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第四部‐神話の二撃。

「しゃあっ!!」  またも1体、魔物が地に沈んだ。 (キリがねえ…)  ティルが剣を振り続けて、もう既に4時間以上は経っていた。彼の剣を振る腕はプルプルと震えており、限界が近付いていた。 「らあっ!!」  空元気の一声と共に、新手に魔物の顔面に腕鎧を突き刺す。  更に足を一歩前に出し、体重を前に倒す。体重が掛かったまま彼は相手に剣を叩き付けた。  それは、もう既に形など欠片も残していないお粗末な振りだった。  それでも剣が重過ぎる故に相手は死ぬ。  ざくっ!!  その勢いのまま、地に剣が突き刺さった。突き刺さったのは今回が初めてでは無い。  ティルは周りの魔物を腕鎧で、突き刺し、殴り、一旦距離を開けてから、ありったけの力を込めて地面から引き抜いた。  剣の重さ故に、剣先が中を舞う。丁度彼の頭上に直線上に持ち上がった、それと同時に振り下ろした。  今度は剣が地面に刺さらないように、振り下ろしながら、向きを横に変えて、剣先が半円を描く様に振るった。  まっすぐ振り下ろした訳では無いので、当然切れ深は浅くなるが、それでも重さによる打撃が魔物に致命的なダメージを与えた。 (くっそ…いつまで続くんだよ…これ…)  油断の出来ない時間が長く長く続き、ティルの精神をゴリゴリと削る。  それでも剣を振り、鎧を叩き付け孤軍奮闘する。 (ティルもそろそろ…かな? うーん…最後の締めは…あのランドドラゴンで良いかな??)  リオンはそんなティルを見ながら、ティルの元へと誘導する魔物を決めた。  ランドドラゴンとは、全長9mを誇る物凄く大きな魔物で、地面を4本の足で走り移動する。  性格は獰猛で頭は良くない。ドラゴンの中でも期待外れな存在だ。  また、本来なら1体で街を制圧する事が出来る存在である。  リオンは片手間に殺す事が出来るので、一般人から見たら脅威というだけである。 「っつ!?…なんだよ…あれ…」  ティルは目の前に現れた、今まで相手をしていた魔物とは比にもならない大きさの"ランドドラゴン"を見て、少し絶望の色を浮かばせた。 「…あれも倒さなきゃいけねえのか?」  まるで誰かに問い掛けるような呟きが彼の口から漏れる。されど、誰もその言葉に返してはくれなかった。  今までの魔物の相手で、十二分に限界を迎え、もう既に限界を超えているのではないかと思える量を殺し続けている。  そんな彼の中で何かが切れる音がした。  ティルは無言で腰を落とし剣を構えた。彼の目は焦点が定まっていない。  リオンはそんな彼を見守るだけだ。  一気にランドドラゴンへと距離を詰めた。自身より10倍近くも大きな魔物に対して、彼の動きは恐怖感を微塵も感じさせない。  ランドドラゴンは前足を横に振るう。ティルはそれをスライディングの様に、地面に体を平たく沿わせて躱す。  更に一歩先に距離を詰める、そこには丁度ランドドラゴンの顔があった。  ティルは剣の切れ味を信じて、ヘッドスライディングの様に頭からランドドラゴンの眉間に突っ込む。  くっそ重たい剣の自重と、走った勢いを重ね合わせて、彼は眉間に1本の剣を突き立てた。  どしゃっ!!  深々と刺さった剣は抜けない、しかもランドドラゴンは即死には至らなかった。  ランドドラゴンは強引に頭を振るい、ティルを振るい飛ばす。  彼は地面に不時着、留まることを知らずにゴロゴロと転がり、他の魔物に直撃した。  ぶつかった魔物は運良くゴブリンであった。  ティルの体重を支え切れずにそれはドミノ倒しのように地面に引き倒される。  ティルはゴブリンにぶつかった事に気が付くと、すぐさまそれの頭に腕鎧を突き刺した。 「…まだ、終わってねえ」  ティルは再度立ち上がり、自身を吹き飛ばしたランドドラゴンを睨む。  そしてまた駆け出す。  周りにも魔物が居るが、それらはリオンがによって、彼に気付かれぬ様に排除され、彼のランドドラゴンへの道を作った。  ティルはランドドラゴンの前に到達。  ランドドラゴンは怒り狂いながら、彼を前足で殴りつける。縦であったため、彼は体を横にするだけでするりと躱す。  そして再度、ランドドラゴンの顔面付近まで辿り着く。  ランドドラゴンは先程と同じように噛み付いてくる。  