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第四部‐使者がやって来た。

「ミリ代表っ!! グランディス帝国の使者を名乗る者が現れましたっ!!」  突然に、そして唐突に街の門番を務めていた兵士が書斎部屋へと駆け込んで来た。 「…ふうん? 案外遅かったわね」  ここで元々代表をしていた男は、親グランディス帝国の人族で人族至上主義の存在だった。  だからこそ、その代表が変わったとなればすぐ様に使者が来ると思っていた。それなのに、代表がミリに変わってから、今や100日以上も経っているのだ。  因みに、シンはあくまで代表補佐であり、街の民衆に対して表立って顔を見せる事は無い。街のあらゆる事柄に関しては、基本的にミリ主導である。 「シン、護衛は任せるわね」 「ああ、わかっている」  ミリの護衛を兼任するのもシンだ。流石に信用のならない者を代表の護衛にする訳にもいかないだろうし、シンはレイに次いで最強戦力であるので、基本的に何が起こったとしても対処が出来る。  そもそもの話、ミリ自身が神祖の吸血鬼であるので、一般的に考えるのならば渦状戦力である事に変わりは無い。  ミリ自身も上級神に近い身体のスペックを持っているので、通常の人族が彼女に傷を付けることは不可能だろう。  それでもシンが同行するのは、シンが過保護である事もあるが、それ以上に見た目重視な意味合いが多い。  代表が護衛も無しに…というのは、グランディス帝国に親愛の証を示している形になってしまうだろう。  "警戒しない"というのは、"貴方を信用しています"となってしまうのだから。 「行きましょう。案内は任せるわね」 「はいっ!!」  駆け込んで来た兵士に言い、ミリとシンはグランディス帝国の使者の元へと向かうのだった。 ☆☆☆☆  兵士は帝国の使者が乗っていると思われる馬車と取り巻きの場所へと、彼らを案内した。 「どうも初めまして、この街の代表を務めているミリです。よろしくお願いするわ」  そしてミリは、その馬車に対して深々とお辞儀をした。 「…態々ありがとうございます。(わたくし)、ミラージュ教の枢機卿をしているゲレンデと申します」  何と、そこで初めに挨拶を返したのがミラージュ教の枢機卿だったのだ。  ミラージュ教はミラージュ聖国を中心に活動している宗教であり、例の人族至上主義を信仰する宗教である。  当然、これにはミリも驚いた。 「ふうん? よろしくね。で…使者は何処に居るのかしら?」  そして問い掛けをし、威圧を掛けて、空気を一気に張り詰めさせた。  枢機卿も突然の事で、少し顔色を悪くしていた。 「グランディス帝国で第二皇子をしている、ゲーラ・グランディスだ。今回は私がこの地に使者として出向く事になった」  突然、何処かふてぶてしい空気を出した、まるでこちらに何一つとして敬意を払っていない男が言った。  しかも馬車から、上から目線でそう言ったのだ。 「そう。立ち話もあれでしょうし、ゆっくり出来るお店に案内するわ。付いてらっしゃい」  ミリは、最初は丁寧に彼らを案内するつもりだったのだが、第二皇子とやらの態度を見て杜撰に扱う事を決めてしまったようだ。  彼らに、態々敬意を払って接してやる必要性を感じないという事だろう。  加えて、第二皇子はミリの威圧に気が付けていない様だ。いや、気が付けていないからこそ、そんな態度を取れたと言えようか。 (あんなのに時間を取られると思うと…萎えるわね)  あまりに使者のレベルが低いのだ。あれが第二皇子だと言われても、笑いすらも出て来ない。  ミリは完全に引いてしまっていた。  そして、ミリが彼らを案内したのは、()()()()()()が良く見える料理店だった。  これはミラージュ教への宣戦布告である。 「ではこちらへどうぞ。大丈夫よ? 取って食べたりはしないわ」  枢機卿は意味を理解して物凄く緊張していたが、それを嘲笑う様にミリが告げた。  