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第零部‐シンvsレオン、レイとミリ。

 シンとレオンは互いに見据えていた。…第80階層のボス部屋の中で…。 「ミリ、よく見ていなさい。運が良ければ…主はある程度の全力を出すかもしれません」  レイはそんな彼らを見て、ミリにそう告げた。 「…ええ、わかったわ」  ミリはそんなレイの言葉に素直に頷いた。実はレイとミリは師弟関係に近いものがある。  ミリがレイに弟子入り?の様な事をしたからだ。  ミリの吸血鬼としての"血力"はレイの"トランスアーム"程の強度は無いが、似た動きが出来る。そして尚且つ、レイはミリと同じく素手での近接戦闘が得意だからだ。 「レオン、好きな時に始めて良い」 「はっ、そうかよ」  レオンはシンが作り出した一級品の鎧に神剣と神円盾を装備していた。  神剣、神円盾は共に大きさが自在に変えられるようで、神剣の長さはレオンの身長の3分の2程あり、神円盾も直径がそれくらいの大きさになっていた。  一方シンは武器を何一つ持ってはおらず、服装も黒いズボンにワイシャツといういつも通りの服装だった。ただし、シャツは戦闘に巻き込まれない様にズボンの中へと仕舞われていた。 「行くぜ」  だんっ!  レオンは一歩を踏み出し、シンに斬り掛かった。  当然シンは躱す。更に剣速が加速して行く。  すると、レオンは少し神剣に力を込めて縦に振るった。シンは当然それすらも躱す。…が、シンの後ろの地面は抉られてしまった。…まるで地面が一文字に切り付けられたように…。 (なるほど、特殊な能力を使わなくても性能は良さそうだ)  シンはそう思いながらも着々と、レオンの斬撃を躱していき、一旦距離を取るために後ろに大きく飛んだ。  その次の瞬間…レオンの剣からは火を纏った斬撃波が横一文字に放たれた。  しかしシンは宙に浮いたままで手をその斬撃波に向け、差し出し、一瞬で消滅させてしまった。 (相変わらずワケわかんねえ体してやがるっ!)  レオンは仮にも神剣である剣から飛ばした斬撃波をいとも簡単に消してしまったシンに、内心毒づく。 (まあ…この程度なら防がなくても問題は無かっただろう)  一方シンはそんな事を考えていた。 『マスター、私の力を使えっ!』 「…了解」  レオンは神剣(グラン)の言葉を聞いて、グラン本来の力-概念や事象を引き起こす-を引き出した一撃をもう1度火の斬撃波にしてシンに飛ばした。  シンは正面から先程と同じように受け止める…が…。  ばちぃぃ!!  彼の防ごうとした腕がそれに触れた途端に痺れ、ダランと地面に垂れた。 (概念系攻撃…"部位殺し"か?)  だが、そんな特殊な攻撃すらも…。 ("概念殺し")  シンは無効化させてしまい、その次の瞬間には腕は元通り動くようになっていた。 『概念を殺されたっ!?』 「流石シンってところか」(流石に化け物過ぎねえか?)  グランは驚き、レオンは納得半分呆れ半分をシンに向けていた。 (来るっ!?)  レオンはシンの周りに濃密な魔力の本流を見て、身構える。 「ゼラン、守りを頼む」 『承知しました、貴方。"無敵"』  神円盾(ゼラン)は自らの主に概念を付与する。  その次の瞬間、幾千本もの魔法により作られた剣が魔法に降り注いだ。 「レオンっ!?」  フィリカは思わず叫んでしまった。  当然だ、概念を掛けたり壊したりする事柄は魔法の様に魔力(魔力ですら普通の人には見えない)を使う訳ではなく、目には映らないからだ。  つまり、フィリカには何の対応もせずに、シンの魔法がレオンに降り注いだのだと思ったのだ。  土煙はあたりを見えなくなる、それは当然フィリカの視界からもレオンの姿を奪い去った。 「けほっけほっ。俺がこいつを持ってなかったら死んでたぞ。さり気なく爆発させやがって…」  こいつ…とはゼランの事である。  レオンが"爆発"と言ったのは、シンが放った魔法の剣達は1本1本が地面にぶつかる度に爆発したからだ。  1つの爆発で都市が1つ吹き飛ぶ程に…である。 「なるほど、概念系の武器はやはり強いな」  シンはそれだけの魔法を叩き込んで尚、傷一つ無いレオンを見て少し驚いていた。 (はっ…よく言うぜ。あれだけ撃ち込んでるにも関わらず、全く魔力が減ってねえじゃねえか)  シンの現状を見て、思わず溜息を吐きそうになるレオン。 