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第零部‐シンと言う存在。

「お前なんてっ!!」 「何で裏切った!?」 「何故あいつを殺したっ!?」 「世界を守る為に戦ったのに…」 「俺が守ってやる」 「僕だって普通に生きたかった」 「貴女を愛していたのに…」 「私は何のために?」 「裏切られた」 「守った意味は?」 「こいつだけは俺が殺す」 「…結局道化師を演じてただけだった」 「結局、守ったんじゃなくて敵を殺しただけ」 「…護りたかった」 「護れなかった…」 「救いたかった」 「救えない」 「…幸せだった?」 「…はっ!? …はあ…はあ…はあ…はあ…んぐっ…」 (今のは…何だ??)  シンは荒い息を吐きながら、今見た夢について考える。 (…死ぬ夢? いや、違う。いや…でも…)  まとまらない思考を回転させて、何の夢だったかを考える。 (夢にしては…鮮明過ぎる)  人に殺される夢、人を守る夢、人に優しく看取られる夢、人を死して守った夢、愛する女に後ろから刺された夢、愛する女に救われて自身だけが生き延びる夢、自身の娘が殺される夢、自身の息子が処刑される夢、…などの様々な夢がシンの頭の中を駆け巡った。 (…記憶…なのか??)  自身の記憶では無い。けれども、少なくとも誰かの記憶であろう事を本能的にシンは理解した。 (1人じゃない…)  段々と落ち着いてきたシンは見た夢が1人の記憶では無い事を理解した。 (…私は誰だ?)  シンは今まで気付かなかった事実に気が付いてしまった。 (地球に暮らしていた事は覚えている。…じゃあ、私の本来の名は?)  そう、シンは彼本来の名前(・・)を知らなかった。 (…まさか)  そしてシン自身の存在の真実に近付きかける。 (いや…まだ決め付けるのは早い)  …が、根拠が無さ過ぎた為に、起きてから今までの思考を全て止めてしまった。 「mー1、何か、私が眠っている間に起こった事は?」  シンはレイからの伝言が有った場合は、メイドゴーレムのmー1に伝えているだろうと思い、そう訊ねた。 「いえ、何も有りません。ですが、レイ様が少し心配そうな顔をしてこちらに居らしていました」  ここはシンの私室である。そこに態々レイがお見舞いとして足を運んだ事になる。  …必要が無い事がわかっているのにも関わらず。 「…そうか、ありがとう」 (心配させてしまったな)  シンは横になっているベッドから起き上がった。それから少しだけ体を伸ばして1階のリビングルームへと向かった。  ☆☆ 「おはようございます、主。調子はいかがでしょうか?」  衣服を縫っていたレイはリビングルームに入って来たシンを見てそう告げる。 「ああ、大丈夫だ。…心配かけたみたいだな」 「…いえ、大丈夫であれば良いのです」  レイは少しだけシンの口調に違和感を感じたようだ。…それでも目の前に居るのが彼である事は疑う事の出来ない事実な為、心の中で首を傾げるだけに終わった。 「食事にしましょう。何かありますか?」 「じゃあ、少し軽い物にしてくれると助かる」 「…わかりました」  レイは食事についてを訊ねたが、それで返ってきたシンの言葉にまたしても心の中で首を傾げた。しかし、それでも今は起きたばかりだからと、あれこれ聞き出す前に料理を作る事にしたようだ。 「あ、レイ」 「何でしょう?」  シンはキッチンルームへと向かおうとしたレイを呼び止めた。 「アイは何処に居る?」 「外で素振りをしています」  シンはアイの事が気になっていたらしい。 「…少し手間になるかもしれないけど、私はアイの所に行ってくる。だから…」 「はい、食事が出来次第持って行きます」 「…態々ありがとう。助かる」  至れり尽くせりなレイに本気の感謝を告げて、シンはリビングルームから家の外へと出て行った。  "ひゅっ"と言う風切り音がしている。その音の主はアイだ。 「アイ、調子はどうだ?」  そんなアイに対して声を掛けたのは今さっき家から外へと出て来たシンだ。 「あっ!? シン兄っ!! シン兄こそ平気なのっ!?」  アイは振っていた短剣を止めてシンの方へ歩いた。 「ああ、心配したか?」 「そりゃもちろんっ! だって2日も眠りっぱなしだったんだよっ!?」  アイがそう告げた事により、始めてシンは2日も眠っていた事に気が付いた。 (レイも言ってくれれば良いのに…) 「悪かった。…で、どうなんだ?」  そんな事を内に思いつつアイにもう1度訊ねた。 「あ、うん! 本当に少しずつだけど腕が上がってる気がするっ!」 「それは良かった」  アイの答えにシンは満足そうな顔を浮かべた。 「…で、シン兄は僕に何か用でもあるの?」  そんなシンの顔を下から覗き込む様にアイは訊ねる。 「用が無いと駄目か? …2日も動いてなかったからな」  愛らしい金色の目で覗き込まれ、思わず金色の髪をクシャクシャにする様にシンはアイを撫でた。 「わわっ!? ちょっ!? 何するの!?」 「いや、悪い悪い。つい可愛くてな」  シンは正直に言った。 