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第一部‐裏‐シン、初めて国に触れ…、パンチする。

 コンコン  翌日の早朝になり、シンとミリが眠っている部屋に一つ、ノック音が響いた。レイは既に起きて朝食の準備に取り掛かっている。  当然、その程度の音で彼らが起きるはずも無く、扉の外にいる者にとっては聞こえるはずだった返事は返ってこなかった。 (父上…まだ眠ってるのかな?)  扉を叩いたのはティルだった。…が、返事が無いとわかり、引き返す事にした。 ☆  てくてくてくと外を歩いていると、レイの眷属である中級神ガウリエルに出会った。  ギリシャの女神様っぽい服装をしているのにも関わらず、両手には緑色の青々とした野菜が入ったバスケットが握られている。 「おはようございます。ガウリエルさん」 「朝早くから外に居るとは…何かあったのですか?」  家の外をぶらぶらしていただけのティルは、ガウリエルに不審がられた。 「父上に伝えなければいけない事があったんですけど…」 「シン様は恐らく眠っているでしょう。貴方はこれから?」 「時間になるまで外をぶらぶらしてようかなって」  実は子供用の寝床は用意されているのだが、これから戻ってしまうと他の子らも起こしてしまうかもしれない、そうティルは考えていた。 「なるほど、少し寝不足ですか?」 「あーはい…ちょっと」  自身が父上と呼んでいる存在が、いったいどれ程に自身に告げた言葉が本気なのだろうか?…とか。 「気持ちがどうしても落ち着かない場合はしっかりと大人に甘えるように。…では、私も忙しいので失礼しますね」  ガウリエルはそれだけを告げてその場を後にした。  本来ガウリエルはそんな事を言う性格では無いし、心からそう思っている訳では無い。  だが、シンにそう()()された以上は、そうするしか無かった。 (可愛い…とは思えませんからね)  ガウリエルはティルに対してだけでは無く、人の子ら全てにそう思っていた。  別に虐げてやろうと思う訳では無い。ただ興味が無いだけである。  それは神様故なのか、彼女の個がそういうものなのかはわかりかねるが…。 ☆☆☆ 「…んう、ふああ…」  ミリはティルが訪れてからだいぶ経ってから目を覚ましたようだ。 (時間は…シンも起こした方が良さそうね)  チラッと時計を見て、ミリはシンを起こすことにした。 「…おはよう」  ミリに起こされたシンは眠たそうにしながらも起き上がる。 「さっさと着替えて下に行くわよ。子供達もそろそろ集まってるだろうし…」  ミリはそんなシンに急かす様に言った。 「…ミリは本当に子供が好きだな」 「ええ。…本当は貴方との子が出来ると良いのだけれど…」 「それは…種族の関係的に厳しいだろうな」  当然、シンとミリはやる事をやっている。だが…それでも子供は出来ない。それは不死種族である吸血鬼である事が原因だと彼らには思われているが、実の所はシンの方にも問題があったりする。  短命種の方が子供が出来やすいのは世の道理の様なものだし、長命種に子供が出来にくいのもまた世の道理だ。  異種間の不死種族同士の交配などは、完全に奇跡に近かったりする。  …人型であれば交われる事に変わりはないが…。 「貴方が作りたければ…何処かの人の女とやってきても良いのよ?」 「それは無いから安心しろ。流石にそんな節操無しではないし、そもそも愛していない女など抱いても萎えるだけだ」  シンはレイとも夫婦という間柄になっているが、レイには都合上、手も出していない為に、体を重ねているのはミリだけという事になる。 「…そう、それなら良いのだけれども」  そんなシンにそれだけを、ボソリと聞こえても聞こえなくても良いようにミリは呟いた。 ☆☆☆  それから身支度を整えて、シンとミリは食堂に向かった。 「お母さーん!!」 「はい、元気なのは良いけれども行儀は良くしなくちゃ駄目よ」  ミリを見つけて抱きつこうとする女の子を抑えて、ミリは戒める。  抱きつこうとした女の子の名はメリル、魔族とエルフのハーフだ。 「はーいっ!!」  女の子にミリはとても人気があった。家事は出来ないが立ち振る舞いがそれなりに綺麗であるし、それ以上に子供達によく関わるからだ。  逆にレオンは男の子に人気があった、それはやはりカッコいいからだろう。鍛え上げられた厳つい肉体を持ち、剣を振るっている姿を子供達は見る事が出来るのだから、それは仕方が無いとも思う。  シンは何方かと言えば、逆らってはいけない人という認識が子供達には強いようで…。  ずってーんっ!?!?  どうやら1人の男の子が転んでしまったらしい。 「大丈夫か?」  シンの前であった為に、彼はその子を持ち上げて立たせてから、軽く服をはたいた。 「ありがとうございます。