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第五部‐今後について。

「陵、美玲、この後…少し時間を貰えるか?」  とある円テーブルで囲って、一家団欒の様に朝食を取っていた彼らにシンが話し掛けた。 「…良いよ」  "何で?"と陵は聞こうと思ったのだが、その理由こそ、この後に話すつもりなのだろうと思い、頷くだけに止めた。 「なら、食後にもう1度声を掛ける」 「わかった」  シンはそう言い残し立ち去り、陵はまた頷くだけだった。 ☆☆ 「父上、少しお時間宜しいでしょうか?」  シンが食堂の中を歩いていると、既に食事を食べ終えたのか、ティルが彼の顔色を伺いながら訊ねた。 「もちろん。…他に聞かれて困る事か?」 「いえ、1つ質問したい事があるだけです」 「良いぞ、言ってみろ」 「じゃあ…、ホリンに俺の監視の役割をつけたのは何でですか? 何処が父上にとって無茶だったのか、理解出来ないんです」  ティルが言うホリンによる彼の監視というのは、魔物討伐後のホリンの態度の変化の事だ。シンがホリンに接触して、態々監視を頼む程に、彼自身は無茶をしたと思っていないのだ。 「はあ…そういう所だと私は思うが?」  そんなティルに、シンは少しだけ溜息を吐く。 「えっ!?」 「良いか? 本来、どんな生き物であれ無茶をすると、体が拒否反応を起こす。そして、それがお前に備わっていない事を、前回の魔物討伐の時、リオンの報告を聞いて初めて私は理解した」  ゆっくりと言い聞かせる様にティルに説明する。 「…それが無いとどうなるんですか?」 「簡単に言えば死にやすくなる」  シンのスパッとした物言いに思わず、ティルは生唾を飲み込んだ。 「拒否反応というのは、生命を守る為の物だ。お前にはそれが無いんだ」  シンの言を聞き、ティルは神妙に頷いた。 「私もリオンも、ランドドラゴンを倒したら…お前は意識を失うだろうと思っていた。  …何故、戦い続けられたのか。それはお前自身に、身を守る為の拒否反応が備わっていないからだ」  既に何時間も走り回っていたティルの脚は、ランドドラゴンと争う前には使い過ぎでボロボロになっていた。恐ろしく重たい剣を振るっていた腕も、既にボロボロになっていた。  普通なら満身創痍になっているだろうし、下手をすれば、ランドドラゴンと戦う前に倒れてしまっても、何らおかしくは無いのだ。  …それなのに戦い続けられてしまったティルを、シンは早死にさせない様にする為に、ホリンに態々声を掛けた。 「ティル、少しでも無茶だと感じたら引く事も考えなさい」 「…わかりました」  ぎゅっ… 「えっ! ちょっ!? 父上っ!?」  シンは自身より少し下くらいの身長であるティルを抱き締めた。 「お前がどれだけ、ここまで苦悩を抱えて生きてきたかは知らない。…だが、死に急ぐことだけはするな」  ティルの耳元で小さく、されども重く告げて、シンは彼を離した。  そして、呆気に取られたティルを置いて、彼はまた立ち去った。 ☆☆☆ 「あんな場所で寝かせておいてこんな事を言うのもどうかと思うが、ハイルは眠れたか?」  シンはやがて、1つのテーブルに食事を持って座った。 「はい、父さん。…母様と眠るより絶対に良く寝れます」  ハイルは自身の前に座った気配を確認して、少し皮肉った様に言った。 「ははは、そうか。正直なのは良い事だ」 「…正直に言うのも、結構恥ずかしいんですけどね」  ハイルは右頬を、ポリポリと掻きながら言った。 「いやいや、それくらいは言える様にならないと駄目だろう。…お前は割と馴染んでいるからな」  シンはハイルとティルも比べて、やはり、ティルは肩の力が入り過ぎてるのでは無かろうかと思う。 「…馴染む、ですか?」 「ああ、色々と考えられる年頃だからな。…やはり馴染めない子も居るだろう」 「それ…十中八九ティル兄さんですよね?」  ハイルには、馴染めていない子供の心当たりは、ティル以外に考えられなかった。 