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第四部‐初めての出会い②

「父上っ!!お助けくださいっ!!!!」  ティルがそう叫んで書斎部屋の中へと駆け込んで来た。 「…その女の子か?」  ソファーに座って、少しぐったりとしているシンはティルに問い訊ねた。 「まさか…父上、体調が…?」  ティルはそんな姿のシンを見て、心底焦った。  だって、彼にとってシンは最後の希望であるし、そして何より、最後の希望だからと言って無茶なお願いは出来ない。  今まで顔色1つ変えずにティルの願いを聞いてくれていたシンだからこそ、彼は頼みに来たのであって、シンの体調が悪くなるのであれば、当然ながら頼む事は出来ない。 「お前は気にするな。その子の病気は…ふむ、私は治せないな」 「そっ!? そんな…」  しかし、その返事は最後の希望を打ち砕く物だった。 「…焦るな、治す方法はこの星の中にある。それから…延命も出来る」  告げた本人に焦らせるつもりはない。 「・・・」  延命は出来るが、彼女が患っているのはこの星限定の病であり、この星にはそれに対する特効薬もある。この星ならではの力を持っていないシンに完治させる事が出来ないのだ。  逆に言えば、特効薬を取ってくればそれで終わりなのだ。 「今はフィリカが居ない。…よって、私が作った薬を与える」  シンはそう言ってティルに1本の瓶を投げた。 「こ、これは…?」 「体の損傷を治す物だ。…さっさと飲ませないと死ぬぞ」  急かされたティルは取り敢えず女の子を寝かせ、そしてその薬を飲ませた。  女の子の体が光りだし、やがて呼吸も安定していき、やがて、その光も収まった。細かく言えば、飲ませた薬が病が破壊した内臓器官を直したのだ。 「…これは?」 「この世界の物では無いが…エリクサーだ」 「っつ!?」  ティルの顔には驚きと焦燥が浮かび上がっていた。何故なら"エリクサー"とは、この世界では万物を治す事の出来る秘薬と呼ばれていて、お目にかかる事すら出来ないと言われる存在だからだ。 「…そんな物を…、…でも完治はしないんですね?」 「ああ、そのエリクサーは身体を最高の状態に治す為だけの物で、病気の原因を破壊する事にはならない」 「そう…ですか。わかりました、ありがとうございます。…体調が悪い中、態々ありがとうございました」  ティルは女の子を抱え、片膝を付いてシンにお礼を言う。 「はは…気するな。…臣下の礼などして欲しく無い…」 「わかっています。それでも父上にお礼を告げるにはこれしかない。今までの恩も含めて、いつか必ず…では、失礼します」  ティルは彼が弱った姿を見せているという事を、相当深刻に捉えていた。  だから、受け取る物だけを受け取ってすぐに外へと出たのだった。 ☆☆ (…父上、大丈夫なのか??)  ティルにとって、それは深刻な悩みになり得た。  それは、彼が居なくなった時、自身の妹‐アリス‐の面倒を見てくれる者が消えるからだ。 「…あの…、その…ありがとう…」  深刻な顔をしているティルにおずおずと、抱えられている女の子が言った。 「ん? ああ、いや、完治してねえから…」 「でも…生きられるようになったよ?」 「そうだな。取り敢えずは生きられる様になったんだもんな」 「ん、…ありがとう」  ティルはそれに対して次は何も言わなかった。それは自分の力で助けた訳では無いからだ、それを理解しているからだ。 「…悪いんだけどよ。暫くの間は俺の部屋で寝ててくれねえか? お前の部屋が用意出来るまで…だけどな」  ティルは年端もいかないとは言え、自身の部屋に寝かせる事に強い抵抗を覚えていた。それでも、女の子を常に抱えたままという訳にもいかないのだ。  コクコクコクコク  女の子は縦に首を振った。 「良かった。じゃあ、後でまた戻ってくるから大人しく待っててくれ」 「うん」  ティルは女の子に軽く微笑みながら、自身の部屋に連れて行き、そしてベッドに女の子を寝かせ、布団を彼女の上に被せた。  そして、女の子を1人残して、その場を後にした。 ☆☆☆  一方その頃、ティルが出て行った書斎部屋では…。 「シン、貴方、相当ヤバくなってない??」  ティルが気を使って、問答をあまりしない様に心掛けながら退出したのだ。  そんな一部始終を見ていたミリは、自らが全幅の信頼を置いているシンなのにも関わらず、流石に疑問を投げ掛けざる得なかった。 