66 / 176

第四部‐環境の整えられた魔物討伐。

「父上…、いったい何処に??」  ティルはシンに腕を引かれ、強引に外へと連れ出された。  ティルを連れ出したのと同時に、周りに人が居ないのを確認してから召喚を行った。 「呼ばれて参上、リオンだよー」  シンはかつて幻影の英雄と呼ばれたリオンをこの場に呼んだ。テンションはローだ。声の抑揚が無さ過ぎる。 「今日はティルの教師だ。護衛は…居るから気にしなくて良い。ティルはリオンの言う事をしっかりと聞け、良いな?」 「…え?」  シンの言葉に思わず聞き直すようにティルは呟いた。 「うん? どうした?」 「魔物…いっぱい居るんですよね?」 「そうだ、その中で狩りをして貰う。好きな魔物を好きなだけ狩ってこい」  シンのその言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。 「ええっと、魔物っていっぱい居るんですよね?」 「()()()()だからな」 「俺…生き残れます?」 「さあ?」  シンは敢えて煮え切らない返事をした。 「…生き残れるように頑張ります」 「よく言った。これを付けたら戦場に行ってこい」  ティルの神妙な返事を聞いて、シンは満足そうに彼の為の装備を取り出した。  その装備は装飾は一切無く、ただただ銀色に輝いていた。 「…これは?」  ティルがシンから受け取ったのは、ガントレットに剣が一体化した腕鎧だった。  アームソードとでも言えそうな形をしていて、正拳突きをするとガントレットにくっ付いている刃が相手に突き刺さる仕組みになっている。 「それはお前の体術に合わせた物だ。それから、これも持っていけ」  その腕鎧に見とれている間に、シンは更にもう一本の恐ろしく重たい、細く反りのある、漆黒の剣を取り出した。 「…受け取ります…っ!?」  その見た目にそぐわない重さに、ティルは思わず取り落としそうになってしまった。 「ははっ、重いだろう?」 「これを振れと…?」 「そうだ。将来は片手で触れるようになれ。今は両手で振るのがやっとだろうがな」 「…理想が高いですね」 「焦らずともそのうち出来る様になる。今回の魔物討伐でそれなりに振れる様にもなるだろうからな」  今回でティルはレベルアップする筈だ。彼のレベルは現在5で、そこから大量にレベルアップするだろう事を見越して、シンはそう言っている。  レベルが10上がったくらいなら誤差の範囲内だが、30も上がれば、どんなに鈍感でも体の変化に気がつけるだろう。  パンパンパンっ!  そうやって話し続けているシンとティルを引き裂くように、リオンが手を叩いた。 「ティル、早く腕にそれを付けな。時間は無いからね」 「わ、わかりました」  リオンに急かされ、ティルは受け取った剣を地面に置き、自身の腕に腕鎧を装備した。 「リオンも色々と大変かもしれないが…まあ、気長に面倒を見てやってくれ」 「こっちはシンにそう言われた以上、言われた通りにするだけだよ。あたしは死にかけると思うけどねえ…」 「それも経験だ。彼に襲いかかる魔物の量は調節してやってくれ。あとは弱点がだいたい何処にあるか…とかな」  そんな事柄を話している間に、ティルは自身の腕に腕鎧を装備し終えた。 「父上、準備が出来ました」 「よし、転移する」  シンはティルとリオンと共に、魔物が迫っていると思われる正門から外に転移した。 「ティルとリオンは前に出て倒してくれ。私は護り以外をやる気は無いからな」 「…はあ、そう。ほらティル、行くよ」 「…わかりました」  正門で、まるで王将の如く突っ立っているだけのシンを置いて、リオンとティルは共に、未だ街には到達していない魔物の大軍団へと走り始めた。 ☆☆☆ 「手始めは前に居るゴブリンからだよ。ほら、やっちゃいな」  リオンはあともう少しで魔物達とぶつかるという所で、ティルに気軽にそう言った。 「やっちゃいなって、このまま突っ込むんですかっ!?」 