46 / 176

第二部‐また冒険者が来た。

 新たな斧が手に入ってから10日ほど経った頃…。 「牛神さんめっちゃ便利なんだけど」  美玲はそう言いながら、大きな斧を片手に()()を使っていた。  今美玲が使っているのは水を蛇口の様に出す魔法で、その排出された水で洋服を洗っていた。  いつもなら近場の川まで行って水洗いをするのだが、牛神のお陰でそんな事をする必要も無くなった。 『神の使い方は違うと思うんじゃが…』 「気にしない気にしない」  牛神がそう問い掛けるが、美玲は聞く耳を持たない。 「〜〜♪」  気分良く淡々と洋服を洗っていく。 『…何者かがこちらを見ているぞ?』  牛神にそう言われて美玲は辺りを見回した。すると武装した集団が目に入った。 (陵が前に言ってた冒険者って奴かな?)  美玲は心当たりがそれしかないのでそれしか思い付かなかった。 「ま、無視してれば良いんじゃない??」 『そういうものなのか』  それからチラッと相手に、彼女達が相手を見つけた事を示す為にわかりやすく一瞥して、更に感じ悪く視線を手元の洋服に戻す。 (便利屋みたいなもんだって陵が言ってたし、何かを採取しに来たんだろうね) ☆☆ 「鬼神、そっちはどうだ?」  みかん擬きを絞っていた陵が、隣で野菜やらなんやらを炒めている鬼神に聞く。 「悪くは無いな。キノコの風味もしっかりと出ているし…」 「じゃあ、その上に軽く塩を振ったらこの汁をかけてみよう」  レモン汁代わりにみかん擬きを使う様だ。  みかん擬きの味は、確かにレモンに近いみかんという具合の味ではあるが、それでも所詮みかんである。  炒めた物スプーンで掬い、そこにみかん擬きの汁をかけて口に入れてみた。 「…うーん、なんか微妙。塩味ばっかだと飽きるから悪くは無いんだけど…やっぱりみかんはみかんか…」  案の定、陵の舌では微妙だったらしく少し眉を潜めていた。 「私はありだと思うがな。サッパリしている感じはする」  鬼神は悪くは無いと思っているようだ。 「…青々としたちょっと苦めのを取ってくればもっと美味しくなるかな…?」  陵はみかんらしい甘さ-ほんの少ししか感じないが-を邪魔に感じた様だ。 「いやいや、青々としているのは苦いのだろう?」  鬼神が陵にそう返す。 「…そうなんだよなあ。苦いんだよなあ…」  つまり本物のレモンを見つけなければ、これ以上に美味しいものは出来ないという訳だ。 「ま、仕方ないな」  無いものは無いで仕方がないと陵は諦め、そのみかん擬きの汁は別の取り皿に入れたまま食卓に並べる事にした。  ご自由にお取りくださいというやつだ。 「野菜系は準備出来た…後は肉か。薄く切って少なめに焼こう」  今は昼と朝の間の時間ではあるが、朝食として食べるので油っこい物は少なめにし、肉は飲み込み易い様に薄めにスライスするようだ。  当たり前ではあるがタンパク質を取らないのは体に悪い。特にフィルドは取らないとダメだろう、後々の成長に響いてしまう可能性もあるから。 (毎日毎日、肉と野菜じゃあ飽きるよなあ…)  心の中でそう思っても変えられないものは変えられない。 「陵、こちらを見ている者が居る」 「…どこ?」  鬼神はそのまま目だけで見られている方向を示す。陵は美玲の"索敵"でこちらを見ている武装集団を視野に収めた。 「どうする?」 「どうもこうも無視するしかないだろ」  武装しているとは言えそもそもここは人街の外であるし、何より危害を加えられていないのだから、自らから何かをしようとは思わない。 「陵? 朝ご飯はどんな感じ?」  右脇に洗濯物を入れた籠を持っている美玲が、彼らの元に顔を出した。 「あ、もう出来るよ。そっちは終わったって事?」 「うん、牛神さん超便利。水は出るわ火は出るわだし」 「へー。…じゃあ手が空いてたらで良いんだけど、洞窟の中で遊んでる聖神を呼んできてくれる?」  聖神が遊んでるとは言っても勿論フィルドとだ。流石に一人寂しく洞窟の中に居る訳では無い。 「わかった。じゃあ呼んでくる」  美玲は洗濯籠を自身のアイテムボックスに仕舞って洞窟の中へと入って行った。 