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第零部‐今は無き最高神の遺産

 あれから20年程が経ち、シンを初めとするメンバーは第80階層の通常よりも大きなボス部屋の前に居た。 「…アイの言う通り…か」  シンは目の前の大きな大きな扉を透視してそう呟く。 「でしょ? 僕だけじゃ手に負えなさそうでさ」  上級神であるアイが"手に負えない"と発言する程の存在が、その扉の向こうには存在していた。  実はこのボス部屋寸前までの通路を走っていたのはアイ、リオン、レイ、ユウの4人(3人+1頭)だ。  アイが中に居る存在を探知してレイに告げた所、彼女が"念の為"だと言ってシンとミリ、それからレオンとフィリカを連れて来たのだ。 「アイは倒し切れるかは微妙だな。でもまあ…レイ1人で充分そうではあるな」 「やはりそうですか。ですが、一応念の為という事で」 「その判断は正しい。恐らく守りながら戦う余裕は無いだろう」  シンは扉の向こうの存在を見つめて、レイにそう告げた。 「そこまでですか?」 「…いや、実際やり合ってみないとわからない」  見ただけでは確証は得られない。能力がなくても経験はあるかもしれない。結局、推測の域は超えないのだから。 「レオン、フィリカを守れ。フィリカとユウは緊急時に回復を」 「おうよ」「わかりました」『わかった』  フィリカの教え方が上手かったお陰で、ユウは"聖力"と呼ばれる傷を治したり、回復させる事柄に長けた力を使える様になっていた。 「アイはいつも通り隠れて遊撃。前衛はレイとミリ、中衛に私、後衛に回復班だ」 「ミリ、危なくなったら避けるように」 「わかってるわ」  シンの指示を聞いて、レイがミリにそう告げる。  それから、ミリとレイが前衛に並び、中衛にシンが、最後に回復班が…の順で並び終えた。 「レイ、頼む」 「はい」  レイが前方の扉を破壊、シン達は中へと突入した。 『何用で此処に来た?』  突然、シン達全員の頭に見知らぬ声が響く。それと同時に"やっぱり"とシンは思った。 「…ダンジョン攻略をしに来ただけだが?」  暗がりの奥に見える巨体に目を向けてそう返す。 『ふむ、よくぞここまで参った。我が百階層に続くまでの最後の砦だ』  すると、その巨体は少し声音を弾ませるようにそう言った。 「つまり…貴方を倒せば良いんだな?」  シンがそう告げた瞬間に、レイとミリが目の前の巨体の注意を引くように闘気の様なものを発した。 『まあまあ、待て。我は恐らくそこの黒髪の女子とお主には勝てん』 「…だったらどうする?」 『それにお主と黒髪はこの世界の存在では無いのだろう?』 「…だったらどうする?」  2度目の言葉には若干の力が篭った。 『我は古代(エンシェント)亀竜(タートルドラゴン)、この世界の今は無き最高神の友である。この地は元々最高神が造った場所だが、今は訳あって我が此処に留まっている。…何故だと思う?』 「知らないな。それに…興味も無い」  シンは目の前の大きな巨体の質問に答える気は無い。 『はあ…最近の若いのは…』 「レイ、1人でやりたいのなら任せても良いぞ?」 「承知し『待て待て待て、何だその短絡的思考は…』」  レイがシンの言葉を聞き、戦おうとした所をその巨体は遮った。 「…相手の話に乗らないのは鉄則な筈だが?」 『むう…』 「話したければ話せば良い。だが、どちらにせよ私達はこのダンジョンの最後まで行くつもりだ。つまり…貴方の話など聞かなくとも自ずとわかる」  シンは本当に聞く気も無い。初対面の相手から貰った情報など当てにはならないからだ。 『はあ…わかった、話そう。この地の最下層には我が友の遺体と武具が置かれている。我はそれを守る為に此処に居るのだ』  やっとその巨体は話し始めた。問答しても無駄だと悟ったのだろう。 「それがどうかしたのか?」  シンからすればあまりに興味の無い話だ。 『…それらをお主らにくれてやる。どうせこの世界に留まる気はあるまい?』 「…まるで不良在庫の押し付けみたいだな」 『あながち間違っとらん。それから…我もお主らの一行に加えて欲しい。もう1000年以上は此処に留まりっぱなしでな』  巨体は更にそう告げる。 (ふむ…いや、まあ、確かに悪くは無いな)  シンはそう思うが、それだけではなく、目の前の存在が強力過ぎるせいで、裏切られた際の被害が大きくなるであろうことも簡単に理解出来た。 (だが…ミリでは1呑みにされるだろう。アイも油断すれば一瞬でやられるだろう)  自身の周りをいとも簡単に消滅させられる存在が目の前に居て、それが仲間に加わると言うのだから心配にもなる。…何か事が起きてからでは遅い。 「…ならば契約を結ぼう。