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第一部‐聖神の社

 陵と美玲はこの世界に転移してからというもの、帝国から離れて以来は1度も人里に行かなかった。  常に森を闊歩し続ける日々が総計50日ほど経ち、彼らはとうとう聖神様の社にたどり着いた。 ☆☆☆ 「ここがそうだ」  鬼神はそう言い、陵と美玲に聖神の社を指し示した。 「…なんか、凄いボロボロだね」 「…ボロボロだな」  鬼神の社とは違い所々建物が破壊されていた。まるで時代が捨てた英雄の様に…。 「鬼神の話だと封印されてるんだよな?」  陵は問いを投げ掛ける。 「そうだ。…行こう」 「…わかった」  鬼神の声音に多少の怒りを感じながらも陵は頷いた。 (なんで怒ってるんだ?)  陵はそう思ったが、逆にそれ以外は何も思わなかった。 「封印って言うくらいだし、どっからか入るんでしょ?」  美玲は鬼神の封印解放の際に、建物の中に入った事を思い出して口に出す。 「そうだ。それは変わらない」 「どうやって入るの??」 「…普通に入る。ここには私の時の様に室内に入る為の手順は存在していない」 「ふーん、じゃあこのまま…ふぎゃっ!?」  鬼神の言葉を聞いて美玲は入口っぽい場所から足を踏み入れようとしたが、見えない壁に遮られてしまった。 「壊さなくてはダメだ。…神具があっただろう?」 「なるほどな。じゃあ…撃ち抜く」  陵はチャージし終えた光線銃ハンドガンの引き金を躊躇無く引いた。"バギゅーん"という音と共に、そのハンドガンから放たれた光弾は見えない壁とその社全てを貫通させてしまった。 「行こう」 「・・・」  陵と美玲はそのまま破壊して先に進んだ。美玲は顔面をぶつけてちょっと痛そう。 「へー?本当に居るんだねー?」  その社の中には黒髪黒目の美人さんが鎖によって縛り上げられていた。 「黒髪黒目なんだな…。鬼神、俺達に何か隠してないか?」  ()()()()であるという事に陵は不信感を覚える。それは自身らも黒髪黒目だからだ。 「いや? 特に何も隠しては居ないな」 「じゃあ…聖神鬼神共に勇者召喚で呼び出された存在だったりは?」  まるで存じない様に言う鬼神に陵は更に訊ねた。 「…何故わかった? ああ、いや…でも、そこまで重要な事だろうか??」 「まあ…なんでわかったかは別にどうでも良いし、そこまで重要でも無いんだけどさ。…日本って言ってもわからないんだろうし」 「うむ、日本など知らんな」  陵は鬼神の返答に"やはり…"と思う。だけれども、きっと勇者召喚に呼び出されるのは全て黒髪なのだろうとも理解出来た。 「最後に…鬼神と聖神って夫婦だろ?」 「…すまない」  陵は鬼神が自身の妻を解放する為に、自身らが利用されている事を理解した。 「…まあ、それについてはとやかく言う気は無いけど…。問題は鬼神の言ったことが嘘だったのか本当だったのか…」 「いや、私が説明した事柄は全て事実だ」 「あ、そうなの? なら問題無いな」  陵は聖神を縛っている鎖を撃ち抜いて破壊した。複数本あったが、それら全てを撃ち抜く。  すると、聖神の体がぐらりと揺れ倒____れなかった。  鬼神が支えているからだ。 「同情は出来ないからな」  陵は鬼神にそう告げる。それは自身らにはそんな余裕が無いと告げている様なものだった。 「…わかっている」  鬼神は自身の手で抱え込んでいる聖神を見ながらもそう言うだけだった。 「…で、聖神はいつ頃目覚める?」 「わからない。明日になるか、明後日になるか…」 「お寝坊さんなんだね〜」  今まで会話に入って来なかった美玲はそう言う。 「…そう言われるとそうかもしれない」 「じゃあ、やる事無いしこの周りに家を出しちゃうね?」 「いつも通りに見張りをすれば良いのだな?」 「聖神さんはどうするの?」  "どうするの?"とは、彼女を家の中に安置するかどうかという話だ。 「いや…目覚めたら私が説明したい」 「裏切らないでよ?」 「私は裏切れない。