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第二部-冒険者に出会う。

「ふーんふふーんふーん♪」  洞窟のある森の中では美玲のご機嫌そうな鼻唄が響いていた。  森…とは言っても洞窟の周りの木々は切り倒されて洞窟の家具になったりしている為、洗濯物を干すのにはもってこいな暖かな陽射しが当たっていた。  そして、そんな陽に洗濯物を干している最中だと言う訳だ。…美玲が。 「ふんふんふふーん♪」 「おーい、美玲、朝飯作り終わったぞ」  そんな中、彼の声が彼女に届く。朝とは言っても、もう既に昼に近い朝だ。 「はーい、今行くねー」  美玲は洗濯物を干したまま、洞窟の出入口前に置かれているウッドテーブルに向かった。  彼女らが食べている間に、魔物に洗濯物をやられてしまうのではないかという不安も無くはないが、それでも洞窟の出入口からその洗濯物達の様子を見る事が出来るので、誰かが気付くだろうという心持ちだった。 「あ、フィルドも起きたんだね」 「おはよう、お姉ちゃん」 「おはおは〜」  フィルドに遠巻きに母親が死んだ事を告げてから、もう既に20日が経っていた。  フィルドは美玲の事をお姉ちゃんと呼ぶ様になり、陵の事をお兄ちゃんと呼ぶ様になった。  フィルドが普通に美玲や聖神と話せるようになったのは、彼と彼女らが出会い、彼女らが構いまくり続けて10日が経ってからだった。  母親が死んでしまったショックに彼は塞ぎ込んでしまったのだ。 「ふふふ〜」 「んー」  美玲がフィルドの頭を撫で、フィルドはされるがままになる。 「美玲、ずるい」 「いいじゃーん、今日はフィルドに触ってなかったんだから」  昨日は聖神と鬼神の寝床でフィルドは寝ていた為、この時間にフィルドが起き出してくるまで美玲は彼の姿を見ていなかった。当然触ってもいない。 「母さん…止め…」  美玲が無茶苦茶に頭を撫でた為、フィルドは聖神に助けを求めた。  聖神は母親役になったらしい。高校生だった彼らが親代わりになるのは厳しかったのだろう。 「美玲、やめてあげて」 「あー、ちょっとやり過ぎちゃったね。ごめんごめん」  美玲は聖神に注意されてから、自身がボサボサにしたフィルドの髪を軽くパッパッと整えた。  それでも、そんな塞ぎ込んだ彼の姿はあまり見えなくなっていた。  それはきっと、真の母親が自身の汚れた姿を彼に一切見せなかったおかげでトラウマを鮮明に抱える事が無かった事と、しつこいまでに彼女らが彼の事を構い倒したおかげだろう。 「ほらほら、はしゃぐのもそこまでにしろ」 「陵の言う通りだな。朝食の準備も出来たのだから行儀よく食べなさい」  そんな中、朝食の準備を終えた鬼神と陵がウッドテーブルにやって来た。  鬼神はフィルドを忙し始めてから陵の事を"主"とは呼ばなくなった。フィルドに父さんと鬼神は呼ばれてしまっていて、陵はお兄ちゃんと呼ばれてしまっている。父さんがお兄ちゃんを"主"と呼ぶのはおかしいだろう?という話だ。 「はーい」 「美玲より行儀が良いんじゃないか?」  フィルドが気持ち良く返事をして、陵が茶化した様にそう言う。 「えー、ちょっと、それは無いんじゃない??」 「じゃあ、もうちょっと自重してやれって」 「二人共、フィルドの前だぞ?」  鬼神が本格的にふざけようとした陵と美玲に釘を刺した。 「「はーい」」  陵は大人しく朝食をウッドテーブルの上に置いて自分の席-美玲の隣-に座った。彼らが座ったのは囲ったテーブルと同じでウッドチェアだ。  彼らの和気藹々とした朝食の時間が始まった。 ☆☆  そうやって和気藹々と彼らが食事を取っていると、鬼神の目にとある男女のグループが見えた。そのグループは剣や弓矢などで武装していた為、少しだけ彼らの食卓に緊張が走った。  陵は鬼神の目の合図ですぐにそのグループに気が付き、美玲はテーブルの下に-そのグループとフィルドに見えない様に-光線銃サブマシンガンを用意する。  