そして、使者一行と彼女は円テーブルを取り囲む様に席につく。シンは座らずに、ミリの後ろで待機しており、常に強烈な威圧を溢れ出させていた。  因みに使者一行は合計10人で、中には異世界からやって来た勇者が存在していたのだが、ミリは全く相手にしていなかった。  それは取るに足らない、明らかに名前負けしている事が簡単に理解出来てしまったからだった。  そして彼女は、運ばれて来た料理を使者達に食べさせて、少し間をおく。 「…貴方達がここに来た目的を教えてくれないかしら?」  ミリは貴族の言葉遊びなど興味が無いと存外に言いながら、彼らに問い訊ねた。 「それは些か、急ぎ過ぎでは?」  枢機卿がそんな彼女にそう言った。きっと彼は、少しでもミリ達の情報を集めたいのだろう。 「あら? 世界を混沌に陥れている宗教が何を言ってるのかしら? 貴方達が教会なんてもの置いたせいで孤児が増えていたのよ?」  そんな彼に要艶な笑みで返したミリ。ここでミリの言っている事は間違っていない。  教会が人族以外の混ざり者を異教徒と任命する事で、混ざり者達が、揃いも揃ってスラムに落ちなくてはならないからだ。 「いや、そんなことは無い筈です。人族は教会のおかげでしっかりと教育を受けられています」 「今、貴方の主張なんて聞いてないわ」  彼らは人族至上主義である。だから、価値観についてを論じ合う気はミリには全く無い。  絶対に価値観が合う事が無いのは、言うまでもない絶対的な事実だからだ。"そんなのは間違っている"と教えてやるつもりも無いし、その様な事で言い合いになる気も無い。  彼女は正義のヒーローではない。 「で、早く要件を言ってくれないかしら? こっちも暇じゃないの」  ミリは枢機卿に対し、イラつきを見せながら再度問う。 「ならば言わせてもらおう。我々に属せ」  第二皇子はミリが強気に出ているとでも思ったのか、まるで火に油を注ぐようにそう言った。 「却下よ。それだけかしら?」 「なっ!?」  第二皇子からすぐ様に視線を外し、ミリは枢機卿に目を向けた。  第二皇子は相手にならないであろう事を理解しているからだ。  彼からは愚者の香りがするのだ。そんな存在とは出来るだけ言葉を交わさないに限る。まあ…つまり、言葉が通じないと言う事だ。 「教会の修繕を求めます。いえ、我々を認めなければ、我々が敵になると思いなさい」  枢機卿は向けられた目に合わせて、そう言った。恐らくこれは、ミラージュ教の総意にかなり近いのだろう。 「あら? 貴方まさか…敵陣に入り込んできている自覚も無いのかしら?」  しかし、枢機卿に返された言葉は明らかな挑発だった。 「今ここで、暗い牢屋の中に貴方をぶち込んでも、私としては全然問題無いのよ?」 「貴様っ! 第二皇子である我に何たる不敬かっ!!」  やはり、と言っても言えてしまうようなタイミングで、第二皇子は激昴して立ち上がった。 「うっさいわね。ここは貴方の国じゃないのよ? 皇子様ごっこがしたいのならさっさと国に帰りなさい」 「ぬうっ!? もう良いっ! この場ですげ替えてくれるわっ!!」  使者の護衛が一気に剣を抜いた。…が、一気に地面に叩き伏せられた。  シンが空気を恐ろしく圧縮させて、護衛達に叩き付けただけである。 「この街の法に乗っ取って豚箱に詰め込んであげるわ。衛兵、今すぐに倒れ伏せている豚達を捕縛しなさい」 「はっ! 今すぐにっ!!」 「枢機卿は帰っても良いわよ? いえ、帰るなら今のうちかしらね」 「くっ…」 「って事で衛兵、この人を街の外へと案内して差し上げなさい」  そうして、ミリは第二皇子とその御一行‐枢機卿以外‐を牢屋に詰め込む事に成功したのだった。 ☆☆☆☆ 「まさか…地下牢に幽閉する事になるとは…」  シンは書斎部屋に置いてあるソファーに深く座った。 「ま、当然の結果よね。異国だからといって特別扱いは出来ないわよ」  ミリはそれに対峙する様に、反対側に座った。 