「…そうだな、かなり思考が鈍っている。だがそれでも、今は此処に居なくてはならない」  屋敷の最強戦力であるレイが居ない今、シンがこの屋敷を守らなくてはならないからだ。 「レイが戻ってきたのなら…私はまた眠らせてもらう」 「まあ、貴方が何をしてるかは聞かないけれども…いきなり蒸発はやめてくれるわね?」 「…大丈夫だ、死にはしないさ」  薄ら笑いの様な物を、心配するミリに、返すのだった。 ☆☆☆ 「これはまた…立派な屋敷だな」  一方、長い孤児達の列を引き連れながらも屋敷までやって来たレイ達。そんな中で、クリスタルが屋敷の大きさを見て呟いた。 「私の主の趣味ではありません。偶々、前代表をぶち殺したら手に入ったのです」  レイはそんなクリスタルに弁明とも言えない言葉を告げた。 「なるほど、それは何とも言えないな」  クリスタルはこの屋敷にコメントをするのを止めた。妙な所ですれ違いになっても困る。 「ホリン、後ろの子供たちはついて来ていますね?」 「あ、はい。問題ありません」  レイは孤児達を纏めているホリンに確認を取った。 「では、身を洗わせてください。この屋敷にある銭湯の使い方はわかりますね??」 「わかりました。あ…えっと、男女は…」  ティルに使い方を聞いていた彼は当然知っているが、彼は男の子だ。女の子にまで銭湯の使い方を教える事は出来ない。 「分けます、当たり前でしょう。それから…少し待っていてくださいね」  レイは次の瞬間、転移した。 「…なっ!?」  クリスタルはとても驚いた。転移などお釈迦話の中にしか無いからだ。 ☆ 「お待たせしました。こちらが私達の()のアリスとソフィアになります。彼女達が貴女達に道具の使い方を教えてくれます、従ってくださいね?」  女の子を2人連れてきたレイは意図的に聞き取られる様に言う。孤児の女の子達は、凛としたよく透き通ったレイの声を聞いて、勢い良く頭を縦に振った。 「では、アリス、ソフィア、それからホリン、彼らのお世話をお願いしますね」 「「わかりました」」  アリスとホリンは口に出して了承したが、ソフィアは頷くだけだった。まだ、敬語がスラスラと話せる程では無いのだ。  そして、彼らが屋敷の中に入って行くのをクリスタルとレイは見守り、全員が室内に入ったのを確認してからレイはクリスタルを屋敷の中へと招いた。 「ようこそ、我が屋敷へ。私がメイド長のレイです」  そして、メイドらしくクリスタルにそう名乗り直した。 「レイ殿はメイド長だったのか。…道理で入れられた紅茶が美味しいと思った…」  全くメイドらしくない服装なので、クリスタルは驚いたが、それと同時に納得もした。 「食堂に案内しますね。子供達が洗い終えたらそちらに来るでしょうから」 「わかった」  レイにそう言われ、特に断る必要性も感じないクリスタルはそう返事をした。だが、全く油断はしていない様だ。 「ティル、貴方も来なさい」  道すがらでティルを見つけたレイは、ティルにもお供をする様に言った。 「はい、わかりました」  ティルはそう言い、こちらに早足で近付いてきた。 「それから…色々とありがとうございました」  それからクリスタルに頭を下げる。彼女が孤児達の面倒を見ていた事は理解していたからだ。 「あ、いやいや…その、代表の息子なのだろう? そんなに簡単に頭を下げては…」 「そういう訳にはいきません。あの女の子が生き長らえたのも貴女のお陰です」  ティルはそういう所はしっかりとしたい質だ。 (クリスタルさん。…貴女も騎士団長の娘さんでしょうに…)  そんなやり取りを見て、レイは密かにそう思った。軽々と自身に頭を下げた事を思い出しながら…。 「はあ…お二人共。その辺にして頂けますか?」 「あっはいっ!?」「申し訳ない…」  そうやって焦れったいやり取りをしている彼らを一刀両断する様にレイは言い、ティルは驚き、クリスタルは謝る。 「では…案内致します。それと、私は紅茶を出し次第、少しの間だけ席を開けます。ですから、おもてなしはティルがしなさい」 「わかりました」 「クリスタルさんも良いですね?」 「お気遣い感謝する」  そうして話が纏まり、レイは彼らを食堂まで連れて行くのだった。 ☆☆ 「では、クリスタルさん。ごゆっくりどうぞ」  それから少しして、クリスタルとティルを食堂に置き、レイはその場を後にした。 「・・・」 「・・・」  ティルとクリスタルの間には沈黙が広がる。