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第零部‐アイの特訓と成長。

 そして1ヶ月がたった今、"幻魔の森"の中には2つの人影があった。  "ざくっ"鈍く刺さった刃物の音が鳴る、刺したのはアイだ。  アイは忍び寄り、大きな猪の様な魔物の額に、短剣を突き刺した所の様だ。  猪は彼女が近付いた事も殺された事も気が付かずに、殺されてしまった様だ。 「…凄いな」  それを見ていたシンは、アイのここ1ヶ月で磨かれた隠密系の能力に感嘆の言葉を漏らした。 「えへへ、これもシン兄が能力をくれたからだよ」 「いや…私が与えたのは能力の種だけだよ」  シンが能力の種と言った理由は、アイに与えた能力は全て"Lv.1"だったからだ。  つまり、そこからどうやって能力を育てるかは、彼女次第なのである。 「そう言われると嬉しいな」  アイはそう言って、普通の少女の様な可愛らしい笑みを浮かべた。 「…あれは回収するけど、良いな?」  シンはアイに猪を示してそう言った。彼は彼女と猪から、少なくとも10mは離れた位置に居た。 「うん、良いよ」  アイがそう告げると、シンの"空間魔法"により10mも離れているのにも関わらず、それは仕舞われてしまった。  そんな彼の行動を見て、"相変わらずだなあ…"と思う彼女だった。 「じゃあ、次に行きたい所はある?」  シンはアイに訊ねる。 「あ、じゃあ、あっちの方に行ってみたい」 「良いよ。なら、そっちに行こう」  アイが指さした方角に、シンと彼女は険しい森の中を歩いて行く事になった。  ☆☆  それから歩いて行くと、アイのお目当ての存在が目に入った。指をさした方向はテキトウでは無かったのだ。  そのお目当ての存在はワイバーンだ。  ワイバーンは、一言で纏めるとするならば、只の翼竜である。火を吐く個体も居るようだが…。 『行ってこい。危なくなったら助けてやるから』  シンは物は試しだろうと思い、念話でアイにそう告げた。  アイはシンに頷きを返して、そのワイバーンが地に足を付けて歩いている正面に躍り出た。  正面に、突然捕食出来そうな小さな存在がチョロっと現れた事により、ワイバーンは小さな存在にいきなり噛み付いた。  アイはその噛み付きを当たる寸前の所で避けて、ワイバーンの死角に入り込んだ、と同時に自身の存在を世界から断絶させる。更に自身がその場に居た事で残った匂いなどの痕跡すらも消してしまった。  それから更に相手の触覚を阻害して、ワイバーンにはアイが背に乗ったことすらも気取らせなかった。  そのまま"さっくり"と、ワイバーンの目を切り裂いた。  突然切り付けられて、その痛みに悲鳴をあげるワイバーン。その間にもアイの斬撃はワイバーンの身体中に続いた。  やがてアイの能力に緩みが出たのか、ワイバーンは彼女の居場所を見つけて、自身の体から振り落とした。  "ずささ…"と、ギリギリ地面に上手く着地したアイにワイバーンの口が迫…………らなかった。  彼女が奥の手を切ってワイバーンの動きを止めたようだ。  その奥の手というのは、自身の攻撃した痕跡を隠蔽する事だった。  どんなに自身の存在を気取らせない様にしても、同じ部位を何度も何度も同じ様に切り付けていれば相手に位置がバレてしまう。  だから切り付けた部位を隠蔽したのだ。それによってワイバーンは、同じ所を何度も切り付けられているのにも関わらず、痛みすらも感じなかった。つまり、体の部位が脆くなっている事に気が付けなかったのだ。  そしてそれらの、何度も何度も切り付けた1部の隠蔽を止める事によって、ワイバーンには恐ろしい程の痛みが走り、太く逞しい足は半分以上が切り裂かれている事が明らかになり、歩けなくなってしまっていた。  そんなワイバーンに対して、アイは休まず追撃を仕掛ける。その個体の視覚に対しても、自身が見えない様に阻害した。  それから、何度も切り付け脆くなっていた首に、最後の一太刀を突き刺した。更に刺さったと同時に隠蔽を消し去り、首へと重ねた攻撃を明らかにした結果、ワイバーンは死を迎えた。  ずずん…  全長7mはありそうな巨体が、力無く地面に平伏するのだった。 