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第一部‐彼らと彼らは。
「…んあ? …んん…朝だよな?」
目が覚めた陵は周囲を確認する。
「…朝だな。よし」
陵は寝室のカーテンの端から見える溢れ日でそう結論付ける。そして起き上がった。
(朝飯…は、今日もいつも通りに鬼神に作ってもらおうかな?)
そう思いながら、陵は先程まで抱き着いていた美玲を揺する。
「んう…うう…朝…?」
「そうっぽい。起きて外に行こう?」
「…ふぁーい」
美玲は寝惚け目を擦りながらそんな返事をした。
それから彼らは互いに自身の棚から服を取り出し、着替えて家の外へと出た。
☆
「鬼神さん、おっはよー♪」
美玲は家の外で寝ずの番をしていた鬼神にそう言う。
「ああ、おはよう」「おはよう」
すると、聞いた事の無い女性の声も一緒に返ってきた。
「聖神さん?」
「そう、私は聖神。よろしく」
美玲が唯一心当たりある名前を告げるとそれは的中した。聞いた事の無い声は聖神だったようだ。
「…本当に日本人みたい」
「だな」
美玲が聖神を見てそう呟き、陵もそれに頷く。
「鬼神さんの朝ご飯が食べたいんだけど…駄目かな??」
続けて美玲は鬼神さんにお願いをした。
「ああ、構わない。少し待っていてくれ」
鬼神さんは2つ返事で引き受けてくれた。
「…貴方、昔から料理美味かった」
聖神はそんな昔と変わらない鬼神の様子を見てそう思う。
「数百年前と調理法が変わるわけでもない。ミネ__、聖神の分も用意しよう」
「…ありがとう」
鬼神さんはそう言って、陵と美玲、それから聖神の分の朝食を作り始めた。
当然、鬼神さんが料理を始めるとその匂いに釣られてやって来る魔物が居る。
ここは森の中だから…。
だがしかし、そんな魔物は陵と美玲に見つかり次第に狩られていたので、特に問題は無いようだ。
「聖神さんってお堅い人っぽくない?」
美玲はこそこそっと陵に耳打ちした。
「…ああ、美人故に近づき辛いやつな」
「そうそれっ!!」
口調はゆっくりとしたものではあるが芯のある物で、おまけに黒髪黒目の美人だときてしまうと、とうとう一般的な顔面偏差値を誇る陵と美玲では近付き辛くなってしまう。
「…そう言えば、昔に美玲が美人さんに絡み過ぎて他の女子にハブられた事あったよな?」
陵は思い出したようにそう言った。
「あ、あーーー…あれは高1だよね?」
「多分?」
美玲もそんな事あったなあと、懐かし気に思い出していた。
「あれは本当に色々と困ったよね。…トイレでババたれてんのに水ぶっかけてくるし…」
トイレの上から水を掛ける、いわゆるイジメと呼ばれるような物だったが当然美玲がやられっぱなしで終わる訳もなかった。
「俺が気付いたらクラスの女王みたいになってるしな」
「え? 一人一人呼び出してお話しただけだけど??」
美玲さんはそのイジメに関わった女子全てを一人一人襲…ではなく放課後に路地に連れ込んだりしてお話しただけである。
一時期は女子の誰もが美玲に目を合わせられなくなったのだとか。
…そこまでやられるとはイジメに走った女子達も思わなかったのだろう。
「あ、でもさ、1回だけ集団で襲ってきたよね」
「俺はそこでお前がそんな事してるって初めて知ったよ」
その集団が襲ってきた1回だけが、唯一陵を巻き込んだお話であったり…。
「だって…その時はほら、色々と陵も困ってたというか…その…」
そう、そのイジメの話は陵の家族が交通事故で他界した時期と被っていたのだ。
「別に怒ってない。基本的に女子の話は女子で解決すべきだし」
「だよね」
…普通、路地裏に一人一人連れ込む事なんて事はしない。
「まあ、あれは面白かったよな。美玲が弱み握ってるのに攻撃しようとしてくるんだから」
「挙句に果てに"あんた彼氏でしょっ!?"だっけ?」
「しかも彼氏連れて来てるし」
そう、そしてその集団のリーダー格的存在が強面の彼氏を連れて来て美玲に対して武力行使に及ぼうとしたのだ。
「あれ、厳つい割には雑魚で草生えたわ」
だが、当然黙って彼女に手を出されるのを見ている陵では無く。
「…いや、誰も数学の教科書で殴ろうと思わないでしょ…」
当然本の角である。そして殴ったのは頭じゃなくて拳である。
