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第一部‐異世界を歩く。

「ふああ……」  やがて1夜開けて、陵は目を覚ました。 「…美玲…」  腕の中にいる美玲を優しく抱きしめる。 (温かい…)  そして、そう思いながら安堵する。 「んう…陵…」 (起こしたか…?)  美玲の言葉に陵は少し焦ったが、どうやら起きてはいないようだ。  陵はそのまま美玲に抱き着きながらも、心の中で様々な想いを反芻させる。その中でも特に反芻される想いは"どうやって生き抜くか"。  神様から貰った食料だっていずれは無くなる。そうなると、陵は自身で野生動物を解体しなくてはならない。 ("鑑定"に従うしかないんだけど…)  結局どれが食べれるかはわからない。鑑定してみて、仮に食べれるとわかっても、味までは保証されない。  そもそも…調味料が無いのだから味付けなど出来ない。 (仕方ないよな。それより…思ったより人も簡単に殺せたな…)  更に彼の頭の中には今までの行動が反芻する。人を殺した事、動物を殺した事、鬼神を解放した事、それから…不老になってしまった事。 (ごめん…って謝るのはきっと違うんだろうな)  美玲にワガママを言った事、それを美玲が受け入れた結果、美玲も不老になってしまった。 (神様が何かしてくれたのか??)  想いだけで世界が回るほど…世界は甘くない。…そう陵は考えている。でも…想いだけで美玲は陵と同じ"不老"になった気がする。 (でも…きっと、美玲を巻き込んだのは……) 「んう…、陵…暑いよ〜」  そんな悪くなっていくばかりの思考をぶち壊す様に、陵の腕の中に居た美玲が目を覚ました。 「あ、悪い…」 「ううん、もう朝だしね」  そう言いながら、美玲は陵の腕から抜け出した。 「それに、陵が夢の中で"助けて"って叫んでるから…目が覚めちゃった」 「…え?」  美玲が陵に覆い被さり、続いた言葉に彼は首を傾げる。 「大丈夫だよ。陵は私のなんだから、私だけのなんだから。…これからもずっと私のだから」 「…ん、そうだな」  軽く唇を合わせ、離し、陵も認識を改める。 「美玲…が大好き。…愛してる」 「…向こうでは恥ずかしくて言えなかったよね。"愛してる"…なんて」  現代日本で、高校生で、彼女に"愛してる"と、本当の想いで告げられる存在はどれだけ居るのだろう? 「…そうかな? 俺は言えてたと思うんだけど?」 「そりゃあ"好き"って何度も言ってくれたけどさ」 「"愛してる"は言ってなかったっけ?」 「…多分」 「自信ないのか…」 「あはははは…だって、その…何か色々とね?」 「まあ…別に良いけどさ」  自分の上に乗っている美玲をまた抱き締めた。 「そう言えばさあ?陵ってエッチい気持ちにはならないの??」  抱き締められた中で、ふと思い付いたことを訊ねる。 「今はならないかなあ…、…多分、余裕が無いんだと思う」 「だよね。…そう言う時は前もって言ってよ?」 「えー…」  実はテンパってる美玲も好きだったり…。 「いきなりはびっくりするから止めて」  陵の口に人差し指を重ねて、美玲はにへら…と笑う。 (美玲は強いな…)  そう思いながらも、陵は口でその指を銜えた。 「待って、陵、待って、これは事案」 「…ダメだった?」  美玲がそれをされてそう言い、陵はそう訊ねる。 「そういう雰囲気だったら良いけど、今はダメ。はあ…指、洗って来ないと…」  美玲も今更指をしゃぶられたどうので騒ぐ気は無い。…そういうテンションであれば、体を隅々まで舐め回す勢いだったりするから…。 「じゃあ…そろそろ起きようか」 「だね。手を洗ったり着替えたり…あと、髪のセットお願いしても良い?」  美玲はボサボサになった髪を触りながらそう言った。 「もちろん、それが終わったら外に…歯磨きは?」 「ブラシセットなんてあった?」 「…ない」 「そういうのも探さないとね」 「だな。じゃあ、準備したら外に出よう」  そうして美玲と陵は外へと出るのだった。 ☆☆☆☆ 「主ら、…昨日に比べ、随分と動きやすい服装をしているのだな?」  鬼神は黒いジャージ姿の陵と、白いTシャツにGパンを履いている美玲にそう言った。 「そうかもな」「そうだね」  陵と美玲は外に出てすぐに、家をアイテムボックスの中へと仕舞う。 「敵は?」 「刀の錆にしてやった」 「…まあ、鬼神と言うだけあって負ける筈もないか」  陵は神様って言うくらいだし、それくらいは出来て当たり前なのだろうと思っていた。 「あ…そう言えば、不老不死がどうのとか言ってなかったっけ?」  更に思い出した様に陵は訊ねる。 「主が良ければ方法を教えようと思うが?」 「ん〜…わかった。聞いてみる」  陵はそう言って鬼神の話に耳を傾ける事にした。美玲も耳だけはこっちに集中させている。  陵が鬼神から話されたのは、端的に言えば鬼神以外に神と契約を結ぶという事だ。  鬼神の様な存在と契約して行き、鬼神と同じ様に神々から影響を受ける事で陵と美玲を更なる高みに引き上げようというものだ。 「ふーん? って事は他の神様が仲間になるとは限らないんだ?」 「…それはそうだな。あくまで私は鬼神でしかない」 「…行く宛もないし、行ってみるか?」  陵は美玲に聞く。すると美玲は頷きを返した。 「ただ、食料とか足りなくなるから…そこら辺は何とかならない?」  そこで陵は鬼神に訊ねる。…と同時に今日は何も食べてないな…と思った。 「それなら昨日のうちに狩っておいた」  鬼神が取り出したのは、血抜きがしっかりとされている兎だった。 「美味しいのか?それ?…調味料は?」 「それなりに美味しい筈だ」 「じゃあ、朝飯を鬼神に任せてみても良いか??」 「もちろん、美味しく焼き上げて見せよう」  鬼神はそう言うと、喜々ういういとしながらも小刀を何処からか取り出して兎を解体していった。 「…陵?良いの? 焼くだけになりそうだけど…?」 「食料確保が出来るなら焼くだけでも良いよ。…食料が無いって焦る必要も無くなるし」  美玲はそう予想を立て、陵はそれでも口に入れられるなら…と思う。  そんな事を考えて鬼神の行動を見ている彼らの前に、緑色の亜人-ゴブリン-が現れた。 「…これ…敵だよね??」 「多分…戦わないといけないんだろうな」  陵は鬼神が昨日使っていた刀を"投影"した。一方美玲は、光線銃サブマシンガンを2丁持っていた。1丁は陵作であり本物に比べて随分とちゃっちい造りだが…。  数は10を軽く超えているように見えた。  美玲はそんなゴブリン達にサブマシンガンをバラバラと撃ち放つと、何発かは外れて何発かは直撃した。直撃してしまったゴブリンはまるで葉っぱが虫に喰われて穴が空いてるようにも見える。…葉っぱに比べて断面図がピンク色過ぎるが…。 「ぎゃぎゃぎゃっ!!!」  そんな中、棍棒を持っていたゴブリンが美玲に殴り掛かる。 「ていっ」  そんな棍棒を陵が鬼神の刀(偽物)で受け止めた。 (…あれ? あまりこいつ力無いみたい?)  陵は唾に棍棒を引っ掛けて上に弾き飛ばす。それから素人ながらの返す刀でゴブリンを斬り裂いた。 (なんか、案外簡単だったな)  陵が斬り裂いている間にも、美玲は光線銃サブマシンガンでドンパチドンパチやっている。 「おっとっと」  美玲は襲い掛かってきたゴブリンをひらっと躱して後ろに下がる。ゴブリンは当然美玲を追いかけようとしたが、流れる様な動きで陵がゴブリンの進路を妨害、"風爪"を腕に纏い、かつて見た魔物の動きを真似て斬り裂いた。 (成程…1度見たものは真似られるのか…)  陵は実験が成功した事を見て、そう考えた。  そんな中、陵は頭を抱えてしゃがみこむ。すると、美玲のサブマシンガンがまたもやゴブリンの群れ達に火を吹いたのだった。  ☆☆☆  やがてゴブリンの死骸が積み上げられた頃、鬼神は兎の肉を焼き終えていた。…当然、鬼神の周りにも何体かのゴブリンが転がっていたが、それは些細な事だろう。 「「ゴクリっ…」」  兎のいい匂いに彼らは釣られ、思わず喉を鳴らす。 (こう見ると年相応なのだが…)  鬼神は先程、ゴブリンを何のこと無く殺戮していた彼らを見てそう思う。 (殺し合いはした事が無いのでは無かったのか??)  更に彼らの言葉を思い出し、そうも思った。  だって、先程の彼らの動きはぎこちなさはあれども、それなりに洗練された動きだったから。  というよりも、そもそも始めて殺し合いをするのなら心が乱れるのが普通だ。それがほんの少しであったとしても…だ。  彼らの心はビクともしなかった。どう考えても異常である。 「主ら、召し上がってくれ。きっと美味しい筈だ」  きっちりと中身まで焼かれている薄い兎肉を大量に皿に盛って、鬼神はそう言った。 「…皿は何処から??」  陵は思わず首をかしげて聞いた。 「私が元々持っていたものだ」 「あーそうなんだ。じゃあ、いただきまーす」「いただきまーす」  陵は鬼神に言われて、"神様だし"で済ました後、美玲と共に食べ始めた。 「んん!?んん!!美味しいっ!!」 「…確かに。塩味が…ん?んん??塩???」  美玲も陵も温かい料理を食べたのは王城を追い出されて以来だ。だが、彼はそれ以上に口に入れた肉に塩が効いている事に意識が行っていた。 「な…なんだ??」  陵の鋭い眼光を受けて、またもや鬼神はたじろいだ。 (この眼光を向けられると…少し怖い)  鬼神はそう思っているようだが、じっと見られていたら鋭くなくても怖いだろうし、ましてや陵は昨日、鬼神に対して"食事可能"と言ったのだ。…怖くないはずがない。 「塩はまだあるの??」 「う、うむ、もちろんある。限りがあるのは当たり前だが…」 「だったらこれからの食事は安心だね」  美玲はそんな陵と鬼神の会話に、薄い肉を銜えながら入ってきた。 「そうだな。…美玲、飲み込んでからにして?」 「ふぁーい」  すぐに陵が注意し、美玲は大人しく飲み込んだ。 「ねえねえ、鬼神さんは私達をどの神様の所に連れて行くの??」  ここでようやく、美玲が本題を切り出した。 「私が連れて行こうと思っているのは…聖神と呼ばれる神様の所だ」  鬼神は聖神なる神様の所に彼らを連れて行こうとしているらしい。 「聖なる神様?? …私はあまり会いたくないなあ…」 「何か、口うるさそう」  美玲からは明確な拒絶反応が、陵は控えめに嫌だなあという具合にそう告げられた。  美玲が明確に拒絶したのは、自身が"聖"が付く様な、大それた人間でないことを知ってるから。  陵は深くは考えていないが、字面的に嫌だなあという感じだ。だって聖なるって面倒くさそう。 「とても性格の良い奴なのだが…ダメだろうか??」  鬼神は陵達にそう言った。 「うーん…良いけど、遠いんだろ?」 「いや、そんな事はないっ!! いや…そんな事あったかもしれん」 「いや…どっちだよ…」  陵はそんな鬼神の反応に頭を悩ませた。 「陵、私は良いと思う! …どうせ行く宛は無いんでしょ??」 「そりゃあ、知らない世界だし、娯楽なんてありそうにないし」  美玲は少し楽しそうに言い、陵も納得しかけた。 「…結局、鬼神を信じて良いのかって事なんだけど」 「私は契約を結んだ。主と不義理になるような事は出来ない」  異世界の神様の黒い目と、陵の黒い目が交錯する。 「本能的な感覚としては大丈夫っぽいんだけど…」 「それは主らが覚醒された…神々の力を超える程の能力だ。誇っていいと私は思う」  陵と美玲が覚醒したシーンを見て、思わず鬼神が頭を下げそうになる程に恐ろしい能力を彼らが持っている事は、鬼神は理解している。  この世界では…いや、どの世界に置いても、それは(ことわり)外に位置する程の能力で…。 「俺の力がわかるのか??」 「いや、詳しくはわかりかねる」 「「・・・・・・」」 「主ら、どうだろうか??」  鬼神は催促する様にそう言った。 「…わかった。鬼神、案内してくれ」  陵は鬼神の顔をじっと見つめ、美玲も鬼神の顔をじっと見つめ、少し疑いの目を含みながらも彼は言葉を紡いだ。
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