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第一部‐異世界に慣れ始める。

「ふんふんふん♪」  美玲が鼻歌を鳴らしながら歩き、そんな彼女のすぐ隣を陵が歩く。 「主は随分とご機嫌だな」  鬼神はそんな彼らを後ろから見てそう言った。実は彼らが歩き始めてから、もう既に20日ほど経っている。  彼らは両足にコンバットブーツを履き、森に中を楽しそうに闊歩していた。  流石にそれだけの期間が経てば、彼らも異世界生活が慣れてくるようで…。 「晴れてるしな〜」  陵はそう呟く。 「風も気持ちいいー」  美玲もそう呟く。…が、彼らはずっと森の中で歩いていた。少しじめっとした森の中から少しだけ抜けたのだ。 「主ら、こちらを見ている者が居るぞ?」  鬼神はこちらを観察している存在に気が付く。 「私達も見えてるから大丈夫だよ〜」  だが、陵も美玲も気が付いていた。  美玲の"索敵"能力を陵と彼女で共有しているから。これはサバゲーで培われたものだ。 「良いのか? 放っておいて??」 「うーん…多分危害は加えて来ないんじゃないかなあ?」  鬼神はそう聞くも、美玲は問題無いと判断していた。…因みに、敵対する可能性があれば"既に"殺している。  "相思狂愛"にはそのような効果もある。 「オーク?」 「…っぽいな。俺にやらせて??」  それとは別に敵の魔物が現れたようだ。陵よりもひと回りくらい大きいオークだ。 「何をする気だ?」  鬼神は陵にそう訊ねるも…  ぼうっ!!!  返事は口から吐かれた炎球だった。その炎球は立ち塞がったオークに直撃し、そのまま炭にしてしまった。 「…主、今のは??」 「ほら、三日前くらいに鬼神が倒してくれたワイバーンが居ただろ?」 「まさか…」  そう、鬼神が近日中に倒したワイバーンは火を吹いていた。それをそのまま真似ただけである。 「ただ…少しダルいかも」(際限なく力がある訳じゃ無いんだろうな…) 「ええ、陵、大丈夫???」  美玲が陵の手を握った。すると、陵の怠さは一気に吹っ飛んだ。 「あ、あれ? ?ダルくない…」 「…手を握ったから?」 「…多分。…すげー…、何か嬉しい」  嬉しさのあまりに、陵は鬼神が居るのにも関わらず美玲に抱き着く。 「…うん」  "むぎゅ"っと美玲も抱き着き返した。 (こういう所は相変わらずなのだな…)  鬼神は彼らはこういう物だと諦めてしまったようだ。 「手を繋いでれば疲れないなら、美玲に隣でずっと火を吹けそう」 「…吹かなくていいよ。フーーー」  一方美玲は、ワイバーンが威嚇として行っていた息吹を真似ていた。なんだかんだでモノマネが楽しいらしい。…息吹と言いつつガッツリ口から零れ火が漏れていたが…。 「お、俺もやってみようかな。フーーーーー」 「あははははっ!? 顔変だよ??」 「そんな事言ったら、さっき美玲だって変だろ。鼻から火が出てるんだし」 (…何が違うのやら…)  そんな彼らのやり取りに鬼神は呆れるしかない。  鬼神は少し前に、イチャついている所を思いがけなく邪魔してしまった事があったのだが、その時の彼らのテンションはガタ落ちだった。  その為、後ろの方で見守っているしかないのだ。 「む?」「「んん?」」  鬼神が始めに気が付き、陵と美玲も気が付いた。先程からこちらを観察している人が弓と矢で彼らを狙っている事に…。 「行ってくる」  美玲はそう言った次の瞬間に、その観察していた人の後ろに転移。コンバットナイフで首を刈り取った。  きっと彼らを殺そうとしなければ、危害を加えようとしなければ…彼か彼女かわからない人型は死なずに済んだのだろう。  彼らは日に日に容赦が無くなっている。今彼らが手を掛けたのだって人なのだ。  それなのに何食わぬ顔で首を刈り取ったのだ。十二分に"狂人"と呼べてしまうだろう。  そして何食わぬ顔で、美玲は陵の所へと戻って来た。 「人だったのに、殺したのに、何も思わなかった」  美玲は少しだけ、怖くなっていた。 「慣れたんだろ」  陵はそんな美玲にそう告げるだけだった。 「…でも、人は2人めだよ?」  慣れるのが早過ぎるんじゃないかと、美玲は思う。 「でも、今日までいっぱい生き物は殺してきてるし」  陵の中では、人と獣の差が"話せるか否か"以外にはもうわからなくなってしまっていた。 「うーん…そういう物かなあ?」 「そうなんじゃない? どちらせよ、こっちは生きる為に殺してる訳だし罪悪感無いなら…むしろ、丁度良い感じ??」  陵ももっと吐いたり出来るものだと思っていた。彼が読んでいた小説なんかでは、よく主人公が人を殺してからゲロを吐く描写があるから…。  