読者の皆さんは知っているだろうか?本の角は基本的に拳より強い事を…。
本 は拳 より強し(物理)。
「しかも躊躇無かったし」
「いや…気付いたらやってましたとか怖すぎだろ」
全て故意なのは言うまでもないだろう。因みにそれで殴られた男子は指を骨折し全治1ヶ月だったとか。
「あの後、その女子ってどうなったんだっけ?」
「転校さ せ た けど?」
「…マジか」
「私としてはその1日後に彼氏くんが教室でハブになった話の方が気になるんだけど」
そのリーダー格の女子が転校したのが美玲のせいだとしても、それの彼氏だった男子が、翌日に教室で総ハブを食らっていたのは美玲のせいでは無い。
「あれは…ほら、俺の周りに運動が出来るオタ仲間が居ただろ?」
「え?」
「あいつらに美玲がその彼氏くんに胸ぐらを掴まれたところまでの動画を切り取って貰って、男子のラ〇ングループに乗っけた。それからいかにも相手が悪い様に擁護してもらった」
所謂ライトオタクの集まりとでも言えよう集団に協力してもらい、陵はこちらが危害を加えられたという真実を拡散したのだ。
…そもそも、そんな状況で冷静に動画を撮っていた陵の判断力も凄い事だとは思うが。
「…えっげつな」
「あと、クラスの新聞部の奴をハンバーガー1個で買収してその話を匿名で書いてもらった」
「あ、他のクラスの子が知ってたのはそれのせいなんだね」
確かに一時期、他クラスで自身らの話が話題になっていたなと美玲は思い出した。
「学校も関与してこないから笑えるよな。まあ…あくまで教師ってだけで先生じゃないしな」
「…学校側が関与して来ないからやったんでしょ?」
「…そりゃあな。あーえー…そういや、オタ仲間はこの世界来てるのかな?」
陵は学校風景を思い出してから、よく話していた面子を思い出した。
「さあ?私は余裕無かったし」
「俺も無いよ」
彼は美玲の方が断然に彼らより優先なので致し方ないと思う。
「わーもう、陵が大好き過ぎる〜」
美玲はそんな陵に抱き着き、頭をぐりぐりと陵の胸に押し付けた。
「…食事が出来たらしい」
そんな事を長々としていると後ろからそんな声が聞こえた。
「あ、聖神さん。今行くね〜」
美玲は陵の胸から顔をあげてそう言う。
鬼神さんが出した料理はタケノコと薄く細かく切られた肉の塩炒めだった。
☆☆☆☆☆
それから時間が経ち、昼近くになった頃…。
「これからどうする?」
陵はこれからの予定が何も無い為に美玲に訊ねた。
「私もやりたい事ないよ?」
「だよな。…鬼神達は?」
そこで自身らには際立ってやる事も無い為に鬼神達に話を振った。
「やりたい事と言えば…、聖神との契約はしないのか?」
「「あっ!? そう言えばそうだった…」」
陵と美玲は不老不死を求めてこの地に来ているのに、聖神を解放しただけで満足してしまっていた。
「ふふっ…、美玲、契約しよう」
「え? う、うん、わかった」
美人顔で優しく微笑まれ美玲は思わずテンパってしまう。美人は強い。
すると、それを見た聖神の腕には突然、魔法杖が現れた。
「我の名はミネルヴァーチェ。この杖を依代とし、美玲と永遠の契約を誓う」
そして、その杖を掲げてそう告げた。
美玲の右手甲にあった半分の鬼神の紋章は陵の右手甲へと戻る。そしてその代わりに聖神の紋章が現れる。それから魔法杖がその紋章へと吸い込まれてしまった。
「まだ夫はしていない契約みたい…けど、私はこれで良い」
聖神の言葉に思わず陵と美玲は首を傾げた。更に陵は鬼神へと目を向けた。
すると、鬼神は勝手に頷き刀を何処からとも無く取り出した。
「私もやろう。我の名は狂怒鬼。この刀を依代とし、陵と永遠の契約を誓う」
すると、陵の右手甲にあった鬼神の紋章は光り、変質し、少し厳つい形になった。そして美玲と同じ様に刀が吸い込まれた。
「これはなんだ?」
「…私の力が完全にお前の物になった」
陵が訊ねると鬼神はそう言う。
「どうやって使う?」
「刀を手甲から取り出すように意識してみてくれ」
「…わかった」
鬼神に指示されたようにやってみる。すると、陵の右腕には刀が握られた。
「それから私を…その刀に宿す様に想像してくれ」
鬼神が更に続けて指示する為、陵は言われた通りにこなした。すると鬼神の体は粒子となりその刀へと吸い込まれた。
『聞こえるか?』
鬼神の声が直接陵の頭に響く。
