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第一部-裏-旅立ち。

「シン兄、ダンジョンが終わったのを嗅ぎつけたのか知らないけど…いっぱい神族がこっちに来てるよ」  アイがそう告げたのは、シン達がダンジョンの地下第80階層から地上へと転移しようとしている時だった。 「ほう?」 「どうするのシン兄?」 「…この世界でひたすらに暴れた後、そのケツ持ちは地球の最高神がしてくれると言っていた」  シンはアイの問い掛けに答えなかった。 「つまり…?」  アイは急かすようにシンに訊ねる。 「全員消滅させてやれ。レイはレオンやフィリカ、ミリも全員この地に連れて来い。…この地で全てを殲滅させる」  どうやら戦う気は満々のようだ。逃げると言う手は端から存在していない。 「…承知しました。今すぐに」  レイはシンの指示を聞き、すぐさま"ヘブンズガーデン"へと転移した。  この場に残っているのはシンとアイ、それからユウだ。正直シンだけでも過剰戦力だったりするだろう。  そんな戦力に相対する様に神々の軍勢は第80階層の大扉-ボス部屋-を破壊し、中へと溢れるように入ってきた。 「この地は我々の物だ。大人しく譲ってもらおうか」  その中央に居たそれなりに強そうな存在が偉そうにそう告げる。 「ふん、…調子に乗るな。グズが」  シンはその偉そうな存在を心底に見下した。その不遜な態度と、それに見合わない力の無さに。 (だが…何かの素材にするには良さそうだ)  そして同時にそう思った。 (それに最上級神と言われる天照大神は態々私に頭を下げたと言うのに、これは随分と偉そうだな)  更に方や地球の最上級神と呼ばれる天照大神と比較してみたが、とてもでは無いが同じ神々の様には思えなかった。神も人と同じく、きっと十人十色なのだろう。 「なんだと…? 貴様、誰に対して口を聞いているのかわかっているのか??」 「自身の力に溺れた、どうしようもない馬鹿どもだってことは知っている」  挑発をするシンの目はあくまで冷たく、まるでゴミを見るような目を向けていた。それが変わる事は、目の前の神々が素材にでもならない限り変わりはしないだろう。 「貴様っ! 今ここで焼き払ってくれようぞっ!!」  その偉そうな神の1柱はそう叫び、恐ろしく強大な、シンなど軽く飲み込んでしまえるような業火の球を生成し、彼へと投げ付けた。 「神にまで至っておきながら大きさに拘るとは…、お前らラフタの神々は総じて馬鹿なようだな」  シンはそう告げる。そして、自身の妻であるミリの街が、こんな馬鹿どもに潰された事に酷く哀しくなる。  そんなシンへと投げ付けられた強大な業火の球は、"ヘブンズガーデン"に待機していたメンバーを連れて戻ってきたレイによって、あっさりと潰されてしまうのだった。 「ミリ、レオン、フィリカ、リオン、思う存分に恨みを晴らせ。いや…恨みなど無くても良い。一匹残らず消し去れ、逃がすことは許さない」  シンがそう告げる。そう告げると同時に彼とレイは神々を1匹たりとも逃がさぬ様、この広大な部屋を外界から切り離し、尚且つ"転移封じ"を行った。 「はっはっはっ!!派手に暴れてやるんじゃっ!!」  その次の瞬間、爺が大きな声で叫び、ワニガメの様な恐ろしい姿に変化する。  それがきっかけとなり、シン達と無数の神々の決戦が始まった。 「しゃあっ!!!!」  レオンは:神剣(グラン)をフルスイングし、神々を纏めて葬り去る。 「…だよなあ、シンが異常なんだよな」  その光景を見たレオンはしみじみにそう思う。なんせ自身の主であるシンは片手でこれを止められるのだから。 「私は貴方が誇りですよ」 「フィリが優し過ぎて泣けてくるっての。おらよっ!!」  フィリカはそんなレオンの背にピタリと離れないようにくっ付いていた。そんな彼女に感無量の返事をして、再度グランを振るった。 「ミリ、止まらないで行きますよ」 「ええ、行くわよ」  レイはミリにそう告げて"トランスアーム"を蛇の剣の様な形にする。そして、横に広がる神々を上下に切断する。  対するミリは"血力"によって練られた鮮血を撒き散らす、撒き散らしたそれらは鋭い雨となり神々の身体を貫いた。  "不死殺し"、ミリにもそれが可能になっていた。 「よっと。あれえ? 神様ってこんなに簡単に斬れるものだっけ?」  リオンは自身が振り下ろした剣が、あまりにも手応えが無さ過ぎる為に首を傾げざる得なかった。  そんな首を傾げているリオンに、別の神族の攻撃が振るわれる。 