのをシンとミリが笑顔で迎える。
「ええ、反抗されても面倒なので切り落として来ました」
それに対して何でもない様に言い、肩に背負っていた何者かを地面に転がした。
「へえ…? これがそうなの? ふーん…」
ミリは転がされた何者かを興味深そうに見たが、やがて知っている者だとわかると興味を失ったようだ。
「ミリが面白くなさそうな顔をするのもよくわかる。…それは吸血鬼だからな」
「あら、折角口に出さない様にしていたのに…意地悪ね」
シンがあっさりと種族名を告げてしまい、ミリはいじけた様な顔をする。
「どちらにせよ、避けては通れないだろう。レイ、それの脚を治してやってくれ」
そんなミリを受け流し、レイに指示を出す。するとレイは凍らせた傷口を溶かし、綺麗に先程切り取った脚をくっ付けて只の回復薬を使った。
それは擦り傷が治る程度の物であるが、レイが綺麗に切り落とし過ぎた故に、その脚は見事にくっ付く。因みにそれを行った本人は、そこまで考えて脚を切り落していた。
「ま、多分私のことなんでしょうねえ…」
それの脚が治ったのを見て、面倒くさそうにミリは呟いた。
「まあ、そうだろうな。…だからと言って、何も変わる事は無いのだろう?」
シンが返したそれは、言外に"絶対に離さない"という意思表示でもある。
「あら、不安なのかしら?」
「まさか。…私が危惧しているのは、ミリが吸血鬼族最後の1人になってしまわないかと言う事だ」
そして、吸血鬼を絶滅させてしまうかもしれない存在が、ここに2人も居る。
「それこそ…私が気にするとでも思ってるのかしら?」
今更何を馬鹿なと、そんな心持ちなミリ。
「吸血鬼社会で何が起こっていようが私は首を突っ込む気も関わる気も無いわよ。…ただ、私は今、結構幸せなのよ。それを壊しに来るのであれば…同族だろうが全部屠ってやるわ。だから…その時は…力を貸してちょうだい」
「そう言ってくれるのであれば…私達は気にせずにすむ」
同族であれお構い無しに殺す。それは…今に始まった事ではない。いや…ミリにとっては初めてなのかもしれないが、それこそ今更である。
「…ミリはあの男に心当たりがあるか?」
そして、シンは更に疑問を続ける。
「あの黒づくめの格好は、王族お抱えの裏部隊だと思うわ」
「吸血鬼の…王族か。少し気にはなるな」
「人と同じよ、何も変わらないわ。真祖でも神祖でもない、只の一介の吸血鬼よ」
ミリは心底つまらなさそうに呟く。だが、ミリはこう言うが、吸血鬼とは夜においては、ラフタと言う世界において最強の種族であった。
「そうか、ならば…ここで一切話を聞かなければ、王族が出張ってくる事もあり得るのか?」
「あー…あり得るわね、無駄にプライドが高いし…。それに私からすれば雑魚だし…」
「ミリが表立ってそう言うとはな」
ミリは"力こそ全て"という性格はしていない。そんな彼女が"雑魚"だと口にする事はあまり無い。
「私は王族が嫌いなのよね。力こそ全てみたいな事を言っているのに雑魚ばかりだし」
「ならば、武力対決と行こうか。レイ、それは庭から街の外に投げ出しておいてくれるか? 敢えて、それからは何も聞かない事にする」
シンは折角捕まえた獲物を、何もせずに捨てる事に決めたようだ。
「それは良いですね。どれくらい飛ぶのか気になります。早速投げて来ますね」
それを聞いたレイは、少し声を弾ませて何者かを引き摺って行ってしまった。お外に…。
「はあ…王族が出張ってくるとは思ってなかったわ~…」
先が思いやられる、そう思いながらも脱力する様にミリは呟く。
「ミリ…」
シンはそんなミリに手を伸ばした。
ミリが手を取って、シンがその手を引く。そして唇を奪った。深かった。
「ふあ…外でこういう事をするのは久しぶりね」
舌が離れ唇が離れ、ミリは少し惚れ気を出しながらも言う。
「そうだな。最近は忙しいから…そういう事もしていない。それに…子供の目があるからな」
そう、"ヘブンズガーデン"に居ようが"ラフタ"に居ようが、彼女は子供に構われてしまうので、シンと白昼堂々と唇を重ねる事は無い。
「ああ、そう言えば…シンはまだレイにはして無いわよね?」
「…深いのはな。ただ合わせるなら問題は無いが…」
「あら? …出来たの??」
ミリは少し驚いていた。
「不意をついて…という所だな。警戒されてしまうと絶対に無理だ」
「やっぱそうよねえ…。本当にレイは男が苦手よねえ…」
しみじみにミリは呟く。それは裏を返せば女なら問題無いという意味の表れである。
「正確には傷付けてはいけない男が無理なだけだが。…いざとなって反射的に殺せない相手は、レイはどうして良いのかわからないのだそうだ」
「それは…襲われた時に逃げられないからよね??」
「いや、それは違うらしい。それ以上は聞いてないから何とも言えないがな」
確かにレイはどんな男であれ会話も出来るし、触れられるのだ。
「まあ良いわ。レイは…レイだもの」
そこでミリはレイに関しての興味を失ったらしい。
「そう言えば…随分と前から思っていた事ではあるが。私のハーレムでは無く、ミリのハーレムと言った方が正しいのでは無いか?」
シンは突飛な話題をふる。
「はえ? …心当たりがあり過ぎるわ」
突飛な事を言われたミリは"確かに"と思わざる得なかった。
だって、レイを家族に引き入れたのも彼女だし、現状シンよりもレイに対しての体の関係 が先に進んでいたから…。
「まあ、私はそれで構わないがな」
シンは笑い話として話題にあげただけであって、特に意味は無かった。
「あら? そうなの? …でもまあ、私は貴方達を愛してるし、問題無いわよね」
ミリも深く考えるのを止めたようだ。
そんなミリの"愛してる"に反応する様に、シンはまたもや唇を奪う。するとそんな中で、レイが帰ってきてしまった。
レイは何も言わずに、隅っこでソワソワしているだけだった。
すると、そんなレイを唇が離れた直後にミリが手招きする。今度はミリがレイに深いキスをした。
「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
レイは突然過ぎるそれに大混乱、シンはそんなミリとレイの力関係を笑いを堪えながら見ていた。
笑うのも無理はない。だって普段は冷静な彼女が今は離せ離せと手をバタつかせているのだから。そして…本来ならレイの力であればあっさりと逃げる事が出来るのに逃げない事実が、彼女の本心を現していた。
それはそうだ。愛してるのだから体を合わせるのは寧ろ望ましい事で、安らぎを与えてくれる。
「レイ、こっちにも来てくれないか??」
シンもレイを誘ってみる。すると、レイはシンの元にも来てくれた。
彼はそんなレイを怖がらせない様に、優しく抱き締めた。そして彼からも、ゆっくりとレイに唇を合わせた。
少しだけレイの体がビクリと脈打ったが、それを安心させる為にミリが後ろからレイに抱き着き、レイはシンとミリにサンドイッチにされた。
「…突然、どうしたのですか?」
やがて唇が離れ、目の前のシンに怪訝な顔を向けながら、レイは2人に訊ねた。
「レイが恋しくなっただけだ。さて、二度寝をしようか」
そんな問いに答えにならない答えを返したシンにミリも頷きを返す。
そうしてレイはミリに手を引かれながらも、3人で再度、自らの寝室に戻るのだった。
※何者かはしっかりと街の外に投げ出されました。
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