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第零部‐ダンジョン突入から50年が経ち…。

 シンらが初めてダンジョンに突入してから50年が経つ頃、シンを先頭とした者達は第50階層のボス部屋の前に辿り着いていた。  ボス部屋とは10階層毎にある部屋で、その部屋には恐ろしく強大な魔物が待ち受ける仕組みとなっている。また、シンらの目の前にある部屋は今まで見て来たどんなボス部屋よりも入口が大きかった。  シンらは、1階層1年のペースでダンジョンを攻略していた。  とても長く時間を掛けているように見えるが、このダンジョンの1階層毎の恐ろしいまでの広さと、シンやレイ、それからアイにもダンジョン攻略以外にやりたい事があった為、掛かった年月は妥当だと思われる。 ☆☆ 「皆、準備は良いな?」  シンは後ろに続いていたレイ、アイ、ユウに声を掛けた。  ダンジョン攻略の始まりは本当に成り行きから始まってしまった為、ユニコーンのユウは居なかったが、それ以降はこの4者で淡々とダンジョン攻略を続けていた。  レイの格好はシャツインされた白いYシャツに自身の体つきにしっかりとフィットした黒ズボンを。アイは50年前に渡された装備一式を身に纏い。ユウは白銀の騎士鎧を身に纏っていた。  そしてシンは、黒色の前開きのコートに白いYシャツ、それから黒いズボンを身に纏っていた。  ユウの白銀の騎士鎧はこの50年の間にシンにより編み出された鎧で、名を"聖獣《ペガサス》の鎧"と呼ぶ。…性能はいずれ語られる…かもしれない。  もちろんシン自身も、この50年間の間で、自らの為に様々武器を作っていた。その中でも業物であり力作なのが"切断の刀"と呼ばれる刀と、"概念殺しの大鎌"と呼ばれる大鎌だ。勿論それ以外にも、刺突刃を飛ばす槍や斬撃を飛ばす大剣など多種多様な様々な物を作っていたので後々お披露目される…かもしれない。  シンの声を聞き、レイらは三者三様に頷いた。 「じゃあ、アイは予定通りに頼む」  それを見て、シンはアイにそう告げる。すると、アイはこの50年もの間で鍛え抜かれた能力で完全に姿形を隠してしまった。シンにはギリギリで見えているが、レイには完全に見えない様だ。  何故、入る前からこんなに慎重なのかと言うと…それはシンが創り出した"直感"と言われる能力がそうした方が良いと告げているからである。  因みに"直感"と呼ばれる能力を創り出したシンだったが、創り出した時には既にレイが体得していた。これは恐らく、アイとの戦闘訓練の際に気配や存在すらも感じ取れない彼女の攻撃を捌き斬る為に必要になったからだろう。今では、レイの"直感"は更に戦闘に特化した進化を遂げているようだ。 「では、私が先頭を…」 「私は…ユウの上にでも乗っておこう」  レイが戦闘に出て、シンがユウの背に乗る。彼は更に強固な結界を張った。 「レイ…頼む」 「はい」  突入の準備を整え、レイはボス部屋の大きな大きな扉をブチ破った。そして次の瞬間、シン達4人は入り込んだ。入り込んだ先には恐ろしく広大な空間が広がっていた。 『ここは…ダンジョンでは無かったのか??』  ユウがシンとレイに少し狼狽しながら念話を送る。 「…何だろう?」 「訳がわかりませんね」  シンもレイも顔を顰めて、目の前の光景を見ていた。  目の前に広がったのは数百を超える、人種や聖獣、それから様々な魔獣までがホルマリン漬け‐の様‐にされ、標本にされている光景だった。 「やあやあ、良く来たね」  そう告げながら、いきなりシン達の前に1人の男が現れた。 「…貴方は?」 「僕?僕は神様だよ?」  シンはそう言われ、目の前の存在を視る。…どうやら、ダンジョンに入る前に戦った中級神よりも上の存在のようだ。 「ほう?…それは驚きだな。で、ダンジョンに居る理由はなんだ? ましてや…この標本の数は…。いや、そもそも神は下界に干渉する事は許されていない筈だが…」  シンは目の前の存在が何故ここに居るのかを疑問に思っていた。いや…本当は"最高神が居なくなった結果、神々が下界の生物を弄んでいる"という事はわかっていた。…それでも問い訊ねたのだ。 「ああ…うん、そうだね、そうそうこの場所バレちゃったから君達の事殺さなきゃいけないんだよ。だから…死んで?」  その男はそう告げていきなり、強大な魔法を放ってきた。殺す為の一撃だったのはシンもその他も理解していた。  …が、その程度で彼らに傷1つ付く筈も無く、レイは正面からその魔法を封殺した。 「なんだって…? 