「こっちも美玲が戻ってくる前に食事の支度を終わらせよう」 「それが良いだろうな」  陵と鬼神はそれぞれ両の腕に調理された皿を持って、洞窟の出入り口すぐ近くにあるウッドテーブルに運んだ。  それから彼らの-最近はいつも同じような感じではあるが-朝食の時間が始まるのだった。 ☆☆☆☆ 「牛神さんに水をだして貰えない?」  食事を終えた陵は美玲にそうお願いした。 「ん? 良いけど…」  美玲は首に引っかかっていた牛神を大きな斧に変えて、地面に持ち手を突き刺した。 「牛神さん、お願い」 『我がこんな事を出来るのは平和な証拠かのう…』  洋服を洗ったり乾かす為に使われたりと、仮にも神と名の付く存在にやらせるべきでない事ばかりをやらせる美玲に、牛神は呆れたようにボヤく。 「牛神、ここに水を当ててくれるか?」  陵は汚れた皿を示してそうお願いする。 『こうか?』 「お、そうそう」  陵は腕まくりをして水を当てられたお皿を"きゅっきゅっ"と洗っていく。 「一旦止めて」 『ふむ?』 「こっちにもお願い」 『我…一応神なんじゃが…』  陵は汚れている皿を次から次へと洗っていった。 ☆ 「美玲、牛神、ありがと」  陵は食器の水を切って乾かし終えてから、美玲のアイテムボックスに仕舞った。 「はいはーい。ねえ、鬼神さんと聖神さんは?」  今更ながら美玲は鬼神と聖神が居ない事に気が付いた。フィルドも居ないので恐らくは彼らに付いて行ったのだろう。 「鬼神と聖神はフィルドと一緒に洞窟の中だ。…さっきからずっと見られてるからさ」  年端もいかないフィルドを危険に晒さない為だ。流石に食事中ずっと観察をされていれば、警戒もせざる得ない。 「そうだね。今から聞きに行こっか」 「ん。流石にこんなに長く観察されてたら手出し無用とか言ってられないし」  美玲は右肩に(牛神)を担ぎ直して、陵は"投影"された二丁の光線銃サブマシンガンを両手に持った。  陵の"投影"と呼ばれる能力も着々と強力になっている様で、今彼が持っている光線銃はオリジナルの半分くらいの威力がある。 「じゃあ、行きますか」  陵と美玲は手始めに観察している集団に正面から話し掛ける事にした。 ☆☆☆ 「お前ら、そんなにずっと人の家を見てて楽しいか?」  声が聞こえる距離にまで近づいてから、陵は問い訊ねる。 「・・・」  正面の視界に入る木々の木陰に隠れている何人かの武装集団は、だんまりを決め込んだまま口を開かない。 「ねえ? なんで監視してるのかを聞きに来たんだけど?」  美玲が陵に追随する様に続けて問い訊ねる。 「・・・」  それでもだんまりを決め込む武装集団。 「依頼の守秘義務か何かのせいで話せないのかな?」 「さあ? これ以上監視を続けるなら敵とみなして処理するから、…最終通告だ」  周りに聞こえるよう、陵にそう言った美玲に返事を返し、陵はわかりやすく刀を抜いて敵意を示す。 「…反応無し。今から強引に捕まえるけど、俺達は戦うのが上手くないから死んでも文句言うなよ?」  陵はまた光線銃サブマシンガンを刀と持ち替えた。そして、そのまま武装集団の陵から見て1番手前に居る人の足を躊躇無く撃ち抜いた。 「ぐあああああっ!?」  その男の悲鳴があがる。その男の名の様なものが周りの仲間に叫ばれ、更に別の男が陵に飛び掛かって来た。 「…遅い」  男が振り下ろした剣を躱した。それを振り下ろした腕をゼロ距離で撃つ、男は革鎧を着ていたが、光線銃サブマシンガンはそれを簡単に貫通した。 「っつ!?」  男の利き腕だと思われる腕が垂れる。そして、その男の首元に刀を当てた。 「…おい、こいつが殺されたく無かったら、全員見やすいように俺達の前に横一列で並べ。…ああ、当たり前だけど、武器は地面に捨てろ」  冷ややかな声で、陵は木々の合間を縫って存在している武装集団を脅した。…当然陵の頭の中には、今刃物を突き付けている彼が切り捨てられる可能性も考慮に入れている。  だから、未だに美玲が一歩も動いていないのだ。  だが、その警戒は無意味になった。