えっと…」 「シンだ。…そうだった、君は目が見えなかったな」  この子は盲目の竜人である。髪は暗い灰色髪であった。  この子の名はハイル。目が見えないからと、竜人族のとある部族に()()()として捨てられたらしい。 「…そうだな、うん? いや、ううん…わかった。後にアイが君の元に訪れるから、アイの指示に従うように」 「アイ様が…ですか?」 「ああ。…朝食は私と取ろうか」  シンはそう言ってハイルの頭を撫で、かつてアイに与えた能力の一端を与えた。 「じゃあ、私は女の子達の所に行ってくるわね」 「わかった」  そこからシンとミリは別行動を始めたのだった。  大半の男の子はレオン夫妻と共に居るので、シンはその盲目の少年一人だけと食事を取ることになった。  因みに、ハイルの元にアイが訪れたのは、夕方の時間だったらしい。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 「さて…と」  シンはとある洞窟から、グランパレス共和国へと攻め入る事にしていて、準備が整ったようだ。  …準備と言える程の準備がある訳では無いが…。 「俺はティルを守ってりゃあ良いんだな?」 「ああ、頼むぞ」  ティルが攻め込む場に居るのは、彼がついて行きたいと願ったからだ。 「僕は…専門じゃないけど遠距離担当だね」  "刃纏の弓"と錬成筒を取り出したアイも準備万端だ。 「父上、俺は・・・」 「レオンの言う事を聞け、良いな?」 「…わかりました」  今回、ティルを守るのはレオンの役目だ。異論は許さない。 「正面から、街壁を壊して行こうと思うが…異論は無いな??」  シンは訊ね、レオンらが頷くのを確かめた。 「出発だ」  そうシンが告げた瞬間、シン、レオン、アイは常人では考えられない様な速さで走り出した。常人であるティルはレオンの小脇に抱えられている。  どしゃあああ!!  だんっ!!  ずざざざざっ!?!?  レオンは所詮騎士である為、音もなく飛んだり跳ねたりするのは得意ではない。 (…死ぬ)  荒々しい移動によって、完全にティルは目を回しているようだが、…頑張れ。  そうして移動すること数分、シン達は街を囲う大きな壁に辿り着いた。  トン  シンは大きな壁に触れ、正面から分解する様に破壊した。更に街の中に入ってからその壁を修復した。 (父上…いったい何を?)  ティルは当然近くで見ていたのだが、何が起こったのか理解が及ばなかった。 (…代表のお屋敷は何処にある?)  そう思い探索しながら歩いていると、彼らが壁を壊した事に気が付いたのか、複数の兵士が彼らに襲い掛かった。  兵士らは一瞬で壁に叩きつけられ動かなくなってしまった。死んだか否かはわからない。 「あ、聞き出せば良かったな」 「気付くの遅過ぎんだろ…」 (父上はいったい何者なんだ??)  三者三様の思いを口にしたり口にしなかったり…。 「ほう…? この世界にはそんな女も居るのか」 「どーしたんだよ?」  興味深げに呟いたシンにレオンは訊ねる。 「レオンは魔女って知っているか?」 「…知らねえなあ。…あ、いや、確か女だけの種族だった気がすんなあ…」  レオンは昔聞いた話を思い起こしてそう告げる。 「どうやら何処かの宗教が異端尋問をしているらしい。…虐めながらな」 「お、街で暴れる為の大義名分になりそうじゃねえか」 「…まあ、そんなもの無くてもこちらには振りかざせるだけのものが存在していたがな。…アイ、教会の人間は一人を残して全て殺せ」  シンはそんな宗教に対して無慈悲にそう告げる。…彼らはそんな宗教に対し、何一つとして価値を見出さないからだ。  レオンの見えない所で悲鳴があがった。恐らくアイの矢が射殺したのだろう。そして、そんな悲鳴が聞こえた方に、シンらはゆっくりと移動し、魔女として扱われていた女性の鎖を解き放った。 「貴様っ!何をしているっ!?!?」 「・・・」  叫んだ何者かをシンは一瞥しただけで石化させた。…これは出来るだけ、この街の住民に恐怖を与える為だ。  殺さないで黙らせる方法を取ったとも言えよう。 「さて、埃みたいな宗教を率いている男よ。お前らは何処の国の者だ?」  シンは問い掛ける。 「き、き、貴様らっ!こんな事をしてっ!ミラージュ聖国が黙っていないぞっ!!」 「その言葉で十分だ」  指に風を纏わせ横切らせる事で、その教会の人間をぶつ切りに切り裂いた。  どうやら彼の次の標的は、ミラージュ聖国になった様だ。標的になったから滅ぼすという訳でも無いが。 「さて…この街の代表はどこに居る??」  シンは次にこの魔女狩りの様な所業を、見世物として見ていた民衆に問い掛ける。  しかし反応は一切無かった。 「そうかそうか、今すぐにお前達は死にたいようだな」  そう呟くと同時に、民衆全ての喉元に氷剣が突き付けられた。