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第五部-到着。

「血の臭いが凄いんだけど…」  陵は歩きながらも、周りを見回して軽く呟く。 「昨日放った一撃の名残と…元々、ここで戦闘が有ったのだろう」  それに鬼神が答える。 「魔物の大集団?」  美玲は予想出来た事をそのまま口に出す。 「恐らくな。遠くの魔物が血の臭いに集まって来るはずなのに、居ないとなると相当な数だった筈だ」  鬼神は自らの考察を語る。 「あの見えてる街壁が俺達の行く所だって行ってたけど、どんな扱いされんのかな?」  陵は到着に伴い、保護された後の事を考える。 「私は陵と美玲に保護が必要には思えないがな…」  鬼神の本音は、確かに事実である。実際、神を使役している陵と美玲がそんじょそこらの輩にやられるはずは無い。 「身の安全は幾ら突き詰めても足りないからね」  対して美玲は、自身の安全の度合いが更に上がるのなら、もっと突き詰めようとしている。出来る時にやらないと駄目なのだ。 「俺としては、それ以上にもっとゆっくりしたいかな。やっぱり個人で暮らしてると警戒とかも全部自分達でやらないといけないし、日本に居た頃みたいにグッスリは眠れないよね」  そんな中で、陵が希望を話す。 「あー、わかる。いつ後ろから刺されるかわからないしね」 「そういう事、幾ら鬼神や聖神が居ても安心し切れないんだよ。フィルドも居るからな」  幼子が1人居るだけで、命の危険性は一気に高まる。例え神の見張りと言えど、真っ暗闇の中に忍び寄ってきた誰かを一人残らず対応出来るかと言われると、不安が残ってしまう。  鬼神は戦闘職だが、聖神はそもそも戦闘職ですらない。 「でも、良い人かも限らないんだよなあ…」  陵はこれから出会う事になっているレオンのボスに思いを馳せる。  ここまで歩いて来たのに、また逃げ出さなくてはいけない可能性もあるのだ。 「そうだねえ…」  "先が思いやられる"と、言外に滲ませて美玲も呟いた。 ☆☆ 「やっと帰って来ましたね」 『そうだな。道中に何も起こらなかった』  フィリカがユニコーンのユウの背で、しみじみにそう言い、ユウはそう返す。今はまだ、陽が真上を通っていない様な時間である。 「準備万端な時こそ何も起こらないのが旅という物でしょう。いえ、準備万端であったからこそ、困難に気が付けなかっただけかもしれませんが」 『そういうものか…?』 「そういうものですよ」  そのまま悠然とユウは歩を進め、やがて街門前にたどり着いた。 「門番さん。フィリカが帰ってきたと代表にお伝え頂けますか?」  門番をしている兵士に、ユニコーンから降りずに頼む。 「…はっ!? はいっ!!」  兵士は一瞬フィリカに見惚れていたものの、すぐさま走り出し、街の中を駆けて行った。 「誰かが来るまで待たなくてはいけませんね」 『こんなにも大軍だとそうなるだろうな』  後ろに連なる奴隷集団を見るならば、否が応でも待たされるのは仕方が無いと思えてしまう。  それから暫くして、シンが姿を現した。 「ご苦労、随分と派手にやったんだな」  シンは後ろに続く列を見て、フィリカに話しかける。 「お久しぶりですね、シンさん。ええ、それはもう派手にやりましたよ」 「そうか。ふむ、奴隷集団は眷属の首輪が掛けられているのか。わかった、そのまま私について来てくれ、…後ろの奴隷も全部だぞ」  奴隷が勝手な事が出来ないのを確認してから、シンは自身の街に彼らを招き入れる事を決めた。 「しかし、ユウに乗っているフィリカは随分と綺麗に見えるな。ふむ…ユニコーンを捕まえに旅にでも行ってきたらどうだ??」  そしてユウの隣を歩きながら、今の状態について感想を述べてから、フィリカに提案をする。  白銀のユニコーンに銀髪銀目の超絶美女は、そのまま写真を取って額縁に飾るだけでも良い絵になるだろう。 「ふふっ、今回の事も終わったので暫くは遠慮します。