「ざんねーん、幻でしたー」  力を振るった神族の頭は、既に回り込んでいたリオンにより斬り飛ばされた。 「お粗末だね〜」  そんなリオンの幻を茶化すようにアイはそう言い、更に辺り一面の神族-胴と首-を斬り飛ばす。正確には既に斬り飛ばされていたのを、アイが隠蔽して繋げていただけだ。 「アイが凄すぎるんだよっ?! あたしは自信なくしそうだったのにっ!!」  そんなアイにリオンは叫ぶのだった。 (この世界の理を思う存分に使う最後の試練だ。レオンもフィリカも不老の存在ではあるが…この場で神々と同じように不老不死に至れる筈だ)  この世界の理…とはステータスに表記されるレベルによる力の上がり下がりである。  シンはそんな事を考えながらも、その戦闘には参加をせずに見学に回っていた。  というよりも後衛に回っている彼の元に敵が回って来るはずも無かった。  そして最後、爺とユウは恐ろしい速度で空中を飛び回っていた。  ユウは今は亡き最高神の棺に触れることにより、馬神へと進化した。  そして自身が身につけている"聖獣(ペガサス)の鎧"が翼となり、その翼は神々に触れるだけで惨殺する。また、神と言われても見劣りしないような魔法の数々を多重起動し、まるでレーザーのように絶え間なく打ち出していた。  一方爺は全長100mはある巨体で、転移を行いながらビュンビュン空中を飛び回っていた。  因みに爺に跳ねられただけで通常の神族は即死だ。  そんな一方的に神々を虐殺するだけの戦闘は僅かな時間で終わりを迎えてしまった。 ☆☆☆☆ 「つまらんかったのう…」  爺は人化してそうボヤく。 「ほら、神族の遺体は全部回収しろ。そのまま処分するのは勿体ないからな」  一方シンは戦闘をしていた面々にそう指示を出しながら、1人1人に時間が止まるアイテムボックスを投げた。 「これ…大変ねえ…」  ミリがそう呟く程には死骸は数多くあった。総計して1000は軽く超えているだろう。  その中には、完全にスプラッタになっている神族も居るのだから、更に面倒だと思わざる得ない。 「回収するなら先に言ってくれよな? そうすれば、もうちょっと大人しめにやったってのに…」  レオンはそう愚痴愚痴言いながらも遺体を回収する。 「…少し私には辛い光景です」  フィリカは元の白い肌が更に白くなり、青白くなっていた。 「フィリっ!?」 「いえ…大丈夫です」  フィリカは自身に精神安定のバフを掛けて、持ち直したようだ。 「面倒過ぎますね…」  レイはウンザリしながら回収作業に当たっていた。 「僕、逃げてもバレないよね? …いや、やらないけどさ…」  アイもかなりウンザリしているようだ。隠密神が逃げると見つけられないので、割と本気でシャレになってない。 「…先に指示を出しておくべきだったな…」  当然シンも頭を抱えながら、それらの遺体を回収していたのだった。 ☆  それから数時間が経ち、彼らは神族の遺体全てを回収し終えた。 「さて、皆の準備は良いか?」  シンは周りの顔を見て、大丈夫そうだと判断した。そして、彼らはダンジョン生活を終えるのだった。 ☆☆☆☆☆☆☆ 「おい、シン、俺…武器使えねえぞ」  レオンはダンジョンの外で魔物を見るなりそう言った。  レオンはシンと共に"幻魔の森"を歩いていた。残りのメンバーは"ヘブンズガーデン"にてお留守番である。 「まあ…だろうな」  シンのそれは当然だろうと言わんばかりの声音だった。  何故なら、今まで相手にしてきた魔物や神々は、優に500レベルを超えるほどだったのにも関わらず、今目の前に居る魔物は100レベル前後だからだ。  レオンは手刀で剣の真似事をするだけで、その目の前にいる魔物を斬殺する。 「私の騎士なのだからそれくらいの能力は持ってもらわなくては困る」 「へえへえ、シンの理想は高過ぎるんじゃねえのか?」 「…そうだろうか?」 「まあ、こちとら理想の暮らしさせてもらってるし文句はねえけどな」  レオンはそう言いながら、森の中を先へ先へと進んだ。シンも彼に続く。  因みに、今、レオンは鎧は着ていない。だが、グランとゼランだけはいつでも使用出来るようにと装備していた。 「あー…悪いんだけどよ。俺の姿を見たら逃げ出しちまうと思うんだよな」  レオンはあまりに自然にシンや様々な種族と触れ合ってきた為に忘れていたが、彼は万民に恐怖される悪魔と言う種族だ。  赤黒い肌に赤い髪、いかにも悪魔らしい見た目からしても通常の者は恐ろしいと思うだろう。 「そう言うだろうと思ってた。