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第五部‐最初の仕事と再会。

「最初の仕事…?」  一気に話が胡散臭くなったなと陵は思う。 「今、私の手元には勇者と呼ばれる者が5人ほど居る」  そんな彼の心象を良くする為に、シンは理由の元を述べる。 「えっと、私達と繋がりがあるのかって話?」 「いや、信用出来るのか出来ないのかだけを教えて欲しい。最悪、君達の手元に奴隷として置いても良い」 「そんなすぐに奴隷奴隷言われても…」 「因みに、彼らは私達が捕まえた時から奴隷にされていた」  シンのその言葉に、思わず陵と美玲の額が動いた。 「何で?」  美玲はそれでも淡々と訊ねる。 「わからない。その理由に興味も無いから調べさせてもいない」 「…まあ、確かにそうですよね。他所の国の事情なんてどうでも言い訳で…」  陵はシンから答えを得られなかった事に少し落胆したが、同時に納得もした。 「別にそこの彼女みたいに敬語でなくても構わないんだぞ?」 「あーいや、そう…だな。わかった」  シンにそう言われて渋々陵は頷いた。 「本題に戻るが、私としては興味が無い」 「…そう」 「だが、勇者個人に興味はあるんだ。有効利用出来るならしなくてはならない」 「それで俺達に選定を? 独断と偏見で選ぶかもしれないのに??」  陵は自身らの言葉を鵜呑みにするのかと言外に問う。 「ああ。どちらにせよ、君達と馬が合わなければこの地で勇者達を使う訳にはいかないだろう?」 「そう…だな、確かに嫌だ」 「だからだ。さて、…ついて来て貰えるかな?今から地下牢に案内しようと思う」  シンはそう言ってテーブルに手を付き立ち上がったのだった。 ☆☆☆ 「ここだ」  古びた金属音が鳴り、シンによって鐵柵の門が開けられた。 「陰気臭い…」 「罪人を入れる場所だからな」 「「・・・」」  そのまま奥へと3人は入って行く。シンは地下の暗闇に灯りを灯しながら歩いていた。 「ほら、彼らがその勇者達だ」  そして、シンは地下室の中の、1つの鐵柵の部屋を示す。 「「っつ!?」」  並んでいた顔は、陵も美玲も見た事のある顔だった。いや、一時期は仲良くしていた顔ぶれでもあった。ただし、一人だけ覚えの無い顔も居たが…。  構成は男が3人に女が2人だ。 「話すか?」 「…良いのか? こいつが暴れ出したら責任取れないぞ?」  知っているからと言って、逃がしたりしたら面倒だ。だから、責任は取りたくない。 「幾ら暴れてもすぐに鎮圧出来る。だから気にしなくて良い」 「…そこまで言うなら、わかった」  シンは鍵でガチャガチャと鐵柵を開け、そして、その扉の中へと彼らを招き入れる。  そして次の瞬間、彼らの首輪が外された。 「は…話せる…。それに…陵?」  男の1人が呟く。 「久しぶりだな。酷いざまだ」 「はっ、転移初日に逃げ出す奴の言葉かよ。あの日…尾行してた奴を殺したんだろ?」  異世界転移して初め、陵と美玲は国にお付きの人間を1人殺している。 「よく知ってるな。初めての人殺しだったよ」 「…お前はそう言う奴だったもんなあ」 「はっ、それこそ今更だろ」  そこで2人の間に沈黙が流れる。  そんな中、1人の女子の号哭が響き渡った。 「ねえっ!?ねえっ!!何でよっ!? …何で…こんなに辛い思いしなきゃいけないの…ねえ…美玲ちゃん…」  もう半ば号泣している彼女。奴隷化された女の末路など半ば簡単に想像出来てしまう。 「うん…辛かったね…」  その子をただ抱き締める以外に、美玲が出来る事は何も無い。 「嫌だよお…もう嫌だ…死にたいよ…帰りたいよ…殺してよ…辛い…」  抱きしめられながらも、ただうわ言の様にそう言う彼女は、かつて美玲が他の女子との喧嘩の原因になった美人さんだ。 「…殺して欲しいなら殺してあげるよ? 私の前でそんな事言うと冗談では済まさないよ?」  そんな彼女に美玲は冷ややかな声で告げる。 「・・・」 「何で何も言わないの? 殺してあげられないよ?」 「うぅ…ごめんなさい」  美玲の狂気にたじろぎ、彼女は素直に謝った。美玲が怖過ぎたのだ。それに…きっと生きたいのだろう。 