それにユウさんは馬神様でしょう? どう足掻いたってユウさんに勝てる馬は見つけられませんよ」  きっぱりとシンの言葉を否定したフィリカは、更にそう続ける。 「確かにそうだろうな。しかし…勿体ないと思ってしまうな」 「その様な事を言われても困ります」  実際、自身の専用の名馬が欲しくないわけでは無いが、それでもここで欲を見せると、またレオンとフィリカで2人旅をさせられそうな気がするので、彼女は敢えてそう流す。彼女は家でダラダラしたかった。 「奴隷の受け入れは出来るが…簡易な建物になってしまう。それで2万位は簡単に収容出来るだろうがな」 「奴隷なのですから、眠る所と食事を与えれば大体は黙るかと」 「暫くは人の暮らしとは言えないだろうが、仕方無いだろうな」  シンも最初から人らしい暮らしを、奴隷に提供出来るとは思っていない。  そもそもシンは、奴隷とは言え、働かない奴隷はそのまま何処かの業者に売って終わらすつもりでいる。  技能を教え、自身らの部下として育てはするが、抵抗する者に時間を割く余裕は無い。 ☆ 「奴隷達は暫くはここで眠ってもらう」  やがて、土地面積100㎡程の五階建ての建物が、5つ程並んでいる場所に辿り着いた。 「寝床だけ…という事ですね?」 「ああ、食事はそこの更地になっている場所で、炊き出しによって賄って貰う」  更地は5つの建物に囲まれている。 「奴隷についている首輪の主は誰だ??」  そして、シンは更に話を進める。 「道すがら拾ってきた奴隷商人に一任しています」 「なら、その奴隷商人に奴隷をここで飼うように指示しろ。炊き出しの食料が足りなくなったら申し出るように」 「そのように伝えます」 「それから…いや、人としての尊厳は残しておいてやるように。部屋分けはその奴隷商人とフィリカに任せる」 「…わかりました」 「大体はこんな感じだろう。…例の人物達は何処に居る?」  一通り指示を出し終え、シンはフィリカに訊ねる。それは天照大神に保護をお願いされている人物達の事だ。 「それでしたら、馬車の後ろにいらっしゃいます」 「わかった。ここは任せる、私はそちらの対応をさせて貰う」 「わかりました。…大忙しですね」 「…まったくだ」  シンはそう言い残して、次に取り掛かる為、馬車の後ろに居ると言われた存在に顔を合わせに向かった。 ☆ 「誰か来たよ」 「誰?」 「知らない」  陵と美玲はシンが近付いて来たのを一瞥して、何だ何だと少し身構えた。 「私の名はシン、君達が陵と美玲で良いか?」  シンは人物の照合をする為に話し掛ける。そんな彼に陵と美玲は神妙に頷いた。 「君達はこっちだ。ついて来てくれ」 「え? …わかった」  シンは素っ気なく陵と美玲にそう言うと、陵は渋々頷いて、鬼神を右手甲の紋章に宿し、警戒しながらもついて行く事にした。  当然、魔牛であるミノリスや、それに乗っているフィルドと聖神もついて来た。 「そこの魔牛は、そこで待っていてくれ」  シンは屋敷に入る直前に、ミノリスに言った。ミノリスは大人しく屋敷の正門前に、居座る事にしたようだ。 「フィルド、行くよ」 「ん」  聖神はフィルドを抱えて、ミノリスから飛び降りた。  そして敷地内に入り、シンは建物の扉を開けた。当然、後ろから陵達もついて来ていた。 「「おじゃまします?」」  陵と美玲は建物入口を跨いで、揃って言葉を紡ぐ。 「まあ、間違ってはいないな」  シンはそれにそう返すだけで、スタスタと先に進んで行ってしまう。 (これ…大丈夫なのか?)  陵の頭には不安が過ぎる。 「ここが食堂だ。そこの2人以外は好きな所に座っていてくれ」 「…わかった」  そして、シンは大扉を開け放った。  そして、食堂の中をスタスタと歩いて行き、シンは中央にある席に腰を掛ける様に陵と美玲に指示を出した。  まるでバイトの面接みたいな雰囲気である。  陵と美玲はお互いに頷きあって、指示された通りに腰を掛ける。 「何も言わずについて来てくれて助かった。私が君達を保護する様にレオンに指示を出した張本人だ。