「…やった、倒せた…」  アイはワイバーンが平伏したと同時に、最後に突き刺した首の上でぐったりとした。  自身の存在を気取らせない様にする事と、自身の攻撃をそれなりに硬い鱗に攻撃を通す為に、かなりに神経を使ったようだ。 「ご苦労様」  そんなアイの隣にシンが転移して、労いの言葉を掛けた。 「うう…緊張したよ…」  アイは弱った様にそうボヤく。 「頑張った頑張った」  シンはそんなアイを優しくあやす様に頭を撫でて、そう言った。  シンはワイバーンを倒してしまうとは思っていなかった。だから、アイが自身が思っている以上に早く成長している事も理解した。 (…凄い成長だな)  心の底からアイに対してそう思っていた。 「もっと褒めて褒めて」 「はいはい」  アイのおねだりを聞いたシンは、うりうりうりと彼女の頭を撫で続けた。 「じゃあ、そろそろ帰ろう?」  そして、撫でるのも一段落すると、シンはアイにそう言う。 「うんっ!もう疲れちゃった」  アイもシンにそう返事をする。その返事を聞いた彼は彼女と共に、"ヘブンズガーデン"へと転移した。  それから"ヘブンズガーデン"のシンらの家に帰ると… 「アイっ!?何ですかっ!?その恰好はっ!?」  ワイバーンの血で血まみれになったアイは、家の中に居たレイにとても驚かれてしまった。 「あー…うん」  アイも今更になって、自身の姿が凄いことになっている事に気が付いた。 「アイ、共に風呂場に行きますよ」  レイはそう言い、問答無用でアイを浴室へと連れ去る。…当然シンは置いてけぼりである。  ☆ 「はい、服を脱いでください」 「うん、ちょっと待って」  アイに服を脱がせている間に、自身も服を脱ぎ終わったレイは、長い黒髪が邪魔にならない様に後ろで軽く纏めた。 「入れるよ」 「では入りましょう。隅々まで洗ってあげます」  広い浴室へと入り、レイはシャワーヘッドを片手に持ち、アイにぬるま湯を当てた。 「うわ…凄い…」  アイの身体から血が剥がれるように流れ落ちた。勿論、皮膚に着いた血全ては、それだけでは落ちなかった。 「では、アイの身体を磨いて差し上げます」 「…お願いします?」  何故か心に火のついたレイに、アイはそのまま優しく体を洗われてしまうのだった。  ☆ 「レイ姉の身体って綺麗だよね」  それからレイにまるまる洗われたアイは、浴槽に浸かりながら自身の身体を洗っている彼女に聞いた。 「アイの身体も、十二分に綺麗だと思いますが?」  レイは黒い髪を丁寧に洗いながら、特に意識した様子も無くそう答えた。 「僕はレイ姉みたいに胸は無いし、…色々貧相だし…」  ぶつぶつと呟くようにレイにアイはそう言う。 「…そうですか?私は可愛らしいと思いますね」  そんな風にアイに言うレイの胸はC以上はあった。それに対して彼女は完全な絶壁だった。 「そんな事言ってくれるの、絶対レイ姉かシン兄だけだよ…」 「?…もしかして、アイもそう言う事柄に興味があるのですか?」  アイが色恋沙汰に興味を持ち始めたのかと、レイはそう思った。 「…まあ、うん。レイ姉とシン兄って最高のパートナーって感じだからさ。僕もそんな人を見つけられたらな…って」  アイはシンとレイの在り方を見て、そう思ったようだ。 「まあ…私と主は特別ですからね」  そもそも、人の部類であるアイとシンに生み出されて、シンの思考に似たり寄ったりな思考を持っていたレイとでは訳が違うだろう。それから、シンとレイの間に色恋沙汰は無い。 「…僕も何処かに良い人が見つからないかな…」  アイはボヤく様にそう呟いて浴槽の隅に小さくなり、レイはそんな彼女の隣に腰かけるように浴槽に浸かった。 「…出来ますよ。そのうち」  ☆☆☆☆☆☆☆☆  それから一年が経ち、アイの特訓もそろそろ打ち止めだろうとシンは考えていた。  ずっと"幻魔の森"でアイに魔物を狩らせたりしていたが、そろそろシン本来の目的であった"ダンジョン"に入っても良いだろうと考えていた。 「アイにはこれから装備を与える。これに頼り過ぎない様にな」  そして、ダンジョンに潜る前に、シンはアイに自身が作り出した装備を与えようとしていた。 「うんっ!これからも頑張るよっ!!」  アイが気持ち良く返事をしたのを見て、シンは1つ1つの装備をアイの前に並べていった。  