神でも無いくせに…」  それを見て唖然とする男。 「レイ、ここは私に譲ってくれないか?」 「…承知しました」  シンはユウの背から飛び、ひらりとレイの前に降り立った。 「神でもない下界の生物如きが…僕に対して1人で挑むだと…? 貴様ら…ふざけるなよっ!?」  その男がそう叫んだと同時に、その空間の中に莫大な量の魔物を出現させた。 『レイ、任せても良いな?』 『もちろんです』  シンはレイと念話を送り合い、その男に突撃するのだった。  一方、取り残されたレイとユウは戦闘態勢に入っていた。 「巻き込まれないように頑張ってください」  そうユウに告げるのはレイだ。 『う…うむ』  ユウはビビりながらもなんとか頷きを返した。 「…では、行きますよっ!!」  レイがその一声と共に、莫大な量の魔物へ突っ込んで行き、ユウはそんな彼女とは反対方向に走り出した。"自身は援護に撤そう"と"巻き込まれてはたまらない"という2つの想いを抱えて…。  レイが暴れ始めた中、シンは目の前の男とひたすらに魔法を撃ち合っていた。…が、全くもってシンの敵には成り得ないようだ。  今シンが放っている魔法は、彼にとっては児戯に等しい。様々な魔法をその男が放つが、瞬間的にその形状や成り立ちを見抜いて、ほぼ同じ魔法を撃ち放ち相殺する。  先程放たれた‐レイに封殺された-強大な魔法は、少なくとも全長100mはありそうな超高温の炎球だったが、それですらシンにとっては児戯に等しい様だ。 「貴様っ!!」  男が飄々としているシンを見て吠え立てるが、彼はガン無視。目の前の存在をどの様に有効利用するか、彼はそれ以外を考えていなかった。  そんな中、アイの姿がその男の後ろ-男から離れてはいる-にある事に気が付いた。  彼女はシンが自身の姿に気が付いた事に気が付き、"僕に倒させて"というハンドサインを彼に送った。 (…レベルが上がる…か?)  シンとレイは今まで、この世界のレベルシステムの恩恵を受けられた記憶が無い。それとは別に、世界にあるステータスに自身のレベルが表記される事を目的にしているのだ。  アイが"レベルが上がると力が強くなるよ"と言っていた記憶はシンにあった為、それならば、目の前の男を彼女が倒したのなら"アイはまた1段と強くなるのでは?"と彼は考えた。  因みにシンとレイがレベルの恩恵を受けられないのは、この世界に属している存在では無いからだ。  逆に言えば、アイは生まれも育ちもこの世界である。  シンはアイに許可を出した。  するとアイは、早速"撃滅の惑星剣"を取り出し、逆手に持った。そして、宝玉をなぞる。  男と戦っているシンと、魔物に対して無双しているレイの頭に承認を求める声が鳴り響く。 「承認する」「承認します」  そう告げた次の瞬間、アイの片手に握られていた短剣から恐ろしい程の覇気が流れ出す…が、彼女はそれすらも隠してしまった。  アイは50年もの間を、それらの能力を鍛える事だけに費やしていた。ダンジョンで魔物を狩る時もヘブンズガーデンで自主練をする時も全てだ。  アイは壁に足を付け、屈み込む。そして…足音の鳴らない靴を最大限に生かして、全力で一直線にシンと交戦している男目掛けて飛んだ。  そしてそのまま、自身の体重が乗るように男の背に短剣を突き刺した。 「ぐっ…なっ…ぐあああああああああああああっっ!?!?!?」  アイはこの刺殺の結果を隠蔽せずに、そのまま消滅させてしまった。 (うっ…何…これ…頭が…)  そんな彼女は、男を消滅させたと同時に意識を失ってしまう。  そんなアイを見ていたシンは、瞬時に彼女の元へと転移した。少しばかり彼女が倒れた事に驚いている。 (…何があった??)  シンはアイに起こっている事を視る。視なくては始まらない。 (…細胞が作り変えられてる?)  彼女の身体を隅々まで調べながら、シンはそんな事を思う。 (倒した事によって進化した…か?)  先程アイが倒した男はLv.1023、その時の彼女はLv.345、本来なら彼女は男に傷一つ与えられる筈は無かったが、それは武器によって可能になっている。  そして、それだけのレベル差があったのにも関わらず、アイは倒してしまった。  恐ろしい数のレベルアップがあったのは、予想するに容易い。 (…レベルが上がる事と進化する事は同義なのか?)  シンは今のアイの状況を見て思った。  レイは未だに魔物を殲滅し切ってはいない。その為、アイを見ていたシンの元にもぞろぞろと近付いてきた。  彼は指を"ふっ"と横切らせる。その次の瞬間に魔物達は風により身体を真っ二つに分けた。 