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第四部‐夜のひとまく。

「あら? 主は居ないのですね…」  深夜になり、レイは眠りにつく為に自身らの寝室‐屋敷の‐に入る。すると、1人が居ないことに気が付く。 「シンならあっちに居るわ。何でも連れてきた魔族が手術?を始めたらしくって、見張ってないといけないらしいわよ」  そんな呟きに返したのは、先に一通りの仕事を終わらせ、寝床に座っているミリだった。 「そうなのですか。確かに私達は暫く睡眠がなくとも、問題は無いですね」 「身体的にはそうかもしれないけれど…そうじゃないわ」 「わかっています。態々夜型であるミリが、私達に合わせている理由でもありますから」  ミリの言いたい事は彼女も理解している。 「甘えられないじゃない…」  ベッドの上に、ミリはごろりと転がった。  いつも、自身より小さなシンに抱き着いて、背中をレイに合わせているミリからすれば、片方が居なくなるのは耐え難かった。 「…依存してますね」  そんなミリにしみじみに呟くレイ。 「貴女だって可愛いところあるじゃない。いつも背中をくっ付けてくるし」 「そうですね。私はミリを愛していますから」 「うわっ…、濁り無さすぎる回答をありがとう。私も愛してるわ」  きっぱりと言われて少したじろぎそうになったが、それでも平然と返せるのは、彼女らが真に思い合っているからだろう。 「ミリ、真ん中で大の字になられても困ります。少し端に寄ってください」  後ろ髪を止めていたヘアゴムを解き、レイも眠る為にベッドに身体を預けようとしたが、いかんせん、ミリが邪魔だった。 「…来て」  彼女は両手を拡げて、レイを誘った。 「…はあ、わかりました」  彼女も満更ではないから、そのままミリの上に身体を預けた。 「レイはレイで抱き心地良いわよね…」  彼女の背に手を回し、ミリは彼女の体温を感じとれる様に身体を合わせた。 「貴女は誰に抱き着いても、同じ事を言いそうですが…」 「そんなのじゃ無いわよ…。そもそも、抱き合って安心出来る存在が少ないもの。…こうやって抱き合ってると本当に安心出来るのよ…」  上に覆い被さったレイを横に倒した彼女は、抱き枕を横から抱くのと同じ容量で、足を絡ませ、身体を密着させた。 「暖かくて心地良いのよ…」 「…そうですか」  レイは仰向けになり、自身の身体の半分だけを彼女に預ける。 「相変わらず、貴女の黒髪って綺麗よね」  そんな中、ミリは手に届いたサラサラとした彼女の髪を触れて、ぽろりと言葉をこぼす。 「貴女の金髪も綺麗だと思いますが??」 「気は使ってるもの。でもそれ以上に…ほら、この世界って金髪が多いじゃない?」 「…ああ、物珍しいと言いたいのですね?」 「そうよ。それに実際、真っ黒の髪って艶があって綺麗だと思うのよね」  サラサラと、ミリが手から、掬った彼女の黒髪が流れていった。  そして、ミリは小さくレイの頬に唇を当てる。 「おやすみなさい」 「…はい」 ☆☆☆  場面は変わり、"ヘブンズガーデン"のとある建物のとある1室では。 「・・・」  そこにあるのは、シンの姿だけだった。  何故なら、"ヘブンズガーデン"は構造上、常に明るい土地ではあるが、既に深夜帯に食い込んだ時間になってしまっているからだ。 「暇だ…」  手持ち無沙汰な時間を過ごしながら、ボヤく様にシンは呟く。彼らが手術を始めてから、既に5時間が経過していた。 「…仕方ない」  シンは片手を挙げ、金属片を散布する。そしてそれらを1つに纏め、彼は1つのインゴットを創り出した。 「彫刻を作るのは得意では無いが…仕方がない」  そのインゴットは熱を帯び、まるで油粘土のように-暇過ぎるが故に-様々な姿を象っていった。 ☆☆☆ 「ふう…、予定通り終わったな」  シーメトロンは手術を終えた瞬間に脱力し、ダランと腕を垂らした。 