まず一つ目にシンが取り出したのは、薄灰色の、少しだらしなく地面に垂れているローブだった。  そのローブの名は"隠者のローブ"。際立った能力は、それを装備した者は周り全員(例外はある)の認識から外れる事が出来るという物だ。衝撃や魔法も通さない様な作りになっている。そして、そのローブは装着者の意思で好きなように色を変えられる。  そんなローブを着こんだアイは物凄く嬉しそうな顔をしていた。  そして、次にシンが取り出したのは"仕込みズボン"だ。強度は通常のズボンより圧倒的に高く、色は暗い灰色で、裾は踝まで伸びている。際立った特徴は、両太ももの側面に1つずつポケットが付いている事だ。  実は、その()つポケットは()つ亜空間‐アイテムボックス‐になっていて、装着者のみが使う事が出来る。生き物は入らない。  そんなズボンも今すぐに履きたそうにしていたアイだったが、流石にシンの前で脱ぐのは止めた様だ。  そして3つ目にシンが取り出したのは、"収納の指輪"だった。アイの白くモチモチなな肌に合う様に白銀色になっていた。1つの亜空間‐アイテムボックス‐が能力付与されていて、指輪を付けている手のひらに触れる事で出し入れが可能だ。亜空間‐アイテムボックス‐は時間の経過が無い。  アイは指輪を嬉しそうに右手人差し指に嵌めたのだった。シンが意識して人差し指のサイズに合わせたからだ。  そして、早速"仕込みズボン"を手のひらで触れて仕舞った。  さらに4つ目、シンが取り出したのは"消音の短刀"だ。全長30cmも満たない刀で、鍔は無く、持ち手は渋い茶色をしている。この刀はその名の通り、斬り付けた際に発生する音が消える能力を持っている。  それに続き取り出された5つ目は"撃滅の惑星剣"だ。"消音の短刀"同様に全長30cmにも満たない剣だが、鍔はしっかりと有り、持ち手は鈍い灰色をしている。また、この剣は剣身に2つの緑色の宝玉が埋め込まれている。  この宝玉はシンとレイがそれぞれに莫大な力を注いで創った半永久機関で、基本的に宝玉を解放する事は出来ないが、シンやレイのそれぞれの許可を得た際に解放出来る。  宝玉が解放されると、想像できない様な恐ろしい力を剣身から放出する。  その2つの武器を受け取ったアイは、少し緊張しながらも指輪へと仕舞った。  それから6つ目に取り出されたのは"音消しのブーツ"だ。これは仕込みズボンに色を合わせるように暗く灰色になっている。その名の通り足音を消す能力を持っている。  これもアイによって指輪に仕舞われた。  そして最後にシンは厳つい弓と矢筒を取り出した。"刃纏の弓"と"錬成筒・改"だ。  刃纏の弓は全長120cmもある大きな弓で、色合いは灰色の弦に本体は薄茶色である。能力は魔力を通す事による弦の自動修復と、不可視な魔力の刃を弓に纏わせることである。  錬成筒・改は手のひらサイズの黒色の筒であり、そこから引き抜く事によって"刃纏の弓"に合った大きさの矢を取り出すことが出来る。主な能力は矢の生成と、生成された矢に決まりきった効果を付与する事である。  その効果は"刺さると恐ろしく硬いバラの棘に巻き付かれて動けなくなる"、"刺さった部位を内部破壊(生物のみが対象)"の2つである。  蛇足ではあるが、"改"となっているのは、アイに使いやすいように調整された結果である。  アイは今日一番の嬉しそうな顔を浮かべて、その弓矢を指輪に仕舞った。 「まあ、こんな所だな」  シンが目の前に居るアイにそう告げる。 「シン兄っ!着替えてくるっ!!」  バタバタと凄い気負いでリビングルームから出て行ってしまった。 「クスクスクス…」  大はしゃぎなアイを見て、シンの隣に立っていたレイが静かに笑った。 「…そんなに面白いか?」 「面白さではありませんよ」  どちらかと言えば、微笑ましいから笑ったと言う具合だろう。 「…そうか、アイが戻ってきたら、性能を調べる為に"幻魔の森"に行こうと思う」 「私もご一緒させて頂きます」  そう言ったレイに軽く笑みを向けてシンは頷いた。  ☆☆  それから、全てを装備したアイは、シンとレイと共に幻魔の森へと移動した。 「アイ、好きにして良いから、与えた装備の能力を確かめてくれ」  シンは移動して開口一番にそう告げる。 