…契約によって」  鬼神はいつも彼らに言われている言葉に、いつも通りにそう返した。 「うん、なら良いんだ。…陵?」 「はいよ。…ちょっと待ってな~」  陵は社の隣に家を取り出し、その中へと入って帰ってきた。彼の片手には制服の上から着るダッフルコートがあった。 「鬼神、…これを、神様が体を冷やすのかは知らないけど」 「…ありがとう。使わせてもらおう」  陵から厚手の上着を渡された事に、鬼神は少し面食らったがそれでもすぐにそう返した。 「鬼神が寝ずの番を出来るのは心強いし」  それのお陰で彼ら(陵と美玲)は安眠する事が出来る。神様になんて事させてるんだと思わなくも無いが…。  そうして、陵と美玲は家の中に入った。 ☆ 「陵、今日はダラダラしよう?」 「…だな。まずは昼寝からだ」 「いえーいっ!!」  とても昼寝をするテンションには見えないが、彼らは眠るらしい。  いつも使っている寝床にいつも通りに布団を敷く、そしてそこに陵が入り込んでから美玲が入り込む。  当然、美玲が布団に入って来た瞬間に陵は彼女をガッチリホールドした。  美玲はそんな陵にふにゃふにゃとしながらも彼の温もりを味わう様に身を寄せた。  彼らは鬼神と聖神が夫婦だった事に何か思ったのかもしれない。  それは、いったいどれだけの間離れ離れだったのかという恐怖とか、いったい誰が彼らを離れ離れになんかしたのかとか。  …それは自身らは耐えられないだろうな…とか。  それから数分して彼らは眠りについた。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  ______そして美玲は再度目覚めた。 「ふあ〜…お腹空いた…」  ぼそっと呟いて起き上がろうとした。  がっ…  陵の腕に捕まえられているせいで美玲は起き上がれなかった。 「…陵、力強過ぎ…」  ガッチリ過ぎてそう呟くほどに陵の腕の中から抜け出すのは時間が掛かるだろう。 (このまま二度寝しちゃおうかな…??)  美玲は抜け出して食事を作るべきか悩む。 (でも、お腹空いたし)  食い気がかったようだ。美玲は強引に絡まっている陵の腕を外し布団から抜け出した。  そして"アイテムボックス"からヘアゴムを取り出して伸びてきた髪を結んだ。  美玲は元々髪が丁度肩にかかるか否かくらいの長さが好きだ。だが、最近は少し伸び過ぎてしまっている。 (今度陵に切ってもらおうっと)  そう密かに思いながら美玲は台所へと移動した。 (…どうしよっかな。陵の分も作る?)  少し頭を悩ませる。陵が起きてくるとは限らないからだ。 (作り置きしておこう)  美玲は"アイテムボックス"の中身は時間が止まっている事を思い出し、そう決めた。 (ん、多分陵が起きた気がする)  美玲は色々と手を動かしながらそんな事を思う。 「おー…美玲が飯作ってる。…嫁みたい」  するとそんな予感は的中し、陵は美玲の作っている食事に釣られて起き出して来た。 「え?私は嫁じゃないの??」 「なんか早くない? この世界って結婚って概念はあるけど…いつから結婚出来るんだろ?」  陵自身は美玲を嫁と認めてもなんら問題は無い。ただ単に日本では結婚出来る年頃では無いだけだから。 「うーん…確かに、どうなんだろうね?」  美玲も当然良くわからんちんである。 「まあ、どっちでも良いけど…俺的には結婚式とかプロポーズとかはしたいなって思う」  陵はしめる所はしめる主義だ。…というよりも美玲と2人で精一杯楽しみたいと考えている。  きっとプロポーズだって楽しい思い出になるだろうし、結婚式だって、この世界にあるのかどうかは彼らにはわからないが、楽しみたいのだ。当然、新婚旅行だってしたい。 「あー…確かに、経験はしたいよね」  別に無いなら無くても良い。ただ、あるのならやっても良いだろうと美玲は考えていた。  簡単に言ってしまえば、現状に満足してるのが美玲で、もっと楽しもうと考えているのが陵だ。 「ま、それは良いんだ。何か手伝える事ある??」 「うーん…すぐ終わるから待ってて良いよ」 「ん、じゃあ大人しく待ってる。