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第二部‐ピクニックに行こう。

「陵っ!ピクニックに行こうっ!!」 「はあ??」  美玲が突飛な事を言い出し、陵が口を開けたままそう言う。 「ダメ?」 「ダメじゃないけど。…鬼神達には言ったのか?」 「もっちろん。ピクニックとは言ってもこの周りを歩き回るだけで、それ以上に何かはしないよ?」  美玲は皆揃ってお散歩に行こうと言っているだけだ。…自然豊かな森の中を。 「うーん…わかった。間食は出来るようになんか作ったら行こうか」 「やったねっ!!」 「はあ…作りますか」  陵は自身らの寝室で今までずっとゴロゴロしていた。だからか体を伸ばすとバキバキバキっと音がした。  そして立ち上がって、洞窟内のどこかに居た鬼神を誘う。散歩中に適当に食べれる間食類を作り始めた。 ☆ 「さてさて、行こっか!」  美玲は準備を終えたのを確認してそう言う。美玲の上にはフィルドが肩車されていた。 「あー…ちょっと待ってな、持ち物の最終確認するから」 「あ、うん」  陵はアイテムボックスの中に必要な物をちゃんと入れたかを確認した。 「じゃあ、フィルドは貸して」  し終えてからそう言う。 「えー…」 「えー、じゃない。いざとなった時に銃が撃てないのは困るだろ?」  陵はフィルドを美玲の上から奪って、自分の上に乗せた。 「フィルド、大丈夫か?」 「大丈夫、お兄ちゃん」 「そっか。鬼神と美玲が索敵をお願い。基本的に襲ってくるまでは攻撃しないで」  陵は2人にそう告げた。 「うん」「わかった」 「それから聖神は…うん、手が開かなくなったら手伝って」 「わかった」  聖神にはそう告げる。聖神の戦闘能力は皆無に近いので仕方ないと言えば仕方がない。 「さてと、…行こっか」  陵は最後に周りの顔を見回してからそう言った。 ☆☆ 「森の中は険しいね〜」  森の中を暫く歩き続けると美玲がほんわりと呟く。 「だな、大きい雑草とかも多いし…」  返すのは陵。そんな彼らは全員(フィルド以外)、陵が"投影"した刀を持って、大き過ぎる雑草を切り落としながら進んでいた。 「あ、陵っ! あれ果物っぽいよ??」 「んー…食べても問題は無いみたいだな」  すると突然、美玲が木々に実っている果物っぽい物を見つけた。すぐに陵が鑑定する。結果は食べれるらしい、…味は保証されないが…。 「私が取ってこよう」  鬼神がそう言う。 「んーん、その必要は無いよ」  だが、美玲は鬼神が木に登るのを止めて、光線銃を木の上にある木の実に狙いを定めた。そしてトリガーを引く。  バキっ!  そんな音と共に木々が折れて、その枝ごと果物は落下してしまった。 「美玲、次からはちゃんと木に登ろうか?」 「…ごめん」  陵は美玲をたしなめるような口調で言う。果物を手に入れる度に木の枝を折っていたら、やがて果物は取れなくなってしまうだろうから。  完全な自然破壊になってしまった。 「ま、次からな。じゃあ…その果物を取ってみようか」  陵は落ちた木の枝ごと拾い上げて、それにくっ付いている木の実を採った。形的にはみかんの様な感じだ。 「みかんかな?」 「みかんだな」 「「みかん?」」 「お姉ちゃんみかんって何ー?」  陵が手に取って、それを見た美玲が呟き、聖神と鬼神はその呟きに首を捻る。最後はフィルドだ。 「剥いてみる?」 「良いよ」 「じゃあ…」  陵は美玲からのゴーサインを元に、みかんらしき物を剥いた。 「わわっ! オレンジ色してるっ! 本当にみかんじゃんっ!!」 「これ…洗わないで食べて大丈夫か?」 「皮の中にあるから平気なんじゃない??」 「はむ…すっぱっ!?レモンかよっ!?」  陵は1つだけちぎって口に放り込んだ。そんなに酸っぱかったらしい。 「私にも1個ちょうだい」 「…はい」 「酸っぱい〜」  手渡されたそれを食べた美玲も、陵と同じ様に思わず口を抑えた。 「私達も…」 「はい、一つずつ」 「「ありがとう」」  鬼神と聖神にもお裾分けしてみる。 「つっ〜〜!?」「これは…その、酸っぱいな」  聖神はその酸っぱさに顔を赤くし、鬼神もほんのりと顔を赤くしながらも仏頂面を保っていた。 