「うん、…じゃあ、行ってくるね」  アイは自身の存在を隠し、行動を開始した。  シンは自身の"真・鑑定"が進化した"森羅万象の眼"と言う能力でアイの姿をレイと共に追いかけた。  因みにレイの瞳には辛うじてアイの姿が映る程度である。つまり、少しでも視線を彼女から反らすと、見失ってしまう。  森羅万象の眼、とは主に"何でも"見る事の出来る能力である。例えば他者の視界や、物体を構築している原子や分子など、それから…人の魂をも…。  シンとレイがついて来ている事も知っているアイは、そのまま"幻魔の森"の最深部に居る、"ダンジョン"の入口を塞いでいる存在の元へと向かった。  シンやレイ、それからアイもそのダンジョンを塞いでいる存在にはかなり前から気が付いていた。恐らくその存在も、彼らがこの地で何かを行っている事を気が付いているだろう。  アイは気配を露わにして最深部に到着した。 「僕、そこ通りたいから…通してほしいんだけど」  そのまま、ダンジョンの入口に立ち塞がっている人型の存在に、アイはそう声を掛けた。  今回、アイが行っている事は本来彼女がする必要の無い事だ。シンもレイも、今日では無く後日に、その存在に攻撃を仕掛け滅するつもりだったのだから。 「たかがエルフ如きが神にお願いをするとは…恐れ多いとは思わんのか?」  その人型はそんなアイに威圧を掛けて明らかに敵対した。…次の言葉を待つ彼女では無かった。  アイはその人型に"自身が現れた"という行動そのものを隠蔽した。…と同時に自身の存在を外界から遮断、右手に"撃滅の惑星剣"を取り出す。  敵対した人型の記憶には、アイが目の前に現れた…という事柄が隠蔽され、まるで彼女が居なかった様な振る舞いを始めた。  アイは背景に同化し、更に"隠者のローブ"の能力で重ね掛けする。それから…忍び足で目の前の人型にゆっくりと近付き始めた。  そして、短剣の剣身に埋め込まれた宝玉を指でなぞる。すると、遠くでアイを観察していたシンと、彼と共に居たレイの頭に"承認を求める声"が鳴り響いた。 「「承認」」  シンとレイは共に、それを承認した。  その承認と共に"撃滅の惑星剣"が起動、アイの隠蔽すらも破り、すり抜けて恐ろしい力の気配を辺りにまき散らしてしまった。 「!? 貴様っ!! 何者だっ!?」  当然、自身を隠して接近していたアイはその人型に存在がバレてしまう。…あと一歩だったのに。  だが、アイは瞬時にその一歩を踏み出し、その人型へと"撃滅の惑星剣"を振り下ろした。 「ぐあああああっ!? ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?!?」  当然、人型も強力そうな結界を張って防御しようとした。…が、その結界はバターの様に斬り裂かれ、アイの持っている短剣は体に到達してしまった。  実はこの人型、中級神に属する神様である。神であると言う事はつまり、ある程度の不死性を兼ね備えている。  …が、その短剣は不死性などお構い無しにその人型を吹き飛ばしてしまった。跡形も無く…。 「ふう…焦った~」  アイは敵を倒した事を確信し、大きく一息を吐いた。 (!?…誰か来る?)  アイが人型を倒したのを察知されたのか、別の人型が2体も彼女に向かって走って来ているのがわかった。  アイは自身の存在を隠蔽してみる。…と、その2体は気配が消えた事にあたふたとし始めた様だ。 「お疲れ、よくやったな」  シンはそんなアイの隣に転移してそう言った。 「アイ、気配を隠さないで人型をこちらに呼び寄せてください」  その反対側に転移したレイは、アイにそう告げた。 「え?…良いけど」  そう言って再び、アイは周囲に対して自身の存在を露わにした。  すると、先程戸惑っていた人型達はアイ達の前に一直線で現れた。 「まあ…成り行きで予定変更になるが…」  シンはアイが行った事によって予定を変更する様だ。 「そうですね。…アイ、休んでてください」  レイはシンの言葉に頷きを返し、一戦を終えたアイにそう告げる。アイはあまり疲労していない様に見えるが、それでも人よりも高位な存在‐通常、神と呼ばれる‐を討ち果たしたのだから、休ませる事は決まっていたようだ。 