老若男女問わずである。 「あ、あのっ!? そのっ!? 代表はあちらの屋敷に…」  しかし、ここでやっと民衆の一人が答えた。 「その話に嘘偽りは無いな? …あるのならこの街全てが焼き殺されると思え」 「ひいっっ!? もちろんありませんっ!?」 「ならば良い。魔女は私達について来い、…良いな?」 「…え、あ、うん」  シンは見るに堪えない魔女に1枚の厚手のローブを着せて、彼女も連れ歩いて代表の屋敷へと移動する事とした。  それから代表の屋敷に到着、屋敷の警邏の者が彼らの侵入を拒んだが、一瞬で圧殺されてしまった。 (父上が見せたかったものはこれだったのか??)  ティルは、この短い間に行った虐殺とも呼べそうな数々を思い起こす。それから自らが父上と呼ぶ存在の規格外さを理解した。 「さて…代表の書斎とやらに辿り着いたわけだが…」  そんな事をティルが考えている間にも、シンは王手を掛けてしまった。  ばあんっ!! 「初めまして、代表ランス」  シンはその書斎を蹴り飛ばし破壊、中に入り次第優雅に一礼した。 「一体何者だ?」  中の男がシンに問い訊ねる。 「ここで慌てないのは大物の証拠だな。お前を殺しに来た」 「…何故?」 「お前が今まで虐げてきた者達の呪いの化身とでも言っておこうか」 「はてさてなんの事やら」 「別に言い訳しようが嘘を吐こうが無罪を主張しようが関係は無いからな」  微妙に噛み合わないシンと代表の男との会話。 「なあ?そうだろう? 人族至上主義者」 「…私が殺されてミラージュ聖国やグランディス帝国が黙っているかな?」 「おいおい、まさか…その程度の覚悟も無しに乗り込んで来たと思うのか??」  シンのターゲットにグランディス帝国が追加された。 「出来れば他に関与している国の名も聞いておきたい所だが…生憎拷問は趣味じゃなくてな」 「だったらどうする気だ??」 「…こうするんだ」  ごとっ  代表だった物の頭が地面に転がった。 「レオン、ティルをここに置いてこの屋敷を制圧しろ」 「うっし、やっと仕事だな」  シンの言葉を聞き、喜々ういういとして代表の書斎から、レオンは飛び出して行った。 「アイは人族至上主義で()()になる存在だけ処理してきてくれ。…ああ、教会なんかは完膚無きまでに破壊してしまえ」  辛うじて若干見える程度のアイにも、そう指示をだした。 (拠点は確保出来た…な)  シンはこれからの展望を想い、やっと一段落したなと思う。  シンの目の前に居る魔女とティルは、ただじっとしているだけだった。そんな中、魔女にシンの視線が動いた。 「…魔女というのはどのような存在だ?」  そしてそう問い訊ねた。 「あ、えっと、その…何とでも交われるのが特徴だと思い…ます」  魔女は、とても男の情欲を掻き立てるような性的な体をしていた。 「…そこらの犬っころでも?」 「…はい」  少し顔を逸らしながらも魔女はそう告げる。 「…なるほど」(オークの女版とでも思っておけば良いのだろうか?)  シンはそう相槌を打ちながらもそう思った。  この世界のオークはどんな種族でもなりふり構わず産ませる事が出来る存在なのだ。 「…名は?」 「…ありません」 「なるほど、完全に魔物扱いとされる訳だ。…参考までに聞くが、魔女が交わる事で人が死んだりするのか?」 「そんな事はありえません」 (ふむ、ならば助けた事に問題無いな)  シンは魔女が仮に人に害を為す存在であれば、天敵として異端拷問も受けて叱るべきであった、そんな可能性もあるかもしれないと考えた。  まあ、だからと言って全裸で民衆の前に晒している時点で趣味というか恰好というか、とにかく、人側に情状酌量の余地は無いのだが。 「恥辱の情はあるか?」 「…あります」 「…となると殆ど人と変わらないのか?」 「魔物などと交われば魔物の能力を引き継ぐ事もあります」 「それはつまり…人との差はそれだけだと?」 「…はい」 「寿命は?」 「エルフと同じかと…」  魔女はティルを見てそう告げた。 「魔女か…魔女、魔女、やはりこの世界で自然に生まれた存在では無いな」  そう、本来ならこんな事を聞かずとも"惑星(ほし)教科書(あるきかた)"で1発でわかる筈なのだ。  それなのにも関わらず魔女のデータが星には無い。つまり…そういう事だ。 「…こちらへ来い」  魔女にそう告げて、シンは自身の手元に魔女を引き寄せた。 「んっ…あっっ…何を…」  シンは魔女の体をまさぐった。 「…この体はやはり情欲を湧き起こらせるためなのか?」 「わ…わかりません…」 「そうか、…まあ良い」  そしてすぐに、興味無さげに押し離してしまった。 (そろそろ処理も終わる頃だろうか?)
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