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第零部‐ダンジョンに突入。

 シンが初めて体験するダンジョン。特徴はダンジョンに出現する魔物全てが倒されてもダンジョンに分解されず、更には口の中に運ぶ事も出来る。  本来、このダンジョンはラフタに存在していた筈の"最高神"が人々の進化を促す為に作り出した物である。  地下に全100階層を誇り、1層1層が恐ろしく広い。  その名は"始まりのダンジョン"。  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  シン、レイ、アイは先程捕まえた中級神2体を"ヘブンズガーデン"の中へと放り込み、ダンジョンの中に足を踏み入れた。 「今日入るつもりは無かったんだがな…」  シンは思わずそうボヤいた。 「あははは…僕もあんなに簡単に倒せるとは思ってなかった…」  アイはシンのボヤきにそう返す。 「まあまあ、悪い事では無いのですから」  レイはそんなアイに対して慰め?の様な声音でそう言った。  シンは今日はアイの装備の調整だけで終わると思っていたのだ。それなのにあっさりとアイがダンジョンを塞いでいた存在を消滅させてしまった。  それならば入れる所まで入っておこうと、レイが提案し、シンもそれで良いかと納得したのだった。 「悪い事だなんて言ってない。良くやった」  シンは褒める為にアイの頭をウリウリと撫でた。  アイがそこまで強くなった事に対してシンは素直に喜んでいるし、それはレイも同様だった。 「…シン兄、ゴブリンが5体」  大人しく撫でられていたアイは、シンにそう告げた。 「流石だ。私はまだわからないな」  どうやら、アイの敵を察知する能力は完全にシンを超えてしまっているらしい。 「私もわかりません」  レイはシンよりもその様な能力が低い為、彼がわからないと言った以上はわからなかった。…不意打ちに対しての耐性は彼以上に高いようだが…。 「見えたら僕が倒してくる」 「そうだな。…さっき使ってない武器もあったな?」 「うん、だから」  アイはシンにそう言って"消音の短刀"を取り出し、ゴブリンが彼女らの前に姿を現すのを待った。  やがてアイらの前に5体のゴブリンが現れた。ゴブリンのレベルは最低でも100は超えていて、通常の人の街外に1体でも現れたら、大パニックを引き起こす事は間違い無しだろう。  アイはゴブリンが視界に入ってから初めて、自身の存在を隠した。ゴブリンが現れる前から自身を隠さないのは、自身の能力を更に高める為だ。  まあ…正面で姿を消した彼女すらも見失ってしまう様なゴブリンではあまり意味は無さそうだが…。  ゴブリン達はアイの後ろに居たシンとレイに気付き、彼らに襲いかかろうとする。  シンの視覚では、アイが撫でる様にゴブリンの首を切り付けていたが、ゴブリンの首は切り落とされないし血も吹き出しはしなかった。当然切り付けた彼女にゴブリン達は気付く事すらなかった。  そんな風に5体の首に短刀を切り付け終えたアイは、"切り付けた"事柄への"隠蔽"を解除した。  その瞬間、5つのゴブリンの首は同時に地面へと転がった。 「…うん、シン兄、この武器、バッチリだよ」  音の鳴らない短刀は、1度もゴブリンに気が付かれる事は無かった。 「そうか、それなら良かった」  シンはそんなアイに対して微笑んだ。 「…主。アイも強くなった事ですから、今日中にどれだけ進めるかをやりませんか?」  そんなシンを見てレイが提案する。…もう、アイを守りながら戦う必要は無いと判断したようだ。 「それも良いかもしれないな。…アイは無理そうだったら正直に言うんだぞ?」  シンはレイの提案を受け入れて、アイにそう言う。いくら敵を倒せる様になった所で彼らと同じ程の距離を走り続ける事は出来ないからだ。 「うん」 「じゃあ…行こう」  そうしてシンとレイ、それからアイは走り出した。  ☆☆☆☆  "たたたたたっ"という足音が洞窟の様な通路に鳴り響く。  足音の主はシンとレイだ。アイは装備のお陰で足音が鳴らない為、音もなくずっと移動を続けていた。 「はあ…はあ…、…んぐ…シン兄、僕…もう無理…」  時たま出現する魔物の中で長時間走り続け、アイはギブアップした。 「…そうか。よし…じゃあ、ここまでにしよう」  そう言ってシンがその場に留まり、レイとアイに言い聞かせる様に告げた。 「!?…待ってください。主」  しかし、レイは何かを見つけてしまったようだ。 「…どうした?」 