「お疲れ様でした。旦那様」  赤髪の魔女がシーメトロンを労う。 「君達も…お疲れ様。触った事の無い素材も幾つかあっただろう?」 「…はい。その、その件は力に慣れずして申し訳ありません」  闇色髪のロリっ子サキュバスが申し訳なさそうに言う。 「気にすることではない。私が君に教えてなかったのが悪いんだ」 「旦那様…」 「しかし…初めの依頼がここまで重いと…後が思いやられないか?」  シーメトロンは、つい先程まで弄っていた少女の体を見つめて、重々しく呟く。 「ま、ま、まさかっ、この少女にも手を出すおつもりでっ!?」 「…そんな事したら殺されるだろう。それに…少女体型は足りているからな」  彼にはロリっ子サキュバスが居る。 「旦那様の変態~」  青髪の魔女がからかう様に言う。 「魔女に言われたくない。性感帯を残留させたままの避妊手術など…ふざけてるとしか思えん」  魔女は何と交わっても子供を作ってしまうので、長らくそういう事をするのであれば、避妊手術は必須なのだ。  避妊手術と言っても少し特殊なものであった事は明示しておく。 「「「うっ!?」」」  青、赤、金色のそれぞれの魔女が気まずそうに呻いた。 「旦那様~、そう言うお話は安全が完全に確保出来てからにしませんか? 最悪我々が体を捧げて貴方を生かします…「いや、その時は共に死んでもらう」…はい」  自己主張の激しいサキュバスの言葉を、シーメトロンは迷い無く遮った。 「流石に…自身の女に手を出させて逃げるほど落ちぶれてはいない。…まあ、その心配も無いだろうがな。ソーダ、上の階に居る彼を呼んできてくれないか?」  シーメトロンは、ボンキュッボンとロリの真ん中の体型であるサキュバスに、彼を呼んできてくれないかと頼む。 「わかった。行ってくる」  タッタッタッと軽い足取りで、ソーダと呼ばれたサキュバスは、部屋から外へと出て行った。 「旦那様はやっぱり変態」 「まあ、否定はしない。四六時中取っ替えひっかえ…という程でもないな。…したいとは思うが研究に没頭していると忘れてしまう」  シーメトロンも男なので、エロいことが種族的に専門なサキュバスと、そういう種族である魔女には、本来なら手を出したいわけで…。  でも、それ以上に研究が大切で…。その知識や腕によって今の現状を生かされている訳で…。 「取っ替えひっかえしたいが…」 「いつもそうやって言うのに、呼び出す時は1人ずつなんだよね」  金髪魔女はつまらなさそうに言った。 「魔女やサキュバスの吸精力には勝てんよ。…魔王の心臓を使ってわなくてはいけなくなる。…あと、玩具」 「サキュバスへの特攻玩具とか笑えないのでヤメテクダサイ」 「魔女への特攻玩具とか笑えないから。…前された時、1日中部屋の中を動けなかったんだよ?」  ロリっ子サキュバスと金髪魔女が口々に、明らかに不満そうに文句を垂れる。  "部屋"というのは、シーメトロンが持っている本の、1ページ1ページに付与された亜空間の事である。 「1000年も経っている筈なのに変わりませんよねえ…」  ボンキュッボンサキュバスはシーメトロンを見てしみじみに呟いた。  こんこん  丁度、その呟きと同じタイミングで扉がノックされ、開けられた。部屋に足を踏み入れたのはシンだ。 「結果は?」  そして端的にシーメトロンに問う。 「作り直しには成功した。…色々と大変だった、助手に触らせた事のない素材まで使われていたからな」 「…そうか。ありがとう、助かった」  シンは素直に頭を下げた。 「私としては…感謝よりも身の安全が欲しい」  ちらっと、周りを見ながらシーメトロンは要求する。 「わかった。…なら、身の安全と生活を保障する代わりに、この世界に居る子供達に、貴方が持てる技術を教えてやって欲しい」  安全に生活の保障を付け加えて、シンは要求に要求を返した。 「この世界? …ああ、貴方が創った世界だと言っていたな」  シーメトロンは彼の言わんとしている事を理解した。 