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第二部-裏-新たな拠点。(2)

 ティルはレオンに守られながら街をぶらりぶらりと歩いていた。  そんなティルの目に映るのは、壊された教会や健気に商売をしている商人達、また、そんな商人から買う人達やそれを陰から見つめる貧困層の子供達…。 「レオン師匠」 「好きにしろって言われたろ? 俺を使って何が出来るか考えな」  ティルは早速貧困層の子供達が見えた路地裏に入り込んだ。そんな入り込んだ彼の身長は163cmくらいで、子供達から見れば大人に見えてしまう身長だった。 「っつ!?」  踏み入れた瞬間にティルに対して石が投げつけられる。子供達のこっちに来るなという意思表示だろう。 「・・・」  ティルはそれを躱した為、レオンは動かなかった。  それでも歩く。先に進む。すると1人の子供が餓死寸前になっているのを見つけた。  食べ物が無く、飢えている。いや…半死状態だと言っても過言ではない。  ティルはそんな子供の前に膝を着いて…_______どうしよう?  そう、ティルは何も考えないでここに来ていたのだ。子供達に信用される為の術を持たずにここに来たのだ。 「レオン師匠、彼を助ける術はありますか?」  だから、次の手段を考える。探す。 「まあ、あるにはあるな」  煮え切らない答えを告げるレオン。 「お願いしても良いですか?」 「あーんーー…おうよ、良いぜ」  少し悩んだ仕草を見せたレオンだったが、それでも良いと言った。簡単に見つかった。 「…ありがとうございます」  ティルはその半死状態の子供を優しく抱え上げて屋敷に戻る事に決めた。  そうして、その場に居る子供達とは一切口をきくことなくその路地裏を後にするのだった。 ☆☆☆  そんな中、その街から離れて行こうとしていた魔女がいた。彼女の名はエルージア、シンに振られた女だった。 (少しだけ、認められる様に頑張ってみよう)  ミリが態々彼女の前でシンが認めてくれる様な条件を提示させた…いや、絶対に受け入れてくれない訳では無いと示しただけだが、それでも希望はあるのだと示してくれた。  魔女は獣とも交われる。だから、人から忌み嫌われる存在である。  だからこそ、人と同じ扱いをしてくれた彼に好意を持った。だがそれは、単純過ぎるが故にシンは嫌った。  そんな事で好意などを持つのなら、別に私でなくても良いだろうと。  もし仮に、自身の周りに女性が居なければ可能性はあったかもしれないが、彼の周りにはミリが居てレイが居る。  "要らない"と言えてしまったのだ。 (魔女として扱ってくれなかったのが、…嬉しかったから)  彼女は旅立つ前に思考する。どうやったら認められる様になるか、どうやったら彼の目を引けるか。  肢体では彼の目は引けない、だって美しい吸血鬼が彼の周りには居るから。  じゃあ、力? …でも、彼や彼女らが自身が超えられない程の力を持っている事を理解している。  …でも、持って生まれた物は変えられない。変えられるとしたら今の自身の力だけだろう。 (本…伝承探しでもしてみよう)  手っ取り早く力を手に入れるにはそれしか無いと考えた。…仮に自身が殺されるのならそれでも良いだろうと、恋半ばで死を迎えるのも魔女らしいのではと考えて…。 (…行こう)  こうして1人の魔女は旅立って行った。 ☆☆☆☆ 「住民はきっと増えないでしょうねえ…」  ミリは書斎にある情報を見てそう呟く。 「それでも良い。…国として、街として機能していれば十分だ。あくまで私達にとっては道具でしかないのだから」  シンはその呟きにそう返す。  こんっ、こんっ  そんなミリとシンが対岸に座っているソファーの、その間に置かれているテーブルにレイがカップを二つ置いた。 「こんな国に情を傾ける意味は無いのですから」  レイは置いてからボソリと告げる。 「ま、そうよね。土地よりも民衆をどれだけ陶酔させられるかに掛かってくるでしょうし」  ミリは持っていた紙を、まるで"意味は無い"とでも言いたげにテーブルに叩き付けた。 「レイは見に行っているんだったな?」 「ええ、食材はこちらで賄おうと思ってますから」  シンはレイにそう問い尋ねると、レイからはそんな答えが返ってくる。 「暫く続けてくれると助かる。