「…これ」  レイは何かの発生装置だと思われるスイッチを見つけたようだ。 「あー…それ、何だろう?」  アイはへとへとになりながらもレイが示したスイッチに目を向けて、誤って発動させない様にペタペタと触った。…よくわからなかった。 「どうする?」  シンはレイに訊ねる。 「私としては…発動させてみたいですね」 「うーん…、…まあ大丈夫だろう」  レイの要望を聞き、シンは少し考えてからそう言った。  シンが考えたのは何かが起こった時に、"アイを守る事が出来るだろうか?"と言う物だったが、どうやら問題無いと判断したようだ。 「では…押しますね」  レイの言葉を聞いて、シンは自身の元に何があっても大丈夫な様にとアイを抱き寄せた。  それを見たレイはスイッチを押す。  すると、通路の右側に新たな扉が現れたのだった。 「…ここに入れと言う事でしょうか?」  レイはそんな扉に軽く触れながらそう呟いた。 「そうだろうな。…行くか?」 「はい」  レイは行く気満々らしく、そんな彼女を見たシンは自身はサポート役に徹底して回ろうと決める。 「アイは一応、しっかりと私に捕まっていてくれ」 「…うん」  アイはがっちりとシンに抱き着き、彼も片腕でしっかりと彼女を抱えた。 「では…入りましょう」  シンの準備が整ったのを確認し、レイが扉を蹴破った。それから彼らは共に、ゆっくりと辺りを警戒しながら扉の中へと入った。中は恐ろしく広い空間が広がっていた。  すると、彼らが入って来た扉は閉まり、姿を消してしまった。  …どうやら彼らは閉じ込められたようだ。  レイは自身のシャツの袖口を捲り上げ、"トランスアーム"の形を瞬時に変えられるように待機する。  シンは瞬時に自身の周りに結界を張り、何かの出現に備えた。  それから少しして、まるでゴミの様な溢れんばかりのゴブリンが、突如として現れる。  それを見たレイとシンは瞬時に戦闘態勢へと以降、…が、今回はどうやら彼は観察に撤するようだ。  理由はアイの面倒と、レイから"1人でやらせてください"と彼に念話が来たからだ。  シンはゴブリンの集団が出現した方向とは真逆に下がった。  一方レイはゴブリンの集団に飛び込んで行った。  レイは手始めに両の腕の形を剣へと変えて、ゴブリンがそれぞれに防御した上から叩き斬っていく。…それと同時にシンの元へと向かわせない為、シンと抱えられているアイの周りに、大きく深く地面を陥没させて掘りを作り出した。  数体のゴブリンがその堀の中へと真っ逆さまに落ちていってしまったが、誰も気に留める事は無かった。  更に更に淡々と斬り裂き、斬り裂き、敵を屠って行く。  終わりは見えないが、レイは留まる気配を知らなかった。それどころか腕を鋭い触手状にして数十のゴブリンの頭を纏めて貫く。  そして、まるで串焼きの様に貫いた腕を車のワイパーを動かす様に勢い良く動かし、まるで将棋倒しになる様に一線した。    それを繰り返す繰り返す繰り返す。  "どしゃっごしゃっどしゃっ"とゴブリン同士の肉体がぶつかり合い、煩く音を鳴らす。  それから…触手状に伸びていた腕が魔法の火を纏い、本当にゴブリンの串焼きにしてしまった。  ゴブリンに着火した火は、周りのゴブリンにも飛び火する。燃え広がり始めた勢いは留まる気配を知らずに次々に飛び火を続ける。  …だが、そんな小手先の攻撃ではゴブリンの数は減らなかった。 (そろそろ…良いでしょう)  自身の力を振るった事に満足したレイは、強大な魔法を発動した。  それはレイの前方に居るゴブリン全てを、地面から生やした土槍で貫くという物だった。 (残りは…)  自身が居る空間-アイとシンが居る場所を除いて-全てに土槍を生やすことによって、軽く操作性を失ったのだ。  その為に、レイは生き残りが居るだろうという前提で辺りを見回した。 (…見つけました)  見つけたと同時に、その生き残りのゴブリンの後ろへと転移し頭を斬り飛ばす。  そして再度辺りを見回して、それを何十回か続けると、生き残りの気配は全て消失した様に感じられた。 (…出てきましたね)  それからレイは、ここに入ってくる際に使用した扉が再度出現した事を確認し、心の中でそう呟いた。 「レイ、お疲れ様」  シンがレイの真横へと転移して来た。 「ええ、そちらは何かありましたか?」 「こっちは…ゴブリンに魔法を撃たれた」  シンはゴブリンの中の魔法を撃てる個体に魔法を放たれた様だ。 「僕びっくりした…ゴブリンが魔法を使うなんて…」  アイがそう言う通り、この世界では魔法を使うゴブリンは普通では無い。 