彼らの間にテーブルを挟み、対峙していた。 「すみません。話題が無いものでして…その、聞きたいことなどがあれば出来る限り答えますが??」  ティルがその沈黙を破る様にそう言った。 「出来る限り…か。敬語は崩してもらっても構わないが??」  対するクリスタルはティルに口調の改善を求める。同じ様な年代に、国も違う間柄に、その様な口調で話されるのが辛いのだ。  因みに、レイはデフォルトなのでクリスタルは何も言わなかった。逆に、目の前の存在が敬語に慣れていないこと位は理解出来たのだ。 「あーいや、すみません。慣れてないのは重々承知してます。ですが、その…レイ様に怒られてしまうので…」  それがバレているとわかって尚、ティルはそれを拒否した。  実際、そんな些細な事でレイは怒らないが、それでも目の前の存在がどのような人物であるかを知らなかった為、出来るだけ丁寧に対応したかった。 「いや、それなら仕方が無い。ならば質問をしても??」 「はい。先程そう言いましたから」  クリスタルはもう1度確認を取った。 「なら、その…街中の壊された教会等の話を聞きたいのだが…」  クリスタルは町中で見かけた、敢えて直さずに放置されている教会の残骸に問い訊ねる。 「ああ、あれは"人族至上主義を許さない"という象徴です。あそこまで清々しく敵対をしているのはこの街くらいではないでしょうか?」 「…やはりあれは、意図的に残していたのか…」  クリスタルは一切手を付けられていない残骸が、自身の予想通りの意味合いで残されている事に少し驚く。 「…ここの代表は危険性を理解しておられないのか??」  そして再度そう訊ねる。腐った宗教とは言え、その宗教国は国力だけは侮れないのだ。 「軍が向かって来ても"あっそ"くらいの感覚しか、私の父上にはありませんよ」 「…勝算があるのだな?」  クリスタルは食いつく様に更に聞いた。 「勝算というよりも…いえ、何でもありません。では、次の質問をお願いします」  ティルは言葉が過ぎると思い、次の質問へと移ろうとする。 「…わかった。次だが…「はい、そこまでよ。初めまして、可愛い騎士さん?」」  クリスタルが更に彼に質問をしようとするが、それはこの街の代表であるミリによって遮られる。 「むっ…貴女…は…」  クリスタルは食堂の正面扉から入ってきたばかりのミリを見て、言葉を失くした。  しかし、すぐに再起動するとミリに対して片膝を付いて跪いた。 「あらあらあら? 私は貴女に頭を下げられる言われなんて無いのだけれど?」  ミリには心当たりが無い。首を傾げているだけだ。 「…貴女様は真祖の吸血鬼では?」  クリスタルが頭を下げたままで訊ねる。 「…どうしてそれを?」 「知り合いに吸血鬼が居る」  クリスタルは真祖の吸血鬼が、自身の父親と仲が良いことを知っている。そこで仲の良い彼から、"絶対に敵対はしない様に"と言われている。 「ふうん? ま、良いわ。別に固くならなくて良いわよ。…それと、私は真祖じゃなくて神祖よ」  ミリは気になったが、その彼の追求をする気はなかった。興味はあっても放置するつもりの様だ。 「…神祖?」 「その知り合いに聞いてみると良いわ。…良い目をしてるわねえ…」  ミリは自身が1発で吸血鬼だと見抜かれた事に驚いていた。 「目がなくては生き残れないので」 「それはそうね。じゃあ、そろそろ椅子に座り直して貰っても良いかしら?」 「え? あ、はい」  ミリにそう言われ、クリスタルは椅子に座り直した。 「少しお話に来ただけよ? だからゆったりしてなさい」  ミリはそう言うが、クリスタルは未だに緊張した様子だった。 ☆☆☆  一方、その頃…。 「主、大丈夫ですか?」  いつもとは違うレイの声が部屋に響き渡る。 「…ああ、やっと帰って来てくれたのか…」  そんなレイに、若干の虚ろな目を向けてシンは言った。 「今日はおやすみに?」 「ああ、…流石に何も出来ないだろう」  シンは体調の悪さから、今日はもう何もしないつもりだった。 「では…お供させて頂きます」 「…ありがとう」  シンはレイの手を引いて唇を合わせる。深い物では無く、本当にありがとう…との意味を込めて。 「ええ、わかってる」 「ああ、ですから。…出来るだけ早い復帰をお願いしますね?」  そして彼らは、彼ら自身の寝室へと戻って行った。
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