街の情報が手に入る良い機会だ」 「わかっています。ティルを連れていったのもそれが理由ですから」  レイ以外に、アイしかこの街の情報を収集して来れないのはかなり問題だ。だからティルが子分を作るまでは、街に手を付けるのは先延ばしになってしまうだろう。…人手が足りていないのだ。  当然、街の衛兵なども足りない。"人族至上主義者"をその職から辞めさせた所、人数が激減してしまったからだ。  かなり深刻な問題になってしまっていた。だが、シン達が住民を気にしなければ"だから何だ"で終わってしまうのが余計にタチが悪い。  それが理由でシンに頭を使わせないから…。  コンコン  書斎の部屋がノックされる。 「入っていい」  シンがそう言うと1人の汚らしい半死状態の人型を抱えてティルが入って来た。その後ろにはレオンも居る。 「この子を助けてもらえませんか?」  ティルはすぐ様にそう告げる。 「…レイ、フィリカを連れて来い」 「承知しました」  レイはその場から転移して消えてしまった。  それからすぐにフィリカを連れて、レイは戻ってきた。 「ティル、その子を床に寝かせなさい」  フィリカはティルにそう指示をして、寝かされた半死状態の子供に手を当てて見ていく。 「レイさん、食べやすい食事の用意をお願いします」 「わかりました」 「ティル、私の力ではあくまで命を吹き返す事までしか出来ません。そこから先は貴方が面倒を見なければいけません。きっと彼は、腕もまともに上がらないくらいに衰弱しているでしょうから」  フィリカは体に触れた手から淡い光を放つ。衰弱している体に癒しと活力を与えるバフを…。 「目が覚めたようです。貴方の部屋にでも寝かせてあげなさい。それから食事も貴方の手から与えてやるように」  半死状態だった少年が目を覚ました。けれども身体は弱り過ぎていて動かせる気配が無い。 「ありがとうございます!」 「大きな声を出してはいけません」 「…はい、ありがとうございました」  ティルはもう1度礼をして、少年を抱えて、その書斎をあとにした。 「良かったのですか?」  フィリカはシンに対して"言われたようにはしたけれども…"という目を向けた。 「あれで良い。彼が優秀になった時に、損得だけで私達との関わりから離れない様にするには」 「まあ、シンさんがそう言うのであれば私は何も言いませんけど」  シンがそう言いフィリカはそう返す。その書斎はティルが居ない大人だけの光景へと戻って行った。 ☆☆ 「よっと、うし」  腕に物凄く軽い少年を抱いている為に、ティルは自分の寝室の扉を開けられなくて困っていたが、何とか開ける事に成功したようだ。 「ベッドは一個しかねえ、我慢してくれよ?」  返事の出来ない少年にさっきの態度とは打って変わって、かなり軟化した態度でティルは言った。  そんなティルを見て少年は、おぼろげな冴えない頭で"何なんだろうこの人?"と思う。だが、そこには警戒の色はあまり含まれていなかった。  いや、その少年がティルのことを警戒しないような環境をティル自身が整えたのだ。  元より、少年の命はあと半日もすれば尽きていただろう。けれども、その結果に態々ティルは介入した。  当然そこには少年を助けたいと言う意思も彼にはあったかもしれない、でもそれ以上に半死の状態から救うことが出来たのなら、警戒などされずに済むかもしれないと言う打算在り気だった。  コンコン  少年を自身のベッドに寝かし終えたティルの元にノック音がやってくる。 (レイ様かな?)  ティルはそう思いながらも寝室の扉を開けた。すると、予想通りにそこにはレイが居た。 「こちらがパンとスープです。先程の少年に与える際には、パンをスープに浸して少しふやかしてからが良いでしょう。その際にはこちらのスプーンを使ってください」  レイはお盆をティルに渡してからそう丁寧に説明した。 「態々ありがとうございます」 「いえいえ、頑張ってくださいね」  レイはこのままティルが自身の事を見えなくなるまで見送るだろうことを予想し、彼を彼の寝室に押し込んで扉を閉めてしまった。 (本当に頭が上がらない…)  そんな意図も読めないティルでは無く、少しだけ申し訳ない気持ちになった。それでも今は、そっちに集中しろとのレイからのエールだと思って、今やるべき目の前の事に取り組むことにした。 