「怪我が無い様で何よりです」 「…まあ、ゴブリンだからな」  レイはそう言うが、シンが張った結界がゴブリン等に破られない事くらいは百も承知だった。  …この地に居たゴブリンは全てがLv.100を越す存在ばかりだったが…。 「それより…アイは大丈夫ですか?」  疲れていたのにも関わらず、自身の欲求でアイに付き合わせてしまった事にレイは少しだけ罪悪感を覚えていた。 「うん、シン兄が守ってくれたから全然平気」 「主、ありがとうございました」 「いつもはレイに世話になってるからな」  今回はレイに譲り、何かあった時にフォローに入る為に備えていたシンだったが、それでも今まで彼女がやって来てくれた身の回りの世話に比べれば、本当に何の事も無いと思っていた。  …そもそもそんな事が無くても、レイの頼みであるのならシンはある程度聞くつもりだが…。  そうしてレイら3人は、再度出現した扉から元の通路へと戻った。 「では…戻りましょうか」  レイの合図を切っ掛けに、3人は"ヘブンズガーデン"へと転移するのだった。  ヘブンズガーデンへと戻ったシンとレイは、先程捕まえた中級神の2体を家へと呼び寄せた。アイは少し剣の練習がしたいと言って、そのまま家の外に残ったようだ。  どうやら彼らは、自身の家に中級神2人が勝手に入る事を許していないらしい。 「私の方は特に無いが…レイが用があるらしい」  捕まえた中級神‐ガウリエルとガリューレン‐にシンは、自身の家のリビングルームで寛ぎながらそう告げた。  当然、リビングルームに置かれているソファーにガウリエルとガリューレンは座っていない。 「何でしょうか?」  ガウリエルが代表して問い訊ねる。 「私のお手伝いをして欲しいのです。私はこの家を管理しているのですが…少し手が足りなくなった際に、手を貸して欲しいのです」  殆どそんな事は無い。…が、レイが1日中を何もせずにダラけていても問題無く生活が回る様に彼女はしたいようだ。 「わかりました。…我が主の心のままに」  ガウリエルはソファーに片膝を着き頭を垂れてそう告げた。 (何故神である私がこんな事を…)  一方ガリューレンは心の中でそう思っていたが、ガウリエルに倣い頭を垂れた。  そんな事をしている部屋に突然、アイが顔を出した。どうやら剣の練習は終わったようだ。 「…何してるの?シン兄?」 「ん?…ああ、彼らの役割を決めようと思ってな」  シンはアイの質問にそう返した。 (エルフ如きに…)  ガリューレンはアイに対してそんな事を思う。 「うっ…っぐ…ぐあっ…」  そんな事を思った次の瞬間、ガリューレンはシンに首をキツく締め上げられて、宙へと持ち上げられてしまった。 「…な…ん…で…」  ガリューレンは当然訳がわからない。 「…お前は消しておいた方が良さそうだな」  そんな呟きにシンはそう返した。  シンの目に"ガリューレンの考え"が見えないはずは無かった。今までの反抗的な思考も眷属契約を結んでいないアイへの敵意も全て見えていたのだ。  逆に言えばガウリエルは、もう既にレイに陶酔し始めていた。それはレイが完膚無きまでに正面から叩きのめした事が原因だろう。 「私は…敵に甘くは無い」  それはシン自身の様々な記憶から来る、実感の篭った言葉だった。 「…消えろ」  シンは自身の手から神をも殺す炎を発生させ、部屋の中に痕跡が残らぬようにガリューレンを消滅させてしまった。 「ひっ!?ひいっ!?」  当然、そんな様子を見ていたガウリエルはシンを恐れた。"次は自分だ"と、そう思った。  アイもシンの行動に少しだけ驚きはしたものの、何か訳があったのだろうと思い直した。  一方、レイはシンから消滅させられた存在の思考を念話により説明されていた為、寧ろ当然だという心持ちだった。 「ガウリエル、君は恐れる必要は無い。…ただ、この場に居る誰に対しても危害を加える事は許さない。…それだけは覚えておけ」  シンの紫色の目がキツい視線を向け、コクコクコクとガウリエルは頷いた。 「では、ガウリエル、貴女は私の隣で暫くは修行です。無理はしなくて構いませんが、私の仕事を横で見て覚えるように。では…主、夕食の準備を始めたいと思います。…ガウリエル、ついて来なさい」 「はっ!はいっ!!!」  レイにそう言われ、ガウリエルは勢い良く立ち上がった。  それから数十年の間、ガウリエルはレイの動きを覚え、レイの真似をする日々が続いたのだった。
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