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第三部‐裏組織と奴隷と…。

 ドンドン、ドンドン  レオンとフィリカが眠る部屋の扉が突然叩かれた。 (なんだあ…??)  寝ぼけ目を擦りながらも立ち上がり、そして扉に向かう。 「レオンさんっ!!外に強面の人達が…その…貴方に用があると」  扉を開けると、宿主の女性にそう言われて寝ぼけ目もぱっちりと冴え渡った。 「んー、ちっと、待ってろ。すぐに行く」  扉を閉めて、騎士服に着替えてから開け直した。 「うし、行ってくるわ。お前さんは危ないから出て来んなよ?」 「あ、はい」  そんなレオンに呆気に取られた彼女は、彼をそのまま見送るだけしか出来なかった。 ☆ 「朝早くから御大層な挨拶じゃねえか。嫌いじゃねえけどなあ?」  宿の外に出て、レオンは開口一番に挑発を叩き付けた。宿の周りで武装している集団に対して…。 「話し合いに応じる気はあるかね?」  その中で、いかにもインテリヤクザとでも言えそうな男が問う。 「あ? 応じてくださいだろ? …調子乗ってんじゃねえぞ」  そんな男に強烈な睨みを返して、そう告げた。 「昨日、勝手にウチの身内に手を出したのは君の方じゃないか。何故そんなに偉そうなんだね?」 「襲い掛かられたんだけどなあ? 手前らの拳が届かなかっただけだろ?? 実力がねえ事を言い訳にしてんなよ」  確かに昨日、路地裏で襲われたのはレオンの方だ。だがしかし、襲われる為に、態々治安の悪い場所へと入って行った彼が言う言葉では無いだろう。 「まあ…良い暇潰しだったぜ?」  そして、最後にはやはり挑発を忘れない。 「貴様っ!!」 「おいっ!? 待てっ!!」  1人が槍を持って突進してくる。…が、レオンはそれを正面から受け止めて、テコが無いシーソーの様に、周りの武装集団に投げ返した。 「ほらな? くあああ…、たく、お前らつまんねえよ。朝早くに呼び出されてみれば、この程度の兵しか集めてねえし」  武装集団を見回しながら、眠そうにレオンは欠伸をした。 「じゃあな。見込み違いだったわ」  てっきり、あれだけ白昼堂々と名乗れる裏組織なのだからと期待してみたが、レオンからすれば拍子抜けにも程がある。 「待てっ! うちのボスがお呼びだ」 「あ? うっせえよ。そのボスに伝えな、手前が出向いて来いってな。…それとも、昨日の女が逃げられたから逃げたなんて思ってねえよなあ?ってな」  昨日の暗殺者の様な女性は、確かに素早かったが捕まえられない程ではない。  ただ単に"まあ良いか"と、追い掛けなかっただけだ。それ以上でも以下でもない。 「あー…面倒くせえ。寝直すしかねえよなあ」  レオンはそうボヤきながらも、宿の中へと入って行った。  武装集団はそんなレオンをポカンと眺めている事しか出来ず、その集団のリーダー格である男もそれは同じだった。 ☆ 「おかえりなさい。レオン」 「くあああ…無駄な時間使ったぜ」  自身の部屋へと戻ると、フィリカが労い(?)の言葉を掛けて、レオンが眠たそうにそう返した。 「火種を作ったのはレオンなのですよ?」 「んなもん解ってるさ。ただまあ…なんつーか、期待外れだったわ」 「あらあら、昨日の男の言いようでは大きな組織の様に思いましたが…」 「そう思ったぜ? 俺もな。っで、期待して外に出てみりゃあ雑魚ばっか、昨日の男の方がよっぽど良い動きをするだろうさ」  それは昨日、暗殺者の女と同時にレオンに挑んできた者の事だ。…一撃で倒れ伏してしまったのだが。 「ティルの剣を教えてる方がよっぽど楽しい…」  レオンは宿屋のベッドに体を放り出し、天井を見ながらそう呟いた。 「…そんなに暇なのであれば、昨日頂いた奴隷に技を仕込むのはどうでしょうか?」  そんな暇を持て余した子供の様な彼に、フィリカは1つ提案をする。 「んあ?」 「私達の所有物ですし、流石に痛め付けることは止めさせてもらいますが…」  奴隷は受け取った者がその所有者になるのだから、如何様に扱おうが文句は言われない。  それが例え、生贄の様な物だとしても…。 「お? 良いなそれ。決まりだな、宿主に庭を借りれるか聞いてくるぜ」  寝っ転がった体を再度勢い良く起き上がらせて、レオンはその扉から勢い良く出て行った。 「はあ…全く、落ち着きがありませんね」  そんな彼に"子供かっ!?"と言いたくなるフィリカだったが、時間を持て余している事に変わりはない。  例の奴隷商人が人を集めるまでの間、常に暇であり続けるのだから。 