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第一部‐洞窟の片付けとちょっとした改装。

「…全部、浄化し終えた」  聖神は陵や鬼神が死体を運び終えた後、美玲と共に洞窟を歩き回って、隅から隅までを浄化して歩いた。 「ん、ありがと」 「私の得意分野だから。その子…抱かせて?」  聖神は美玲が丁寧に抱える男の子を抱えてみたいと言った。 「はい、気を付けてね? 首は座ってるけどさ」 「大丈夫」  壊れ物を扱う様に抱え:た聖神、それを横から見ていた美玲。実はこの子は眠ったままで、まだ目を覚ましていない。  やがてゆっくりとその子は目を覚ました。今、聖神がその子に掛かっていた呪いを解いたのだ。  恐らくその呪いは、母親が自身の殺される様を見せないようにと掛けた物だろう。 「ここは…どこ?…誰…?」  …言葉が発せられる程度には成熟してしまっているようだ。 「これからは私達が貴方の面倒を見る事になった」  聖神はその子を地面へと下ろして、目線を合わせてそう言った。 「…母さんは?」 「…貴方を守って魔物に食べられてしまった」  死んだ事は包み隠さずに伝えるが、それでも真実は幼子には告げられなかった。 「…?」  現状を理解出来ていないのだろう。いや、理解出来ぬ様に告げたのだから仕方が無い。 「君の名前はフィルドで合ってるよね??」  聖神の隣にしゃがんで目線を合わせ、美玲は彼にそう訊ねた。少し強引に話題を反らしたと言っても過言では無い。  コクっ  フィルドと呼ばれた子は頷く。 「うん、ありがとう。じゃあ、ご飯にしよっか」 「うん、フィルドもおいで」  美玲がそう言い、聖神が右も左も分からないフィルドの手を引いた。 ☆☆  一方その頃、鬼神と陵は家具を洞窟内に設置していた。それらの家具は天照大神から貰った家の中にあった物だ。 「テーブルとか椅子の下にはちゃんと布を敷いてくれよ??」 「鞣した魔物の皮があれば大丈夫だろう」  鬼神は先日に狩った大きな魔物の皮を絨毯の様に敷いて、その上にテーブルや椅子の足が削れない様にそれらを置いた。 「ふう、住処にするって色々と面倒だな…」 「仕方ない。だが…居住地があるのは良い事だ」 「まあ、鬼神がそう言うならやったかいがあったというか。…俺もこういう秘密基地っぽい所に住んでみたかったしな」  別に恩を売る為に居住地を探した訳じゃない、陵は何方かと言えば"なんか面白そう"と思い実行しただけだ。  まあ…確かに陵と美玲だけが性的な行為に及んで、片方はその場所すら与えられないとあっては居心地が悪いのも事実だ。  とは言え、母親が1人、残虐な行為の対象になっていたのを見てから、自身の相手と体を重ねようなどとは暫くは思えないのだろうが…。 「後は寝床だな」 「主らは持っているのだろう??」 「持ってるよ。だから鬼神のが必要になってくるんだけど…」 「それなら大きな皮を下に敷いてしまえば私は満足だ」 「…まあ、そう言うなら良いけどさ」  陵と鬼神はそれぞれ部屋として使われていたであろう場所を見て吟味していく。 「私はここが良い」  鬼神がそう言って示したのは、少し周りより小さめの部屋だった。 「ふーん…確かに小さい部屋って良いな」  寝床として使う為だけの部屋なのだから小さくても良いし、冬場に体温で部屋が暖かくなりやすいのも小さい方だろう。 「じゃあ、そこは鬼神に勝手にやってもらうとして…」 「うむ、人の手を借りずとも出来る」 「じゃあ、俺達は俺達用の部屋を探してくる」  鬼神とはそこで分かれ、陵は部屋探しを続ける。 「うーん…これだと少し大きい…」 「これは小さくて布団が広げられないし…」 「お?ここが丁度良い感じか?」  ふらりふらりと歩き回った陵は、ここにしようと決めたようだ。 (…地べたに布団を敷くのは嫌だな)  剥き出しの地面には敷きたくないと誰だって思うだろう。人が使っていたとは言え、所詮盗賊だ。