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第五部‐冒険者ギルドを叩き出す。

 あれから10日が経ち…。 「ティル殿、少し手合わせ願えないか?」  クリスタルは一通り剣を振り、盾を構え動きを確認してから、近くで剣を振っていたティルに声を掛けた。 「え? …良いですよ、やってみましょう」  ティルは少し呆気に取られたが、彼女の提案に乗った。興味が惹かれたというのが本音ではあろうが…。 「助かる。…試合相手が居ないとどうもな」 「レイ様に頼んでみては?」  ティルの練習相手は基本的にレイだ。 「いや、忙しなく動いている彼女に頼む気にはなれない」 「あー…確かに忙しそうですよね」  実際にティルは忙しい所に頼みに行き、八つ当たり気味に弾き飛ばされた事もあったのだ。ついつい、その時の事を思い浮かべて苦笑してしまう。 「じゃあ。軽く撃ち合いますか」 「はは、頼む」  お互いに練習用の剣を抜いて、定位置に着くのだった。 ☆☆☆  昼間を少し過ぎた頃、書斎部屋では…。 「う〜〜〜…」  美玲は書類のあるテーブルに突っ伏した。 「ほら、もう一踏ん張り」  そんな美玲を励ますように陵が言う。 「10分休憩させて…」 「はいはい、じゃあ、10分な」  陵は仕方ないなあ…と思いながらも自身の手元の書類を確認していく。 「ミリさん、これ…緊急っぽく無い?」  …不意に度肝を抜きそうになる書類を見つけた。今、陵が見ていたのは住民から、ご意見番として使われている場所に提出された物だ。 「見せてもらえる??」  陵はソファから立ち上がって、その紙をミリに渡した。 「冒険者ギルドが…脅し…ねえ?」  そう、それは冒険者ギルドからの"これ以上やると敵対するぞっ!"という脅迫文だった。  ミリは今まで冒険者ギルドが無くても生活が出来る様に、街を整えてきた。  冒険者が主に行うのは、魔物退治と地域住民の手助けだ。  だが、その2つを全部ミリが解決してしまったのだ。  魔物討伐であればレオンが買い取って来た戦闘奴隷で対応すれば良いし、地域住民の手助けは戦闘奴隷でなく只の奴隷であっても出来てしまう。  奴隷が大量に居るので、簡単に解決してしまったという訳だ。  基本的に住民が声を上げなければ奴隷は動かないが、冒険者ギルドの様に粗暴な対応をする(出来る)者は居ない。  そして、住民に対してのご意見番なる物が各所に設置されてしまった為、冒険者ギルドに依頼を出す顧客がガクンと減ってしまったのだ。  その結果がこの脅迫文の様なものである。  因みに、冒険者ギルドとしての意見をミリは一切聞かないので、だからこそ住民のご意見番として役立っている場所に、この様な紙が入れられたのだろう。 「陵くんと美玲ちゃん、冒険者絡みの報告書ってすぐに纏められる??」 「えっと…私達がここに来た時からのやつなら出来るよ」 「そこを前30日まで遡って見て貰えないかしら??」  つまりミリは、陵も美玲も預かり知らない報告書の仕分けまでをお願いしているのだ。 「すぐには無理、絶対に無理」  すぐになんて絶対に無理である。 「じゃあ…私と陵くんと美玲ちゃんの3人で、10日ずつ分けましょう」  そこでミリは提案する。 「…いつまで?」 「取り敢えず夕食前までね。…頑張るわよ」 「…わかった」「…はーい」  夕食前までに10日分であれば、仕分けるだけなら出来るだろうと思い、陵と美玲は了承した。 ☆☆  そして数時間が経ち…。 「よっし、こっちは終わったよ。陵のを半分貸して」  美玲は自身が見た事のある10日分を任されていた為、早く終わったようだ。 「下から適当に取って」  陵はそれだけを言って、仕分けを続ける。 「こっちも終わったわ。美玲ちゃんが仕分けたのを貰えるかしら?」  ミリも終わったらしい。  ミリが美玲よりも遅かった理由は簡単で、冒険者絡みとそうで無い物を分けた上で、更に善と悪の報告書を分けていたからだ。 「はい、ミリさん」  ミリはそのまま美玲が仕分けた報告書を見て、ばららららっと、見て善し悪しで分けていく。  そんな中、陵と美玲は陵が扱っていた10年分の報告書を分け終えた。 「ミリさん、終わったよ?」 「そう…なら、次はその分け終えた中で、善いものと悪いもので分けてくれるかしら?」 「…わかった」  ミリは忙しなく動きながらも陵と美玲に指示を出し、そして彼らもその作業に移った。  コンコン  それから更に時間が経ち、1つのノック音が響き渡る。 「そろそろ夕食の時間です。ミリもそこまでにしてください」  そして入って来たのはレイだった。 「もう…そんな時間? 私はもう少しで終わるけれど…」  ミリは前のソファで、忙しなく動き続けてる陵と美玲に目を向ける。 「こっちももう少しだよー」  手を動かしながら、ボヤくようにそう言い、最後のブーストを掛ける。 「…って事みたいだから…これが終わったら行くわ。…ごめんなさいね、手間を増やしてしまって」 「ここまで忙しそうにしていれば何も言えませんね。