「暇なのも事実ですからね…」  彼女1人に戻ってしまった部屋の中で大きな欠伸をして、もう1度眠りにつくのだった。 ☆☆☆ 「おい、この中で武器を握った事のある奴は居るか?」  そして場面は一転、レオンは馬車の荷台に住んでいる奴隷にそう声を掛けた。 「じゃあ、お前らは外に出て良いぞ」  中で手を上げた3人の奴隷に、レオンはそう告げて荷台の中の鉄籠を開けた。 「それから…、剣を習いてえ奴は居るか?」  すると、中で1人の女性が手を上げた。それなりの綺麗所であり、かつての奴隷商人に高級奴隷だと言われた女だった。  まあ、詰まるところ、そういう需要の為の奴隷である。 「良いぜ。じゃあ、こっちに来な」  その女をも荷台から下ろし、計4人を連れて、宿主に許可を貰った庭へと移動した。  がしゃんっ!? 「ほれ、こいつらの中から好きなのを選んで掛かってこい」  レオンはそんな彼らの前に、自身が殴り付けても壊れない程の剣や槍を地面に放った。 「「「「へ?」」」」 「あん? 主の運動に付き合うのも奴隷の役目だろ?」  主の遊びに付き合わせようと言うだけの話である。折角手に入れた奴隷だからと遊ぶつもりらしい。 「わ、わかりました」  1人の男がその中に手を伸ばして、1本の直剣を手に取った。 「あー…その首輪は邪魔にならねえのか?」  レオンは男の首に付いている、奴隷を主が縛る為の首輪を示して問い訊ねる。 「はい?」  男は首を傾げた、奴隷なのだから首輪が付いてるのは当然だろうと。 「いんや、まあ良いわ」  打ち所が悪いと首を痛めそうだ、そう思ったレオンだったが、"自身の技量で何とかすれば良い"という結論に至った。 「んじゃあ、掛かって来な」 「あ、あの…主の武器は…」 「あん? 気にすんな。死んだら晴れて解放されるぜ?」  レオンは当然、こんな技量もあまり無さそうな奴隷に武器を抜く気は無い。 「・・・」  そう言われた男の方は、彼が何を狙っているのかを考えた。奴隷に、自身に剣を向けさせる彼は何を考えているのだろうか?  "取り敢えず様子を見よう"、そう考えて彼はレオンに剣を振るった。だが、その剣を躱すことなく、正面からレオンは受け止めた。 「!?」 「周りも良く見とけ、お前らと俺じゃあ実力が違い過ぎる。お前らは俺に剣を当てれば勝ち、俺は…まあ、キリが良い所まで逃げ切ったら勝ちってとこだ」  レオンはつまんだ剣を、弾く様に上へと跳ね上げて、後々に痛みが響かないように蹴り付けた。  どしゃっ!  それでも、そうレオンが意識していたのにも関わらず、彼は地面にゴロゴロと転がってしまった。 「あ…、おい。生きてるか?」  レオンは通常の人族と比べて、恐ろしいほどにスペックが違い過ぎる。だからだろう、ここまで男が吹っ飛んでしまったのは。 「…問題ありません」 「次からは、もうちっと加減するわ」  男はすぐに立ち上がり、剣を構え直した。 「俺を楽しませな。俺は死ぬ様な攻撃はしねえから…まあ、的当てゲームみたいなもんだわな」  レオンはそんな彼にそう告げて、また、彼は何度も何度もレオンに斬りかかった。  レオンはそんな男の剣を、剣の腹に手刀を当てる事で軌道を反らしていく。 「ほらよ、近付き過ぎだ」  レオンは自身に近寄り過ぎた男を、距離を取る為に蹴り飛ばした。  ごろごろごろごろ  その男は耐える事の欠片すらも出来ずにまたもや地面に転がされた。 「お前さんは休んで良い。次、そこのお前が剣なり槍なり持って掛かってきな」 「はっ、はいっ!」  突然、レオンに指名された別の男は、慌てながらも急いで槍を取った。一方、蹴り飛ばされた男は、レオンが自身から視線を外したのを確認すると、レオンの視界の邪魔にならない様に端の隅に移動するのだった。 ☆☆☆ 「んう…。…なんか、外が騒がしいんだけど…」  窓の外から何度も何度も聞こえてくる衝突音のせいで美玲は目を覚ました。とは言え、もう既に昼近い時間である。 「フィルド~、起きてる? …起きてないね」  彼女は自身が抱き抱えたまま眠っている幼児に声を掛けるが、返答は無かった。  まだフィルドは2歳児であり、この時間までぐっすり眠っていても何ら可笑しくは無い。というより、基本的にフィルドは聖神や美玲、それから陵や鬼神と遊んでいる時や、食事やトイレをする時以外眠っている。  成長期の、まさしく"寝て食べて遊んで"の王道を突き進んでいた。 「陵~…? むう…、陵も起きてない」  自身の背中にくっ付いて居る彼にも問い掛けてみたが、案の定、返答は無し。  それから、フィルドを起こさない様にソロリと起き上がった美玲は、抱えたままのフィルドを陵の二の腕に抱えさせた。  