生活環境が素晴らしく綺麗な訳では無い。  当然フローリングなんて無いし。 (鬼神が持ってなかったら、どこかで魔物を狩って来ないとな…)  魔物の皮を鞣す事が出来るのは陵達の中では鬼神のみで、当然高校生にそんな技術は無く…。 「年取ってるってそういう事なんだろうなあ…」  思わずボヤかざる得ない。若い様に見える鬼神も聖神も年を取っていると嫌でも実感させられてしまう。  そんな思考も"考えた所で変わらない"と打ち切り、陵は美玲達を探す事にした。 ☆ 「あ、陵」 「やっと見つけた」  陵と美玲と聖神が合流した。…それからフィルドも。 「この子か。俺の名前は陵、お前は?」  視線を合わせる為にしゃがんでから陵はそう言う。 「フィルド」 「よろしくな」  ぐしゃぐしゃと頭を撫でるだけにして、また立ち上がった。 「陵、そろそろお腹が空いちゃったんだけど…」 「あー…そうだな。鬼神に食材を出してもらわないと俺も何も出来ないしな」 「じゃあ、鬼神さんの所に行こっか」  そうして今度は4人でテクテクテクと歩き、鬼神が居るであろう部屋に辿り着いた。 「鬼神、部屋の調子はどうだ?」  陵が訊ねた。部屋の中は暖かそうな毛皮に包まれていた。 「問題無い」 「何か下に敷ける様な、そんな大きな革があったら欲しいんだけど…何か無いかな?」 「敷くだけで良いのならワイバーンの革でも使うか?」 「敷ければ何でもいい」  すると、鬼神が何処からとも無く大きな巻物巻きにされた革を取り出して、陵に渡した。 「助かる」  陵はそれを自身らのアイテムボックスに放り込んだ。 「って!?そうじゃないでしょっ!?」  美玲が叫ぶ。そうじゃない、ご飯の話をしに来たのに…と。 「あ、ごめん。鬼神、キリがいいなら調理を頼む。俺も手伝うから食材をよろしく」 「うん?ああ、そうだな。外で作るが構わないな?」 「洞窟の中で火を使う訳にはいかないだろ」  そうして、今度は5人で洞窟の外へと向かった。 ☆☆ 「フィルドは何がしたい?」  男組が調理に走っている間に、女組はフィルドと出来るだけコミュニケーションを取ろうとする。 「僕は…わからない。母さんは?」 「お母さんは…」  死んじゃったんだよ…とは美玲には告げられなかった。  さっきもそうだ。聖神も"食べられた"という言葉を使って、"死んだ"という事実から少しだけ目を反らさせようとしたのだ。  悲しみでは無い、けれども何かが自らの口から直接的に言わせる事を戸惑わせる。  …口が重い。あれだけ殺してきたのに…、そう美玲は思う。 「私は聖神、こっちが美玲って言うの。これからは私達を頼る。…良い??」  少しだけ凄む様に、聖神はフィルドの顔を覗き込み言った。 「う…うん」  それはまたもや話題を反らしただけだった。  それから聖神はキラキラと光る結晶の様な物を自身の背景に飛ばし、更にフィルドの意識を別の方向へと持っていこうとする。 「うわっ!凄い綺麗っ!!」  フィルドはそんな光景に、聖神の思惑通りに大はしゃぎする。  それはまるで、綺麗な結晶とは裏腹の隠してしまえたらなという想いを強調しているようでもあった。 「そらっ!」  更に美玲は小さなフィルドを上に持ち上げて肩車をした。まだ小さな子供だから元女子高生でも軽々と肩車が出来る。  段々とフィルドの中からも疑問が消えていく。  まだ一時的に…ではあるが、彼女らが説明出来ると思える年頃になるまで彼が育たなければ、きっとこうやって疑問を消す為の行動を繰り返すだろう。  だがそれは、1年、2年、3年と続けた頃に、彼に真の母親の顔を忘れさせてしまうのでは無いだろうか?  美玲は親に愛されて生きてきた人間だ。しかも自身を愛してくれる彼氏まで居る。  どうしようも無く一途な人の愛を感じてきた人間だ。だからこそ…それだけにフィルドの母親が愛した証拠を消してしまっても良いのだろうかと思う。  今話せば、彼の記憶に彼の母親の顔が留まるのではないかと悩む。