「あっちはあっちで大変だな。後ろの隆二と庄司も元気が良さそうで何よりだ」  陵はチラッと号泣している方へと目を向けてから、またも男三人衆に目を戻す。 「はっ、相変わらずお前は狂ってやがる」 「隆二、今すぐ殺してやろうか? 法律なんてないしな」 「おい、やめとけって。マジでやられるぞ」  隆二(りゅうじ)庄司(しょうじ)と3人の中で唯一呼ばれなかった元太(げんた)が隆二に言う。 「待って、お前らどんな認識してんだよ?」  陵は思わず毒づかざる得ない。 「巨悪な彼女を飼い慣らす悪魔?」 「スペックの無駄遣い野郎?」 「タコ」 「おい、最後のは何だ?」  明らかに、方向性の違う悪口が聞こえた気がした。 「元太が馬鹿なのは今更だろ。大方言えることが無かったんだろ」 「馬鹿ってなんだよ」 「「いや、馬鹿だろ」」 「ははっ、いや、マジでお前ら変わってねえのな。俺は結構変わっちゃった気がしてたんだけどな」  思わず陵の口から笑いが漏れる。 「お前の場合は封印されし悪魔が地上に出てきた感じ…「厨二病乙」」  元太が何かを言おうとして、陵がバッサリと切った。 「ひでえっ!?」 「お前の扱いなんてこんなもんだろ」 「出たよ、陵の毒舌」 「…はあ、まあ、お前らだったら良いかな。シンさん、さっき俺に奴隷がどーのって言ってたよな?」  陵は急に黙りこくっていたシンに話しかけた。 「言ったな。何だ、そうするのか?」 「ああ、こいつらなら気心知れてるし文句無いよ」  陵は自身の手元に彼らを置く事にしたようだ。 「奴隷っ!? こういう場合は解放してくれんじゃねえのかよっ!?」  元太が叫ぶ。 「いやだって、お前らに馬鹿やられるとこっちが困るし」 「ぐっ!? 心当たりが有り過ぎるっ!?」 「って事で」  陵は再度シンに目を向けた。 「わかった。なら、陵は左手を出せ」 「…何を?」  聞きながらも、言われた通りにシンの方に腕を出す。  「3人の勇者よ、彼を主と認めるか?」  シンは、今度は3人の勇者に問い訊ねた。  3人は神妙に頷いた。すると、彼らの右手には呪印が、陵の左には3つの呪印が現れた。 「契約は終わった。お前達を縛る鎖も要らないだろう」  3人の勇者を繋いでいた鎖は取り外され、彼らは陵の奴隷として開放される事となった。 「花蓮(かれん)ちゃん…私達が連れていけば良かったかな?」  花蓮=美人さんである。 「ううん、私は美玲ちゃん達の仲には入れないよ」  花蓮と呼ばれた女子は目を腫らしながらも呟く。 「あっちは終わったみたいだし、花蓮ちゃんも私の奴隷になろっか?」  美玲は陵の方を見てから、花蓮に提案した。 「…痛いの無い?」 「ううん、それは…わからない」  美玲だって、今後、何をシンに仕事として割り振られるのかがわからないのだ。 「痛いのやだよお…」 「わかったわかった。そういう事にならない様に頑張るから」 「…うん」  かつて同級生だった、死にたくなる恐怖を味わった彼女に戦えと告げるのは、あまりにも酷な話だった。 「…で、貴女は? 真泉美玲って名前に聞き覚えはない?」  そして、1度も話した事の無い同級生にも美玲は声を掛けた。 「美玲って…あの?」 「多分そうだよ。貴女は別にどうでも良いから、付いてくるか来ないか決めちゃってくれる?」 「あ、あの…お願いします」 「じゃあ、そういう訳だから、シンさんお願いします」  美玲は立ち上がって、シンに頭を下げるのだった。 ☆☆☆☆  それから、ぞろぞろと引き連れて食堂に戻って来たシン達は、先程座っていたテーブルに座り直した。  奴隷としての彼らは周りのテーブルに座っていた。 「話が順調に進んでくれて助かった」  シンは少し明るい顔で言う。 「最初からこうするつもりだったんだろ?」  陵は、少し、シンに白々しさを覚える。 「まあな。正直、勇者達を持て余していたのは事実だ。そのまま数多の奴隷と同じ扱いにするのも勿体無い、かと言って一般人として置いておくと、どのタイミングで無駄な事をするかわからない。だから、ちょうど良かった」  シンが勇者の扱いに、困っていたのは事実である。 