「さあ…?」 「誤魔化すくらいなら言わなくても良いと思いますよ。そう言えば父さん、この部屋の中に居る人達って特別なんですね。ほら、父さんとかティル兄さんみたいに…」  話してくれないとわかると、ハイルはすぐ様に話題を変えた。 「…特別?どういう事だ?」  しかし、その変えられた話題で、思わずシンは眉を顰めざる得なかった。 「…え?」  シンが感じ取っていないとは全く思っていなかったハイルは、思わずポカンと口を開けた。 「何を感じ取ってる?」 「何をって、魂の反応だってアイさんが…」  ハイルは自身が習った事柄をそのままに口に出す。 「…いや、魂の反応とやらは変わらない筈だ」  シンはまさかと思い、"森羅万象の眼"をティルに向けたが、別に死んでいる訳では無かった。  魂というモノは、人であれ魔物であれ"存在していれば"持っているものだ。 「え?」 「…試しに、あそこのテーブルに居る者達はどう感じ取れる??」  そこでシンはハイルに、ティルが集めて来た孤児たちを示して問う。 「…えっと、真ん中の人がうねうねってした感じで、それ以外は"ヘブンズガーデン"に居る弟達と同じです」  するとハイルはそう答えた。それで幾らかの推測を、シンは立てることが出来たようだ。 「なら、次はあのテーブルだ」  シンが次に示したのは、陵や勇者達が居るテーブルだった。ハイルは、彼が指し示した指の向きを感じ取って、そしてそのテーブルを見た。 「…混沌」 「ほう?」 「男3人は特に何も無いんですけど、男女が物凄く怖くて…それで女2人は重たいです。あ、その隣の家族は明るいですね。…正直、あのテーブルに近付きたくないです」  ハイルは素直に陵達をそう評した。 「ティルはどうだ?」 「あの人は相変わらずせかせかしてますね」  ハイルはティルに関してだけを即答した。 「…ふむ、恐らくハイルが見えているのは感情だろう」  そんなハイルに対して、シンはそう結論付ける。 「感情?」 「それ以外考えられないな。そうか…感情か」  少し思案顔になる彼。 「…どうかしましたか? 父さん?」  そんな彼を見て、心配そうにハイルは訊ねた。 「いや、何処でそんな技能を身に付けたのか疑問に思ってな」 「…そう言われても僕にはわかりません。アイ様から教わったのは魂の反応を見る方法ですから」  シンの疑問に、ハイルは答えられなかった。 「…アイの教えを何処か間違えて受け取ったのか、それともアイの教えをそのまま受け取った結果がこれなのか…」 「…間違えたって言われるとショックですよ」 「ああ…いや、悪い。そういう意味では無い。それより、ハイルは確か…近接戦闘の評価は良かったな?」  見るからに落ち込んだハイルを励ますようにシンは話を変えた。  評価…というのは"ヘブンズガーデン"で教わっている子供達の中での話だ。 「確かに凄いと言われる事は有るんですけど…自分では何とも」 「剣は習っていたな?」 「あ、はい。レオン師匠に教わった物を反復練習しています」  淡々と言葉を返していくハイル。 「…反復、か。ハイル、ならば何故、逆手持ちで木剣を振るっている場面が目撃されている??」  だが、そんなハイルに聞いた話と違う事を"何故か?"とシンはつついた。 「あれ…何のことですか?」 「とぼけても意味無いぞ?」 「うっ…はい、レオン師匠に教えられた構え方だと戦い辛かったんです」  肩身が狭そうにハイルは呟く。 「はあ…最初からそう言えば良いのに…」  シンは無意味に隠そうとしたハイルに、これみよがしに溜息を吐いた。 「そうは言ってもですね。…怒られるかなーって」 「…まあ、教わった物を独自の動きに変えているのだから、そう思うのも仕方がないな」  指示通りにやらない事で、怒られるかもしれないと怯える気持ちはシンも理解出来る。 「…で、戦いやすくなったんだな?」 「はい、それはもちろん」  どうやら、新たに彼が編み出した戦闘スタイルは、しっかりと意味を成した様だ。  