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第零部‐シンの体調不良とアイの与えられた能力。

 翌朝になり、シンは自身の部屋から起き出してきたようだ。 「つー…」  シンの顔には疲労の色が色濃く出ていた。  その訳は、昨日の夜、アイが眠らされている間に、今後、アイをどの様に育てるか…という事をレイと眠る時間を削ってまで話し合っていたから。…という事と、それによって準備しなくてはならなくなった事を、ギリギリ徹夜になる寸前まで行っていたからだ。  アイは只のエルフであり、人の範疇に留まっている。それでもシンやレイは、アイを自身らと同じ存在まで引き上げようとしていた。  最低でも戦闘で、彼らの足が引っ張られない段階までは育て上げたいと考えていた。  そこでレイとシンが幾つかの案を出し合い、アイを"隠密者"として育て上げる事に決まったようだ。  只のエルフであるアイに明らかに人外な力を求めるのは間違っている。  さらに言えば、只のエルフであるアイにワイバーンやドラゴン等の圧倒的な大きさを持っている幻獣や獣の攻撃が当たりでもしたら…恐らく良くても大怪我を負ってしまうだろう。  ならば、始めから当たらなければ良いじゃないか。ならば、相手に悟られること無く殺してしまえば良いじゃないか。…という考えが基盤になりその方向性でアイを育てて行く事になったのだった。 ☆ 「…おはよう、レイ」  ダイニングルームの扉を開け、ダイニングルームに繋がるキッチンルームで、朝食の準備をしているレイの姿を見て声を掛ける。 「おはようございます、主。昨日に話したアイに与える能力の件はどうなりましたか?」  レイは挨拶を交わし、自身が気になっていた事を訊ねた。 「うー…まあ、一応形になってるよ。…私には向かなさそうな能力だから、そのままアイに渡すだけにするけど…」  シンはアイに渡すべき能力を創り出す事に成功した。だが、それは彼にはあまり必要に思えない能力な為に自身では鍛えようとする気は無いようだ。 「…確かに、私達にはあまりに必要には思えませんね」  それはレイも同じ様だった。 「そうそう、だからあんまり…って感じ」 「…随分と疲れていますね」  シンの疲れた表情があまりにも色濃く出ていたが為に、レイは思わず会話をぶった切る様にそう言った。 「ああ…わかるかい?」 「…何かありましたか?」  レイもそう言われては、何かシンの能力に不具合があった事を察する事が出来た。 「いや…うん。…まあ、レイだから話しても良いかな? …まだ、何でこうなってるかの確証を得た訳では無いんだけどね」  まだシンも自身の状態に確証がある訳では無い。 「それでも構いません。何かが有った場合にそれを参考にして対応させて頂きます」  それでも、万が一に何かがあった時に対応し易くなる可能性があるのは確実だった。  …少なくとも聞いたことがマイナスになる事は有り得なかった。 「…わかった。…私の調子が悪いのは能力を創ったせい…だと思う」  シンはレイにそう告げた。…まだ予想の範囲を超えていないが様だが…。 「…能力を? 今までも創って与えて来ましたよね?」  レイの言う通りで、今まで何度も何度も能力を創造してきている。そんな中でこんな風にシンが調子を崩すのは初めてだった。 「だからだよ、予想だって言ったのは。…でもそれ以外に心当たりが無いから」 「…そう…ですか」  レイは昨日、お互いに提案しあったアイに与える能力の数々を思い出し、シンが能力を一辺に創り過ぎたせいではないかと思い言葉を詰まらせた。 「だから、ダンジョンに潜る前に色々とアイに狩らせる予定だったけど…レイに任せても良いかな? …多分、今日明日辺りには調子も戻っているだろうから」  シンはそんなレイを気にも止めずにそうお願いをした。…正確には彼女のその心境に反応をしてやれる程、体調面に余裕が無いのかもしれない。 「承知しました。…その能力をアイに与える事は出来ますか?」  もちろん、そんな状態のシンのお願いを払い退けられる筈も無く了承する。それからレイはアイの事柄を、彼が休んでいる間に少し進めてしまおうと考えていた。  本来ならここで体調の悪そうなシンに付きっ切りになっても可笑しくは無いが、彼が大丈夫だと告げた以上はレイもその方向性で動く。本当に死にかけていたら、彼は大人しく彼女に助けを求めるであろう事を理解しているからだ。 「ああ、だから…アイが目覚めたら、暫くは休ませてもらうよ」 「わかりました。では、朝食をお出しします。