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第四部‐後処理。

「シン兄、連れて帰ってきたよ~」  街壁の外に待機していたシンの元に、アイが魔族を引き連れて姿を現した。 「それがそうか。…先に屋敷に連れて行ってくれ、後で私も向かう」 「はいはーい」  アイはそれだけを聞いて、さっさと魔族を自身の肩に抱えて街の中に入って行ってしまった。  魔族が入って来た事により街が若干のパニックになっているが、それは敢えて気にしないでおく。  リオンとティルはとっくの昔に街の中に戻って来ている為、魔物の残党の処理をすれば、今回の1件は全て終わる。  いや、言い直そう。レオンを叱り付けるまでが彼にとっては今回の一件に含まれているので、まだ終わらない。 ☆  視界に入っている魔物の残骸を大量に亜空間に詰めながら、ゆっくりと魔物の集団が存在していた場所を歩く。  魔物の残党は、見つかり次第に頭を爆殺される。  仕舞っている亜空間は時間が経たない為、気兼ねなく仕舞っておけるし、食料問題も当面の間は問題にならないだろう。  ざっと見ただけでも3万程の死体が転がっているようだ。  当然先程の一撃で消滅した死体もあるので、その件も含めてレオンとお話をしなくてはならない。 「もっと冷静な部下が欲しい…」  この呟きをミリが聞いたのなら、"一番メチャクチャなのは貴方でしょっ!?"と叫びそうな気がするが、取り敢えず置いておこう。  先程の恐ろしい一撃に巻き込まれなかった魔物集団の一角を、シンは見つけた。  戦意が消えていないのを確認した後、雨のようにつららを降らせ、串刺しにしてから自らの亜空間にそれらを仕舞った。 (レオン、随分と多量の奴隷を買い占めたな…)  シンは気配を探知出来る距離を半径20kmまで拡大させると、レオンが大量の奴隷集団を率いている事を理解した。 (これなら今日中に街まで辿り着けるだろう)  この距離であれば1日も掛からないだろう、そう彼は思った。だがしかし、今は丁度夕暮れであるので、到着は明日になってしまうだろう。 (また残党か…放置しても良いか?)  シンは早くも魔物の残党処理に飽きが回ってきた様だ。 (面倒だから放置にしよう。最悪、レオンが連れ帰った奴隷に働かせて処理させれば良いだろう)  結局、魔物の残党狩りを中断、シンは自身の街に帰ることにしたようだ。 ☆☆☆ 「ミリ〜、彼が主犯でーすっ!!」  テンション高めのアイが、突然、ゆっくりと食堂でお茶をしていたミリの元にやってきた。そこには当然、オルクェイド王国の騎士団長も居た。 「魔族…だな?」  騎士団長は確認の為に口を開いた。少し雰囲気がピリつき、彼が魔族に警戒している事は傍から見ても良くわかった。 「そうだよ〜。そこのおっきなおじさん、彼に手を出したら怒っちゃうからねー」  小柄なアイが大柄な騎士団長をおじさん呼ばわりするとそれらしい雰囲気が出てしまう。  騎士団長の隣に座っていたクリスタルは苦笑いをしていた。アイの態度に面食らったというのが正しいかもしれない。 「彼が何の為にここを襲ったとか聞かないといけないよね? どうするの?ミリ?」 「…はあ、騎士団長も気になるならご一緒しましょう?」  ミリは客の前だというのに、全く態度を変えないアイにため息を吐く。そして、騎士団長に提案した。  かの隠密神が態度を変えねばならぬ理由など一切として無いのだが。 「尋問を…か?」 「ええ、私としても聞かれたくないことは無いもの」 「…恩に着る」  この世界には魔王が居る。その魔王のせいで魔族は人を襲うものだと思われている。騎士団長も当然そう思っている口だ。  だから、騎士団長からすれば、魔族の情報はかなり重要なものである。  …だが、本来は違う。  そもそも魔族もカテゴリー的には人であって獣では無いし、彼らは人と問題なく会話をする事も出来る。  つまり、魔族以外の人と呼ばれる存在に勘違いをされてしまっているだけである。 「アイ、そこに座らせてくれるかしら?」 「はいよー」  少々強引に、アイは肩に背負っていた魔族を椅子に座らせた。  そこで初めて、騎士団長とミリの目に魔族の外見がしっかりと捉えられた。  その魔族の髪の毛は白く、頭にはまるで羊の様な角に毛を蓄えており、更に青黒い肌をしていた。 