その返事を聞くと同時に、シンは食事を終えた。  ゴトっ 「…これは?」  そして、突然置かれた‐シンによって‐杖を見て、彼は聞き訊ねる。 「これは、お前が逆手持ちに剣を振っていると聞いて打った剣だ」 「…剣の様に鋭い感覚は無いですよ?」  ハイル自身の感覚では、そこに置かれたのは刃など無く、紛れも無く杖なのだ。 「ハイル、お前は辺りの物を探る時に、魔力を糸状に散布させてるだろう?」  彼は魔力を糸状に散布させ、それに触れた物を感知しているのだ。昆虫で言うところの触覚を無数に散らばらせている物だと思えば良いだろう。 「はい、アイ様が物を探す時に便利だーって」 「まあ、そうだろうな」  普通は目で見れば、辺りの物や人の位置はわかるので、普通はハイルの様に日常的に使う技能では無い。  ハイルは盲目だから常用している技能だが、他者からすれば、あまり使う意味の無い技能である。 「…しっかりと自分から糸状に伸ばしているな」 「アイ様が魔力を固めないと他の物と混ざってしまうと、再三にわたって注意されました。初めは難しかったです」 「それのせいで魔力が尽きてしまい、結果、魔法の授業はあまり活発で無いと爺さんからも聞いている」 「うぐっ!?」  そう、彼は日常的に魔力を使っているので、魔力が尽きる事もあるのだ。  だから、出来るだけそうならない様にする為、魔法の演習の授業では、最低限の魔法しか発生させない。 「正直に言えば、このまま周りと同じ授業を受けさせても、お前にはあまり良い結果にならないだろうとも考えた結果…ここに連れてきたというのもある」 「ごめんなさい…父さん」  怒ってはいないが叱責の様なモノをされ続けているハイルは、かなりビクビクしていた。 「まあ…だから、この杖…もとい剣の使い方も含めて、私が付きっ切りで色々な物を教え込む」 「・・・」 「嫌ならば断ってくれても構わないぞ?」 「いっいえっ! むしろよろしくお願いしますっ!!」  その気持ちの良い返事を聞いて、シンの片口が少しだけ釣り上がった。  何だかんだ様々な子供に自身の持っている物を教えてきたシンだったが、彼だけが付きっ切りで物事を教える事はほとんど無く、大抵は途中でレイにカッ攫われてしまったり…。だから…簡単に言えば彼は楽しみなのだ。 「その杖は持っていろ。暫くは使わないからな」 「…わかりました」  ハイルは杖を手に取った。 「それから…食べ終わったな? ついて来なさい」 「わかりました」  ハイルも話しているうちに食べ終わり、それを確認したシンは、陵や美玲が食べ終わっている事を確認して、その席を立った。 ☆☆☆☆ 「陵、美玲、食べ終わったのなら、ついて来て貰えないか?」  シンは彼らが座っている後ろから声を掛けた。 「俺と美玲だけ?」  陵は振り返って訊ねる。 「ああ、悪いがその二人だけだ」 「…わかった。鬼神」  陵はその言葉を聞いて、念の為だと、自身の右手甲に鬼神を宿らせた。 「なら、ついて来てくれ」  そしてシンの隣にハイルが並び歩き、その後ろを陵と美玲が追う形で、彼ら4人は食堂を後にした。  それから階段を上り、とある部屋の前へと来た。それはシンやミリがいつも使っている書斎部屋で、今日の朝はハイルが眠っていた部屋だ。  シンは扉を開け放した。 「陵くんと美玲ちゃん、ようこそ。代表の書斎部屋へ」  シンが彼らを招くと、既に書斎机の席で色々と忙しなく働いていたミリが、一旦手を止めて歓迎した。 「「代表って何??」」  しかし、その歓迎のムードをぶち壊す様に陵と美玲は訊ねる。 「代表はこの街の最高責任者だ」  シンはそんな彼らに苦笑混じりに説明をした。 「「ええっ!?」」  何でそんな場所に俺達を連れてくるんだと、彼らは驚く。 「代表とは言っても、一介の人と同じ様な物だから気にしなくて良いわ」  ミリはそんな彼らにそう告げる。神祖の吸血鬼で"一介の人"…ねえ? 「は、はあ…」「へえー…」  陵と美玲は呆然とほえーと呻くだけに終わった。 