「レオン、行くぞ??」  シンは聞こえるように言い、レオンに近接戦闘を仕掛けた。勿論、手に武器は持っていない。それでも手刀をレオンの脇腹に横振りする。  ばんっ!  レオンはそれを円盾(ゼラン)で受け止め、(グラン)で叩き斬ろうとする。対してシンは"破壊不可"の概念を左腕に掛けて受け止めようとする。…が、グランはその概念を破壊、シンの左腕は斬り飛ばされてしまった。 「シンっ!?」  ミリはシンが明確な攻撃を受けた場面を見た事が無かった。 「大丈夫です。その程度では死にませんよ」  焦るミリをレイはなだめる。 (全く、主もレオンも…試したいが為に自身の妻を怖がらせるとはどう言うつもりなのでしょう?)  レイは先程のフィリカの驚きも思い出してそう思った。 「…手傷を負ったのは久しぶりだ」  斬り飛ばされた瞬間に、シンは近接戦闘を離脱していた。 「もう治ってる奴が言う台詞じゃねえぞ?」  シンの腕はも既に生え変わっている。…化物過ぎる…。 「…それに斬り飛ばされねえ様にする方法だってあったんだろ?」  レオンはシンが斬り飛ばされた腕を回収してるのを見ながらそう言った。 「それはそうだろう」  対するシンは何のこと無くそう返した。 ("分解")  更にシンは心の中でそう唱えて、自身の飛ばされた腕を粒子化させていく。 「…俺は待った方が良いんだよな?」 「ん?ああ、そうしてくれると助かるな」  シンは唐突に物作りを始めてしまったようだ。 ("構成")  粒子になったそれが、再度新たな形を紡ぎ出す。 ("創造"、"融合")  更にヒヒイロノオオカネを創り出し、紡ぎ出したそれに混ぜ合わせていく。 「レオン、何か欲しい物はあるか?」  そんな中、突然シンはレオンに訊ねた。 「んー…、杖が欲しいな。ほら、魔法を増幅させるっつうか…」 「…なるほどな」 (そうなると…核と成る部分に伝導率が良くなった方が良い)  シンは混ぜ合わせたそれらを変形させ、おおよそ1m半くらいの杖にしてしまった。綺麗な白銀色をしていた。 「私に手傷を追わせた記念だ。フィリカにでもやると良い」  そう言ってシンはその杖をレオンに投げた。 「っち、そういう所もお見通しかよ」  受け取ったレオンは愚痴る。 「まあな」  それをシンは受け流した。 「はあ…フィリっ!! これを持っててくれっ!!!」  レオンは受け取った杖を戦いの邪魔になるからとフィリカへと投げた。  そしてレオンの視界に、彼女が杖をしっかりとキャッチしたのを収める。 「さてと…もう1回…」  レオンはやる気を漲らせてシンの方を見ると思わず声を失った。 「…おいおい、そのコートにどんだけ魔力と神力を込めてんだよ…」  シンはそれなりに本気で戦うために、長く黒いコートを恐ろしく膨大な魔力と神力を程よく混ぜ合わせて造り上げていた。 「さあ、第2回戦だ」  対してシンはそれだけを告げるのだった。 「ちょっと…レイ…、あれ…何??」  シンの黒いコートを見たミリはレイに焦ったように聞く。あのローブが出来上がった瞬間に、恐ろしい程の威圧感が周囲に放たれたからだ。 「あれが出てくるのが主が本気になった証です。…まあ、見ていればわかりますよ」  レイはそんなミリにそう告げた。  因みに、レイはあのコートを軽々と突破してシンを殴ることが出来る。 「ほら…始まりました」  レイがそう告げると同時に、恐ろしい速さでレオンの後ろにシンが回り込んだ。  更に瞬間的に黒いコートの袖口が切り取られ、長剣へと変形し、レオンを斬りつける。 「っちい!?」  レオンは円盾(ゼラン)を小さくし、反射的に受け止めたが、ゼランには一文字の傷が入っていた。 「おいっ!?」 『お気になさらず、すぐに修復します。それと…あのコート、概念や事象を無効化してきます』  レオンがゼランを心配すると、ゼランはそう告げて自身を修復した。  シンは斬りつけた瞬間に、レオンの反対側へと移動、今度はローブの袖口を鉤爪の様にして彼を引っ掻く。  がぎゃんっ!  今度は反対側に持っていた(グラン)でシンのそれを受け止めた。…が、鉤爪は3本あり、2本は防いだものの、1本はレオンの腕を切り裂き、鮮血を飛び散らせた。 (ちいっ!?)  内心イラつきながらもレオンは、ゼランの魔法を発動させ、今度は概念的な防御ではなく物理的な防御へと切り替えた。  ・・・が、無駄だった。  シンの着ていた黒いコートの上半身右半分が大きな斧へと変形、その防御ごとレオンを弾き飛ばした。 「ぐうっ!?!?!?」 『マスター、私を本気であれに振るんだっ!』  グランがそう叫び、レオンはシンに向けて全力で斬撃波を放つ。  それは概念や事象の無効化を破壊する為の一撃だ。だったが、シンはその破壊する一撃を通常の火の斬撃を撃ち出す事によって打ち消してしまった。 『ここまで我々の能力が太刀打ち出来ないとは…貴方の主君はいったい何者なので?』  ゼランがレオンに問う。 「知らねえよ…」  レオンも流石に悔しいようだ。全く手も足を出なかったのだから。 「ふむ、まあまあな力だ。流石に最高神の武具と言われるだけはあるな」  そう言いながらシンは、自身の着ていた黒いコートを自分の中に仕舞った。それはまるで、アイと同化したローブのようだった。 「マジで化物だろ…」 「それは心外だな。流石に体の能力だけでは剣は振れないし、レオンを弾き飛ばす事も出来なかっただろう」  シンはレオンよりも剣を振るのは下手だし、盾を使うのも下手だ。だが、それでも様々な武器を多種多様に使いこなす事が出来るのだ。言い換えてしまえば器用貧乏である。 「あーいや、わりい今の発言は良くなかったわな」 「…まあ、化物なのに変わりはないがな」 「「・・・・・・」」  どんっ!どすっ! 「ミリ?」「フィリ?」  お互いに、自身に抱きついてきた妻にそう問い掛ける? 「ほんっとうにびっくりしたのよっ!?腕が飛ばされちゃった時っ!!」 「ほんっとうにびっくりしましたっ!!剣の雨を無防備受けるなんて…」  とても心配されていたようだ。 「はは、すまない。だが、ああでもして能力を知っておかなければ後々困るからな」 「そういう問題じゃないわよ…」 「…知ってる。後で埋め合わせはする」  シンは少し拗ねたようなミリにそう告げた。 「シン、本当にこの杖は貰っちまって良いんだな?」  隣で似たようなやり取りをしていたレオンはシンに、先程戦闘中に受け取った杖についてを聞いた。 「ああ、手傷を追わせた記念品だと思えばいいさ。…あ、レイに戦いを挑むのはお勧めしない」  シンは取って付けたようの忠告する。 「もうお前らには挑まねー。…死んじまう」  レオンはシンがかなり手加減していたのを肌で感じていた。 「そうか? 挑戦される分には構わないが?」 「んーー・・・」  レオンとしても、かなりの悩みどころだったりする。一歩間違えれば大怪我するのは目に見えているからだ。  流石にシンみたいに腕が飛んだからといって一瞬で生えたりはしないし、そもそも時間をかけても生えない。 「皆さん。今日の所は家へと帰りゆっくりしましょう。明日になってからダンジョンの外へと行く事にします」  レイはそんな彼らの輪に割り込んで、強引に決断をしてしまうのだった。 ☆☆☆☆  それからそれぞれが自身らの家へと帰っていた。爺への説明は全てレイがやってくれるとの事で、シンは安心して自室に帰ってきていた。 「はあ…久しぶりにあれを出したな。…十年ぶりだろうか?」  シンはそう呟きながら、いつものベッドに倒れ込んだ。 「そうなの? 私はあんな物知らなかったから驚いちゃったわよ?」  あんな物、とは黒いコートの事である。 「…怖がらせたか?」 「ええ、とっても怖かったわ。だから私の前では怖くないシンで居てちょうだい」  ミリはシンの問いに臆面もなくそう答えた。怖かった事を隠す気は無いようだ。 「はは…そう言ってくれると助かる。…少し不安もあったからな」 「流石にその1面だけで嫌いになったりしないわよ。…私だって子供じゃないんだから」 「…そうだな」  ミリは寝転んでいるシンのすぐそばに腰掛けた。 「でも…そうねえ、私は貴方が遠過ぎて少し不満かもしれないわ」 「それは仕方ないさ。異種なのだからこうなって然りだ」  結局、ミリとシンでは生物の格が違い過ぎるのだ。 「まあ…そんな不満も一興よね」  ミリ自身、そんな状態すらも楽しんでしまっている。  ガチャり  そんな2人だけの空間に1人、新たな住人が入ってきた。 「あら、レイ。今日は終わったの?」  そんな住人にミリはそう声を掛けた。 「ええ、すみませんね。2人だけのお時間を共に過ごさせてもらって…」  そんな2人だけの空間の新たな住人はレイだった。