他の武装者が彼の言う通りにしたからだ。 「ふーん、殺されるかもしれないのに聞き分け良いんだな?」  陵は先程のだんまりから打って変わっての姿勢に少し驚いた。 「…仲間を捨てる訳にはいかないからな」  その中のリーダーらしき魔法使いが言った。恐らくこの集団の指揮者で後衛を務めているのだろう。 「お前も色々と魔法が使えるみたいだけど…使ったら1人じゃなくて皆殺しだから覚えておけよ?」  さらっとその魔法使いを"鑑定"した陵は告げる。火属性魔法とか水属性魔法とか彼のステータスには書かれていたようだが、陵はそもそも魔法に詳しくないので"火と水を使うんだな"という事しかわからなかった。  横に並ばせたとは言え、陵は彼らに跪かせている訳ではないし、両手を上げさせている訳でもない。 「妙な動きだとこっちが思ったらその場で殺すから」  それは簡単に言えば自主的にそういう行動を取らせる為と、言い掛かりをつけて殺せる様にする為だ。  いざとなったら"抵抗した"とイチャモンをつけられるからだ。 「そ、その止血だけさせて貰えませんか?」  その中の一人がそう言った。先程撃ち抜いた男の血が止まらないようだ。 「…まあ、良いんじゃない? 妙だって思われない様に心掛けろよ」  陵は軽い調子で返事をした。 「で、残ってる奴らに聞きたいんだけど…何処の組織?」  恐らくは冒険者とやらだろうなとは考えている陵だったが、万が一違う場合も考えてそう問い訊ねた。 「…冒険者ギルドの所属している」 「ふーん、何のようでここに来た?」  予想通りだったので、すぐ様に次の要件を聞く。 「…貴方達を観察しろと」 「うん? 監視じゃなくて観察?」 「そうだ。得体の知れない人々が住んでいるから…と」  この地に最近住み始めた陵達の事を冒険者ギルドとやらはよく知らない。 「ふーん…そ、じゃあ、帰ったら親玉に伝えてくれる? …気になるなら正面から会いに来いって」  最後だけは軽い口調ではなく真剣な声音で告げた。 「…わかった」  陵と会話をしていた男が神妙に頷く。その動作を見た陵は刃物を突き付けていた存在をその並ばせた武装集団へと突き返した。 「帰って良いよ。じゃあな」  そのまま陵と美玲は彼らに背を向けて、自身らの洞窟へと帰ることにした。 「良いの? 放置で」  美玲は追いかけて来ない武装集団に意識を割きながら陵に訊ねた。 「これで良い。敵対したい訳じゃないし、向こうの親玉に俺達の話が伝われば、こう言うイザコザも無くなるだろ」  陵は美玲に答える。それはあくまで相手に征服欲の無い場合の話だ。  もし仮に冒険者ギルドとやらが彼らを押さえつけようとするのならば、あっさりとこの地から別の地へと移動してしまうかもしれない。  フィルドが居るのであまりやりたくはないようだが…。 ☆☆ 「鬼神、聖神、居るか?」  洞窟の中にある部屋-子供部屋になっている-に陵と美玲は顔を出した。そこで目に映ったのは、フィルドが牛-ミノリス-の背に乗って遊んでいる光景だった。  ミノリスも地面に座っているのでそこまで危険性は無い。だからか、聖神もミノリスの上に乗っかってフィルドと共に遊んでいた。  鬼神はそんな彼女らを少し離れたところから見守っていた。 「終わったのか?」  鬼神は突然顔を出した彼らに目線を向けて訊ねる。 「ああ、終わったよ。大きな問題は無かった」  その鬼神には陵がそう返事をした。 「そうか、それは良かった」  鬼神はそれだけを言って目線を自身の妻と幼子に戻した。見ていて飽きないのだろうか?と思わなくも無いが飽きないらしい。 「丁度良さそうだし、俺と美玲は森の中を散歩(デート)してくるから」 「むっ? ああ、わかった」  陵はそう告げてその部屋からまた離れたのだった、美玲と。  夫婦水入らずという訳では無いが、それでも鬼神があまりに幸せそうだったから、自然とそんな事を告げてしまった。 「私達も楽しもっか」 「だな。ゆっくり森の中を回ろうか」
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!