「当たり前でしょ? 集団戦は足を止めたら死ぬよ」 「わっかりましたあっ!!」  やけくそ気味にティルはリオンに叫び、とうとう、魔物集団の1番前衛を務めていたゴブリンとティルがぶつかった。  衝突と同時に、ティルは恐ろしく重たい剣を剣の自重に任せて振るった。  ゴブリンはよくわからない装備を着ていたが、一瞬で真っ二つになり、その後ろに居たゴブリンをも斬り裂いた。  ティルが衝突したと同時に、幻影の英雄ことリオンは魔物の集団より後ろに、道を迷わす幻影を生み出した。  そして、更に土槍を地面から生み出し、ティルに魔物が行き過ぎない様に適度な数に減らした。 「リオンさんっ!?」  ティルは突然に周りの景色が変わった事に焦る。 「今は先生だよっ!! 後ろが見えないのはあたしが作った幻が邪魔してるからっ! ティルは好きな様に戦っててっ!!」  リオンの指示はめちゃくちゃだった。けれども、"前の魔物に集中しろ"と言われている事だけはティルにもわかった。 「はいっ!!」  ティルは取り敢えず聞こえるように大きく返事をし、斬り捨てたゴブリンから刃を抜いて、次の敵に目を向けた。  因みに、ティルがゴブリンを2体を殺している間に、リオンは土槍で千単位で魔物を葬り去っていたのだが、それは言わぬが花だろう。  そしてその光景は、当然ながらティルには見えていない。 (次っ!!)  ティルは一歩先に足を踏み込んだ。その先に居るのはオオトカゲだ。  オオトカゲは名前の通り、全長2m程の大きなトカゲだ。  本来この魔物は皮膚がそれなりに固く、斬り裂き辛いのだが、ティルが振り下ろした漆黒の剣はあっさりと叩き斬った。  叩き斬った一瞬の隙に、彼の元に、別個体のオオトカゲによって尻尾が叩き付けられる。  がんっ!  ティルは腕鎧でそれをガードした。日頃の筋トレの賜物なのか、成人男性でさえも腕が持っていかれる様な攻撃を、がっちりと受け止める事が出来た。  その尻尾が戻される前に、下から遠心力によって勢いが付いた剣が振るわれ、尻尾を斬り飛ばす事に成功した。 (まだ…倒せてないっ!!)  ティルは斬り飛ばされたことによって怯んだオオトカゲの背中に大ジャンプ、重たい剣をその重さのまま頭に突き刺した。 (よし、次…っ!?)  だがしかし、今度はティルが気を抜いてしまったのか、彼は別種に魔物に振るわれた何かに弾き飛ばされた。 (あっぶねえ…)  何とか腕鎧で受け止めたものの、突き刺した剣を離してしまい、更に言えば、その剣から距離が空けられてしまった。 (戻んねえとっ!!)  ティルは弾き飛ばされた方向とは真逆に、本気で走り始める。  そんなティルの前に全長3mくらいのオークが立ち塞がり、彼に棍棒を振り下ろそうとする。  彼は止まらなかった。止まらないまま、スライディングをして、オークを股抜き、そのまま無視をして剣の方向へと走り続ける。 (うっそおっ!? 股抜きしたあっ!?)  そんなティルがピンチになった時にすぐに手助けが出来るよう、リオンは彼を見ながら周りの魔物を殲滅していたのだが、今の行動には驚かざる得なかった。 (おっと、あぶねえっ!!)  次にはトカゲ人間に通せん坊をされ、槍を突き出されたが、ティルはそれを掴み、腰を落とす。 「ふっ!!」  腰を落とした勢いで、トカゲ人が握っていた槍がそれの手からすっぽ抜けた。  ティルはそのまま、槍の刺さらない部位でトカゲ人の顔面を強打、投げ捨て、怯んだ隙を見逃さずにジャンピングラリアットを決め、トカゲ人を後ろに倒しながら、地面に不時着する。  すると、彼の目の前に立ち塞がっていたトカゲ人は地面に転がった。ティルは瞬時に立ち上がり、倒し切れていないトカゲ人を置いて先を急ぐ。 (随分と荒いねえ…)  リオンはそんな彼を後ろから追いかけながらも、ティルをそう評する。 「取ったっ!!」  まるで猿のようにするりするりと、魔物の中をすり抜けたティルは、やっとの事で自らの剣を掴んだ。  