「ええっと、シンさん?」  陵は気を取り直してシンに話し掛ける。 「うん?」 「俺達は何の為に連れて来られたの?」  ここに連れて来られた訳を彼等は知らない。告げられるまで待っていようと考えていた彼だったが、流石に待ち続ける訳にもいかなくなった。 「それは私が説明するわ。貴方達が通っていた高校までの成績や習うべき事を鑑みた結果、貴方達には私の補佐をして貰いたいのよ」  ミリがシンへの質問をひったくる様に答えた。 「ええっと、私じゃなくても良いですよね?」  この街の代表という事で、陵は形だけの敬語を使う。 「口調はシンと同じで良いわ。理由は割と簡単で、貴方達しか居ないのよね」 「…俺達しか居ない?」  どういう事だ?と、彼は思う。 「別に胡散臭くも何とも無いわよ。今、私達が使える人員は私の息子が集めて来た孤児達と…レオンが集めて来た奴隷達だけなの。…レオンはわかるわよね?」  ミリの問い掛けに陵も美玲も頷く。 「レオンはわかるのね。…で、奴隷にしろ孤児にしろ識字率が物凄く低いのよ。そうなると書類は読めないわ文字は書けないわで…もっと言っちゃえば教養も足りてないのよ。  そりゃあ探せば居るでしょうけど、孤児の事は全部息子に任せてるし、奴隷は今から万単位の人数から探さなければいけない。…そんな事やるくらいなら、丁度良くこの街に来てくれて、身元も天照大神から保証されている貴方達を起用した方が良いの」  つらつらと、ミリは理由を述べていく。 「…今まではどうしてたの?」 「シンがやってくれてたわ。体調が悪い時は休めないし…最悪よ」 「「ブラックだあ…」」  陵も美玲も2人して、呟くしかない。 「えっと、給料はどれくらい?」 「月、金貨1枚から」 「ごめんなさい、それの価値がわからない」  美玲も陵も、この世界に来て金を使ったのは、自らの所に奴隷として転がり込んで来た彼らの服を買う時くらいである。 「ええっと、簡単に説明すると…そうね、この街の平均月収が金貨の百分の一である銀貨10枚よ」 「何それっ!? 高っ!?」  どうやら美玲には、それが破格に聞こえたらしい。 「そこまで破格でも無いわよ? だって街の最高責任者の補佐をするのよ?」 「いやいや、だとしても出来るかわかんないよね?」  少なくとも、高校中退程度を雇うだけの金額では無い。新卒でもここまででは絶対に無い。 「それは私達が教えるしかないわね。ま、1日あれば、大体どんな仕事か理解出来ると思うわよ?」  ミリは軽い調子で言うが、美玲も陵も頭を悩ましてしまう。 「途中で止めることは?」 「基本的には止めて欲しいわね。だって、この街の全てがわかっちゃうのよ?」  敵に回られたら最悪だろう。 「うーん…陵、どうする?」  美玲はいかにも"むむむっ"と今にも言い出しそうな顔をして、陵に聞いた。 「休みが無さそう」 「大丈夫よ。10日に2日は休めるわ」 「ぐぬぬぬぬ…週休完全二日制じゃない…」  美玲は唸る。 「いや、そもそも地球と1週間の概念が同じなのか?」 「あ…そっか…」 「住む場所と職場が同じってのはかなりポイント高いと思うんだよ。あと、安定してそう」  街が無くならない限り、突然"お前は首だ"とはならないだろう。 「陵は…ありだと思う??」  美玲は最終決断を迫ろうとする。 「…ありだと思う」  陵は恐る恐る頷いた。 「じゃあ、そういう体で行くわよ。シンは陵くんと美玲ちゃんに書類の見方を教えてあげて貰える? …そしたらハイルに付きっ切りになっても良いわ」 「えっ!?」「今からっ!?」  ミリの前向き過ぎる姿勢に彼らは驚く。 「ええ、早ければ早い方が良いもの」 「そういう訳だ。今から教えていく、わからない事があったら遠慮無く質問してくれ」  シンはミリからの言葉を繋ぐ様に、彼らに告げるのだった。  結局彼らは、この部屋で1日の半分を過ごす事となるのだった。
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