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第一部‐裏‐略奪開始。

「んう…」  ここはどんな世界からも断絶される亜空間"ヘブンズガーデン"。そんな中でいつもと変わらずに神祖の吸血鬼-ミリ-は目覚めた。 (時間は…と、もうこんな時間ね。…まあ、昨日色々としちゃったし…妥当な時間よね)  そんな事を考えながらも、ミリは眠る前まで交わっていた夫-シン-の方へと目を向ける。 (私の体も…ちょっとは慣れてきたのかしら??)  初めて交わった時に比べ、自らの体が弱っていないのは確かだった。  初めて交わった時、シンとミリの生物としての格差がモロに出てしまい、直ぐに起き上がれなかったのも、今の彼女にとっては良い思い出だろう。 (それとも…シンが上手くなった? まあ…どっちでも良いわね)  くるくると回っていた思考にストップを掛けて、ミリはシンを揺すった。 「シン、もう遅い時間よ? 起きなくても良いのかしら??」  そしてそう告げる。 「ん…ん…、もうそんな時間か?」  目を覚ましたシンは横になったまま体を伸ばした。 「そうね」 「…待ち伏せすると、いつもの規則正しい生活が崩れるな」  待ち伏せする相手というのは、随分に前に狩り尽くした盗賊どもと取り引きしているだろうと思われる何かの事だ。 (確か…グランパレス共和国だったか?)  シンは心の中で、盗賊の頭領らしき男が言っていた国名を思い出す。  因みに、規則正しい生活が崩れるとシンが言っている理由は、待ち伏せとして誰かを、盗賊が居なくなった洞窟に置く以外にやる事がないという事だ。  つまり、暇人なのだ。 「私は好きだけれど? こういう時間が」  ミリは少しつまらなさそうにしたシンの顔に手を伸ばし、ペタペタと頬を触れる。 「ミリがそう言ってくれるのなら…やる事の無い時間も意味があるという事だな」  そんなペタペタと触れてきた手の平を掴み、そのまま上体を起こした。 「だって…貴方が色々やってると、私は夜以外放ったらかしにされるじゃない」  少しむくれた様にミリはそう言った。 「…そうだな。そう考えると…定期的に暇な時間を作るのは必要かもしれないな」  その暇な時間に何か興味の湧くことが見つからなければ、昨日と同じようにシンはミリにかまい続けているだろう。 「かも、じゃなくて…絶対にして欲しいのだけれど?」 「それを確約すると、守れなかった時にミリに殺されそうだ」 「…私はそんな野蛮じゃないわよ」 「それは知ってる。それでも…そこを"必ず"とは言えない」  シンはミリの頭に手を置いて、撫でる。 「それに…私はまだ怖い。…最高神擬きにミリは勝てるか?」  撫でたミリの視線に、シンは合わせ、そして問う。かつて彼女の街を滅ぼした存在にミリは勝てるのかと。 「…大丈夫、大丈夫よ。そんな悲しい顔をしないでちょうだい。貴方を困らせる為のワガママじゃ無いわ。…貴方に知っていて欲しかっただけよ」  ミリの目には、シンの目の中の視界が震えている様にも見えた。 「…それなら良かった。良くも悪くも…私はミリをこの世界に閉じ込めてしまっているからな」  シンにとっては、ミリの強さでは、まだ不安が残ってしまうらしい。  実はミリとフィリカとリオンの3人は、ダンジョンを終えてからというもの、外に一人で出た事がない。  …それは"最高神擬き"を倒す事が出来るかが基準になっている。  レオンは倒せるとシンによって判断されている為、外に一人で出る事も許されている。現に、今の待ち伏せは彼が行っている。 「貴方達って不思議よね。いつも何かを恐れている目をしているわ」  あんなに絶大な力を持っているのに…、そうミリは思う。 「…失う事を知ってしまったら、そうならないか?」 「そう…ね」  だが、次の返答を聞いてミリは自身の発言が安易であった事に気が付く。  ミリはシンやレイについてを詳しく…とは言えないが、家族として最低限は知っている。  ミリも当然"1度"は家族を失った者だ。  だが、彼らが背負っている記憶一つ一つには必ず親しい何者かの死があり、それは…"1つ"では無いのだともわかっていた。  