でも…現実はそんな事を彼は感じれなかった。まあ、彼はむしろ好都合と思っているらしいが…。  だって…、大切な人以外に躊躇うものが無いのだから。彼は戸惑う間もなく取捨選択出来てしまうのだ。 「まあ…確かにそうだよね」  罪悪感なんて感じている余裕が無いのも事実だったりする。…というよりも罪悪感を感じる意味が無いとも思ってるようではあるが…。 「まあ、流石に小さい子供を問答無用で殺したりするのは抵抗とかあるんだろうけど…」 「…でも、出来るか出来ないかで言ったらやれるよね??」 「そりゃあ、顔見知りじゃなければ価値が無いのも同然だし。…やりたくないけどなあ…」  陵は恐らくはそんな事も出来ると感じながらも、そんな事態にならない事を祈った。  こんな話を傍から聞いている鬼神は、彼らを"異常"だと思うほか無かった。 「あ、虎さんだよ?」  そんな事を話しながら歩いていると、美玲が魔物を見つけた。 「茂みの中に隠れてるな」 「…どうする??」 「威嚇発砲して終わりで良いんじゃない?」  美玲はそう言いながら光線銃ハンドガンを取り出して、虎にギリギリ当たらないラインを撃った。  虎は自身が隠れていた茂みの前の土が、まるでバターの様に溶けたのを見て、一目散に逃げていった。 「さ、先に進もっか」 「だな」  陵と美玲は更に先を歩いた。 (…私の存在価値が無くなってきている)  鬼神はそんな彼らを見てそう思う。  ここ数日は鬼神が敵に気が付く前に美玲が見つけてしまったり、陵が見つけてしまったりするし、鬼神が走ってそれを倒すよりも美玲が引き金を引く方が速かったり、転移を使って回り込んだ方が速かったり…。  まあ…そもそもの話、かの天照大神様が彼らに与えた能力や武器に妥協などしていないのが原因なのだが…。  戦力的に考えれば、今はまだ彼らよりも鬼神の方が強いのだが…それも時間の問題だろう。 「そう言えば、聖神の社まではまだ遠いの??」  美玲は目的地までの距離を鬼神に訊ねる。 「うむ、これで丁度半分だと言えるだろう」 「…ふーん」  美玲は面倒臭そうに鬼神に空返事をした。 「面倒臭いね〜」 「とは言え、俺達のやる事なんてほとんど無いし」  現実問題、彼らにやらなければいけない事は無い。…生き抜く事がやらなければいけない事になるのかもしれないが、それはまた別の話だろう。 「何か面白い遊びとか無いのかなあ??」 「スマホも飛ばされた時に置いてきちゃったしな」  彼らは完全に手持ち無沙汰な状態になってしまっていた。 「なら…私から刀の扱いでも教わってみるか??」  それは鬼神からの突飛な提案だった。 「確かに面白そう…」 「良いかもね。…やる事無いからお願いします」  陵はそう呟き、美玲は暇潰しの為にお願いした。  すると、鬼神は割と真面目に彼らに教え始める。刀の振り方より先に歩き方を、足運びを、重点的に教え始めた。  先に進みながら、足を止めずに教えられる事がそれぐらいな事も相まって、かなり真面目に教えていた。  …だが、陵は能力故に直ぐに覚えてしまい、美玲もそんな陵の能力を共有してあっという間に使える様になってしまった。  当然、"模倣"ではオリジナルには追い付かないし技の成熟度も鬼神には追い付かない。  それでも良いらしい、というよりもそこまで興味は無いんだとか。別に刀で世界一位に成りたい訳では無いし。 「才能があると言えばいいのか…能力だからと思えばいいのか…」  鬼神は呟く。 「才能なんて無いだろ。むしろ…あったら困る」  陵は言い返した。 「えー、陵は才能あるよ??」  ずっと彼を近くで見てきた美玲は告げる。 「あっても生きてけないなら意味無いだろ」  陵は素っ気なくそう返した。  彼に与えられた"模倣"という技能は、模倣する動きの意味を知っていた方が綺麗に真似ることが出来るのだ。つまり、彼は鬼神に教わった事を余さず吸収したからこそだったりする。  能力による補正はあるにはあるが、それはあくまで彼の元々持っている潜在能力に補正が掛かったに過ぎない。  "模倣"という能力は"投影"や"射影"とは違い、通常の才能ありし人も出来る事なのだ。  …とは言え、それを知ったとしても、彼の自身への評価は変わらないだろう。才能だって結局は使う人次第でしかない。  それに、例えば何かに対して、才能が無いからハイ辞めた、と簡単に諦めがつかないのが人間だ。 「あーもう…自己評価低いんだから…」 「まあ、高くは無いな」(低い方が緊急事態に対処しやすいんだよな)  陵はそう言いながら、心の中でそう思う。  