「むー…そう言われると怒るに怒れない…」  アイは困った様な顔をしてそうボヤいた。 「そう言えば、朝食は食べたのか?」  シンはそんなボヤいたアイに対して思い付いた様にそう言った。 「え? あ、うん。もう食べちゃったよ」  アイは戸惑ったようにそう返した。 「いや、なら良いんだ」  シンはレイ達に気を遣われているかもしれないと思ったからだ。 「少しだけここでのんびりしてるから、気にしないで続けて」  シンは更にそう言ってその場に土の椅子を作り出し、その椅子に深く腰掛けた。 「んーー、わかった」  少しアイは悩む様な顔をしたが、"まあいっか"と思い、そのまま手に持っていた短剣を握り直した。  そして、シンから離れて短剣を再度振り始めた。 ☆☆  それからシンがのんびりとしながらアイの動きを見ていると… 「主、料理が出来ました」  レイが座っている彼の隣に現れた。 「ありがとう」  シンがそうお礼を言うと、自身の椅子に見合った高さのテーブルが瞬く間に出来上がった。  土では無く、木によって作られているようで、それを作ったのはもちろんレイだ。  それから自ら作り出した机の上に料理を並べた。…並べるとは言っても小さな柔らかなパン2つに野菜スープのみだったが…。 「…あれ?パンに乗せるものは?」 「そのまま食べられるようになっています」  シンがそう言うとレイがそう返した。それを聞いた彼はパンを1つ小さくちぎって口の中に入れた。 「あ、美味しい…」  そのパンはパン本来の味が出ていて、味付け等無くても十二分に食べられる物だった。 「それは良かったです」 「…本当に、レイが居てくれて助かってる」  シンは今回の件と言い、今までと言い、レイに感謝しかなかった。 「…どうしました? 急に?」 「いや…、1人だと色々面倒だっただろうなって」 「…そうですか」  レイはそんな事を言うシンにそう返すだけに留まった。それと同時にやはり何かが可笑しいと自身の主に対して思っていた。 「…主、眠っている間に何があったのですか?」  そして、とうとうその疑問を口に出してしまった。 「まあ…レイだからわかるか」  シンは別に驚きもしなかった。 「ええ、口調が少し変わっていますよ?」 「…本当か?」 「今もです」 「そう…か」  自身の口調が変わっていると、レイに告げられたシンは、自身の夢についての仮説が正しいかもしれない事実に頭を抱えそうになった。  誰かの記憶だと思われる夢を見た。また、自身の名前が完全に抜け落ちている事に気が付いてしまったシンは、夢で見た物も全て自分だったのでは無いか?と仮説を立てていた。  名前は自身の存在を現す為のものである。…それが抜け落ちている。そして夢で見た誰かの記憶も…実は思い出しただけかもしれない…と。  そして極めつけがレイがシンに口調が変わっていると告げた事だ。これが自分の記憶で無いのなら自身にそこまで変化をもたらさなかっただろうとシンは考えている。…つまり、逆説的に自分の記憶であると考えているのだ。  ーーー何かが欠けて何かが補われている。 「主、話したくない事であれば…」 「…そうだな。もう少し自身が落ち着くまで待ってくれ」  シンは流石に今の動揺している状態では、上手く説明出来ないと判断したらしい。…だからと言って、"私は誰なんだ?"や"受け入れられない"などと言うつもりは毛頭も無かった。  只只、"これが私か"とシンは思うだけである。 「でしたら、冷めないうちにお食べください」 「…そうだな」  そうしてレイに勧められた通りに、シンは前に並んでいる食事に手を伸ばすのだった。  それから食事を終えたシンは、隣に座っているレイと共にティータイムと呼べそうな時間を、アイの練習風景を見ながら楽しんでいた。 「主、アイの動きをどう思いますか?」 「…技能のおかげか、当然素人には見えないな」  レイの質問に率直な感想を述べるシン。 「随分と頑張ってますよ」  レイはこの2日間のアイの頑張りを褒める。 「…レイと試合をした事は?」 「朝に1回と、夜に1回ですね」 「なるほど、練習前と練習後か」 「はい」 「外に連れ出したりは?」 「はい、もちろん。…今日はしてませんが…」 「まあ…それは仕方ないな」  シンは原因が自分なだけに少し申し訳なく思ってしまう。 「主…追加を足しましょうか?」  レイはシンのカップに入っていたお茶が無くなったのを見てそう聞く。 「あ、貰おう」 「では…」  トポトポと急須からお茶が注がれた。 「…ありがとう」  そうして、シンは注がれたばかりの暖かなお茶に口を付けて、目を細めた。  この日、シンとレイはこの場から動かずに只只アイの練習風景を見ていた。  そうして時間になると、レイの代わりにシンがアイの試合相手となり、それが終わり次第、3人は共に家の中へと戻るのだった。  それから1ヶ月が経ち、シン達は"幻魔の森"の深部に入った。本格的にアイを鍛える事になったのだった。
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