『レイ、今すぐに殲滅してくれ』 『承知しました』  シンがレイに指示した次の瞬間、彼女はあっという間に魔物を殲滅してしまうのだった。 ☆☆ 「アイは大丈夫でしょうか?」  レイは殲滅し終わり次第、シンの隣に転移して来た。 「大丈夫だ。…それより」 「はい。あちらの扉には何かがある様ですね」  ボス部屋の中に居た全ての敵が消滅すると同時に、1つの扉と1つの階段が姿を現した。 「レイ、私がその部屋に入るから下へと先に降りていてくれ」 「…わかりました」  どうやらシンはレイと手分けして、階段と扉にそれぞれ行くつもりのようだ。 「こっちは中に何が居るのかを確認したら"ヘブンズガーデン"に帰る。明日はレイに転移してもらう事になりそうだ」  シンがそう言う理由は、彼が部屋だけを見て帰ってしまったら、下の階を知らないが為に転移出来なくなるからだ。  基本的に、見知った場所にしか転移することは出来ない。 「承知しました。お気を付けて」  レイはシンの腕からアイを受け取り、ユウを呼び寄せて、下の階層へと下がって行った。 「さて…私も行こう」  レイ達を見届けたシンは、特徴な結界を張り、階段とは別に現れた扉に手を掛けた。 (暗い…)  部屋の中は真っ暗だったが、シンにはその部屋の隅々まで見えていた。…その中に4人の明らかに人外と呼ばれる存在が壁に貼り付けられている事までもが見えてしまった。 「悪魔のハーフ、お前たちはここで何をしている?」  シンはその中の4人の中で唯一の男にそう告げた。その男の身体は彼よりは明らかに背が高く、密のある筋肉を蓄えていた。 「…お前は?」 「…質問しているのはこちらだ」  その男だけではなく、周りの女性達も疲労困憊なのは見てわかっていた為、シンは強くは言わなかった。…それでも質問を相手にさせる気は無い様だが…。 「俺達は神々に連れて来られたんだよ」 「…何故?」 「神族に敵対するかもしれないって言われてな」  それを聞いたシンはなるほどと思う。何故なら、今対話をしている悪魔のハーフの半分は神だからだ。  周りに居た女性陣も似たような存在ばかりだった。…1人だけ吸血鬼が居て、それだけは神の血は入っていない様だった。 「…なあ、俺の身体なんに使ってくれても構わねえからよ。後ろの奴らは助けてやってくれねえか?」  シンが思考をしていると、悪魔のハーフはシンにそう告げた。 「レオンっ!? そんな事は許しませんよっ!!」  悪魔のハーフの隣に張り付けられている女性がそう叫ぶ。 「「「え?」」」「・・・」  そんな事をしている間に、シンは彼らを貼り付けていた拘束具を全て破壊してしまった。そう簡単に壊れる筈の無い拘束具だったのにも関わらず、あっさりと彼は破壊してしまった。 「4人共、私について来い。悪いようにはしない」  シンは拘束具を外すなり"ヘブンズガーデン"に大きな穴を開いて繋いだ。  暗い部屋には眩しいほどの光が、"ヘブンズガーデン"に通ずる穴から入り込んだ。 「…信じて良いのか?」 「好きにすれば良い」  悪魔のハーフの問い掛けに、シンはそう返す。 「…わかった」  悪魔のハーフはそれを聞き、隣のとても美しい女性の手を引いて穴を2人で抜けた。更にその後ろから、残りの女性2人も追いかける様に穴を抜けて"ヘブンズガーデン"へと入った。  彼らの目には明る過ぎる大地が目に入った。  思わず、手で顔を隠すぐらいには眩しかった様だ。 「君たちの名は?」  そんな中、シンは訊ねた。 「俺がレオンで…こっちがフィリカだ。…他はわからねえな」  悪魔のハーフがそう告げた。と、同時に美しい銀髪の女性は頭を下げた。 「あたしはリオン」  今度は赤髪の女性がそう告げる。 「・・・」  しかし、金髪紅眼の吸血鬼の女性は何も答えなかった。 「…おい? 大丈夫か?」  シンが思わずそう告げてしまうほどに彼女は自暴自棄な目をしていた。 「…あーっと、そいつは…多分」 「シンだ。呼び捨てで良い」  レオンが何かを言おうとシンに呼び掛けたのに気が付き、そう告げる。 「えっとな、俺がこんな事言っていいのかわかんねえんだけどよ。そいつ…自身の国も親も全部殺されてるんだ」 「…つまり、精神的に安定していないのか」 「…そう言う事だな」  シンはそう言う事情があるなら、そこまで急がなくとも良いかと結論付ける。 「なら良い、取り敢えず4人共私について来てくれ」  シンはそう告げて、彼らを自身の家へと、レイが居る家へと連れて行くのだった。
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