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第二部‐斧を手に入れる。

「くあ…」  翌日になり、陵は目覚めた。  昨日の牛神の件と言い、眷属の件と言い、漠然とした不安要素を抱えたままの睡眠だった。  因みにミノリスは、彼らが住んでいる洞窟の外に居座っている。…理由は彼らにはわからなかった。  彼は無意識下で、隣で眠っている美玲を抱きしめる。______安心する事が出来た。一方、美玲はフィルドを抱き締めながら眠っている。  ミノリスは彼らの住処について来た事に対して、理由を述べなかった、それは彼に対し、十二分に恐怖を与えるものだった。  彼は対峙した際にミノリスのステータスを見た。_____恐ろしい存在である事も理解した。  少なくとも只の人では…地球に居た頃の彼らでは、いくら束になっても打ち倒すことの出来ない存在である事を理解した。  ぎゅっ…  美玲をかたく抱きしめる。そんな彼女の匂いに心が解けたのか、陵はもう一度柔らかい眠りについた。 ☆☆ 「ミノリスさん、ここに留まる理由はなんですか?」  一方鬼神は、洞窟の外に居るミノリスと対峙していた。何も理由を告げずについて来たミノリスを警戒していたのは陵だけではなかった。  ミノリスは嫌がる陵と美玲に反してついて来たのだ。彼らが鬼神に言われたせいで、ミノリスを強引に追っ払う事が出来なかった…というのも理由の1つではあるが。 『そんなに血気盛んになるでないわ。別にやましいことをしようとしている訳では無い』 「ならば何故理由をお話にならないので?」  ミノリスと呼ばれる魔牛は、鬼神にすら、彼らについて来た理由を述べていないのだ。 『・・・』 「今ここで死んでもらいますよ?」  鬼神は刀を抜き、黙りこくる牛に突きつけた。 『主が(あるじ)と仰いでいる彼ならまだしも…主に儂が殺せるとでも?』 「…戦いの結果は決した後にしかわかりませんよ?」  ミノリスの挑発とも取れるような発言に、鬼神の後ろから現れた聖神がそう返事をする。 『…ほう? 恩を仇で返すか?』  ミノリスによる気が鬼神と聖神に当てられる。 「彼らに言われて、そして思い直したんです。  貴方達に私達は神になる術を教えて貰った。けれども…そもそもこの世界の神々が争わなければ私達すらこの世界に来る事は無かった。  何百年前かは覚えてませんが…貴方は言いましたよね? …勇者召喚は神々の使者を連れてくる為の召喚だと」  鬼神はそう告げて気を当て返す。彼らとは陵と美玲の事だ。 『・・・』 「あれは貴方達神族以外の神々を消滅させる為の使者だったのでしょう?」  そう、牛神も鬼神も聖神も、神族が神になった存在ではない。 「貴方達が世界の中だけで争っていれば、私達や彼らの様に巻き込まれる存在が出てくる事は無かった。まあ…この世界に来たことによって私は聖神と出会う事が出来ましたが…」  淡々と述べていた鬼神は、そう声を切って、更にぎらりとミノリスを睨みつける。 「それすらも貴方達の争いによって1度は壊された。…詰まる所、貴方達に私達は恩を感じていない」  完全な敵対宣言である。 『ならば、何故彼が儂を殺そうとしたのを止めた?』 「それは貴方が味方か敵か本当にわからなかったからです。…疑うだけで相手を殺してしまうような…冷酷な主にする訳にはいかない」  鬼神の本音には、ミノリスや牛神が恩師であったからという事もあるかもしれない。たとえ、この世界の神々が自身を巻き込んだ原因だとしても、彼らに世話になった事実は確かに在りはするからだ。 『・・・』 「それに貴方に彼らを殺す方法はありませんよね? 彼が貴方を殺そうとした時、貴方は彼と敵対しないように立ち回ったのではなく"戦えなかった"。