「僕も食べたいなあ…」  当然大人達と青年達が楽しそうに盛り上がっていたら、幼児も食べてみたくなるのは道理で…。 「酸っぱいよ…?」  美玲はそんなフィルドに恐る恐るという感じでそう言うと… 「だって楽しそうだし…」  フィルドは少しだけつまんなさそうに言った。 「美玲、水を用意して」 「え? あ、うん」  陵はそんなフィルドに、みかんらしき恐ろしく酸っぱい物を食べさせる事に決めたようだ。  口に入ったらすぐに流せる様にと、美玲に水を用意させた。 「陵隊長っ!水の準備出来ましたっ!」 「美玲、ご苦労。って事で聖神はフィルドを持って」  美玲の悪ふざけに若干ノリながらも、陵はフィルドに食べさせるべく、聖神にフィルドを渡す。 「受け取った」  聖神はフィルドを抱える。 「はい、あーん」  陵は聖神にフィルドを渡して、すぐに彼の口にみかんらしき物を入れ込んだ。 「はむ…っつ…ぷるぷるぷるぷる」  酸っぱ過ぎたせいでフィルドは涙目になる。 「つ…辛かったら吐き出して良いからな?」  陵が優しくそう言うと、首をふるふるして嫌だとフィルドは意思表示した。  そのまま何とか脆弱な2歳児の顎をなんとかなんとか動かして、なんとか彼は飲み込んだ。  存外意地っ張りなのかもしれない。 「はいっ! 水っ!!」  美玲は水の入ったコップを勢い良くフィルドに突き出す。朧気ながらも彼はそれを手に取って勢い良く飲んだ。酸味を口の中から押し流す様に…。 「げふっ!?げふっ!げふっ!」 「「!?」」 「フィルド? 大丈夫?」  フィルドを抱えていた聖神は彼の背中を擦る。…すると暫くして収まったようだ。 「…僕、それ嫌い」 (そうなるよねーーー!!)  それからフィルドは涙渇かぬうちにそう言う、美玲は案の定だと思った。 「フィルドはこれに懲りて忠告を聞くようにしないとな」  陵がそんなフィルドにそう言う。  それは"大人の味がわからない子供だから"に近いニュアンスを含めた言葉だった。それは小さい子供がコーヒーを美味しいと思わないのと一緒だ。 「はい…はんせいする…」  美玲の忠告を聞いておけば良かったなとフィルドは心の底から思った。 「じゃあ、ここにある果物はちょこっとだけ採ったら移動しようか。料理にも使えそうだし」 「えっ!?」  フィルドはそんな陵の提案に、目が飛び出そうになるほどに驚く。 「…ぼ、僕これ嫌い」 「わかってる。ここまで酸っぱくしないから平気だって」 「ふえ…」 「まあまあ、任せなさいって」  嫌いな物が食卓に並ぶという恐怖に泣きそうになるフィルドに、陵はそれだけを告げて、木の実採りを始めるのだった。 ☆☆☆ 「ほえー…、近くにこんな草原があったんだね~」  木の実を回収してから気の向くままに彼らは歩き続けた。すると、1箇所だけ森が開けた草原を見つけた。  そこは不自然なまでに開けていて、まるで何者かの手が入ったかの様にも見えた。 「え? …嘘?」  彼らの視界には見た事のある動物が目に入る。 「…嘘じゃない」  その草原に色は黒だけの1頭の牛が眠っていた。陵と美玲は地球に居る牛にそっくりなので、それ故に驚く。 「あれは魔牛と言って、とても温厚な事で有名な魔物だ」  鬼神が珍しくその牛について解説した。 「…あれ、魔物なの?」 「ただの牛と全く同じ姿をしているが、あれは牛神と呼ばれる神の眷属なのだ。私達も牛神様には世話になった事がある」  美玲の問い掛けに鬼神はそう返した。きっと彼らは封印される前の時代に牛神とやらに出会った事があるのだろう。  そんな事を話しているとその魔牛は立ち上がり、彼らの方を向いた。そしてなんと、近寄って来たのだ。 「ねえ?温厚なんじゃないの?」  美玲はこちらに近づいてくる魔牛に警戒の色を強め、更には光線銃ハンドガンを取り出す。 「聖神はフィルドを抱えて後ろに待機、鬼神と俺は前衛だ」  陵は美玲の行動を見た次の瞬間にそう指示を出した。温厚だと聞いてるからといって無警戒に魔牛と向き合う事は出来なかった。  鬼神と陵は共に刀を抜いて戦闘態勢に入った。 『久しぶりだな。鬼神、聖神よ。…それからその新たな黒髪は新たな勇者か?』  そんな彼らの頭には見知らぬ声が響いた。