シンとレイの記憶は、基本的に"英雄"と呼ばれる存在の(記憶)である。  そして、基本的に"英雄"という存在には英雄になるべくしてなるターニングポイントが存在する。  闇の底から光を追い求める為に英雄になってしまった存在も居れば、自身の周りを何一つ取り零さぬ様に生きていたら英雄と呼ばれてしまった存在も居る。  そんな存在に成ろうと足掻きだし、最終的に英雄と呼ばれる様な存在が最初に感じたものは、希望だろうか?絶望だろうか?   絶望であれば、"親しい存在が息絶える"様な事柄が多いだろう。  希望であれば、"幼い頃に抱いた情景"の様な事柄かもしれない。  彼らの中にあるのは、最初は絶望から…か、最後に絶望…か、もしくは夢半ばで散った存在か…である。  ______完全で満足に英雄として生涯を終えた存在は、彼らの中には存在しない。 「すまない。ミリを責めたいが為に言った言葉じゃない」 「ううん、そうじゃないわ。貴方の存在に私が勝手に心を痛めただけ」  シンはミリの顔を見てそう告げるとミリは首を振って否定した。 「…シンもレイももっと私を巻き込んで欲しいわ。それはワガママかもしれない、けれども、家族であると言う事はそういう事だと思うのよ」  ミリ自身、それがお節介かもしれないと考える事もある、過去なんて忘れてしまっても生きていける事は理解している、それでも…彼女は引かない。  何とか説得し何とか巻き込ませようとする。  それが自身より強大な力を持っている彼、彼女らに対する最高の礼儀だと考えて引かない。  "私が彼らを支える"、それは今までに彼らから貰ったものを踏まえた上で…そうしてみせようという覚悟だ。 「その気持ちを貰えるだけで…私もレイもここでやすらぐ事は出来る」 「その気持ちに偽りは無いわね??」 「当たり前だ。…レイの精神が安定する様になったのも、ミリが居たからだ」  シンも彼女無くして、今は無いと考えている。  コンコン  そんな静かな会話に割り込むように、扉がノックされた。 「入ってくれ」 「失礼します。レオンがとうとう捕まえたそうです」  そう言って入ってきたのはレイだった。 「…そうか、捕まえたか」 「はい、今すぐに行かれますよね?」 「ああ、行こう。ミリは…」 「私は待ってるわ。貴方達の邪魔をする気は無いから」 「…ありがとう」  シンはそう言ってベッドから立ち上がり、服を紡ぎ、黒い威圧感あるコートを自身の内部から取り出して着込んだ。  そうしてシンは待ち伏せていた洞窟へと転移した。 ☆ 「レオン」 「やっと来たな。シン」  シンはレオンに目を向け、彼の前にボコボコにされて動けなくなっている人々を見る。 「…派手にやったな」 「シンは記憶が読めるって前に言ってたろ? だったら喋れなくても良いんじゃねえかって思ってな」  レオンはシンの要望に合わせて敵の処理をしたつもりのようだ。 「…はあ、まあ、それでも良いか」  使えそうな人材が居れば拾っておこうと考えていたシンだったが、その考えは潰えた。  シンはあらぬ方向に関節が向いている者達の頭に手を翳す。記憶の読み取りを始めたようだ。  様々な代表と呼ばれる者が"グランパレス共和国"に存在する事を、シンはその記憶から知った。それから、今目の前に転がっている者達が"グランディス帝国"と繋がりがある事も知った。  グランディス帝国は"勇者召喚"を行う事の出来る唯一の国である。この惑星はそう言っていた。  それから…奴隷をかき集めている盗賊がここ以外にも居る事を知った。 (こいつらの獲物…根こそぎ横取りしてやろう)  奴隷だけを対象にシンは思ったわけではない。当然、沢山の盗賊が囲っている金品類も対象だ。 (財宝…としては期待出来ないだろうな)  ここにかつて居た盗賊から想像し、何か目新しい物を持っていたりする事は無いだろうと考えた。 (だが、まずは…そうしよう) 「レオン、出発だ。…国に行くのはだいぶ後になりそうだ」 「おいおい、また何か面白いもんでも見たのか??」 「まあ、そんな所だな」  シンは生きているかも生きていないかもわからないボロ切れの様な者達を無造作に放置して、洞窟から外へと出た。  当然、レオンもそんなシンの後ろからついて来る。 