「あーでも、ホントにこの世界の人達…超ムカつくんだけど」  美玲は花蓮と呼ばれる女子が味わった屈辱をしっかりと聞いていた。高校生でそんな事をされてしまえば、社会復帰は到底難しいであろうような事をこの世界の人にされた事、それは一層美玲に嫌悪感を抱かせた。 「報復はしないからな? 面倒くさいし」 「わかってるようっ! でもさでもさっ、手当たり次第に殺してやりたくなるんだよね」 「…まあ、その気持ちもわかるけど」  美玲の倫理観は既に吹っ飛んでいて、それは陵にも理解が出来てしまうものだった。 「まあまあ、美玲も陵も落ち着け。その内に対帝国用の仕事を回してやるから」  シンはそんな彼らに少し面白そうに言う。 「シンさんもだいぶ悪趣味だよね」  美玲はそんなシンにそう言い、陵は苦笑いをしていた。 「そうだな。人間的な倫理観は無いに等しいだろうな」 「ふーん…、これから私達はどうすれば良いの?」 「今日の所はやってもらう事も無いな。部屋を用意させるから…、そうだな。それまでの間、屋敷の探検でもしてみたらどうだ? 日本にこの様な造りの建物は少ないと聞いたが?」  今いる屋敷は、西洋宮殿を安っぽくした建物である。 「えっ? 良いの??」 「良いぞ。触れられて困る物も無いからな」 「やったっ!! 陵っ! 行こうっ!?」  美玲は勢い良く立ち上がった。 「…良いのか? 普通なら待たせると思うんだけど?」  陵はそんな美玲を一旦無視して、もう一度聞いた。 「ああ、私は貴族ではないし、そこまで口煩くもないからな」 「…わかった。じゃあ、てきとうに歩くよ。…あ、でも、その前にあいつらの服を、買いに行っても良いか?」  陵は奴隷落ちした知り合いに目を向けて聞く。 「金はあるのか?」 「これがここで使えれば」  盗賊を襲った際に、得た金貨類をシンに見せた。 「大丈夫だ、問題無く使える」 「そっか、色々とありがとう。服を買ってきたらゆっくりと見る事にするよ」  お礼を告げて、美玲に並ぶ様に立ち上がった陵は、外に彼らの服を買いに行くことを決心したのだった。 ☆☆☆ 「ってな訳で服屋に来たわけですが」  美玲は服飾店の前に仁王立ちしている。 「花蓮ともう一人の名前は??」  そんな美玲を無視して、地球で話した記憶の無い女子に陵が訊ねる。 「…奏乃(かの)って言います」 「じゃあ、その2人は美玲担当で。男共はこっちだな、お前らは女子に目を向けたら埋めるからな」  元太、隆二、庄司の男3人組に半ば脅すようにそう言って、彼らは彼女らとは別行動を取ることになった。 「って言っても、こっちがてきとうに買っちまうけどな」  服飾店の中に入って、勇者3人組を見て、陵が呟く。 「え…、せめて…選ばせてくれよ…」  庄司がボヤく。 「知るか。これから使うのは俺が盗賊を殺して手に入れた金なんだよ。良い物買いたきゃ自分で働け」 「「「…はい」」」 「ってか、そこら辺は勇者として召喚されてるんだからどうとでもなるだろ」 「戦闘スキルは有るけど…な」 「ま、お前らの近況なんてどうでも良いけど」  陵は値段を見ながら、てきとうに服や下着を漁っていく。気が付くとあっという間に彼の腕の中はいっぱいになった。 「外に出ててくれ。会計済ませてくる」 (((俺達、何で入ったんだろ…)))  建物の中に入ったのにも関わらず、あまりにも陵の動きがスムーズ過ぎて、男三人衆は何も見る事が出来ずに外へと出る事になってしまった。 「何か、陵の奴も酷くなってんな」  庄司はボヤいた。 「…わかる」  隆二は頷く。 「あいつは前からあんなんだろ。俺達が迷ってる間に先に進んだんじゃねえの?」  元太はそんな2人にそう結論を出す。 「…でもさ、盗賊を殺して手に入れたって…」  日本人からすれば、そんなに軽く口に出せる内容では無いと思えてしまう。 「でも、俺達が他の日本人を容赦無く殺せたら、奴隷落ちする事も無かったんだぜ?」 「…そうなんだよなあ」 「割り切れてない俺達があいつにどーのこーの言う資格はねえよ」  まだ日本に住んでいた頃の感覚を、抜く事の出来ない野郎共三人衆は、少し悲しげな顔をする。 「元太が珍しく良いこと言ってる」  隆二はそんな空気を茶化す様に言う。 