…だから命乞いをした」 『…そうだ』  ミノリスは中級神や、下手をすれば上級神をも簡単に倒せてしまうような強大な存在である。陵と美玲はそんな存在が持ちうる能力を無効化してしまったのである。  無効化したのは彼らが持つ"相思狂愛"という能力。この能力は、彼らの幸せを破壊しようとした存在に大いなる牙を向く。  戦う術の無力化、精神汚染、あらゆるバッドステータスを敵に負荷するのだ。  それ以外にも効果があるだが、それは後に語られることもあるかもしれない。 「話すか死ぬか。…ここで決めろ」  最後に力の篭った声で、鬼神は、ミノリスに選択を迫るのだった。 ☆☆☆ 「____ちゃん、お姉ちゃん起きて」 「んう…ふあ。…フィルド、おはよ」  抱いて眠った筈のフィルドに揺すられた美玲、そのまま起き上がろうとすると、陵の腕に妨げられた。 「・・・」  自身の体に絡まった陵の腕を外そうと四苦八苦するが、全く外れてくれない。 (どんだけ強く抱きしめてるの…)  美玲は心に決めて、背から覆い被さるようにくっ付いている陵の胸に、バックアタック-頭突き-をした。 「げほっ!?」 「おはよう」 「…痛い」  美玲に頭突きをされ、痛む胸を抑える陵。 「だって剥がれないんだもん」 「…ごめん」  陵はそう言われて、更にバツの悪そうな顔をする。 「別に良いけど。じゃあ、起きよう?」  陵から放され起き上がった美玲は、未だに布団の上でゴロゴロしている彼を、フィルドと共に見下ろしながらそう言った。 「…ん、わかった」  美玲だけが見下ろすのなら、もう少しだけ彼女に甘えようと考える陵だったが、流石に小さなフィルドの前でそんな事を考える訳にもいかなかった。  起き上がって伸びをする。すると、伸びをした腕にフィルドが体重を掛けてきたので更にぐぐぐっと体を伸ばすことになった。 「フィルド、放して」 「・・・」  フィルドは掴んだ陵の腕を引っ張るのを止めた。 「鬼神達の所に行くよ」 「はーい」「わかった~」  フィルドはキッチリと返事をした、陵は間延びした声を返した。きっと彼はまだ少しだけ眠いのだろう。 ☆☆ 「…で、昨日の今日でなんなの?」  洞窟の外に出たとたんに‐彼らを待ち構えるように‐、頭を地面に付けて顔をあげようとしないミノリスを見て、美玲は苛立ちの声をあげた。 「邪魔だから退いてくれる? 今からお洋服とか洗わないとだし」  そう言っても退こうとしないミノリスに、更にイラつく美玲。 「退けって言ってるだろ? …鬼神、こいつなんなの?」  陵が追随する様に言うがミノリスに変化は無かった。その為、近くに居た鬼神に問い訊ねる。 「話がしたいらしい。朝食と洗濯は私達がやるから話を聞いてやってくれないか?」  鬼神はそんな風にお願い口調で陵に返した。 「…わかった。フィルドをお願い」 「ああ、わかった。…こっちに来なさい」  陵の言葉を聞いた鬼神は、フィルドに目線を合わせるようにしゃがんでから告げる。フィルドはコクッと頷いて彼の元へと走って行った。  そんなフィルドを見送った2人は、目の前の牛に目を合わせた。…侮蔑の感情を向けながら…。 「で?なんなの? 魔王を倒してくれとか、何処かの神様の眷属を倒してくれって言うならその場で撃ち殺すからな?」  陵は光線銃サブマシンガンを右手に、美玲は光線銃ハンドガンを左手に、頭を下げているミノリスの左右両方から銃口を抜けた。  ____神々の手伝いなんて絶対にしてやらない。  彼らがこの世界に来てからずっと思ってきたことだ。それくらいに、恨みと言っても過言ではない様な物を内に抱き続けてきた。 『その神具で、牛神様が封印されているネックレスを破壊して欲しいのだ』  そんな彼らに、ミノリスはそう要望を告げた。 「なんで俺達なの? 俺達以外にも居るだろ? …他の所に行けよ」  陵と美玲が持つ光線銃はかなり高出力な神具であるが、陵と美玲がそれを知らぬ事も相まってそう告げられた。 