「そうだな。実質は喧嘩を売った形になった訳だが…」 「帝国が動くまで時間は掛かると思ってるわ。だって、あの枢機卿は帰るのは恐らくミラージュ聖国よ? そこからまた帝国に伝わるまで…ねえ?」 「…なるほど、そこまで考えて枢機卿を逃がしたのか」  シンは思考をミリに丸投げしているので、素直に感心する。 「ま、もし仮に早かったのなら…それはそれなりの強固な繋がりが聖国と帝国にあると理解出来るわ」  枢機卿を逃がしたのは、あくまでも帝国と聖国の仲の良さを図るためだ。 「確かに。…表立って仲が良いという話は聞かないからな」  聖国と帝国は繋がりがある事は知られているが、内政干渉をお互いにする程だとは、シンもミリも思っていない。  聖国が受け取った情報を、何の利益もなく帝国に流したとしたら、それは強固"過ぎる"繋がりが二国に有る事になる。 「…帝国が憶測で攻め込んでくる場合は考えてるのか?」  シンがミリに問い訊ねた。 「それこそ、完全に実力行使しかないわよ」  そうなってしまったら、もうお手上げのようだ。 「その時は私が相手をするから特には問題ない…か」 「ええ、武力は十二分に揃ってるわ」  当然、ミリは自身の夫も計算に入れて考えている。 「あら、そうそう。オルクェイド王国からお偉いさんが来てるって話があったわよね。利用させてもらおうかしら?」  妙案得たり、とでも言うように彼女は言った。 「…噂でも流すのか?」 「ええ、直接干渉する訳にはいかないもの」  こちらから干渉するという事は、常にあちら側が聞き届ける側に回ってしまい、こちらがあちらに干渉させてもらっている形になるので、不利になってしまう。 「まあ、好きにすれば良いさ」 「ええ、言われなくてもそうさせてもらうわよ」 ☆☆ 「ぐうっ!?」  ティルの身体は中に浮き、勢い良く地面に不時着した。 「まだまだ…」 「来なさい」  ティルの相手をしているのはレイだ。  ティルは起き上がり、地面に足を着ける。一気に地面を蹴り込んで、レイに突っ込んだ。  それは物凄い低姿勢で、レイの腰より30cm以上も頭の位置が低かった。 「!」  レイは急な、キレの良い動きに驚く。  がっ!  ティルはそのまま、腰を回転させた勢いある右拳をレイに打ち込んだ。  レイは何のこと無くそれを受け止める、驚いただけである。そして、驚かされた程度で崩されるほどヤワではない。  ひゅっ!どっ!?  ティルは腰の回転を乗せたまま、中に体を浮かせ、左踵落としをレイの首に当てに行く。  がしっ…  レイはそれをも微動だにせず、片手で受け止めた。  どしゃっ!?  ティルは自身を支える足が無くなったため、転倒した。そんなティルに手加減をしてやる程、彼女は甘くない。  脚を持ち、片手でハンマーを投げる様にして、ティルを投げつけた。  それはかなりの勢いで、体が地面に着いた途端に、ティルは何回も回転してしまう。  がしゃーんっ!!  そのまま地面では止まれずに壁まで叩き付けられた。 「兄貴っ!?」  それを見ていた少年は叫んだ。そしてティルの元へと向かおうとする。 「まだ終わってませんよ。…引っ込んでいなさい」  その少年はレイの剣幕に押され、黙り込んでしまった。  最後の攻撃は、レイが褒めても良いと思う程に相手の虚を付いた攻撃だった。だが、残心がなっていない。  その事実はレイに不快感を齎す。戦いは生き残ってこそ勝ちだ、どんな技であっても、結局は殺されてしまうようなスキを晒しては何の意味も持たない。 「…終わってねえよ。…お前は引っ込んでろ…」  そして、そんな彼女の不快感に抗う様にティルは立ち上がった。 「よろしい。…掛かって来なさい」 「はは…、…遠慮無く…行きますっ!!」  ティルは、ボロボロになった体を強引に走らせ、本日最後になるであろう攻撃をレイへとぶちかました。
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