ほら、これを腕につけろ」  シンは自身が創り出した空間から何かを取り出した。そしてそのままレオンへと渡す。 「うおおっ!? …すげえなこれ」  レオンがそう叫ぶ様に、何かを腕に巻く事によって、彼の肌は赤黒い物から人間らしい肌色へと変わっていた。 「…あ、ただ、フィリカの前では外してやるんだな」 「あん?なんでだ??」 「うん? フィリカはレオンの肌が好きだという話は聞いたことがあった気がしたが…」  シンはレオンに首を傾げられ、自身の記憶違いかと思う。 「あー…そう言われてみりゃあそうかもしれねえな」  だが、レオンにも何となく心当たりがあった。 「そうか、記憶違いでは無かったのか」 「…つーか、なんでシンが知ってんだよ?」  レオンはふと疑問に思い、シンに訊ねる。 「ミリから聞いた」 「あ、あーー…おう、わかった、理解した」  シンの言葉に、レオンもまた心当たりがあったらしい。妻たちの談笑と言う奴だ。 「そうだよなあ、ミリの奴も家に来ては何かこそこそとやってるからなあ…」 「…何か、悪いな」  シンはそれを聞いて少しバツが悪そうにする。 「いんや、フィリの奴もだいぶノリノリ…」 「…嫌々でないなら特に言う事も無いか」 「そりゃそうだろうよ。妻の行動を縛るって器の狭さが垣間見えんぞ? まあ…例外はあるけどよ」  レオンはそう言って手刀を振り下ろし、また1体の魔物を屠った。 「レオンが居ると楽だな」 「…居なくても対して変わんねえだろ…」  レオンはそんなシンの言葉にがっくりと肩を落とした。 「おい、何か来てんぞ?」 「好きにしてくれ」  こちらに向かって来た存在がワイバーンであると理解した途端に、シンは興味を失くした。 「はいよ。露払いはさせてもらうぜ」  レオンはシンの前に立ち、突進して来たワイバーンを正面から右手で受け止める。 「俺も随分と力強くなったもんだよなあ??」  そして、左拳でアッパーを決めた。 「先に進もう」 「おうよ」  倒されたワイバーンを尻目に、彼らは更に先へと進んだ。 「別に意見する訳じゃねえけどよ。今、俺達って2人の人族を探してんだろ?」 「うん? ああ、そうだな」  2人の人族とは、天照大神に助けてやって欲しいと頼まれた男女の事だ。 「その為に使い魔みてえのも使って探してんだろ?」 「まあ、確かにそうだが…それだけでは無い」  だが、シンはそれだけを探す為に動いているのではない。 「じゃあなんだよ??」 「…レオンだから話すが、地球の最高神に報酬として惑星を1つ貰い受ける事になっていてな」  地球の最高神と天照大神は別枠でシンに依頼をしている。 「惑星って…これか?」  レオンは足元を指さして訊ねる。 「そう、それだ。で…その為に住人を確保したいと思っていてな」 「この世界…ラフタから連れてくって言いてえのか?」 「不満を溜め込まれて戦争を起こされても困るから…強引にとはいかないがな」  シンはそんな住人探しも兼ねて、地球の最高神と天照大神の依頼もそれぞれ兼ねながら、この世界を歩いて回る気の様だ。 「なるほどなあ。ってことは旅みたいになんのか…だったらそれこそフィリを連れて来てえなあ…」 「この森を抜けたら馬車をユウに引かせる。それまでは我慢しろ」 「お、フィリを連れてくるのは許してくれんのな」  シンの言葉にレオンは少し以外に思う。 「…私もミリやレイと共に在りたいからな」 「シンもべた惚れだなあ…」 「レオン程ではないさ」  実際、複数に妻が居ることになっているシンよりはレオンの方が1人に集中出来てしまう為、否が応でもレオンの方が妻に惚れ込むことが出来てしまう。 「やめろよ、自慢したくなるだろ??」 「自慢は聞かない」 「わーってるよ。ただ、あんなに良い奴が俺の隣に居るってなったら自慢したくならねえか??」 「…いや、私はどちらかと言えば感謝を伝えたくなるな」  レオンの問い掛けにシンはそう返した。 「あー…それもわかるな」 「だろう? ミリはあんなに心配してくれるしレイは身の回りの世話をしてくれる。…感謝してもし切れないだろう」 「あー…俺も帰ったらフィリに感謝してみるのもいいかもしれねえな。…シン、人様の登場だぜ??」  軽い調子で話していたレオンは、声音を一気に冷たくしてそう告げる。 「盗賊なら殲滅だ。…中に囚われている人が居たら…まあ、その時はその時だろうな」  シンはレオンにそう指示を出した。
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