『そんな事は無い。その神具はかなり強力な物だ。…この世界にも数える程しかないだろう』  ミノリスはそんな彼らに訂正する様にそう言い、説得しようとする。 「…だとしてもさ、私達が助ける義理って無いよね?」  彼らからしてみれば"だから何?"である。  例えば、目の前の存在が小さな子供であったりすれば、そこまでは言わないかもしれない。だがしかし、彼らの目の前に今居るのは神の眷属である。 『どうしたら助けてもらえるだろうか?』 「え? 知らないよそんなの。私達は関わりたくないだけだし」  別に彼らは、なんでも言う事を聞く奴隷が欲しい訳では無いし、何か今の生活以上に欲しい物がある訳では無い。  強いて言えば、フィルドにちゃんとした服を着せてあげたいという事くらいだ。  因みに今のフィルドは陵が急ごしらえに縫った服を着ている。裁縫道具は天照大神から貰った棚の中に入っていた様だ。 『な、なら、私達とも契約を結ぶと言うのはどうだろうか?』 「鬼神と聖神で間に合ってる。…危険性は無さそうだけど」  陵は新たな牛神の提案もそうやって跳ね除けてしまった。 『そ、そこを何とか…』 「…どうする?」  しつこいミノリスに嫌気がさしてきた陵は、美玲に話を振る。 「…鬼神さんを呼んで待ち構えようか」 「そうするか…。…鬼神を連れてくる」  封印を破壊する方向で話をしつつ、陵は鬼神を呼びに行った。 ☆  そして、鬼神を宿した"狂鬼神刀"を片手に、陵は戻って来た。 『…そ、それは??』  ミノリスは、自身が神具と呼んでいた光線銃よりも遥かに密な力を蓄えた刀を見て、思わず訊ねる。 「妙な事をしたらぶった斬るから」  陵は答えにならない答えを返した。 『わ、わかった…』  妙な真似をしたと思った瞬間に撥ねる。敵か味方かもわからないのだから、それくらいの警戒はする。  陵の精神的には最大限の譲歩だし、美玲もそんな彼に何かを言うつもりは無い。 「美玲、お願いして良い?」 「はーい」  美玲はその一言を聞いて、ミノリスの首からネックレスを取り外した。 「ねえ、牛さん。これを撃ち抜けば良いんだよね?」 『…うむ』 「じゃあ、やってみようか」  取り外されたネックレスは、硬い殻に覆われるような形をしていて、確かに中身が外に出ることが出来ない様な形になっていた。  パァン!  美玲は銃口を当てて、光弾をそのネックレスに撃ち込んだ。するとその殻にヒビが入る。 「まだ足りないのかな??」  パァン!パァン!  そうやって何度も撃ち込むと、やがてそれからは淡い光が漏れ始めた。  ______________________________殻は突き破られ、超小型の斧が宙を舞って出現した。 『牛神様』  ミノリスがそれに頭を下げる。 『我の封印を外したのは汝か?』  そんなミノリスを無視して、美玲にのみ牛神(おの)は問い掛けた。念話が美玲にしか届いていない状況だ。  そんな声に頷きを返すだけの美玲。 『そうか、感謝する。その感謝を込めて我は汝の武器に成ろう』  そう告げた牛神と思われるその超小型の斧は、美玲の首に巻きつこうとした。 「!?」  美玲はそれを躱して地面にゴロゴロと転がり、光線銃の照準をその宙に浮いている超小型の斧に合わせた。 「なにすんの??」  牛神は首にネックレスの様に引っかかろうとしただけなのだが、美玲にそんな意図が判るはずも無く、一気に敵意を向けられる。 『何故避ける? 我の力が要らないのか?』 「罠かもしれないよね?」 『そんな事ある訳なかろうて、…それに洗脳の類はお主らには効かぬだろうが』 「初めて逢った人なんて信用できないでしょ」 『…困ったな、随分と臆病なようだ。そこの鬼神、何とか言ってはくれまいか??』  