私はこれで」  ミリが少し遅くなる事を謝り、レイは気にするなと部屋から出て行った 「最後の一踏ん張り、頑張るわよ」  彼女はレイが出て行ったのを見送り、書斎部屋に気合を入れ直した。 ☆☆☆☆ 「これはそうじゃなくてこうするんだ」 「えっと…また読み聞かせ?? …仕方ないなあ」 「庄司、元太、そこまでにしろ。夕食の時間だから」  子供に算数や、読み聞かせなど、様々な事をしていた彼らは隆二によって止められる。 「よし、そういう事だから終わりだ。…ほら、料理を取りに行け」 「「「「「「「はーいっ」」」」」」」  庄司が自身らの周りに集まっている子供に告げた。  元気良く返事をした子供達は、言われた通りに夕食を取りに調理場へと向かって行った。 「…あいつら全員が孤児なんだよな」  ポツリと元太は呟く。 「…日本とは段違いだよな」  庄司はしみじみに呟いた。 「いや、日本にだって居ただろ。…俺達に見えてなかっただけだ」  けれども、隆二はそれを否定した。 「…そっか、単に俺達がそっち寄りになっただけなのか」 「そう言う事だろ」 「「・・・」」 「いやー…ほんと、平和な世界に住んでた俺らにはヘビー過ぎる」 「…でも、出来る事は無いしな」 「勇者らしくとか…馬鹿らしくてやりたくねえ」 「それな、まあ…だから、取り敢えずは現状維持でって事で良いだろ」 「ま、俺達は奴隷だからな」 「そういう事だ」  ポツリポツリと話していた彼ら、そして沈黙する。 「…お、人も空いてきたし飯を取りに行こうぜ。今は俺達が食えてるだけで感謝だろ」 「…だな、将来の事、…しっかりと考えないとな」  勇者の力を得たからと言って、奴隷にされたからと言って、高校生であった頃から大人になる事に変わりはない。 「お、元太にしては真面目だな」 「このまま陵におんぶにだっこって訳にはいかねえよ。あいつらが喜んで手を貸してくれって言えるくらいじゃねえと…気に入らねえ」 「…そうだな。じゃあ、明日から色々と考えてみるか」 「だな、奏乃もメイドの勉強を始めてるし…」 「ま、陵が許可しなきゃ何にもならないし、それから考えようぜ」  こうして彼らは、地球とは違う1歩を踏み出す決意をする事になった。 ☆☆☆ 「ふぅ…美玲ちゃん、陵くん、ありがとう。全部終わったわ」  ミリは仕分けを完全に終えた2つの紙束を見て、労いの言葉を掛けた。 「ミリさんもご苦労様でした、っと。…で、これをどうするの?」  美玲も陵も、これを何に使うか聞いていなかった。 「これを冒険者ギルドに叩きつけて…そのまま追い出させて貰うわ。幸い…善い案件より悪い案件の方が何倍も多いわよね?」  この世界の他の人間が聞いたら、何馬鹿な事を言っているんだと、間違いなく鼻で笑われそうな話だ。  それだけ、この世界の冒険者ギルドという組織は大きな物なのである。 「そう…だねえ。これじゃ、冒険者が居るせいで治安が悪くなってる様な物だよね…」  美玲も冒険者関連の報告で、悪案件の方が明らかに多いのを見て、当たり前だなと思う。 「冒険者ギルドと全面戦争になるんじゃないの?」  陵は少し不安に思ったらしい。 「そりゃあなるでしょうね。…でも、敵対するというのなら、私達は本気で冒険者ギルドを潰すわ」  それはつまり、人の枠内に入り切らない力を行使すると言っているのだ。 「…というか、最初っから目の上のタンコブだったのよねえ」  しみじみにミリは呟いた。 「まあ…俺達も良い印象無いし…」 「聞いてるわよ? 何処かのギルドマスターを吹き飛ばしたって」  当然レオンもこの街に帰って来ているし、フィリカは彼女とかなり仲が良いので、彼らが冒険者ギルドを好いていないのは聞いている。 「レオンに止められてなかったら、目撃者を全員殺すつもりだった。…止められたけど」 「まあ…普通の感性があれば止めるわよ。街ごと破壊…なんてしたら罪の無い存在まで巻き込む事になるわよ??」 「勇者召喚までしておいて、そっちだけは巻き込むなっておかしな話だと思うけどね」 「…それに関しては私は何とも言えないわね」  陵と美玲の並々ならぬ勇者召喚への恨みや不満に、ミリはその話を終わらせなければならないと考えてしまう。 「取り敢えず助かったわ。貴方達は夕食を取ってきなさい」 「…ミリさんは?」 「シンを連れて殴り込みよ。明日中にこの街の冒険者ギルドには消えてもらうわ」  ミリは分けた書類を、自身の持っているアイテムボックスに仕舞った。 「じゃあ、私は忙しいから…先に行くわね」  そうして、ミリは彼らよりも先に書斎部屋から出て行くのだった。 「勢いが凄いね…」「冒険者ギルド…そんなに嫌いだったんだな」  ミリの軽い足取りを見て、彼らは思わず呟くのだった。 ☆☆☆☆ 「ミリ、本当に良いのか?」  街中を歩いているシンは、隣を歩くミリに訊ねる。 「ええ、リオンの件もあるのだから…手加減はしないわよ」 「…わかった」  ミリの言葉に迷いは一切無く、シンは頷く事しか出来なかった。  やがて冒険者ギルドの前に辿り着くと、ミリは冒険者ギルドの扉を蹴り開けるのではなく()()った。
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