「さて、呼び出そうか」 「?」  シンがそう言い手を翳すと目の前にユニコーンのユウが現れた。シンが彼を召喚したようだ。 『何か用か? 主?』 「用が無くては呼ばない。ユウは私とレオンを連れて走る事が出来るか?」  片や小男、片や大男を巨大なユウが運べるかを問う。 『当然だ。だが、態々私を呼ぶ必要は無いのでは無いか?』 「私が自身の脚で走りたくないと思っただけだ。かなり長距離になりそうでな」  人型よりも馬型の方が速いのは当然である。…特に長距離であれば…。 『なるほど、理解した』 「なら、乗らせて貰う。レオンは後ろだ」 「おうよ」  シンが背に乗ろうとする直前に、ユウが持っているアイテムボックスから"鞍"が装着された。 「自動装着機能はやはり便利だな」  ユウが勝手に着替えられる様に、彼のアイテムボックスは作られている。 『うむ、かなり便利だ』  そしてシンとレオンが乗り終えた。 『では行こうか、主よ』 「ああ、暫くは…真っ直ぐ突き進んでくれればいい」  シンがそう告げるとユニコーンのユウは1度だけ高らかな雄叫びをあげ、走り出した。 ☆ 「そこから右…いや、もうちょっと左」 「そこを左、…もうちょっと左だ」 「そこの山を越えてくれたら終わりだ」  時速300kmは超えているであろう速度で、ユウは森に中を走っていた。…そう、森の中をだ。  凸凹した岩場やあちらこちらに生えている木々を、逞しく鍛え上げられた筋肉でユウは走る。  やがてユウは大きな山を越え終えた。 『主、越え終えたらどうすれば良い?』 「ここで待っていろ。…危なくなったら逃げの一手だ」 『承知した』  シンとレオンはユウの背から飛び降りて、目的地へと歩き始めた。  これからシンが向かおうとしているのは"奴隷"が扱われた実験施設だ。国では無く国外で、しかもこんな山の無法地帯で行うのには、きっと色々な理由があるのだろうと思う。  少なくとも…民衆には受け入れられない、などなど。  "狂った"存在が居るかもしれないと、シンはそう思って目的地に向かっていた。  だから、"根こそぎ横取り"なのだ。  非人道的な事柄に対してシンはとやかく言うつもりは無い。無いが…それが素晴らしい存在を創り出していたのなら…奪い取る気なのだ。 (こんな辺鄙な所でやっている様な研究だ。どうせ奪い取った所で表立って文句も言えないだろう)  裏から文句を言ってくるのならむしろ好都合、そのまま潰してしまえばいい。  まあ…、そもそもの話、彼らの存在を向こう側が知るまでにかなり時間が掛かってしまうだろうが…。  そして研究を主導していた誰かが、彼らの事を知る前に彼らはそれを潰してしまうだろう。  ピタっ  シンは突然足を止めた。 「どーした?」  レオンはその不審な行動に疑問符を浮かべる。 「いやなに、正式な入り口に行くのも面倒だと思ってな」 「はあ? …あ、ちょっ!? やるなら一言言えよおおっ!!!!」  次の瞬間、シンが立っていた地面が倒壊し、彼らは地下へと落ちて行った。どうやったかは省略するが、これを行った犯人はレオンの言う通りである。  ドスンっ!!  レオンはシンよりも先に地面に着地した。 「やはり居たな。実験体の少女…いや、人造神族とでも言えようか」  シンはその後に着地し、気配だけでそこにお目当てが存在している事を理解し、呟く。 「…いや、だが、この少女だけでは無いのか…人型キメラ…か?」 「そう言われても俺はわかんねえよ~」 「あ、ああ、悪い。ついつい…」  レオンがそうボヤキ、シンは思わず謝る。  きっとアイであれば正体も理解し、"シン兄、多分〇〇だよ"と言ったに違いない。  レオンの気配系の能力はアイと比べるとやはり劣ってしまうので仕方が無いだろう。 「私が先行する」 「俺の役目無しかよっ!?」 「回収した子供を守れ。…本職だろう??」 「…なるほどな」  レオンはシンが今から何をするかを理解したようだ。  レオンは神剣(グラン)神円盾(ゼラン)を取り出した。シンが回収し、彼が護衛する。 (さあ、お宝探しを始めようか)
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