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第二部-ギルドマスターと騎士。

「お前さんはここに住んでるのか?」  洞窟の近くの川で服を洗っていた美玲に、とある男性が問い掛けた。  牛神が居るのにも関わらず、服を川で洗っていたのは単に美玲の気分だ。 「うーん? だとしたらどうするの?」 「俺は冒険者ギルドのギルドマスターをしている」 「…ギルドマスターって何?」  美玲は"ギルドマスター"なんて単語の意味は知らないし、もっと言えば口調が汚いので"何だこいつ"状態である。 「冒険者ギルドっつー組織のお偉いさんだと思えば良い」 「社長さん?」 「どっちかって言うと店長だ」 「ふーん。じゃあ、服が洗い終わるまで待っててね」  美玲はそんな男を放置して、手に持っている服に視線を落とした。 (ギルマスが来たってのにこの対応かよ…)  ギルドマスターと名乗った彼は美玲の対応に不満を持つ。 「ふん♪ふふん♪ふん♪」  鼻歌を鳴らしながら、着々と洋服を洗い終えて行く。異世界に来てから既にかなりの日数が経っているので、服を洗う事にも既に慣れ切ってしまっていた。 「よし、終わった。じゃあ、ギルドマスターさんを案内するね」 「おう」  美玲は首に引っ掛けていた牛神を手に取って、牛神を大きくした。 「おおう!?」  突然武器になりうる大斧が現れたせいで、彼はかなり驚いた。 「じゃあ、行くよ〜」  美玲はそんな彼を放置して、正確に言えば声掛けだけして、自らが住まう洞窟へと向かって行った。 ☆☆☆ 「美玲、後ろの人は?」 「冒険者ギルドの偉い人だってさ」  陵が美玲に訊ね、美玲は陵にそう答えた。  それを聞いて内心舌打ちをする陵、面倒くさ過ぎるのだ。 「飲み物は水しか出せませんが…それで良ければ席に案内しますよ?」  しかし、そんな事は心の奥にしまって接客するつもりらしい。 「それで構わねえよ」 「では。…美玲は来なくても平気だから」 「うん、わかった」  ギルドマスターの返事を聞き、美玲にそう言って、彼は自身らがよく使っている食卓にギルドマスターを招く。  そして、アイテムボックスから水を取り出してギルドマスターの前に置いた。 「…で、本日は何用ですか?」  そして座らせた彼の反対側に陵も座り、話を切り出した。 「お前さん、うちの部下の足を破壊してくれたらしいじゃねえか?」  ギルドマスターは開口一番にそう告げた。 「で? だからどうしたのですか?」  陵はそんな彼にそう返す。 「ぶっちゃけると、何かを返してもらわなきゃダメだって言ってんだよ」  ギルドマスターは飄々とした彼に少しイラつきながら言った。 「はあ…、まあ、返しませんけど」  陵はこっちには非がないと思っているので、そもそも話に取り合う気がない。 「はあっ!?」 「いやだって、貴方達が勝手に絡んで来て、勝手に自爆してるだけでしょう? 人様の住まいをジロジロ見るなんて無礼にも程があると思いますが?」  陵は絶対に引く気は無いし、別に引く必要性も感じない。  確かに目の前の男はギルドマスターと呼ばれるくらいに腕っ節が強そうな男だ。それでも、陵には関係が無い。 「お前らに非はねえってか?」 「武装した集団が居たら誰だって攻撃すると思いますけどね。しかも…事前に私達は宣戦布告をしています。そこで帰れば攻撃もしませんでした」 「それなら仕方ねえわな。こっちもお前らみてえな危ねえのは放置出来ねえし、盗賊として処理させてもらうからな?」  ギルドマスターがそう告げて、ここで初めて陵の顔が少し動く。 「そうだ。今ここでお前らをしょっぴいても良い。どうせ、何処かの国の人間でもねえんだろ? …異世界人?」  そんな彼に更に畳み掛けるようにギルドマスターは言った。  それと同時に、彼は俺達を利用する為にここに来たのだと陵はわかった。 「まあ、その時は別の場所に引っ越しするだけですから」  それでも陵は取り合わなかった。別に人里離れた所に行けば関係無いだろうと思っているからだ。 