「騎士団長は左に座って、それから…私が良いというまで質問はしないでちょうだい」 「…了承した」  ミリが右に、騎士団長が左に座り、椅子に座らされた魔族と向き合った。 「さあ、尋問を始めるわ。まず…貴方の名前は?」  ミリは準備が出来たのを確認し、尋問を開始した。  尋問の内容は、魔王や魔族、それから今回の動機についてが大半だった。 (あれが魔族なのか。…初めて見た)  クリスタルはミリと騎士団長と共に囲んでいたテーブルに、1人取り残されていた。 (人とそんなに変わらないじゃないか…。ただ角があって肌が青いだけ…)  魔族を見て、彼女はそんな感想を抱いた。 (ただひたすらに残虐な種族だと教わって来たが…私には見えないな)  自らが学舎で学んだ事柄と照らし合わせてみても、全く整合性が無いように彼女は思っていた。 「僕もこの席に座って良いかな?」  そんな中、クリスタルの-テーブルの-対岸にアイが顔を出した。 「も、もちろん」 「お邪魔しまーす」 (いつの間に目の前に…?)  アイは常時気配を隠しているので、目の前に現れても、通常の人族であればわからないのだ。 「君も、あの尋問が終わるまで待ってなくちゃいけないから面倒だよね」  アイがさらっと話をふった。 「そうですか? 私は魔族への興味が尽きません。教えられてきた想像とは随分と違うので」  クリスタルは取り敢えず、アイに対してはミリと同じように対応する事に決めたようだ。 「あはははっ、かたいねー…」  笑い、そう返事しながらも、アイはミリと騎士団長に尋問されている魔族を見つめていた。  その魔族を見つめる目には光も色も無く、まるで道具を見ているような目だった。 (…怖い)  齢15くらいしか生きていないクリスタルは、そんなアイの目に対し恐怖ばかりを感じるようだ。 (…あれ? 私は何を見ていたのだろう??)  しかし、すぐにクリスタルは目の前の存在を見失ってしまった。  隠密神の権能により、アイはクリスタルの目の前に座っていたが、座ったままに彼女はクリスタルの視覚から外れてしまった。  更に、アイがお茶目‐悪ふざけ‐にもクリスタルが"自身と喋った"事を隠蔽したので、クリスタルの頭の中には彼女についての思考が隠蔽されてしまっていた。  アイが何も考えずに能力を使ったという事は明記しておく。  クリスタルは自らから見て、1人しか居ないテーブルに座り直したのだった。 ☆☆☆ 「取り敢えず1仕事は終わったかな?」  リオンはボロ雑巾の様になったティルを、彼の部屋に放り込み、そのまま外に出て来た。  ティル自身はまだ動けると言っていたのだが、それはそれ。無視してベッドに押し込んだ。  シンから戦闘が終わったらベッドにぶち込めと言われているので、リオンは容赦無くぶち込んだ。  それはリオンも納得しているからだ。  というか、そもそもティル自身が未だに動ける事が謎なのだ。  リオンはランドドラゴンを倒したと同時に気の緩みで倒れるだろうと予想していたのに、それを裏切ってくれた。  いや、当然ながらそれなりに彼の体にガタはきているし、精神的に弱ければ、ランドドラゴンと戦う前にすら剣を落として戦えなくなっていただろう。  それくらいに苦行を強いた感覚がリオンにはあった。  それなのに、部屋に押し込む寸前まで"大丈夫ですよ。休まなくても"と言っていたのだから、リオンも"頑丈過ぎない?"と密かに思ってしまった。 (あの子ってただのエルフだよね? …もしかして、なんかの先祖返りだったりする?)  半神半人のリオンが思わずそんな事を思ってしまうくらいには、彼は元気だった。 (いやいや、それだったらシンが何か言う筈だし…)  もし仮にそうだとしても、シンが隠す意味など塵ほどもない。 (うーん…、あたしにはわからないなあ…)  リオンの疑問は尽きそうにない。 ☆☆☆ 「ソフィア、そんな大雑把な発動ではダメです。もっと精密に、道端の小石を撃ち抜く感覚です」  大量の魔物が現れたのにも関わらず、レイはそんな事は関係無いと言わんばかりにソフィアに魔法を教えていた。  ソフィアにやらせているのは、レイの手元にある、まるでミシン針の形をしている、火の塊を作る事だ。  