まずは…そうだな、何か聞きたい事はあるかな?」  そして、シンは会話を切り出した。切り出すと同時に、屋敷に居たレイがお菓子と飲み物を置いていった。 「「あ、ありがとうございます」」  そんな陵と美玲に微笑みだけを返して、レイはその場を立ち去ってしまった。 「えっと、じゃあ、私達がどんな扱いを受けるのか…教えてください」  陵はシンに言われた通りに問い訊ねた。 「どんな扱いも何も、3食と部屋を与えるという事くらいだな」 「それって、貴方に利益があるとは思えないんですけど…」 「報酬は天照大神から貰っている。それでは不満か?」 「…それって、私達を閉じ込めておけば良いって事なんじゃないの? え?…それは嫌だなあ…」  美玲はすぐに状況を正しく理解した様だ。天照大神の報酬を得るには、シンが彼女達を閉じ込めれば良いだけだと言う事に。 「まあ、それも一理あるな」 「あるんだっ!?」  美玲はいよいよ、逃げ出す算段を考え始める。 「だが、それ以上に、私としては君達に働いて貰いたいと思ってる」 「働く?」「ただの元高校生に?」  サラリーマンでも何でもない餓鬼に"働いて貰いたい"というのは、正直に言えば訳のわからない話である。 「只のは流石に言い過ぎだろう。君がレオンと共に放ったんだろう?」  シンが言っているのは、魔物の大半を死滅させた一撃の事だ。 「…そうだとして?」 「まあ、それだけでは無いがな。君達の今までの行動を見てきた上で、そう提案している訳だ」 「監視してた?」 「ああ、してた。ついでに言えば、レオンが裏組織に喧嘩を売った所までも知っている」 「戦争にこき使われるのはちょっと…」  陵は武力目当ては嫌だと、そう思い、否定的になる。 「戦争は…まあ、まだ暫く無いだろうな」 「じゃあ何を求めてるの??」 「その冷静な所を買っている。私の臣下は現状レオンしかいない。…あれ、大人しくないだろう?」 「は、はあ…?」  陵と美玲からすれば冷静でも何でもなくて、単に心が波立たないだけである。 「怒る沸点が低い。容赦無く取捨選択出来る。この2つだな」 「えっと、つまり??」 「尻持ちはするから、私の部下になって欲しい」 「部下になったらどうなるの?」 「まあ、その時々によって内容は変わるな。死地に飛び込めとは言わないが…」 「でもさ、私達なんて信用出来るの?」 「君達の生き方に関しては天照大神から全て情報を貰っていてな。ああ、そうそう、中学の内申書も高校の内申書もあるぞ?」  シンは何のこと無いようにサラっと言った。 「はあっ!?」「嘘でしょっ!?」 「嘘なんか言うものか。天照大神からの縁故だと思えば良い」  簡単に言ってしまえば、"この子達良いよ、手元に置いてみない?"と天照大神がシンに売り込んだだけである。  シンとしても、そこまで言うなら…という事でそんな話を持って来ているのだ。 「そ…それってかなり責任重大だよね…」 「いや…どうだろう? 人が言う程重要なものでも無いな。ただまあ…あまりに勧められた人材が酷ければ、今後の取引は無しの方向になるだけ…」 「「めっちゃ責任重大だよっ!?」」 「そ、そうか??」  陵としても美玲としても、あの仲の良かった神様が口添えしてくれている事は理解しているので、少し緊張し始める。 「だから、逆に言えば君達にとって、私は信用出来そうな雇い主だと思うのだが…どう思う?」 「それは…そうだけど…」  陵は少し悩む。確かに疑う余地はあまり無いし、彼があの神様と知り合いなのはわかっているし。 「…わかりました。給料とかそこら辺をしっかりしてくれるなら貴方の元で働きます」  悩んだ上で、じゃあ、この人の下で働いてみようかという結論に至った。 「そうか、決して悪い様にはしない。早速で悪いが、一仕事お願いしても良いかな?」  シンは彼らが話に乗ったのを理解して、彼らに最初の仕事を与える事にした。
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