「聞こえる。…何が出来る?」
陵は神が吸い込まれた刀なのだから、きっと素晴らしい性能を誇るに違いないと考えた。
『振ってみてくれ』
陵は刀を振り上げ横切らせる。すると、数キロ先にある山に一文字の跡が入った。
「…すげえ」
流石に陵も驚かざる得ない。
『刀の銘は狂鬼神刀だ。覚えておいてくれ』
「…鬼神を元に戻すにはどうしたら良い??」
『さっきの逆を想像してくれ』
今度はそう言われ言われた通りにする。すると、ここ最近毎日見てきた鬼神の姿が現れた。
「次は美玲の番」
1連の動作を見てポカンとしていた美玲に聖神がそう言った。
「うん…やってみるね」
美玲は鬼神が説明していた通りに手甲から杖を取り出すイメージをする。
それから聖神をその杖に宿す。
「何が出来るの??」
『生命を癒す、傷を治す。…とか』
「じゃあ今は試せないねー…」
少しがっかり気味の美玲だった。それから美玲は聖神を杖の外に出した。因みに銘は"聖神杖"でそのままである。
「さて、本題に戻そうか。…どうしたい?」
陵は鬼神と聖神との契約を終えた事を確認してそう言う。
「特にはしたい事も無いよー。あ、でも余裕が出来たら…ちょっとエッチい事とかしたいかも…」
美玲は最後だけを小声で少し上目遣いになりながらそう言う。
「駄目、避妊出来ないから」
しかし、陵は明確に拒絶した。
「うう…そう言えばそれって結構問題じゃない?? …この世界って避妊道具あるの??」
「・・・」
陵はそんな美玲の問いかけに絶望する。
「…陵?」
固まってしまった陵の前で美玲は手を振ったが反応が無い。…まるで屍のようだ。
「避妊なら出来る。…やる?」
そんな爆弾を落としたのは聖神だった。
「「…え?」」
陵と美玲の視線が一気に聖神に突き刺さる。
「私達もお盛んだった。…だから」
そんな視線に少し恥ずかしそうに、"ぷいっ"と顔を逸らしながらも聖神はそう言った。
「…あれ? でも、てことはさ。鬼神さんと聖神さんもそういう事したかったりするの?」
そこで美玲は神様 もやるという事実に気が付いた。
「・・・」
聖神は顔を真っ赤にしている。どうやらそう言うことらしい。
「はあ…まあ、私達もそういう事は出来る」
鬼神はそんな聖神の捕捉をするようにそう言った。
「そうなるとあれだな。俺達だけが良い思いをするのも少し罪悪感が湧くな」
陵がいきなりそう言った。
「だよね〜。でも…そうなると鬼神さんは家が欲しいでしょ? 流石に野外は高度過ぎるし…」
「…それは勝手にしてくれ」
鬼神はそもそもその様な事柄に対して、何も考えていなかったのに…。
「じゃあ、人の居ない場所に住処を作らない? …秘密基地みたいな…」
美玲が思い付いた様に提案する。
「それ良い考えかも。どうせ俺達はやらきゃいけない事も無いし」
「じゃあ、それでけってーいっ!!」
どうやら本当に彼らはそんな方針にするらしい。
「って事で年上カップルは何か良い案ありませんかー?」
ここで美玲は神様カップルに話を振り直した。
「…何処かの洞窟などはどうだろうか? それと、少し人里に近ければ…それなりに色々な物も手に入りそうだと思わないか?」
鬼神はそれなりに真面目な意見を出してくれたが、聖神はまだ顔が赤く口を頑なに閉じたままだ。
「おー成程ね。…他には?」
「普通に木で組み上げる?」
今度は陵が意見を出した。
「陵さんや、私達は家を建てられるほど家に詳しくないじゃろう??」
「それもそうだったのう? 美玲さんや」
「「???」」
突然の漫才?に聖神と鬼神は首を傾げる。面白くも何ともなく彼らが勝手に悪ふざけをしているだけなので悪しからず。
「って事で、洞窟探しが1番妥当だろうな」
「そうだろうね。鬼神さんと聖神さんはそれでいーい??」
美玲が最終確認を鬼神さんと聖神さんに取った。
コクコクコク
鬼神さんと聖神さんが頷いたのを確認し、美玲達はこれからの予定を決定するのだった。
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萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい
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