もっと大雑把な物を教えても良い筈だが、レイは妥協を許す気は無いようで、魔法を操る技能がしっかりと身に付くまでは、他の技能を教える気は無いようだ。 「…難しい」  ソフィアはレイの言葉を聞き入れ再現をしようとするも、そうそう簡単にはいかない。 「難しいのは当たり前です」  レイはソフィアの呟きにそう返して、土、風、水、火のミシン針を生み出す。  興が乗ったのか、更に、雷、闇、光、とミシン針を生み出し、先に作った4本と共に空中を旋回させる。  本来、魔法の扱いはレイの本分では無いが、夫のシンが魔法の扱いに長けているので、少し(1年ばかり)教え続けてもらったら出来るようになったらしい。 「おっ…、出来…ああっ!?」  ソフィアは火のミシン針を作り出す事に成功したのだが、そこで集中力が切れてしまい、作り出せたそれは、あっという間に崩れ去ってしまった。 「うう…、もう嫌だよ…」  ソフィアは地べたに尻を着けて駄々をこねる様に言う。  大人でも何でもない只の子供が、こんな地道な事を続ける事など出来るはずもなかった。 「こらっ、ソフィア。地面に座ってはお洋服が汚れてしまうでしょう?」 「ううっ、だって、出来ないんだもん。もう嫌だよ…」  完全にいじけてしまったようだ。 「貴女が嫌なのなら、今日はここまでにしましょう。ほら、土を落として…」  レイは彼女を軽々と持ち上げ、お尻の土をパンパンと叩いた。  レイにだって、小さな子供が地道な訓練に対して、すぐに嫌気をさしてしまう事はわかる。  だから、ソフィアがぐずったらそこで終わりだ。残りは明日に回せば良い。 「ほら…、戻りますよ」 「…ん」  レイは手を引いて、ミリらが居る食堂へと向かう事にしたようだ。  そこにはもう一人の教え子である、アリスが居るからだろう。 ☆☆ 「主、魔物の件は片付いたのですか?」  そして食堂の大扉が見えると、その前に自らの主人であるシンが立っている事にも気が付いた。 「レイか。…なんでここに?」 「丁度、ソフィアへの仕込みを一段落させた所です」 「そうか。…ソフィア、調子はどうだ?」  シンはレイの返答に頷き、更にしゃがんで、レイの左手を握っているソフィアに高さを合わせて、問い訊ねた。 「難しい。…出来ない」  すると、少し躊躇いがちにそう答えたのだった。 「…そうか、頑張れ」  金色の髪を一撫でし、再度シンは立ち上がる。  そして、食堂の大扉を開け放した。 「シン、レイ、丁度良いところに来たわね。今尋問が終わった所よ」  魔族の男と向き合っているミリは、今入って来たばかりのシンに言葉を掛ける。 「そうか。所で騎士団長殿、貴方はそろそろお帰りになった方が良いのでは? もう日も暮れているだろう??」  シンは、ここから話す内容に騎士団長は邪魔だと判断したようで、泊まっている宿に帰る事を勧めた。 「むっ…確かに暗くなってしまったな。わかった、話通り明日に、この屋敷に私の娘を預けに来る。色々な荷物を纏めなくてはいけないのでな」 「わかったわ。ただ、明日来た時に私が対応出来るかはわからないわよ?」 「大丈夫だ。恐ろしい速度で魔物の集団を倒し切ったとは言え、事後処理も沢山あるのも重々承知している」  そう言って騎士団長は、ミリの隣の椅子から立ち上がった。 「では、本日はここで失礼する。情報提供等、その他諸々感謝する」  騎士団長は深々と礼をする。 「はいはーい、お元気に〜」  対するミリはとても気の抜けた様な返事だった。  その返事を聞いた騎士団長は、別のテーブルに座っていたクリスタルを連れて、外へ出ようとする。 「レイ、屋敷の外まで案内してくれ」 「承知しました」  シンの指示を聞いたレイは、すぐ様、外へ出ようとする騎士団長らの前に立ち、大扉を開け、外へと招いた。  やがて、騎士団長らも外へと誘われ、大扉の向こう側へと消え去っていった。 「ミリ、彼の名は?」  シンは部外者が消えたのを確認し、魔族の男の名を問い訊ねる。 「シーメトロンよ」 「…ありがとう。さあ、ここから本題だ」  シンは今まで彼が問い掛けられて来たであろう、魔王についてや、魔物集団を用意した経緯、動機などはどうでも良いと言うように、少し期待した目を彼に向けたのだった。
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