聖神はフィルドを抱えて何時でも退避出来る様に‐元々フィルドの隣に座っていたのにもかからわず‐少しだけ彼の方に近付いた。 「すまない、この地に盗賊が居る筈なんだが…」  そんな中、武装している男女のグループが彼らに近付いて来て、1人が彼らに訊ねた。流石に和気藹々としている彼らを、盗賊と間違えて襲ってくることは無かったようだ。 「盗賊ってこれのことか?」  偶々そのグループが近付いて来た側に陵が居た為に、陵はフィルドには見えない様にそのグループに()を見せた。 「「「「!?」」」」 「これの事に話があるなら、食卓じゃない所で頼んでも良いか?」  陵はフィルドに盗賊の話を聞かれたくなかったのだ。だって、彼の母親はフィルドが盗賊に捕まった記憶を残していないのだから。 「…わかった。聞こう」 「ありがとう。鬼神達は構わずに食べててくれ」  陵は食卓にそれだけを言い残して、その男女のグループと共に少し食卓から距離を取った。 「で、貴方達はいったい何者なんですか?」 「私達は冒険者だよ」  陵はそのグループに問い訊ねるとその中の1人がそう答えた。 「冒険者? …どういう職種ですか?」  陵は当然その様な"お話"も知っている為、"冒険者"という言葉もだいたい意味はわかっているが、それでも問い訊ねた。 「まさか、冒険者を知らないのか??」 「いや、貴方の常識で驚かれても困りますけど…」  驚いたように口にする男に、陵は少し棘を付けて返す。 「ああ、いや、すまない。ええっと、冒険者と言うのは様々な仕事を斡旋してもらう職業だ。主には魔物を狩ったりとか、ランクが上がれば古跡の探索などが出来たりするので冒険者と呼ばれている」 「…なるほど、冒険者と言うよりは雑用係みたいなものですか?」  こうやって盗賊を探しに来たのは恐らく討伐する為だろうと思っていた陵は、便利道具みたいなものだなと"冒険者"と言う言葉に思った。だって、普通の悪党は国や都市の然るべき軍隊や警備隊が出てきて捕まえる物だろうから…。 「そ、それは否定できないな」 「ですよね。貴方達は恐らく盗賊の討伐に着た者達だとは思うのですが…、生憎目的は無くなってしまった訳ですけれどもどうしますか?」  そこで陵は鬼神を纏っていない"狂鬼神刀"を手に持った。当然、それを見た瞬間に相手のグループも剣に手を掛ける。 「まあ、私達を盗賊代わりに殺そうと言うのなら…今ここで死んでもらいますけど」  そして冷ややかにそう告げた。安易に馴れ馴れしくするなという意思表示と、無茶な事を言うのならいつでも敵対してやるぞという意思表示の二つを込めて…だ。 「いや、大丈夫だ。その様な事はしない」 「・・・」 「その代わりと言う訳では無いが、盗賊が居たという何か証拠に為りそうな物を貰えないだろうか?」  相手グループは一切の気を抜かずに、そのリーダーであろう女がそう言った。 「…これで足りますか?」  陵はそんな彼らに盗賊の頭領であった死骸を見せた。 「「「「!?」」」それは賞金首の…」 「…足りるんですか?」  彼らが驚こうが驚かなかろうが陵には心底でどうでも良い為、彼らの答えを急かした。 「も、勿論足りる。十分だ。だが…それは懸賞金が掛かっていてな、それを証明に出した時に発生する金はどうしたら良い?」 「あー…その辺は好きにしてください。私達は街には行かないので金なんて持っていても意味が無いんです」  陵はそう告げて、その取り出した死骸を蹴り飛ばして彼らにパスした。 「では、話も終わったみたいなので私は失礼しますね」  そうして、陵は彼らに根掘り葉掘り聞かれる前に会話を断ち切って、自らの食卓へと戻る事にするのだった。 ☆☆ 「どうだったの? 陵?」  自身の隣に帰って来た陵に美玲は訊ねた。 「そんなに悪そうな人達じゃなかったかな? でもまあ、色々と聞かれる前に話は切ったけど」  悪そうな人では無くても赤の他人である事に変わりはない。