ティルは噛み付いてくるタイミングに合わせて、本気でジャンプする。  奇跡的にも、ランドドラゴンの額に刺さっている剣に彼の手が届いた。  すると、ランドドラゴンは一気に脱力し、まるで座ろうとしていた椅子が突然何者かに引かれ、尻を地面に打ち付けたかのように、体を地面に打ち付けた。  ランドドラゴンが噛み付いてくる速さと、ティルの速さが合わさり、剣がランドドラゴンの脳天を貫いたようだ。 (いってえ…)  ティルは勢い良く剣の持ち手を握ったせいで、突き指をしてしまったようだ。 (…まだ、終わってねえ)  それでも突き指をしたままの指で剣を引き抜こうとする。 「ティル、ここまでで良いよ。お疲れ様」  それをリオンが遮った。 「…リオン先生?」 「さってと、帰ろっか」  リオンはティルが持っていた重い剣だけを自身のアイテムボックスに仕舞い、ティルを肩に背負った。 「ははっ!! 一気に帰るから離すんじゃないよっ!!」  リオンは街の方向に、強大な火球を打ち込み爆発させ、一気に走り出した。  ☆☆☆ 「リオンとティルは終わったみたいだねえ…」  人知れず-シンは知っている-に彼女らを護衛していた隠密神アイリス。  彼女は彼女らが街へ戻って行ったのを確認すると、目的を変更させた。  それは、この魔物の集団を生み出した元凶である魔族を捕らえるというものだ。  アイは魔物の集団の中を止まる事なく、悠然と歩き続ける。どの1体として、彼女の存在に気が付く魔物は居なかった。  それはそうだろう。雑多な魔物など、いくら集まった所で隠密神を見つける事など不可能なのだから。 (確かこっちだった筈なんだけど…)  魔族が居る場所を目指しながらゆっくりと歩いている為、それなりに移動に時間が掛かっている。 (頭が良い人だと良いんだけど…)  こうやって捕まえに来たのにも関わらずに、捕まえた対象が脳無しであったらアイはきっと拗ねてしまうだろう。 (おっと、見つけた。…あの魔物は彼のペットなのかなあ??)  魔族の彼の手元には曰くグリフォンと呼ばれる存在の魔物が居た。その魔物は彼にとても懐いている様に見える。 (あの子を殺してからでも良いけど…、あの人が"死ぬまで戦ってやるっ!"とか言い出したら面倒くさいもんね)  だから…、彼女は悠然と歩いて魔族の彼の背後を取った。当然彼には気付かれていない。  流石は隠密神と言った所だろうか? 「…動くな」  アイは業物でも何でもない短剣を取り出し、彼の首に剣を突き付け、気配を顕にした。 「…いつの間に?」  男はそう訊ねるしか出来ない。また、彼の手元で撫でられていたグリフォンがアイを目一杯に威嚇する。 「初めまして、僕の名はアイリス。君が生物に詳しそうだからスカウトに来たんだ。そこのグリフォンとかにしろ何にしろ、キメラとか作ったりした事あるでしょ?」  彼が撫でていたグリフォンは手を加えられた気配がした。つまり、純粋種ではないのだ。 「…それが?」 「うちの子にキメラが居るんだけど、その子の面倒を見て欲しいんだよ」  ニッコリとアイは彼に微笑んだ。 「拒否したら?」 「処分?」 「ここで私を抑えても…魔物は止まらないぞ?」 「魔物は別に止めなくても良いよ」 「・・・」 「どうするの??」  黙りこくった男に再度問い掛ける。 「私が力に成れなかった場合は?」 「その時は研究に力を注いでくれると嬉しいなあ…。うちにも既に研究者っぽいのが居るんだけど、へっぽこだからね」 「…わかった、降参する。そこのグリフォンを亜空間に仕舞いたい」  存外話が早く進んだ。 「余計な真似をしたら一瞬でお陀仏にするからね?」  短剣を少し首に当て、更に脅しに磨きをかけた。 「わ、わかってる」  男はそう返し、1冊の分厚い魔導書の様な物を取り出した。そこには様々な魔法陣が描かれていた。  そしてとあるページを彼は開く。と同時にグリフォンはとあるページの魔法陣に吸い込まれてしまった。 「よし、大丈夫だ。行ける」 「よし、じゃあ連行っと…、えーあーえー?? あれってまさか…」  さあ帰ろう。アイはそう思い、周りを見ると、遠くに高密度の光の柱が2本も遠くに立っているのが見えた。  光っているが、その2本の柱の色は明暗を分けていた。 「な…なんだ…あれは…」  魔族の男は光の柱を視界に写す事によって、まるで()()の再現が行われている事を本能的に理解したのだった。  ☆☆☆☆☆☆☆☆  少し時間は遡る。 「いい加減飽きてきた…」  数万の奴隷の集団の先頭近くを、常に歩き続けてきた陵がボヤく。  因みに、先頭はユニコーンのユウが引く馬車だ。 「仕方ないだろう。私は楽しいが?」  鬼神はミノリスの背でキャッキャッ言ってるフィルドの相手をしながらそう言う。  確かに楽しそうだ。 「魔物さんもあまり出てこないしねえ…」  美玲の言葉が宙を浮かぶ。 「美玲が出て来た瞬間に仕留めるから。出てこない訳じゃない」  聖神はフィルドと共にミノリスの背に乗っていて、フィルドを抱えながらそう言った。 ((親馬鹿…))  聖神と鬼神を見て、陵と美玲は思う。だがしかし、それはブーメランでもあった。  そんな風に呑気に歩いていると、突然前の馬車が止まり、馬車の周りに控えていた戦闘奴隷がいきなり後ろに向かって走り出した。 「何かあったのかな?」 「無かったら止まらないだろ?」 「それもそうだよね」  それから数分が経ち、奴隷の集団は完全に動きを止めてしまった。  先程の戦闘奴隷達は、その他の奴隷に止まるよう伝える為に走らされたようだ。  そして、陵や美玲達の所に、奴隷の集団の殿をしていたであろうレオンが姿を現した。 「どうしたんだ?」  陵は言葉を投げかけた。 「斥候が魔物の大軍を見つけたらしい。このままだと逃げる事は出来ねえ。だから…俺がまとめてぶっ飛ばす。…陵もやるか?」  当然、その斥候も奴隷だ。 「ぶっ飛ばすってどうやって?」  陵は容量を得ないレオンに聞き返す。 「陵が何処かのギルドマスターを吹き飛ばしたやつを二人でやるんだよ」 「ああ、なるほど。二人も必要なのか??」 「居た方が楽だな。俺が2回もやんのも面倒だ。それに…鬱憤溜まってんだろ?」 「…まあ良いか。鬼神」  陵は"狂気神刀"に鬼神を宿らせた。 「んじゃあ、ついて来な」  美玲達から離れ、彼はレオンについて行く事にしたようだ。  ☆☆ 「これくらい離れりゃ大丈夫だろ。じゃあ、合わせろよ?」  少し奴隷の集団から離れた所で、レオンはそう言い、そして神剣(グラン)を抜いた。 「…わかった」  陵は凄まじい莫大な狂気を、自らが持つ刀に注ぎ込む。  それを見たレオンもグランに指示を出して、陵の刀に並び立つ程の莫大なエネルギーを込める。 「あ、そう言えばさ。俺達が向かってる街ってこの先なんだろ? 巻き込んじゃわないか? 昨日もかなり近くまで来たなんて聞いたんだけど…」 「…やべえ、忘れてた。まあ、平気だろ。悪くて街門を削る程度だろうしな」  レオンと陵が立っている場所から、目的地までの距離はまだ20kmくらいもあるのだ。 「…俺は責任取らないからな」  陵はそう言い捨てて、自らが持つ刀に視線を戻した。  莫大な力が注ぎ込まれた邪悪な色を輝き放つ光柱が陵の手元から、神剣に相応しい色を輝き放つ光柱がレオンの手元からそびえ立つ。  これこそがアイと魔族の彼が見た2本の光の柱だった。 「行くぜ?」 「わかった」  その合図と共に、2本の柱が前に押し倒され、柱状に収束したエネルギーは撒き散らせながらクレーターを作り、これから進行する方向に一直線に突き進んで行った。  ☆☆☆☆ (あれは…レオンのグランだな。…もう片方は知らない)  超高出力なエネルギー体が自らが住まう街に突き進んでくるのを、最後の砦として待ち構えていたシンは見た。 (私が受け止める以外に方法は無いのだろうな)  砦の目前でも既にそれなりに破壊力を失っていたエネルギー体だったが、街壁が破壊するだけの力は残っていた。  シンは自らの内に仕舞っている、変幻自在の黒衣を装備、黒衣を燃え盛るように揺らめかせ、超高密度の結界を張った。  ぐしゃああああああああああああっ!!!!!!  シンの目前まで地面を抉り続けた高密度の暗色と明色のエネルギー体は、思わず耳を塞ぎたくなるような恐ろしくけたたましい音をたてて、結界と衝突、霧散した。 (レオン…後で説教確定だな)  魔物の集団の大半が、今の一撃で沈黙したが、それでも神話の巨悪な一撃を人の世に使うとはいったい何事なんだと、シンに叱らせる口実を作らせるには充分だった。
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