私は貴方を信用していない」  眷属契約では無い。では無いが絶対に裏切らせない為の契約。シンは告げた。 『ふむ、構わんぞ?』 「そうか…さあ、始めよう」  シンはそう言い、更にレイとミリに退る様に告げて、その巨体の目前まで移動する。 「こうして見ると…恐ろしい巨体だ」  まるでワニガメの様な、されど高さ20mはありそうな彼を見てシンは呟いた。 『怖気づいてしまったか??』 「契約の儀式を始める。…動くなよ?」  シンはそう告げた次の瞬間、契約に必要とされる石柱を構成し、彼らの周りを取り囲む様に地面に突き刺したのだった。 (ええっ!? あの化物がおじいちゃんになっちゃった??)  アイは契約をし終えた後、巨体が歳食った男の形に変身した為、とても驚いていた。 「お主らもよろしく頼む。…そうさな、この中でも一番の年寄りじゃろうから"爺"とでも呼んでくれ」  その爺さんは軽く、アイを始めとする待機をしていた者達に会釈をする。 「ふむ…しかし、そこのエルフ…の様な者が随分と見づらいのはそう言う能力かのう?」  どうやら、爺はアイが辛うじて見えているようだ。 (…わかるの?)  アイは勿論驚いていたが、気配を絶つ事は止めなかった。 「それに…そこの吸血鬼は普通ではないのう? 更に後ろの3者も…珍しい存在のようだ…」  更に爺はこの場に居た全員の種族を看破してしまうのだった。 「その話は後にしてくれ、先に進みたい」  その爺の目にシンは感服するが、いつまでも話している訳にはいかない。 「うむ、すまんすまん。儂が此処のダンジョンマスターだからのう…」  どうやら爺は人型では"儂"となるようだ。  爺が手をとある方向に向けると同時に、その方向には下へと向かう階段が出現した。 「…そう言えば、爺さんがさっき最後の砦だと言ったな?」  下の階層に向かう階段に足を掛けて、爺に聞く。 「うむ、ここから20階層分を階段で一気に降ると、100階層まで辿り着くのじゃ」 「つまり…ダンジョン攻略はこれで終わりになるのか??」 「そういう事じゃな」  シンはそう言われ、自身のステータスを見る。 (レベルは測定されているのだろうか?? ………よし、成功だ、この世界のレベルの概念を超越出来た)  自身のステータスを見たシンは、自身のステータスのレベルが"測定不能"になっている事を確認した。 (当初の目的は達成出来たようだ)  そして密かに1人喜ぶ。それに気が付く者は居なかった。 ☆☆  そうしてぞろぞろと歩き、シン達はダンジョンの最深部に到達した。  祭壇の様な物があり、そこには棺の様な物と、まるでグラディウスソードの様な形をしている白銀の剣と円盾があった。 (なるほど、最高神も粋な事するじゃないか) 「…アイ、それからユウは共に来い」 「え?うん、わかったよ」『命令ならば従おう』  シンはその祭壇の意味と棺の意味を理解して、アイとユウと共に祭壇へと上がった。 「アイ、その棺を触れてみてくれ」 「う…うん」  アイがその棺に触れると彼女の体は光だし、何かが彼女の中に入って行った。 「ユウもだ」 『う…うむ』  ユウはそう言われて足を祭壇に乗っけた。彼も同じように光だし、アイとは違い、装備していた"聖獣(ペガサス)の鎧"が彼の中へと入って行った。 「まだ力が余ってるな…」  シンは祭壇に置かれている棺を見てそう呟く。 「…棺は持って帰れるのだろうか?」  シンはそれを手で触れて、自身が創りだした空間へと転移させた。 「持って帰れるのか…」  思わず、取り外しの効かない物だと思っていた為、少し拍子抜けする。 「シン、お主はそこの吸血鬼の女子と交わっておるのじゃろう? 何故その棺を使ってやらん?」  爺はシンの不可解な行動に疑問を呈した。 「…爺さんはそんな所までわかるのか」 「わかるも何も、お主らは吸血鬼特有の契約をしとるじゃろうが」  爺はその契約の糸が見えただけで、それ以上は見えていない。 「…だとしても、ミリにはまだ早い。あの棺はあくまでも手助け程度だ」  シンはミリには、アイやユウと同じようにはしないらしい。 「…次はこの剣だな」  続いて祭壇に刺さっていた剣を、シンは引き抜いた。 (小さめの剣だな)  大きさ的には完全に片手剣である。 『私の担い手よ。ようこそ、祭壇の間へ』  すると、突然にシンの頭には声が響き渡った。手元にある剣の声のようだ。 『貴方は?』  シンは自身にしか聞こえていない事を理解して、念話で返す。 『私はそこの神円盾と同類である神剣だ。我々は貴方の剣となり盾となろうと思う。故に使っては頂けないだろうか?』  手元の剣に対して、シンは何処か聞いた台詞だなと思う。 『…何が出来る?』 『概念や事象を発生させ、そして、破壊する事が出来る』  シンはその言葉を聞いてこう思う。 (…私1人でも恐らく出来る)  シンが規格外過ぎるだけである。普通であれば、一世界の最高神ですらも愛用する程の武具を彼は要らないかも…と思っていた。  シンは、アイやユウが成長していた70年以上の時間で、また、レオンやフィリカ、それからミリやリオンが出会ってからの20年近くの時間で、自身もかなりの成長を遂げていた。  例えば、先程言った概念や事象を発生させる、または破壊するなどの事も可能であるし、目の前に置かれている武具と同じレベルの-しかし意思が存在しない物ではあるが-物を造る事が出来る様になっていた。 『…私が使わなくてはならないのだろうか?』  シンは思わず、神剣にそう問い訊ねてしまった。 『なんだと…我々では能力不足だとでも…?』 『いや…恐らく貴方が言っていた事も私は1人で出来てしまう』 『…そんなっ…』  神剣はこれ以上に無いだろうと思えてしまうくらいの、そんな逸材を見つけたと思っていたのに…。 「そこで、そこに居る悪魔の騎士の元に行っては貰えないだろうか? 彼は私の騎士でな」  ここまで会話をしてきて、初めてシンは口を開いた。 『悪魔の騎士…貴方の騎士なのか?まるで神々の血が混じっていて…しかも天使とも交わった事がある様にも見えるのだが…』 「それは間違っていない。…どうだろうか?」 『ぐぬぬ…仕方あるまい。ここまで来た者の手に私達は渡る事になっているからな』 「ありがとう。レオン…祭壇まで上がって来い。私の騎士として武具を授ける」 「うえっ!? …おいおい、マジで言ってんのか?」  突然話の矛先が向けられたレオンは、思わずそうボヤく。 「仕方ないだろう?私には必要の無い物なのだから…」 「はいはい。ったく、捧げりゃ良いんだろ? フィリに手を出さなきゃ誓ってやるつってんだろうが」  レオンは愚痴愚痴言いながらも、自身の隣-祭壇の上-まで移動した。 『神円盾(ゼラン)、起きろ』  神剣は神円盾を起こす。 『話は聞いていました。少し担い手としては技量不足ですが…嫌いでは無いので認めましょう。さあ、神剣(グラン)?』  どうやら、今まで話に入ってこなかった神円盾は話を既に聞いていた様だ。 『『汝の名を告げよ』』  神剣と神円盾はレオンにそう告げた。 「レオン」  レオンは一言だけ小さく返事をする。 『これより我々は汝を担い手として契約する』 『存分に力を振るうが良い』  そう言い、レオンの周りを剣と円盾が飛び回った。 『『契約は完了した。我々を手に取るが良い』』  レオンは武具を手に取る。 (うおっ!? 使い方がわかる…しかもなんだこれっ!? あの最高神擬きよりもヤバい力を持ってやがる…)  手に取った瞬間の膨大な情報量にレオンは混乱する。…が、それと同時に恐ろしい力を手に入れた事も理解した。 「…シン、これはやべーぞ。全能感に溢れちまう…」  そう、力に酔いそうになるくらいには恐ろしい力なのだ。  なにせ、剣は一振りすれば山を切り裂き海を割る事が出来てしまうし、"燃やす"という事象を神剣に持たせて振るえば、火元など無くても勝手に燃えてしまうのだ。  レオンは悪魔としての残虐的な本能を、思わず刺激される。 「レオン、こちらを向きなさい」  だが、そんなレオンを抑え込む為だけにフィリカは祭壇へと上がり、レオンに唇を重ねた。 「…私の事を忘れないでくださいね」 「…ああ、悪い。…そうだったな」  頭をガツンと殴られた様な感覚により、レオンはその全能感を克服する。 「…問題は無さそうだな?」 「おうよ。ただ、シンと1回だけ戦わせてくれねえか? やっぱし使ってみてえとは思っちまう」  シンがそんなレオン夫妻を見てそう言うと、レオンは少し楽しそうにそう言った。 「確かに、私も少し気になるな。爺さん、爺さんが居た階層を使わせて貰っても良いだろうか?」 「好きにすれば良い。どうせこのダンジョンは今日を持って停止するからのう」  シンは爺が居た大きなボス部屋でやり合うつもりのようだ。 「…あ、このダンジョンのコアは何処にある? それは元々貰う予定だった」  更に思い付いた様に、付け加える様にそう言った。  ダンジョンのコアとはダンジョンを創り出す物であり、ダンジョンを動かす核の様なものである。イメージ的には惑星の核に似ているかもしれない。 「それは儂が回収した。欲しいならやるが?」 「いや、爺さんが持ってるなら良い」  回収出来ているならシンとしては問題も無いようだ。 「さて…レオン、出来るだけ本気を出させてくれるな?」 「あー…まあ、善処するぜ」  シンが楽しそうな目でそう告げると、レオンは少し引き気味になりながらもそう告げた。
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