だから、警戒は解かなかったし常に一線を置いた上で話し続けていた。 「それが正しいだろう。変にスキを見せても食われるだけだからな」  鬼神はそんな陵に同意する様に頷いた。 「はあ…冷めちゃったな」  彼らの朝食は肉を出来るだけ細かく切った物とネギをみじん切りにした物を塩をかけ、混ぜ合わせて炒めただけの物だ。  見た目はあまりに質素だが、それでも味はあって美味しかった。  陵も美玲も、地球程美味しくは無い料理でも、食べれられる物であれば文句は言わないし、そんなくだらない事の為に街などに出る気にはならなかった。 「あはは、もう一回炒め直したら?」 「いや、良いよ。それよりこの後はどうする?」  陵は美玲の提案を受け流しつつも、今日何しようか?という問題を彼らにぶつけた。 「私はフィルドと遊んでまーす!」  美玲はそうらしい。 「私も」  聖神もそのつもりらしい。 「私は狩りにでも行ってくるかな」  鬼神は食材確保の為に森の中をふらりと歩く予定の様だ。 「…じゃあ、俺は洞窟の掃除でもしようかな? 天気も良いし」 「天気が良い事と、掃除をする事に関係があるのか??」  陵がそう言ったのに対して思わず鬼神がツッコむ。 「え? 天気が明るいと部屋の中も綺麗にしたくなるだろ?」 「…まあ、何となく理解した」  鬼神は気持ち半分の所でそう返した。 「食べ終わった~」  フィルドがお行儀よく使っていたスプーンをお皿の上に置いてそう言った。 「ふふ、食べ終わったのなら水で歯を磨く。ほら、行こう」  聖神はそんなフィルドをウッドチェアから降ろして、歯を磨かせるために食卓から少し離れようとした。当然歯を磨くと言ってもブラシなどは無いから、木の棒で代用している。  これは陵と美玲の提案で、木の棒に虫歯に対しての作用がある訳では無いが、何か硬い物で歯を磨くだけでも虫歯予防になるので、やれるならやらせた方が良いと言う物だった。  当然、使う木の棒には鬼神の鬼火で火を程よく通し、更には聖神の"聖力"による殺菌を行っているのでそう言う感染病に対しても余念は無い。  因みに陵も美玲もこれらを使っている。 「私も私も」 「じゃあ、美玲も一緒に」  そうしてフィルドと美玲と聖神は、少しだけ食卓から距離を取って水を取り出す。この水は近くの川から取って来た水を沸騰させたり何なりしたもので、当然、水への病気に対しての意識は高かった。  フィルドはまだ年端もいかない幼児である。何を境に病に侵されて死に至るのかわからない。だから、慎重になって当然だ。  一旦口の中に水を含んで口を濯ぐ、それから焼き焦げた木の棒を自身らの歯にゴシゴシゴシと擦り付ける。前歯から奥歯までをひたすらに擦り続ける。  すると少しだけ木くずが出てしまう事もあるが、それは最後の仕上げとして水で口を濯いで終わりだ。  そんな彼女らを見て"美玲は上手くやれてるな"としみじみに陵は思った。フィルドの面倒を見ると決めて世話をし始めた最初の方は、彼が母親を失ったショックで一切話さなかった為、美玲が陵に多くの泣き言を吐いたりしていたのだ。  それでも今はそんな影も薄れつつあるし、だからこそ、今の光景は温かいと思えるものだった。 「食べ終わったし、食器の片付けをしようかな?」 「私もやった方が良いか?」 「いや、俺だけで十分だ。その代わり美味しい肉をよろしく」 「あいわかった。なるべく期待に添えられるように頑張るとしよう」  鬼神もその食卓から立ち上がって、彼女らとは反対方向に向かって歩いて行った。やがて、彼の姿は陵の目から見えなくなった。 「ん~~~…、よし、始めよっと」  伸びをする陵。食器を洗い、洞窟を綺麗にする。洞窟なので土を取り切る事は出来ないが、それでも何かを綺麗に出来ると思って彼は立ち上がった。
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