どうやら目の前の牛が彼らに話し掛けているようだ。 「…その声はミノリスさんですか?」  鬼神の戦闘態勢が、そんな彼自身の声と共に途切れた。 『うむ、久しいな』 「その件はどうも。…しかし、その、貴方は牛神様のお膝元にいらっしゃるべきでは?」  鬼神は丁寧な物腰でその魔牛-ミノリス-にそう告げた。 『儂の首に引っかかっとるのがその牛神様だ』 「!? なんですって? その…何故、その様なお姿に?」  ミノリスが告げるように彼の首元にはネックレスの様な物が引っかかっていた。 『おおかた、主らと同じだろう。牛神様も封印されてしまったのだ』 「…そうだったのですか」 『ここに儂が来たのは…まあ、簡単に言えば主らに会う事が目的だった。誰が封印を外したのだろう?とな』  そんなミノリスと牛神の目的は鬼神と聖神の姿を確かめる事だった。 『そこの男か?』  ミノリスは鬼神の隣で警戒を一切解く気配すらない陵に問い掛ける。 『鬼神と契約しているのはお主だろう?』 「・・・」  ミノリスの問いに陵は答えない。 『何とか言ったらどうだ?』 「…何か答えないといけない義理でもあるのか?」  陵の口からは恐ろしく冷たい音が発せられる。ミノリスはこの世界の神の眷属である事を知ったからこその返事だった。  _________こいつは俺達を転移させた神々の眷属だ。  鬼神や聖神は別世界から来た存在であったから、そこまでの嫌悪感を陵も美玲も抱かなかった。  だが、目の前の存在は? …そう、ほぼ間違いなくこの世界に生まれ落ちた存在だと、神々のお膝元に居る存在だと半ば彼らは確信していた。そして嫌悪を抱く。 『何を怒っている?』 「はっ!? 笑わせるなよ。…お前らが俺達を巻き込んだんだろうが」  やがて嫌悪に憎悪が入り混じり始める。そして"相思狂愛"が無意識化で発現する。陵と美玲の周りには、思わず触れると気持ち悪くなってしまう様な、そんなオーラがにじみ始めた。 「!? まずいっ」  聖神がそのオーラにフィルドが触れないようにと、慌てて結界を張るくらいには恐ろしい物だった。 「どこでどの神と繋がってるかもわからないし…ここで死んでもらえたらうれしいな」  陵はゆらりとミノリスに向けて一歩を踏み出した。 『ま、まてっ! 儂に戦う気は無いっ!!』  ミノリスは慌てて止めようとするが陵はまっすぐに彼に向かって行く。後ろでは光線銃-神具-の銃口をその図体に向けたままの美玲。 「俺達はそれをどうやって信用したら良い? 神々の眷属って言うくらいだしここで殺しとかないとな…」 『我々は勇者召喚をした神々とは敵対する立場に居る! そこの鬼神や聖神と同じだ!!』  それでも止まらない陵から後ずさり、逃げようとしたミノリス。  パァン!  ミノリスの後ろの足元には光弾が美玲から放たれた。…絶対に逃がさないという意思表示だ。 『っつ!?』 「そう逃げるなよ。…なあ?」 「陵っ! 待ってくれっ!!」  鬼神は陵を止める為にミノリスと陵の間に入り込んだ。 「ここで殺しとかないと後々面倒になるかもしれない。…それをわかっててそんな事を言ってるのか?」 「牛神様は大丈夫だ、私が保証する。だから、その刀を仕舞ってくれ」  基本的に美玲以外を信用していない陵からしてみれば、家族でも何でもない存在に対して鬼神が"保証する"などとほざく意味が全く持ってわからなかったが、それでも鬼神がそう言った為に刀を自らのアイテムボックスに仕舞った。…と同時に発現していた"相思狂愛"も収まったようだ。 「…敵対したら必ず殺す」  陵はそれだけを吐き捨てるようにミノリスに言い、美玲の元へと戻った。  それから美玲と共に聖神が抱えていたフィルドの元へと戻り、まるで今までの事が嘘だったかのようにフィルドと戯れ始めた。  そして草原に座れるように敷物をしいてから地面に座り込み、のんびりとする為の出来る準備を整えるのだった。 『鬼神よ。…とんでもない者を主としたのだな』  敷物の上で戯れ始めた彼らを見てミノリスがしみじみにそう呟く。 「そうですね」  鬼神はそう答えるだけだった。
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