「じゃあ、飯食わせてやるから大人しく食えよ? 毒も入ってねえから安心しろ、態々拾って来たんだから…」  ティルはベッドのすぐ隣にあるサイドテーブルにお盆を置いて、先程寝かせた少年の上半身を起き上がらせる。  彼自身もベッドに腰掛けてそのお盆に手を伸ばした。  それからパンを千切ってスープに浮かせてふやけさせてからスプーンで掬う。 「ほら、口をあけろ」  ティルはそう言って少年に口を開けさせ、スプーンで少年の口にパンを流し込んだ。 「噛む力がねえなら飲み込むだけで良い」  少年の喉仏が上下して食事をしっかり取れている事がわかった彼は、更にもう一口、更にもう一口と彼の口の中に入れて行く。 「…うし、食べ終わったなら、もう寝ちまえ。俺は暫く戻って来ねえけど襲われるわけじゃねえから安心しろよ」  ティルはまた少年をベッドに横たわらせる。そして空になった食器の乗った盆を片手に持ち、自身の寝室を後にした。  _______彼はいったい何なんだろう ☆☆☆  それからティルはレイが使っている調理場に入り食器を洗う。その手付きは慣れたものだった。その異様な馴染み具合から、自身と妹が家畜以下の扱いをされていた事を今でも思い出せてしまう。  …あの少年と大して変わらない。いや、俺の方がこうやって齢年10以上も生きているのだからきっと彼よりも幸せなのだろう。そう思う。  そして最後に"ここまで生きる選択を俺は選べていた"事を実感する。  彼はまだ知らない。比べる必要などない人との付き合い方を…。 「調理場を使っているのは…ティルですか」  食器を洗っている所に顔を出したのは、この場の主であるレイだった。 「あ、使わせてもらっています」  ティルはそう返して洗った食器の水を切る。そして、干し台に立てかけた。 「レイ様、今から組手を付き合って貰えませんか?」  そして、レイにお願いをする。不安とは呼べない、されどもぐちゃぐちゃとした、居ても立ってもいられない気持ちになってしまったからだ。  レイはティルに戦闘技能を教える1人で、主に無形の徒手空拳を教えている。 「良いでしょう。最初は少し軽めに行いましょうか」  レイはそんなティルの申し出に、まるで心を見透かすようにそう告げた。  少し"軽め"という言葉にぎくりとしたティルだったが、それを殺す様にして頷いた。 ☆  そしてレイの後ろに付いて行き、ティルはその屋敷の庭に立っていた。  もう既に少しずつ陽は暗くなっていて、ここから訓練をするのならば、終わるのは完全に真っ暗になってからだろうと思える。 「来なさい」  レイは何も構えずにティルにそう告げる。 「…行きます」  対してティルは手を前に出して構えの様な物を取る。完全に我流だから()()()なのだ。  そして、足を踏み出し走り出した。  彼の横殴りを何の事無く受け流すレイ、彼の横殴りを何の事無く受け流すレイ、彼の攻撃バリエーションはあまり多くない。  それが段々とバリエーションに富んだ動きに変わってくる。手刀、拳、振り下ろし、アッパー、蹴り、ハイキック、脛蹴り、etc…と知っている動きを全て試すが、当然レイに当たる筈が無い。 「ティル、ここからは私なりのお手本を見せる時間です。頑張って吸収してください」  レイはティルの動きを無駄の省いた動きに直してから、その動きで彼に反撃を始めた。  拳は脇を締めて突き出す、手刀は力を入れずにしならせるように、振り下ろしも同様に、蹴りは相手を突き飛ばすタイプと鞭の様にしならせるタイプを、ハイキックは上段下段中段の順に蹴り込み、振り抜いては隙が出来てしまう事を示す。  他にも色々とあるが、省略する。  そして締めの一撃とでも言わんばかりに脛蹴りの代わりに足払いをする。 「だあっ!?」  ティルは頭から地面に突っ込んだ。 「では、もう一度どうぞ」  レイはティルが立ち上がったのを確認してからそう言った。 ☆☆ 「今までの私の動きをそのまま使うのも良し、自分なりに改良して使うも良し。…では、私は夕食の支度があるので失礼しますね」  それから1、2時間くらいが経ち、そう告げてレイは何処かへと転移してしまった。  ティルにはまだ、レオンとの訓練が残っている事を忘れてはいけない。
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