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第一部-旅立ち。

 陵と美玲が新たに踏み入れた世界は一夜明けて、新たに朝を迎えていた。 (美玲には悪い事したな…)  昨日、陵は美玲と話しているうちに、寝落ちしてしまった。  それから目覚めた陵は、眠らずに自身を守る為だけに起きていてくれた美玲を眠らせた。  寝込みに襲われるかもしれない恐怖で、美玲は陵が目覚めるまでずっと寝ずの番をしていたのだ。  美玲は自身らだけが協力しないと告げたのだから、いつ殺されても可笑しくないだろうと考えていて、その恐怖から2人揃って眠ることを良しとはしなかった。 (美玲…ああ、良いな…)  眠っている美玲に自然と手が伸び、頭を撫でる。  実は陵、美玲が眠っている間に何度も同じように彼女の頭に手を伸ばしていた。  一方美玲も、陵が眠っている間はずっと手を彼の頭の上に置いていたのだが、それを彼が知る由はない。 「…んん…ふああ…、陵? おーはよー…」  そんな風に陵が撫でてから暫くして、美玲は目を覚ました。 「おはよう、美玲」  陵はそんな寝ぼけ気味で無防備な美玲を抱き締める。 「んー…」  美玲も抱き着かれて抱き着き返した。 「さて…この城から追い出されるまで後30分って所なんだけど…」 「ふえっ!? こんなのんびりしてる場合じゃないじゃんっ!?」  陵が唐突にそう呟き、美玲はそう叫びながら陵から離れた。追い出されるまでの時間を告げられたのは昨日の夕食の時だ。 「7時には出なきゃいけないからな」 「ええっと、準備準備準備…あ、何も無いんだった…」  美玲は異世界であることを実感して少し落ち込んだ。手持ちが何も無い、と言うのは心細さを加速させる。 「そんな落ち込まなくても…」 「あ…ねえ、私の能力にアイテムボックスって有ったよね? 何か入ってたりしないかなあ??」 「…あり得る。あの神様だから」  陵と美玲の頭に浮かんだのは、秋〇原で悪戯顔をする黒髪美人の神様の顔だった。 「…でも、どうやって発動すれば良いんだろ?」 「取り敢えず口に出してみたら?」  美玲が首を傾げ、陵はそう提案した。 「じゃあ、"アイテムボックス"」  息を吸い込み、少し気合を入れて唱えた。すると黒い空間が突然開いて、1枚の紙がぺらりと地面に落ちる。 「これって…」 「…神様からの手紙じゃないか?」 「読むよ?」 「俺にも見せて」  美玲の肩から顔を覗かせながら、陵も彼女と共にその手紙を読んだ。  手紙の内容〜〜〜〜〜〜〜〜  向こうには無事に渡れたかな?  このアイテムボックスは自分が名前を知らない物は取り出せないんだ。  だから、この中に入ってる道具を箇条書きにしたこの手紙を送るよ。  ・陵の着替えの服の棚  ・美玲の着替えの服の棚  ・竿  ・櫛  ・宝石袋  ・コンバットナイフ  ・ナックラーナイフ×2  ・光線銃サブマシンガン(体力が削られるよ❢)  ・光線銃スナイパーライフル(体力が削られるよ❢)  ・光線銃ハンドガン(体力が削られるよ❢)  ・西洋剣×2  ・コンバットブーツ(美玲)  ・コンバットブーツ(陵)  ・家  ・食べ物(10日)  ・水2㎥  もし、君達が行ってしまった世界が剣と魔法の世界なのだとしたら、ごめんなさい。  君達が持っている能力は魔力じゃなくて体力を消費する能力だから、魔力は与えていないから、魔無しって貶められてしまうかもしれない。  まぁ…君達にあげた能力の方がクソ魔法より断然強いから、言われたら片っ端からボコっちゃって良いと思うよ?  サーチ&デストロイってやつ?殺戮だーっ的な? まあ何でも良いけど。  あ、能力の説明は渡してある鑑定で使い方を見てね。  まあ、そういうわけだから、この手紙が僕と最後のやり取りだよ。  元気にしてね!  神様より  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「「なんじゃこりゃ??」」  陵と美玲はその手紙を見て少し固まっていた。 「陵? 取り敢えず私は光線銃を取り出してみても良い?」 「それは後にして。それよりも…生きていけるようにって事だよな?これ?」 「…ちょっと圧遇され過ぎて怖いけどね」  美玲と陵はそんなこんなで、あーでもないこーでもないと話し合う。  コンコン  扉がノックされた。 「陵様、美玲様、退出のお時間です」  どうやら、王城から締め出される時間になってしまったようだ。 