食べにくい等の物があれば言っていただければ作り直します」  それでもレイはシンを蔑ろにする訳では無いのだ。 「…流石に、そこまではしなくて良い。ただ…少し量は少なめにして貰えると助かるかも」  シンもそんなレイにそこまではしなくて良いと言った。…食欲があまり無いのも事実だったが…。 「ではその様に…。主は椅子に座ってゆったりとしていてください」 「ありがとう」  シンはダイニングルームの自身の椅子へと深く腰を掛けて、レイが朝食を作るのを待つ事となった。 ☆☆ 「ん…んう…」  地下の研究室でアイが目覚めた。 (…本当に不老不死になったの??)  アイはそう思いながらも、横になったまま手を握ったり広げたりしてみる。…感覚は変わらない様だ。  それから上体を起こして、自身が居る部屋の中をぐるりと見回そうとする… 「アイ様、お目覚めですか?」  メイドゴーレムm-1がアイが目覚めた事を感知して、彼女に確認した。 「あ、うん。おはよう」(このゴーレム、前にもお世話になったのと同じだよね??)  アイはそう返事をしながら、そんな事を考える。 「アイ様、こちらを…」  mー1はそんなアイに、コップ1杯の液体を差し出した。 「…これは?」 「水です。…喉が乾いている筈ですが?」  アイの問いに答えるmー1。シンに与えられた知識通りに動いているだけである。 「…うん、喉乾いてる。貰うね」  アイはmー1に差し出された水を受け取り口を付けた。それは少し冷えただけの水で、キンキンに冷えたという程の物ではなかった。  長らく眠っていたアイに対しての配慮だと思われる。 「ぷは…」  アイは全てを飲み干した様だ。 「ねえ、シン兄の所まで案内して欲しいんだけど…」  それから、そう告げるアイ。 「わかりました。今すぐにマスターの元へと連れて行って差し上げます」  mー1は丁寧な言葉とは裏腹に、いかにもゴーレムらしい身体で台の上に座っていたアイを持ち上げようとした。 「え? ちょっ!? 平気だよっ!? 歩けるよっ!?」  アイがお願いしたかったのはシンの居る場所への案内である。 「…すみません。出過ぎた真似を致しました。では…私が先導致しますので後ろをついて来てください」  ゴーレムは頑丈そうな身体で、少し会釈をしてそう告げた。アイはそんなmー1の後を大人しくついて行く事になったのだった。 「こちらにいらっしゃいます」  mー1は1階のリビングルームの扉の前で立ち止まり、そう告げた。 「…mー1は部屋に入らないの?」  mー1が扉の端に退き、アイにだけ部屋に入る様に促した為、アイは思わず訊ねた。 「はい? …私はゴーレムです」 「? 一緒に入ろうよ」  どうやら、mー1のあまりにの人間じみた対応がアイに対して何かの誤解を招いているようだ。 「…アイ様のご命令とあれば」  アイの一言をmー1は命令として受け取ったようだ。 (命令じゃないんだけどなー??)  そんな事を思いつつも気にしても仕方が無いかと見切りを付け、アイは目の前の扉を開けた。 「おはよう、アイ」 「おはようございます。アイ」  リビングルームのソファーの上でゆったりと座っているシンとレイが、入って来たアイにそう言う。 「おはよー。シン兄、レイ姉」  アイも挨拶を交わして、部屋にmー1と共に入って来たのだった。 「…レイ、始めてしまおうか」 「ええ。アイ、主の隣に座りなさい」 「え?…良いけど、何を??」  アイが起き出すのを待っていたシンとレイは、さっさと彼女に対しての用事を済ませてしまう心積りのようだ。 「それは終わってから説明致します」 「…わかった」  そう言うレイにこれ以上聞いても意味は無いだろうと思って大人しくシンの隣に座った。すると、入れ替わる様に彼はソファーから立ち上がってしまった。 「?」  そんなシンの行動に完全なハテナマークを浮かべるアイ。  そんなアイに対して、体面を守りながら、体調が悪いのがアイバレない様にシンは口を開いた。 「アイ、今から君には恐ろしい能力や技能の数々を与えよう。明日明後日とレイがその能力の使い方を共に考えてくれるから…わからなかったらレイに聞くように」  アイに向かい合ったまま、シンは彼女の頭に手を翳す。 「能力譲渡  "存在遮断Lv.1"  "痕跡抹消Lv.1"  "隠蔽・全Lv.1"  "認識阻害Lv.1"  "感知Lv.1"  "探知Lv.1"  "察知Lv.1"  "背景同化Lv.1"  "真偽の魔眼"  "隠密Lv.1"  "短剣術Lv.1"  "短刀術Lv.1"  …終わった」  そうして、昨日、シンがアイに与える為に創り出したスキルを全て与え終えた。