そして、先程オオトカゲを殺した際に刺さりっぱなしになっている剣を引き抜き、引き抜いた勢いのまま、周りの薙ぎ払うように、全身を使って、振り回した。  ゴブリンに当たり-重さ故に勢いは止まらず-、別種のオオトカゲの顔面を叩き斬り、最後にオークに、振り回されていた剣の剣先は不時着した。  ゴブリンは死に、オオトカゲは怯み、オークは勢いの衰えた剣先をしっかりと受け止めていた。  ティルは受け止められた剣を離す、と同時にオークに急接近、鍛え上げた脊髄とレイの特訓の成果を思い出し、オークの顔面を滅多殴りにする。  いや、腕鎧には剣が生えているから、何方かと言えば、顔面滅多刺しの方が表現としては正しいのだろう。  オークは息絶えたのか絶えてないのか、ティルにはわからなかったが、オークが受け止めた彼の剣を取り落としたのを確認する。  すると、瞬時にオークを蹴り付けて距離を取ると同時に、油断無く剣をとる。  そして、オークから距離を取る際に付いた勢いのまま、着地点から後ろにいた魔物に剣を振り下ろした。  なんとそこに居たのはスケルトンだった。  アンデットは本来、核と呼ばれる心臓の様なものを破壊しなくては随時再生する。  …が、その剣は骨を重さにより叩き割り、核も叩き割った。 (うわあ…これ、いったい何をあたしは教えれば良いの??)  リオンが弱点を説明する前に終わってしまい、彼女の出番は引っ込んでしまった。 (ううっ…、ティルも中々にめちゃくちゃだよ…)  リオンは内心ブーたれながらも、ティルに見えない位置に居る魔物を、土槍で串刺しにし、更に幻を掛けて、出来るだけ魔物らをティル付近に停滞させていた。 (ま、幻を掛けて後ろに行かせないってのはあたしの本来の戦い方なんだけどさ)  そう思い、"つまんないなー"と思いながらも、リオンはティルの援護をし続けるのだった。 ☆☆ 「ふむ…、私が待ち構える理由があっただろうか?」  シンは魔物の大軍がリオン1人にやり込められているのを見て、思わず口から言葉が漏れた。  街にとっての最後の砦として、街外に待機しているシンだったが、ものの見事に魔物がやって来る気配が無かった。 (リオンは思ったより戦闘能力があるのかもしれないな。流石…幻影の英雄と呼ばれていただけはあるか…) (集団の方が相手取るのが上手いのかもしれない。個人では…置いておこうか)  シンは暇だった。街壁の上に居る門番も、シンがずっと、街の外で何もせずにブラブラしているので、"何をしているのだろうか?"と首を傾げていた。 (…視線が痛い)  そんなお粗末な視線に気が付かないシンではなく、少しだけ肩身が狭い思いをするのだった。 ☆☆ 「ミリ様っ!! 魔物の集団の進行が止まりましたっ!!!」  街門から近況を伝える為に、屋敷まで兵士が走ってきて、食堂に飛び込み次第にそう叫んだ。 「ふうん? シンは??」 「…シン様は街門の前で暇そうにしております」  少しだけ言い辛そうに兵士がそう言うと、それに対し、ミリは満足そうに微笑んだ。 「報告御苦労様。アリス、彼に飲み物を」 「わかりました。ミリ母様」  走って来た兵士に飲み物を出すようにアリスに指示を出し、そして、同じテーブルに座っている騎士団長に目を向けた。 「…言った通りでしょう? 心配は要らないって」  そして要艶な笑みを浮かべながら、騎士団長に言う。 「…そのようですな。いったい何をしたのやら…」  騎士団長の声音は少し怯えに近いものを含んでいた。 「ふふっ、怯えなくても大丈夫よ。私達はあまりこの世界に興味も無いもの」 「…そう言われても、説得力が全くないと思うのは私だけか?」  口調が思わず目上の者とのそれに成ってしまいそうになるのを無理矢理本来のそれに戻しながら、騎士団長はミリに問い掛ける。 「相当な理不尽でも無い限りは…ね?」
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!