きっと誤魔化してしまえば、やがて忘れてしまうだろう事も理解している。  …そんな情動を抑え込める程に、彼女の口は重く"死んだ"という言葉を告げられない。 「ふう…」  狡いと罵られるかもしれない方法を思い付いてしまった。 「フィルド、ちょっと森の奥に行こっか」 「美玲?」  聖神は突然の美玲の提案に疑問符を掲げる。 「ごめんなさい。…狡い私を許してね」 「・・・」  美玲は森の中に足を踏み入れた。当然聖神も美玲を放置する訳には行かずに美玲について行った。 ☆☆☆☆  暫くすると、美玲は魔物を見つけた。  ゴブリンだった。  美玲は銃で撃ち抜いた。 「美玲がやったの??」 「…うん」  肩車をしているフィルドに聞かれ、今からやろうとしている事に罪悪感に駆られながらも答える。 「すごいすごいっ!!」  フィルドはどうやら、母親に連れられて狩りを見た事があったようだ。もし仮に血潮が噴出す光景を初めて見たのだとしたら、流石にこんな反応は出来ないだろう。 「…あれ? 母さんって魔物に…」  フィルドの声はすぐに小さくなった。そう…美玲は魔物を見せて"自分の口から言えないが為に"事実認識を勝手にフィルドにさせようとしたのだ。  聖神が吐いた嘘を使って…。  自然の摂理を盾にして、事実を押し付けて…。  美玲はすぐに肩車から降ろしてフィルドを抱きしめる。もう理解出来てしまっただろうと考えて…。  案の定、フィルドは泣き始めた。  でも…言葉を掛けることなんて彼女には出来ない。出来るのは…かつて自分の彼氏にやった様に寄り添ってあげる事だけ。 「美玲、魔物が集まってくる」 「…うん」  泣いたままのフィルドを抱えて、美玲は陵や鬼神の居る場所へと戻ろうとする。  片手に銃を持ち、片手に幼子を持ち、魔物を銃殺。  すると、その死骸の匂いに釣られたのか美玲達は多くの魔物のターゲットから外れた。(全てから逃れた訳では無い)  それから、それなりに早歩きになりながらも陵の居る場所へと帰ってきた。  その頃には、フィルドは既に泣き疲れて眠ってしまったようだった。 「聖神さん、今日、夜の子守りはお願いして良い?」 「…わかった」  かなり遠巻きに事実を伝えたのにも関わらず、美玲は精神的にかなり衰弱していた。聖神も自身が決めた事なのに美玲が主導になってしまった事に、苦い味を隠せない。 「お疲れさん、美玲」  美玲が戻って来たのに気が付いて、陵は彼女を後ろから抱きしめた。  肉を焼いたり野菜を炒めたりしていたせいか、こおばしい匂いが美玲の鼻につく。 「陵…私、どうしたかったんだろ?」 「良くも悪くも美玲のやり方だったんじゃない? …まあ、話は夜になったらな」  それだけを告げて陵は、調理をしている鬼神の元へと戻って行った。 ☆☆☆☆☆☆  洞窟の入口には聖神渾身の結界が張られ、夜の準備を終えた。 「美玲、顔色が悪いよ」  自らの寝室に入ってから、陵は美玲の弱音を聞き出すためにそう言う。 「…ん、ごめん」 「ごめんじゃないだろ?」  陵はその部屋に敷かれている1枚の布団に、美玲を巻き込む様に引き込んだ。 「美玲は結局話す気が無さそうだし、聞こうとは思わないけどさ」 「・・・」 「フィルドも眠ったまま起きないしさ。美玲は体を洗わないで寝ようとするもんだから…かなり焦るし」  風呂は当然入った。でも、美玲は入らないで眠ろうとしたのだ。 「でも…大丈夫だって」  陵は何も言わない美玲を抱きしめて、頭を撫でて、そう言う。 「俺も協力するから、頑張ろう?」 「…うん」  美玲は抱きしめる陵の腕をかき集める様に、"ぎゅっ"と抱きしめる。 「それに俺達だけじゃなくて神様夫婦まで居るんだよ?」 「…うん」 「大丈夫、美玲は俺の時はこうやって成功してるんだから…きっと大丈夫」 「…うん」 「はい、おやすみ。考えるのはやめてさっさと眠ろう」 「…うん」
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