「ああ。いかんせん学を教えられる者が少なくてな。私達は武器の扱いや魔法の扱いは教えられるが、それでは先が潰える未来が簡単に見えてしまう」  シンは少し難しい顔をして言った。 「生活を保障してもらえるなら…構わない」 「なら、それでいこう。それと…もしかしたら何かの開発を依頼する事もあるかもしれない」 「無償で…か?」 「いや、何か報酬を…出せたら出す。研究が楽しいのであれば…それが報酬になりうるだろう?」  環境を整える事も、報酬に成り得るだろう。 「…面白くもないものであれば、報酬を要求したい」 「よし、ならばそれで決まりだ。私について来てくれ」  シンは手術を受けた少女の様子に、異常が無い事を確認して指示を出す。 「ふむ、わかった。行こう」  シーメトロンは、戸惑うこと無く自らの妻達を分厚い1冊の本に仕舞い、彼の後に続いた。 ☆☆ 「ここらで良いだろう。これから作る貴方の家に要求は?」  少し歩いた先で、シンは彼に問い訊ねる。 「…今から作るのか?」 「ああ」 「むっ…そうだな、トリプルベッドが一つ欲しい」 「…こんなに欲求に忠実な研究者が他に居るのだろうか?」  シンは彼に対して、そう言うイメージを持っているが、少しばかり外れている。何がとは言わないが、何がとは。 「他は?」 「…最低限の生活が出来れば良い」 「わかった」  シンは木、土、水、火、そして、金属を少々生み出し、多重思考で部屋の隅々まで構築していく。家具も台所もベッドも、ライトも。 「貴方は…本当に何でも有りだな」 「何でもは出来ないさ。さて、今日はここでお開きにしよう。用意した家は今から使ってもらって構わないが、細かな事柄はまた…にしよう。それから、これを持っておいてくれ」  シンにも出来る事と出来ない事がある。そして、とある物をシーメトロンに手渡した。 「…これは、あの世界の時計か」  シーメトロンはそれを見てすぐに正体を理解する。 「この世界は暗くならないからな。それは持っていてくれ」 「…わかった。我が主よ、突然切り捨てるのは止めてくれ」  彼はシンを主として立てることに決めたようだ。 「そんな事はしない、必要も無いからな。…また明日な」  そんなシーメトロンに返事をし、そう言い残して彼は転移した。 「…彼はいったい何だ?」  取り残された彼は、シンに対して漠然とした興味を抱いていた。 ☆☆☆  そうしてシンは、暗闇に室内が染まる屋敷に転移し終えると、一直線で自らの寝床に向かった。  そして、静かに音に気を付けながら扉を開ける。 (これは…その、私は何を思えば良いのだろう?)  扉を開け、中に入ると同時に、彼の目にはレイにミリが抱き着いている光景が目に入る。 (しかも、随分と幸せそうな顔をしてる)  ミリのだらしない顔と、レイの穏やかな顔を見て思う。 (よくよく考えてみれば…私はレイの寝顔を見る事があまり無いな)  ミリは事後に彼より先に眠ってしまう為、記憶に残っているが、レイは彼より遅くに寝て彼より早くに起きるのだ。だから、シンはあまり見ない。 (しかし…数十年前はあんなにうなされていたのに、まるで嘘のようだ)  シンとレイが持つ、この魂を構築する際に元になった人達の、魂の欠片達の記憶によって引き起こされるフラッシュバックは、彼らの精神を苦しめる事も多々あった。今はその片鱗すら見えないが…。 (ふふっ…、まあ良い。所で、私は何処に眠れば良いのだろうか?)  自然と笑みが零れる中で、本来三人用のベッドが、完全に2人に占領されているのを見て困ってしまう。 (起こすのも…気が引ける)  これはどうしたものかと、本気で思案する。  結局、シンは1つの座り心地の良いソファ-1人用-を取り出し、深く座り込み、眠りにつくのだった。
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