居間に居るから」  陵は美玲の邪魔にならない様に台所を後にした。 ☆☆☆  それから軽い食事を終えた陵と美玲は家の外に出た。  外は丁度日が陰りそうになっていた。恐らく夕方なのだろう。 「鬼神さん…」  美玲が鬼神に声を掛けようとしたが、その声は尻窄みに小さくなって行った。 「…寝直そう」  聖神が目覚めていて、鬼神と仲つむまじく話している光景が見えたから…()()()()に話し掛けるのをやめた。 「そうだね」  美玲は陵の言葉に賛成し再度寝直す事に決めた。家の外にまで出てきたのに二度寝とはどういう事だろう? いや、彼らからすればそれも一興だろう。  彼らは夕陽に鬼神と聖神という絵になる光景を見納めてから眠り直した。 ☆☆☆☆☆ 「聖神、…いや、ミネルヴァーチェと言った方が良いか?」  少しポツリポツリと話した鬼神は、彼女を真名で呼び直す事にした。 「鬼神…狂怒鬼と私も呼んだ方が良い??」  すると、それに呼応する様に聖神は彼の名を真名で呼び直した。 「その名は好きじゃない。ミネルヴァーチェみたいに誇れる名では無いと教えただろう?」  それを彼が彼女に教えたのは何百年前だろうか?? 「私はその名を受け入れると告げたはず」  彼女が彼にそう告げたのは何百年前だろうか? 「…今の私は鬼神だ。そしてお前も聖神だ」 「いいえ、それは私達の間で呼び合うべき名前では無い」  鬼神が惚れた聖神の一端が、数百年の時を超えて露出する。 「ミネルヴァーチェ、お前は私について来なければ…この様な扱いを受ける事は無かったのだぞ?」  鬼神はそう突き放す様に告げる。そう告げた瞬間に彼の頬に彼女の拳が減り込み、そして()()()に突き飛ばす。 「この御返事も前にした」  数百年と同じ行動を、彼らは離れ離れになった時を繋げるかの様に繰り返す。 「…何も変わらないのだな」  鬼神は拳が突き抜けた頬を摩る。 「当然、その程度で変わるなら神にはならない」 「…まあ良い」  鬼神は吹き飛ばされた場所から立ち上がり、もう一度彼女の隣に座り直した。 「聖神、逃げ仰せるなら今だぞ?」  そして鬼神は本題の言葉を紡ぐ。 「笑わせる。また一人で背負うと?」 「そう言っている訳では無い。ただ…今の主が危険な存在だというだけだ」  鬼神は陵と美玲を危険だと考えていた。 「大丈夫、私は貴方と共にある。…英雄刀鬼」  鬼神にはこの地で英雄としての名が与えられていた。そしてその名を口にし、問題が無い事を告げる。 「英雄など…くだらない。聖女ミネルヴァーチェ」  裏切りに働いた者共の顔が未だに彼の目に浮かぶ。 「聖女など…くだらない。反英雄狂怒鬼」  そうオウム返しの様に聖神は鬼神の言葉に返す。 「フフっ…フハハハハハハっ!! …本当に変わらない」  そう呟くと共に、彼女の説得を諦めた彼。 「最初から変わらないと、そう告げていた」 「悪い悪い、そう怒らないでくれ」  彼女に距離を詰められて彼は後ろに後ずさる。それはまるで嫁の尻に敷かれているようで、彼ら神が、元々はただの鬼でありただの人であった事を証明しているようだった。  後ずさった鬼神()に少しだけ寂しそうな視線を向けた聖神(彼女)、そんな目を見て彼は後ずさるのを止める。  彼が止まった為、彼女の手の届く範囲に彼が居ることになった。 「私だって心細かった」  聖神はそう告げながら鬼神の肩に寄りかかった。 「…聖神でも心細いか」  そんな彼女の腰に鬼神は手を回し、抱き寄せて、そう告げる。 「数百年…少なくとも…貴方とはもう日の目を見る事は出来無いだろう…そう思っていた」 「…そうか」  彼女の独白_____________それは黙って聞く以外に手は無い。 「また貴方に再会出来て良かった」  ______それだけだった。  聖神はそれだけを告げ、もう一度、もう一度だけ眠りにつくことにした。  _______変わらずに愛してくれてありがとう。
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