「珍しくって、取り敢えず俺のこと馬鹿にしとけば良い風潮やめろや」 「ははっ、それこそ絶対に変わらないだろ」  彼らは地球の高校生活で、陵が最も親しかった男子生徒だ。例の動画を編集したのも彼らである。 「ま、服を買ってくれるだけありがたいわ」 「それな。それに、陵のセンスは悪くないし」 「あいつの事だから面白Tシャツとかワンチャンあるぞ?」 「あいつはこういう時にふざけないだろ」 「「それもそうか」」  外でごちゃごちゃと男子3人組が話していると、服飾店から陵が出て来た。 「買い終わった」 「流石、彼女にお母さんと言われるだけあるわ」 「…お母さんとか懐いな」  陵は美玲にそんな呼ばれ方をしていたなあとふわふわと思う。 (まあ、それもあの事故で呼ばれなくなったんだけど…) 「ま、取り敢えず男子は終わったし、後は女子待ちだな」  男子三人衆の隣に並んだ。 「女子って長いよな?」 「いやあ…どうだろ? 花蓮にそんな余裕があるとは思えないけど」 「「「・・・」」」 「でも、美玲が吟味してるかもなあ」  陵はそう呟きながら、"美玲はヘビメタ系が好き"だという事を思い出した。 「お前の彼女さんって…」  そう、仲の良かった男子三人衆にも美玲の服装は覚えがある。 「まあ、そういう事」 (ライダージャケットとかも好きだしなあ…) 「お前の彼女さんって、あれだよな。男子よりイケメンになるタイプだよな」 「着こなしが上手いだけで顔はカッコよく無いし可愛くも無いよ」 「彼氏がそういう事言うかよっ!?」 「つーか、かっこいいのは美玲がそう言う服装の研究をしてたからで、元からあんなんだった訳じゃないぞ?」  陵は当然ながら、美玲がそう言う雑誌を買い漁って研究してたのも知っている。 「そういや、お前らって彼女出来たの?」  陵は何気無し、彼らにいつも通りに話を振った。 「いや、俺達、今奴隷なんだけど。お前の神経どうなってんだよ…」 「庄司、諦めろ。こいつは何も考えて無い時に限ってこういう質問をするんだ。てきとうに盛り上がるからってな」 「そう言えばそんな奴だったわ」  諦めた目を隆二から向けられた陵、得に気にした様子も無かった。 「え、でもさ。実際勇者なんだし、そこらの貴族に言い寄られたりしたんじゃないの?」  それどころか更に質問を重ねる。 「ああ、そういう事? 俺達は無かったけど王女様にヨイショされてるのは居たかな。ほら、お前が教科書でボコった奴」 「ああ、あのゴミな。…いや、ボコってねえよ。あくまで正当防衛だろ」  陵は少し慌てたように否定する。 「まあ、そいつのせいで俺達はこうなってるんだけどな」  元太が特大級の爆弾をぶち込んだ。 「…は?」  陵の声のトーンは、一気に氷点下まで下がった。 「…どういう事だ?」 「どうもこうも、あいつは俺達がお前に協力したのを知ってたらしいんだわ。…報復された」 「あー…それは悪いな。屋上から突き落としておけば良かったな…」  陵はしみじみに思う。 「だから、その発言はアウトだから。地球でそれやったらアウトだから」  庄司が慌てたように否定する。 「…殺すか」  陵は密かに決意する。 「だから止めろや、勝手に決意されても困るっつーの。別にお前が手を汚してまで、何かしなきゃいけない訳でもねえよ。それに…恨んでるのは俺達じゃなくて花蓮さんだよ」  そんな決意を遮る様に隆二が言う。 「…まさか、あのゴミ野郎、花蓮に手を出したのか?」 「「「・・・」」」 「ああ、そう。美玲に伝えたらなんて反応するんだろうな」  沈黙は肯定と取る。  まさか、日本人であるはずの勇者が平気で女を襲ったとは…。  流石に陵でも、自身の彼女(つま)である美玲と仲の良い友達に手を出されたら、普通は怒る。 「やっぱ、あのゴミ野郎は日本で殺しとくべきだったな」 「ま、日本に居るだけならそんな事を考える事も無かったんだろうけどな」  元太がそんな陵に続けた言葉も、真だった。 「まあ、美玲が戻って来てから考えるしか無いんだけど」
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