「は? お前、本当に逃げられると思ってんのか? お前を召喚した帝国が血眼になって探す事になるんだぜ?」 「つまりチクるって事ですか」  "めんどくせえなコイツ"、と陵は思う。 「…まあ、そうとも言うわな」 「そうですか…なら仕方ありませんね」 「お?」 「貴方の街…正確に言えば俺達の目撃者だけど、全員に死んでもらうから。…手始めにアンタからだ」  だがしかし、ここで陵が取ったのは目撃者を全員消す事だった。  そのままゆらりと立ち上がり、鬼神が既に宿っている"狂鬼神刀"を右手に出現させた。  だんっ!  ギルドマスターは物凄い速度で後ろへと飛んで、彼から距離を取った。  その跳躍力は流石は冒険者ギルドの纏め役とでも言えようか。 「…お前、本気で言ってんのか?」 「本気に決まってるだろ? …下手に出てるからって調子に乗りやがって」  陵は刀に纏う高密度のエネルギーをギルドマスターに叩き付けた。  ぐしゃああああっ!?!?!?  それは大地を引き裂くように長細い道を造り、あくまでもその副産物としてギルドマスターを粒子へと返した。  そのエネルギーは止まる事を知らずにそのまま近くの街を飲み込む_____  ________筈だった。  その一撃はとある円盾により、とある騎士により受け止められた。  シンの"能力創造"と同等だと言える"相思狂愛"という能力と、それにより生み出された狂気と高い親和性を誇る"狂鬼神刀"。  更には鬼神の真名"狂怒鬼"に纏わる狂気の解放を重ね合わせた。  それらの3つによって生み出された狂気の一撃を何者かが防ぎ切ったのだ。 「ったく、やっと見つけたと思ったらこれかよ…。嫌になっちまうぜ」 「そう言わないでください。レオン」  騎士が防ぎきったのを確認し、陵を見据える。その騎士の後ろからは絶世の美女が現れた。 「お前が相浦陵だな?」  騎士服しか纏っていない、鎧を纏っていない騎士がそう言った。 「…だとしたら?」  "狂鬼神刀"を防がれた事により、陵の警戒心は振り切れていた。 「そう睨むんじゃねえよ、俺達はお前らの事を保護してくれって頼まれてんだ。お前の中に仲の良い神様の心当たりはねえか?」 「・・・」  そう言われてしまい、振り切れたままに陵は刀を下ろすことになった。"狂鬼神刀"は鬼神を宿したまま陵の右手の紋章へと戻った。  …少なくとも、ここで彼の話を聞かなければならないと、陵はそう思ったから。 「そうだそれで良い、こっちも剣は下ろす。…盾は良いよな?」  大柄な騎士は陵に問い掛けた。 「好きにしてくれ」 「んじゃあ、このままで」  騎士の腕に付いていた円盾が見る間に縮小されていき、日常生活に支障が出ない程の大きさになった。 ☆☆ 「さっき、戦ったばかりだから少し散らかってる。許して欲しい」  陵は騎士達にそう言って洞窟の前にあるウッドテーブルに座らせ、水の入ったコップを2つ出した。  隣には10人中10人が振り向くような美女が居るのにも関わらず、彼の反応は何も変わらなかった。 「気にしねえよ。そんなもん」 「なら良い。…で? 詳細を教えて欲しいんだけど、保護とか急に言われても困る」 「まあ、だろうなあ…、…これを読めってよ」  騎士は突然に手元に手紙を持っていた、そしてそれを陵に差し出す。 「…いつの間に?」 「ん? ああ、これはアイテムボックスみたいなもんだから気にすんな」  陵が手紙を受け取りながら聞くと、騎士はあっけらかんとそう答えた。 「…わかった、気にしない」  そう言いながら、受け取った手紙を開けた。 「…マジであの人からなのか」  手紙を開けて、見知った字体と日本語の文字を見て、少し驚く。 「嘘なんて吐かねえっての。…そういや、さっきのは何だったんだ?」  騎士は先程の狂気の一撃を放った原因が気になったようだ。  もし仮に彼が受け止めていなければ、そのまま街一つは飲み込んでいたであろう強大な一撃だった。 「あれは敵を殺す為だ。それと、目撃者を殺さなきゃいけないから保護するのは少しだけ待ってくれ」 「…お前、まさか、街ごとやろうってか?」  