自身を低く見ておけば、低く見たままで立てたプランに何か緊急事態が起きても対処出来るという事でもある。  つまり、彼はどうしようも無く臆病なのだ。  今でも夜な夜な美玲が居なくなってしまうかもしれない恐怖に震えそうになるし、美玲に抱き着いていないと安眠出来ないまである。 「高くは見積もらない。人生で失敗しない為の鉄則だろ?」 「そうだけど〜、私の彼氏が自己評価高いのはちょっと…」 「そう言うなら…まずは自分の自己評価を上げたら??」  陵は美玲の顔を覗き込む。 「えっ・・・と、なんの事かな~なんて」 「だって、美玲がスカートとか履かないのってそういう事だろ? 俺は制服以外で美玲がスカート履いてるところなんて見た事ない」 「うっ…」(バレてる…まあ、バレない訳ないよね。…陵だし)  美玲は私服のスカートを1枚も持っていないのだ。当然自身が似合わないと思っているからで、陵もそれにあーだこーだ言う気は無い。  "可愛い美玲が見てみたいな~"なんて願望がちょっとあるだけなのだ。  …実際、陵は美玲の制服姿が結構好きだった。 「まあ、別に良いんだけど」 「てへぺろっ! …可愛くないけど許して」  "てへぺろ"と言ってから、その可愛くなさに罪悪感が沸き起こる美玲。 「…愛でたくはなる」  美玲の口に口をくっ付けた。…陵的には"よかった"らしい。 「ん…、でも実際はどうなの?? 陵は好きなの??」 「俺はそりゃあ好きだけど。でも…動き辛くなるだろうし、無理しないでって感じかな」  無理されても困るし、それをされても自身の自己満足だけで終わるのはわかっている。 「むー…考えておきます」 「お?」 「やるとは言ってないからね? そんな勇気はないよ〜」  ちょっと期待する陵に、美玲はそう言う。 「わかってる。…?」  陵が美玲にそう言ってから、とある方向を見てから、首を傾げた。 「よくわかったな。主」  鬼神はそんな陵を賞賛する。 「魔物だ。それも…かなり強い」  陵は能力を共有させて"アイテムボックス"から、既に創り出してあった鬼神の刀と小刀を手に持った。 「ホントだ。こっちはバレてない?」 「…今はまだ」  美玲は片手に光線銃ハンドガンを持って、片手に逆手に持った小刀を…、いつでも戦えるようにと構えた。 「私がやるつもりであったのだが…」  鬼神は先に刀を抜いていて、自身が彼らを守るつもりだった。 「え? 倒してくれるなら任せちゃう…?」  美玲は鬼神を見てから、陵に目を向ける。 「この先何に出会うかわからないし、戦っときたい」  陵は実戦の数を増やしたいが為にそう言った。 「りょーかいっ!! じゃあ、不意打ちいっきまーす!!」  美玲はその魔物の頭の上に"転移"、光線銃の銃口を押し当てて引き金を引いた。 「えっ!? おっと!?」  だがしかし、頭を潰したのにも関わらずに魔物は生きていた。美玲は後ろから噛み付いて来た蛇を躱して、地面にひらりと着地する。  そう、その魔物はキメラさんだ。キメラさんのライオンさんの頭だけを美玲は撃ち殺したのだ。  本来、キメラは本体の頭よりも先に他の頭を倒さなければ本体には近付けない。だが、それでも美玲は本体(ライオンさん)の頭を先に吹き飛ばしてしまった。  その結果何が起こるだろうか? 簡単だ、キメラさんは歩けなくなってしまった。つまり、他の頭がじたばたと動いているだけである。  陵や美玲に噛み付けば、間違いなく一撃で殺せるであろうキメラだったが、こうなってからでは何も出来ない。 「陵〜手伝ってー」  美玲が陵を呼び、陵と共に蛇やら羊やらを撃ち殺した。そんなじたばたしている相手に近付こうなんて事は、彼らは絶対に思わない。  美玲の光線銃ハンドガンを陵が投影して、淡々と処理するだけだったようだ。…陵が刀と小刀を構えた意味は全く無かった。  "投影"のレベルが低いが為に、今はまだ美玲が持っている本物よりも断然に威力が劣ってはいたが、それでも半死状態のキメラさんには充分だったようだ。  陵が"投影"した武器の質が悪いのは何も光線銃だけではない。鬼神の刀もそうである。  だが、強度不足で折れることはあっても作り直せば良いだけなので、全く不自由はしていなかった。 「陵、食べれるってさ」 「へえ? 塩もあるし食べてみようか」  …"鑑定"があって食べれるからと言って、キメラを食べる気にはならないと思うのだが…。  あ…いや、ちょっと待て。ライオンの肉や羊の肉、それから蛇肉…、まさか、一頭だけで何種類もの肉がカバー出来る…!?  やったねっ! 飽きが回ってこないっ!!!
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