そして、彼女自身は、外から聞こえる衝突音を確認しに向かうのだった。 ☆☆ 「美玲、おはようございます」 「あ、フィリカさん。おはようございます」  美玲が音のする庭-宿の-に出ようとすると、丁度、庭の出入り口にはフィリカが椅子を置いて、外を眺めているのが見えた。 「この音はなんですか?」 「この音は…、見た方が早いと思いますよ?」  美玲は未だにフィリカに対して敬語が抜けないようだ。一方フィリカは、彼女に訊ねられ、説明するよりも先に外を見る事を勧めた。  百聞は一見に如かず、という感じだろうか。 「…あの人たちは、奴隷さん?」 「ええ。レオンが暇を持て余していたので、暇潰しに付き合って頂いています」  美玲の目には、男女合計4人のそれぞれが武器を持って、レオンに武器を振り下ろしているのが見えた。 「ふーん。ってか、暇なんですね?」 「ええ、10日間の間、何もやる事がありませんからね」 「あれ? 昨日どこかに行ってなかっ…ましたよね?」 「ふふっ、言葉遣いは崩して貰って構いませんよ?」 「ああ、えっと、うん、善処します」  フィリカが軽く微笑み、美玲は彼女にたじろいだ。 (綺麗過ぎるよ…。もはや美術品レベルだよね…)  口には出せない事柄を心の中で想い、押し込めた。 「クスクス…、まあ良いでしょう。確かに昨日、この街を色々と散歩しに行きました。まあ…何と言うか、治安の悪い街でした」 「へ、へえ…」  フィリカは昨日に起こった出来事を回想し、少し言い辛そうに告げた。  だって、レオンがストレス発散の為だけにゴロツキが湧いている路地裏に入ったのだから。治安が悪いとわかっているのなら、幾らでも避ける方法はあったのだから。  ばぎぃ!?  そんな談笑とも言えるような言えない様な時に物騒な、今までの衝突音とは全く違う、かなり痛々しい音が聞こえて来た。 「不味いっ!レオンっ!!中止にしなさいっ!!」  フィリカはその音のした方を見て、かなり強い命令口調で叫んだ。 「わ、わかってるっ!? …わりい、大丈夫か?」  レオンは投げ飛ばした男の手を取ろうとして、焦った様にそう言った。まあ、もっとも、投げられた男の腕は完全に折れてしまっていて手を取る事が出来ないのだが…。 「わりい、興が乗っちまった」  段々と彼らのチームワークが上手くなって行き、レオンが楽しくなってきてしまったのが原因だった。力加減を間違えたのだ。 「退きなさい、レオン。今から治します。それから、貴方達は休憩にしなさい」  フィリカは周りの奴隷達にもそうやって指示を出した。 「あ、ああ、頼むわ」  レオンは彼女と入れ替わる様に、その男から離れて行った。 「腕を出してください」 「は、はい…」  男は美し過ぎる彼女の真剣な様子に少し尻込みしてしまう。それでも、何とか言われた通りに腕を差し出した。  フィリカは手元に一本の杖を取り出した。これは様々な毒を放出する事の出来る杖である。  放出される毒は魔力を元に生成され、その毒の種類は莫大な数に及び、物によっては神すらもあっさりと殺し得る。  その杖の頭には水晶玉があり、それが毒を生成する為のコントローラーの役割を果たしていた。(※この杖はシン作)  フィリカは素早く、それにて麻痺毒を生成、毒素を散布。男にそれを吸わせた。 「あ…れ…」  身体の感覚が瞬く間に消え、男に死を回想させた。…が、当然殺す為では無く治癒の為である。  あらぬ方向に曲がってしまった腕を元の位置に戻すのに、恐ろしい激痛が走るので、それが走らない様にとの配慮だ。  フィリカは慣れた手つきで、あっという間に元の位置に腕を戻し、"聖力"を用いてその腕を治癒させた。更に"聖力"による散布させた毒の消毒を行い事無きを得た。 「…あれ? 動く、腕も…」  男の身体に回っていた毒も消毒されたようだ。 「今日は1日、安静にしていてください。良いですね?」 「…はい」  そしてフィリカは優しく微笑み、その男の座り込んでいる場所から離れて行った。 (女神さま…?)  男は彼女に対して、そんな想いを抱いた。少なくとも人非ざる美しさで、あっという間に怪我を癒してしまう存在を彼は知らなかった。  男がそんな事を考えた事が、後にフィリカが信仰による神格を得てしまう最初の要因になってしまうのだが、そんな結果は今を存在している誰にもわからなかった。  一方、治療を終えたフィリカは、レオンを人の見えない所に連れて行き、説教を小一時間以上も続けたのだとか…。
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