陵はギルドマスター以外を殺す事をまだ諦めていなかった。 「そうだな。貴方が止めなければ、街ごと壊してたな」  先程の一撃は十二分に街を破壊し尽くせる一撃だった。もしそれで少し生き残っていたとしても、あと何振りかをすれば、街が在ったという痕跡すら無くすことが出来るだろう。  "神"を武器として振るうというのはそういう事である。 「お前、とんでもねえな」 「他世界から誘拐をし続けているこの世界の方が、よっぽどとんでもないだろ」  心外だと、そう陵は告げた。 「そりゃそうだ。この世界の方がよっぽど可笑しい」 「…へえ?」  目の前の騎士が陵に同意する様にそう言った。それに陵は少しだけ驚く。  身勝手な理由で街一つ消そうとした陵よりも、世界の方が可笑しいと言ったからだ。 「その手紙に書いてあるかは知らねえが、俺達はこの世界の所属じゃない。だから安心してくれ…とは言えねえけど、その手紙を書いた神様と取引してる以上、こっちが裏切る事はねえ」 「取引を裏切ると?」 「地球の神々と全面戦争だな。多分こっちが生き残るだろうが…俺達は消えんだろうな」  目の前の騎士はその全面戦争が引き起こされたら、自身らが生き残れるとは思っていない。  この世界-ラフタ-の様に最高神が居ない世界ではないのだ。この世界と全面戦争をする分にはどうとでもなるだろうが、地球との全面戦争は避けたいのだ。 「それと、その目撃者の話なんだが…、気にしないで大丈夫だ。何処のどいつだろうが、この世界の奴らで俺達以上に力を持っている奴らは居ない」 「…それは本当なのか?」 「まあ、多分って所だな。俺は居ねえと思ってるが…」  目の前の騎士が言う事が嘘だとは思えない陵だったが、それを鵜呑みにする訳にはいかない。 「グランディス帝国と敵対しても問題無いのか?」  だから問い訊ねる。 「グランディス…帝国…? なんだそりゃ?」  騎士は国名を覚えていないのか、その国名に首を傾げた。 「レオン、それは勇者を召喚した国の名前です。渦中にある国名くらいは覚えておいてくださいな」  そんな騎士に、隣に座る美女がそう告げた。 「ああ、…え? お前、マジで敵対してんのか?」 「いや、さっき帝国にチクるって言われたんだよ。だから…」 「ああ、お前らが表に出るとその国に目え付けられんのな」 「…まあ、多分だけど」  陵としても、あのギルドマスターの言っていた事が真実かはわからない。 「だったら尚の事、うちに来てくれると助かる。まあ…帝国と戦争する為の口実にされちまうだろうが…」  騎士は寧ろ来て欲しいようだ。 「口実にするしないはどっちでも良い。身の安全が確保されるなら」 「まあ、それは問題ねえよ。勇者って言ったってお前らより弱いだろうしな」  なんの事無く騎士はそう吐き捨てた。彼からすれば帝国なんてどうでも良いのだ。  というよりも、世界に興味が無い。 「…勇者が俺達より弱い??」 「この世界の勇者ってのは所詮人族の域を超えねえからな。お前のさっきの刀は神様が宿ってんだろ?」 「ああ、そうだな」 「その武器の扱い的には、俺が使ってる剣と同じくれえだ。人族の域を超えない身体で、そんな武器を使ってるのは正直ビックリだ。そんなもん何処で手に入れたんだか…」  少し興味深そうに、騎士は陵の右手甲に目を向けた。 「偶々だ」  対して陵はそう言うしか無かった。鬼神や聖神、それから牛神と契約を結んだのは完全に成り行きだし、個人的には契約すら嫌がっていた側の人間だ。 「最上級神に気に入られるだけはあるんだろうな」 「???」  騎士がボソリと呟いた言葉の意味を陵は理解出来なかった。  因みに最上級神と言うのは、世界のトップである最高神の次に偉い存在だ。また、天照大神は最上級神である。  そして、最上級神は地球には何体か居て、基本的に陵の目の前に居る騎士には打ち倒すことの出来ない存在だ。  まあ、最も…地球は少しだけ特殊なのだが…。 「まあ、そういう訳だ。って事で、うちに来ねえか??」
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