本当に弱ったと言いたげな声音で、鬼神に自身の擁護を求めた。狂鬼神刀に宿っている事を、瞬時に見抜いたのは流石だと言うところだろうか? 『美玲、牛神様は危害を加えてくる輩では無い。信用しても大丈夫だ』  それを聞いて、鬼神は美玲にそう告げる。 「本当に?」 『だいたい…、感覚では何となく平気であろう事を理解しているだろう?』 「…まあね」  もし敵であるのなら、"相思狂愛"がその牛神に対して拒絶反応を引き起こし、嫌悪感を彼女の中に掻き立てていただろう。 『首に着けるのが嫌なのならば、我を手に取れば良い』 「…わかった」  美玲は宙に浮いている牛神に手を伸ばして、そして手に取った。 「ねえねえ、陵、凄い綺麗な斧だよ? お土産屋さんにあるようなキーチェーンとかと比べ物にならないくらいに細部まで作り込まれてる」 「え? 見せて見せて。…本当だ、凄い作り込みだな」  彼らがそんな風に言う様に、手のひらサイズの極少の斧であるのにも関わらず物凄く細かな紋章などが書き込まれていた。 『もっと褒めい。それに我はそれだけではないぞ?』  牛神は調子付いた様にそう言ってから、さらにそう言った。 『牛神様…』  そんな次の話に進む前に、ミノリスにより会話が遮られた。 『ふむ? ミノリスも久しぶりだな』 『お久しぶりでございます。して、儂はどうすれば?』  牛神を解放出来た以上、ミノリスに役目はもう無いのだ。だから次の指示を自らの主に仰いだ。 『彼らに仕えよ。我も神としての活動は辞める。…ちゅーか、神にお願いされて牛をまとめる統括神になってやったのになんじゃこの扱いは、次見つけたら神族全員問答無用でぶっ殺じゃわい。神なんて面倒な肩書も捨てちゃるわっ!』  牛神はぷんすかぷんすかと怒っていた。まるで老婆の様な口調だ。 『あ、安心せい。これからは主らに道を委ねるからの。もう老骨に出番は無い、好きに我の力を振るえば良い』  牛神は軽快にそう言い放った。…念話で。 「力って言われても、何が出来るか知らないんだけど?」  美玲は牛神を片手に持ってそう言う。 『む、そうじゃ、だから少し洞窟から離れた所に行くぞ』 「え? あ…」  小さな斧を握っていた手は牛神に引っ張られた。思わず美玲は放してしまったが、直ぐに、そのまま宙を移動している斧を陵と共に追いかけた。 ☆☆ 『どうじゃ?』  少し離れたところに辿り着くと、その(牛神)は巨大化し、美玲の身長程は少なくともあるであろう大きさになった。宙を浮いているので、夜であったのならきっとホラーな光景に早変わりするだろう。 「…私、振れないと思うんだけど?」 「俺も無理だな」  自慢げに告げる牛神に美玲と陵はそう返した。 『持ってみるくらいせんか』 「あ、はい」  牛神の勢いに押され、美玲は大きな斧を手に持った。そして持ち上げようとする。 「???」  その斧は大きさに似合わず、ふわりと持ち上がってしまった。思わず美玲は首を傾げた。 『重さくらい感じない様には出来る。神じゃからなっ!』 『牛神様、それは暴論かと』『私は出来ません』  ミノリスと鬼神から総ツッコミを食らった牛神。 『それでどうじゃろう?』  そのツッコミをガン無視して美玲に問い訊ねた。 「あ、うん。問題無いよ」  美玲は軽く振ってみてからそう言った。大きさに似合わず軽々と振れてしまう事に、未だに目が慣れないようだ。  ドゴンっ!! 「…軽く、なってない??」  更に地面に牛神の斧を振り下ろすと、手に持って体感していた重さとは明らかに違う重さが地面を抉った。 『うむ、お主だけが持つときだけだからの。軽くなるのは』 「…なにそれ」 『神じゃからなっ!』  こうしてハチャメチャな(牛神)を手に入れた美玲だった。
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