「わかった。今行く」 「うう…髪直せてないよ…」  美玲はバサバサになった髪を見てそうボヤいた。 「あー…外に出たら、やってやるから」 「…うん」  そう言う陵は起きてから時間が経っている為、寝癖が寝始めていた。  そうして陵と美玲は泊まった部屋から外へと出て、メイドに王城の外まで案内された。 「では、さようなら」  メイドにそう言われ、彼らは締め出されてしまった。 「はあ、ほんっと淡白な対応だな…」  思わずムッとくるような対応ばかりをされていて、陵はイライラしていた。 「仕方ないよ。暗殺者とか仕向けられなくて良かったよ」  美玲は生きて王城から出られた事に安堵する。 「さて、ここからは自由だ。どうしますかね?」 「国から出るのに身分証明書は要るのかな?」  陵がそう言い、美玲がふと思いついたようにそう言う。彼らはさっさとこの国からオサラバするつもりのようだ。 「あー…どうなんだろ?」 「必要だと考えた方がトラブルには巻き込まれないよね?」 「…まあ、そうだな」 「「どうしよっか…?」」  美玲も陵も頭を悩ませてしまった。伝手が無いし、地球の様に大使館の様な存在も無いだろう。 「…あれ?」 「どうした?」  美玲は変な声で呟き、思わず陵は彼女に聞く。 「んー?ちょっと待って、ちょっと私と一緒に街を歩いて」 「え? …まあ、良いけど…」  陵は美玲に言われるがままに、人が多い、いかにも城下町とでも呼べそうな道に入って行った。 ☆ 「あー…やっぱり、つけられてるよ」  美玲はしばらく歩いて、少し人通りを抜けてからそう言った。 「…マジか、命狙われてるのか」  陵はそれを聞いて思わず頭を抱えそうになる。 「どうするの?」 「どうもこうも、見られてる間は神様に貰ったのも全部使えないだろ。あと、能力も」  陵的には、手の内を曝す行為は無しだった。 (どうすれば最善だ? どうやれば俺と美玲が安全にこの街から逃げる事が出来る?)  頭の中でぐるぐると、この街からいかに安全に抜け出すかを陵は考え始める。 (どうすれば陵と逃げられるかなあ? 一番良いのは身分証明書を手に入れる事だけど…1日でどうにかなるとも思えないもんね…)  美玲も答えは出そうになかった。 「仕方ないか。…美玲、その付けてる人に見えない様に俺にナイフを頂戴?」 「…え?陵?」  思わず耳を疑う発言をし出した陵に、美玲は聞き返す。 「仕方ないだろ。美玲の"転移"を使えばこの街からは逃げ出せると思う。ただ、さっきから"鑑定"で歩いてる人たちを見てるんだけど、"転移"なんて持ってない。恐らく、それも貴重な能力だと思う。使ってるのがバレてこの国に捕まりたくなんてない」  陵はもう腹を決めてしまっていた。手を出される前に出してしまおうと、目障りな存在を先に消してしまおうと…。 「…見てる人を殺すんだよね?」 「…うん、失敗したらごめん」 「私はやめてほしいなーって…」 「悪いけど、こればかりは聞く事は出来ない。…後悔したくない」  当然、見張っている存在を殺さずに逃げる事も勿論可能だ。だが、それで追手が来てしまったら? そんなリスクを冒すくらいなら先に殺しておこうと考えたのだ。 「…うん、わかった」 「ごめん」  陵は美玲を軽く抱きしめた。この瞬間に彼女は傍からは見えない様にナイフを彼に渡した。 「ううん、私も殺せるように頑張る」 「…頑張らなくて良い。で、つけてるのは誰だ?」 「路地に入らない?…私も銃を用意しておくから」  美玲もそんな陵の言葉と覚悟に押され、覚悟を決めたようだ。 「…使えるのか?」 「初めての銃が使える訳ないじゃん」 「じゃあ…」 「ゼロ距離なら何とかなる」  美玲は美玲で本気だった。もしかしたら陵以上に本気なのかもしれない。 「…わかった。でも、路地に入ったらついてくるのか?」 「ついて来なかったら、見られてないって事で転移して逃げちゃおうよ」  美玲はにへっと笑ってそう言った。 「…そうだな」  陵と美玲はお互いに頷き合って、突然街中を走り始め、近くの路地に飛び込むように入り込んだ。 ☆☆☆☆ 「ねえ、おじさん?何処に行くの?」  美玲は路地裏に入って来た1人の男にそう声を掛けた。陵は誰がつけて来ているのかを見つけられなかったから、その為に彼女は彼がターゲットを識別出来るように声を掛けたのだ。 「え?ええ?入って来たらダメだったのかい?」 「ううん、そういう訳じゃないよ」  彼が美玲に話し掛けている間に、彼の首にはナイフが差し込まれ、絶命するのだった。  