「貴様っ…ぐう………」  ここに近付いた内の1体がシンらに問い掛けようとした…が、シンに首を締め上げられて話せなくなってしまった。 「貴様何をっ!? ぐあっ!?!?」  もう1体の人型がそんなシンに攻撃しようとした…が、レイに蹴り飛ばされてしまった。 「貴方の相手は私です」  レイの目が碧く、されど相手を凍てつかせる様な目を向ける。 「…話を聞こうか。まあ…だいたいお前達に関しては理解しているつもりだがな」  レイがもう1体を抑えた事を視野の隅で見て、シンは首を締め上げた人型に告げた。  それからそれを大地に叩き付け、魔法により作られた木々で縛り付けた。 「何を聞くつもりだ…」 「何故そこまでしてここのダンジョンを塞ぐ? …態々神々を3体もこの森に配置する意味があるのか?」  そう、消滅した1体も今シンとレイそれぞれに抑えられている2体も神と呼ばれる存在だった。 「…それを聞いてどうする?」 「お前に質問する事は許していない。…この世界の最高神を殺した仲間だろう?」  シンは質問にそう返し、更に質問する。 「…何故それを神でもない貴様が知っているっ!?」 「質問する事を許していないと告げた筈だが??」  魔力の圧を掛け、シンはもう1度脅す様に告げた。 「…そうだ。だったら殺すのか?」  すると、脅しに負けたのか目の前の存在は答えた。 (惑星(ほし)の教科書(あるきかた)にあった惑星の記録は間違ってはいなかったのか…)  シンはこの森入る前に手に入れた情報と密かに照らし合わせる。 「いや?お前の生死に興味は無いな」  照らし合わせてからシンはそう告げた。 「…逃がすつもりは無いんだろう?」 「そうだな」  シンは自身が今まで作り出した能力に使えそうな物が無いかを考える。アイが能力を磨いている間の1年を、彼は様々な能力を創る事に時間を費やしていた。  そして…その中に使えそうな能力がある事を思い出した。  "眷属契約"と言う能力で、この能力は誰かと誰かの間に主従契約を結ばせる能力だ。  従者は主を裏切れないが、主は従者を裏切る事が出来てしまうし、強制的に従わせる事も出来る。  …因みに、レイとシンが結んでいるのはこの契約ではない、 「今から私が行うことを受け入れるのなら…生かしておいてやる」  シンは目の前の人型に告げた。 「…何をすれば良い?」 「私が良いと言ったら真名を告げろ。…嘘は付くなよ?」 「…わかっている」  その人型の返事を聞き、シンは手をその縛り上げられている人型に向ける。 「良いぞ」 「我が名はガリューレンだ」  その言葉と共にシンとの眷属契約は結ばれた。結ばれたと確認した彼は目の前の人型に逃げない様にと指示を出して、レイの元へと向かった。  一方、レイはレイで一方的だった。シンの様に魔法などは殆ど使っていなかったが、自身の持てる身体能力と体術で圧殺してしまっていた。  戦闘能力だけで言えば、シンよりも格段に強力だ。 「貴女はいったい何者なのですか…」  レイの目の前の人型はどう足掻いても勝てないと知り、地べたに座り込んでしまっていた。 「さあ?何者でしょう?」 「・・・」  レイは逃がさぬ様に、自らの主が自身の元に来るのを待っていた。 「流石レイだな」  それから少し、シンはレイの元へとやって来た。 「彼女はどうしますか?」  レイはシンに目の前の人型について訊ねた。 「生かしても殺してもどっちでも良い。…レイは彼女が欲しかったりしないか?」 「…いえ?特には。ただ…私の召使いが居ると楽だろうなとは思いますが…」  レイは召使いと言ったが、実際はただ単にこき使いたいだけである。 「…なら、目の前の彼女と"眷属契約"を結んでみるか?」 「…また主は面白そうな能力を創ったのですね」  レイはそんなシンに呆れ半分な目を向けてそう言った。 「ああ。…で?」 「食べ物を与えなくても死なないでしょうし…その案に乗らせて頂きます」  仮にも神と呼ばれる様な存在、世話をするのに手間は掛からないだろう。  レイはそうシンに告げて、目の前の人型‐ガウリエル‐と眷属契約を結ぶのだった。
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