少し表情が暗い。 「良いのよ。私は文句なんて無いし、困った時はお互い様よ」 「…すみません」  レイが此処に、シンの部屋に住まうようになったのは10年前からだ。  理由はレイが記憶の混濁によって自我を失い暴走したから。そして、それを止められるのがシンしか居ないから。  そこで寝床をシンと同じ部屋に置いて、シン達から少し離れて眠っているのだ。  記憶、それはかつてシンの自我を改変させた物と同じ存在だ。 「…レイ、別に良いって…」  ミリは再度そう言おうとして、口を噤む。 「…なんて辛そうな顔してんのよ」  思わず心を締め付けられそうになる位に辛そうな顔をする。 「レイ、これは私の命令だ。レイが気にする必要は無い。それに…本当に2人きりで過ごしたいのなら、昼間の時間に既にやってる」  シンはレイの表情を見てはいないが、おおよその予想は付くため、そう告げる。 「ほら…シンも言ってるじゃない。…ね?」  それを聞くやいなやミリはレイの手を掴み、強引に抱き寄せて、そのままベッドに横になってしまった。 「…レイは何が不満なの?何に罪悪感を抱えているの?」  そして、耳元で囁く様に訊ねた、 「私は…やはり、主の邪魔をするのが…「なら、私とシンみたいに婚姻でも結んだら?」」  ミリもいい加減に面倒になっているのかもしれない。レイがこうなるのは何も今日が初めてではない。 「ねえ?どう??」 「…私は、貴女みたいに身体を重ね合わせる事も、貴女の様に主にキスをしたりする事も出来ません。…どうしようも無く怖い」  レイの記憶の中には、性的な残虐的仕打ちを受けて殺されたものもある。それを直に感受してしまった以上、そのような行為に走る事は出来なくなっていた。 「…貴女もそう言う所があるのね」 「!?ミリっ!?」  ミリはさり気なく、歯をレイの身体に突き立てていた。 「私とシンの間にはね、吸血鬼が永遠を共にすると誓い合った仲に行う吸血鬼特有の契約をしているの。だから…貴女とも…ね?」 「やっ…やめっ…」  レイの黒髪が揺れ、逃げ出そうとするがミリはそのまま歯を突き刺してしまった。 「ふへいれなはい(受け入れなさい)」  ミリがそう言った瞬間、レイはまるで説得されたかの様にその契約に了承してしまった。…本能的には求めていたのだろう。 「ぷはっ…、はー…なんだかんだ言ってすぐに受け入れちゃったわね。1人悩むのが辛いんでしょう? それで良いじゃない」 「ううっ…こんなに強引だとは思ってませんでした…」  レイは涙目のままベッドに横たわっていて、ミリは上体を起こして座り直していた。初めてレイが負けた瞬間だった。 「って事でシン、今日からハーレムって事になるから頑張んなさい」  ミリはシンにそう言い放った。彼女は物凄く軽く告げた。 (日に日に逞しくなってくというか豪快になっていくというか…)  そんな事をしているすぐ隣でゴロゴロとしていたシンは、ミリにそんな事を思う。 (とは言え、日に日にレイに関しては解決に向かってる。…主にミリのお陰で…)  そう思いながらも、隣に座っていたミリに手を伸ばして、ベッドに吸い込む様に抱き締めた。 「早く答えを言いなさいよ」 「そこまで言われたら仕方ないさ。レイも私の妻として受け入れる」 「…だそうよ」 「…本当に…よろしいのでしょうか?」  そのレイの言葉は自身の主へと…。 「別に私は反対していた訳では無い。むしろ、レイを妻として自身の手元に縛り付けておけるのなら悪くないさ」 「私は元々主を主として扱っていますが?」 「だが、それを絶対にしなければならないと告げた事は無い。…お願いはしたが」  そう、シンは彼女に頼り切っていたが、彼女が何処かに家出すると言われても止める術はなかった。 「ったく、そんな事はどうでも良いのよ。さっきの感じだと貴女は、女とはそういう事が出来るんでしょう? …ほら」  ミリが隣に居るレイを背中から抱き寄せるように抱き締めた。 「…あ、凄い安心出来ますね…」  レイはミリの伸びてきた腕をぎゅっと握った。 (これは…主が惹かれている理由もよくわかります。…初めて出会った頃には、こんな事になるなど思いもしなかったのに…)  レイはミリの温かさに触れて、深く心地良い眠りに落ちていった。
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