美玲はそうやって倒れ込んだ身体を、ひたすら無心にアイテムボックスの中にしまった。 「美玲、大丈夫か?」  顔面蒼白になった美玲に、気遣うように陵は声をかける。 「…うん、何とか」  気にしないで…と返事をする。  当然陵が、美玲が気を引いている間に首にナイフを突き刺し、まるでコーヒーとミルクをかき混ぜる様にぐちゃぐちゃとかき回した張本人だ。…殺し損ねないように。 (…考えないようにしよう…)  陵はその行為について考えるのを止めた。 「美玲、すぐで悪いんだけど、街壁の上に転移しに行こう」  陵が今いる王都とでも呼べそうなこの都市は大きな壁でぐるりと円になるように囲われている。  つまり、門以外の場所から街の外に出るには乗り越える以外に方法が無い。…通常は。 「…うん、行かなきゃ」  陵は美玲の手を掴んで、足早に街を囲っている壁の近くまで急いだ。 ☆ 「じゃあ、行くよ。…"転移"」  美玲は壁の前に辿り着き次第に"転移"を使い、壁の上へと転移した。そしてもう1度、陵を連れて街の外へと転移した。 「やった…逃げ出せたよ」 「だな。…後は、出来るだけ街に寄らないようにしながら遠くに行かないと」  街に寄らないようにするのは足が付かないようにする為だ。少なくともこの国から抜け出すまでは、彼らに街に寄る気は無い。  美玲の足元がふらつく。慣れていない能力をいきなり連発したからだ。 「陵…ごめん、何か頭がクラクラする…。…陵…これ…持って…て…」  美玲は意識を失う直前、サブマシンガンをアイテムボックスから取り出して陵に渡した。 「おいっ!? 美玲っ!?」  美玲はそのまま気を失い倒れてしまいそうになった。…当然、彼女は陵に支えられ、倒れることは無い。  陵は美玲の心臓が動いている事と呼吸をしている事、それから肺が動いている事も確認した。そして少し安心する。 「…俺が頑張るしか無いよな」  陵はそんな美玲を背中に背負い、何処に行くかもわからないような獣道を近くに見つけ、その道を通る事に決めるのだった。 ☆☆☆☆☆☆  陵は止まること無く先へ先へと進む。  美玲を背負いながら、それでも止まること無く先へ先へと進む。 「ぐぎゃぎゃぎゃっ!!!」  突然緑の小さな人型が現れ、彼らに狙いを定めて襲おうとする。  陵は別に銃の扱いが上手い訳では無い。だが、それでも光線銃サブマシンガンでその人型を、美玲を背負ったまま撃ち抜き殺した。 (…俺が殺られれば美玲も終わる)  その想いだけで、陵はそれを撃ち殺したのだ。  彼はその緑色の屍を踏み越えて、獣道を更に更に先へと進んだ。  途中、猪に出会ったり、先程と同じような緑色の人型と出会ったり、豚顔のかなり大きな魔物と出会ったりもしたが、彼は道を塞いだ存在全てを銃殺した。  先へ先へと進むと、何やら祠らしきものを陵は見つける。 (此処は…神様でも祀られてるのか?)  陵はそれに屋根がある事を確認して、その地で休む事にした。  自身の着ている制服のブレザーを脱ぎ、地面に敷いた。それからそこに美玲を座らせて、隣に陵が座る。そして彼女が彼に寄りかかる様に仕向けた。 「はあ…、…疲れた…」  思わず言葉が零れてしまった。 (どれだけ離れられた? 追っ手は来てない筈だ。…証拠は無いんだから)  陵はそんな事を考える。 「…眠い」  陵の疲労はもう限界に達していた。 (つーっ…眠ったらダメだ…)  疲労による眠気で彼は今にも寝落ちそうになる。 「…陵?…ありがとう」  そんな中、彼に救いの手が伸びる。どうやら、美玲が目を覚ましたようだ。 「…美玲? 起きたのか?」 「うん、大丈夫だよ。…陵は寝て良いよ?」 「良かった。…本当に助かった」  陵は美玲が起きた事に安堵して、彼女に向かって倒れる。張っていた気が一気に途切れてしまった。 「おおっと、危ない危ない。…寝ちゃったのかな?」  美玲はそんな陵を支えて、更に瞼を閉じた彼の顔を覗き込んでそう言う。 「陵…無理し過ぎだよ。制服がボロボロじゃん」  枝や鋭い草木に擦ってしまったのか、陵の制服は至る所がほつれていた。 「…でも、ありがと」  聞こえてないのはわかっていても、こんなになってまで美玲を連れて逃げてくれた彼には、そう告げざる得ない。 「愛してる…」  倒れ込んだ陵を美玲は1度だけ抱き締め、自身の膝の上に、丁寧に彼の頭を置くのだった。
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