そんな彼の顔には疲労が色濃く出ていた。体面が保てなかった様だ。 「ちょっ…!?シン兄っ!?」  アイはそんなシンを見て焦る。 「…あー…大丈夫だ。少し体調が悪いだけだから」  そうは言うが、全然そうは見えなかった。 「主、後は私にお任せ下さい」  レイは自身にのみ行える事を終えたシンに、早く休息を取らせようとそう告げる。 「わかった、任せるよ。mー1、私の面倒を見てくれ」 「承知しました。マスター」  それから、シンはリビングルームをmー1と共に出て行ってしまった。 「…レイ姉?」 「アイは気にしなくても大丈夫です。昨日夜遅くまで起きていたせいで体調を崩してしまっただけですから」  最もらしい理由を付けて、レイはアイに説明した。 「そうなんだ。…わかった。じゃあ、さっきのシン兄の言ってた事は何?」  アイは納得出来てはいなかったが、レイにそこまで言われてしまった為に話題を変えた。 「主の能力の1つで、アイに能力を与えたのです」  レイは先程のシンと同じ事を口にした。 「…それはさっき言ってたけど…、…どうやって使うの?」 「それは…、…転移します」  首を傾げるアイの肩を掴み、レイは唐突にシンが作り出した"ヘブンズガーデン"から"幻魔の森"の中に転移した。 「…??」  アイは突然の転移に首を傾げるしかなかった。 「この地で、私と共にその能力を特訓して貰います」  レイはアイが能力を使いこなせる様に特訓するつもりだ。シンの体調が治るまでは少なくともレイが彼女に掛り切りになるだろう。 「…わかった。ここで使い方を知るんだね?」 「はい」  アイもレイの言っている意味が理解出来たようだ。  それから1つ1つの能力の詳細をレイはアイに説明していき、彼女が発動させられなかった能力は、発動方法を彼女と共に考えていった。  1つめは"存在遮断"、これは自身の存在を外界から遮断して自身の存在を相手に気取らせない様にする能力。  アイは自分が世界から切り取られる様なイメージを描いたら発動する事が出来た様だ。  2つめは"痕跡抹消"、これは名前の通り何らかの痕跡を消す能力だ。  アイは地面に足跡を付けて、それを能力で消せる様に練習を繰り返した。  3つめは"隠蔽・全"、これは何でもかんでも隠蔽する能力だ。  アイは自身の身を隠す事で最初の発動イメージを理解した様だ。  4つめは"認識阻害"、これは名前の通り誰かの認識を阻害する能力。  アイがレイに対して"見ないでっ!!"という具合のイメージを強く持った所、レイの視界にアイの顔が認識出来なくなった様だ。  5つめは"感知"、これは5感によって自身の周りの物を細かく捉える能力。  アイは耳を澄ましたり、目に力を入れたり、花で外気の匂いを嗅いだりして発動させる事が出来た様だ。  因みに、シンやレイが持っている"気配感知"は"この能力の下位互換で、生き物や動いている物しか感知する事が出来ない。  6つめは"探知"、これは自身の周りの地形や動物等を頭の中にソナーの様な感じの図で知る事が出来る能力。  アイはレイにより起こされた風の波を見て、発動方法を理解した様だ。  7つめは"察知"、これは唐突に何かに気が付く能力だ。  アイはレイとかくれんぼをして、おおよそのイメージを掴んだ。  因みにユウが持っている"気配察知"はこの能力の下位互換で、動物が近付いた時しか効果を発揮しない。  8つめは"背景同化"、これは背景に同化する能力。  アイは自身を背景に溶かす様なイメージで成功させた。  9つめは"真偽の魔眼"、これは真実か嘘かを見抜く能力。  アイはレイに真実と嘘を発言してもらい、それを見抜くという実験を行った。  10こめは"隠密"、これは人に気が付かれないようにこっそりと忍び寄ったりする技能。  アイはレイとのかくれんぼで何となく忍び寄る為の動きを理解し、出来る様になった様だ。  11こめは"短剣術"、これは名前の通り短剣を振るう為の技能。  アイは技能のおかげで素人よりは良い剣筋で振るう事が出来た。これからはレイと要特訓である。  12こめは"短刀術"、これは名前の通り短刀を振るう技能。  短剣術との違いは振り方である。簡単に言えば、刀は滑らすように切り付けるが剣は叩き付けるように切り付ける事である。  アイは短剣術同様、技能のおかげで素人より太刀筋は良かった。これもレイと要特訓が必要な様だ。  そうやって森の中で能力や技能の確認をレイとアイがしていると、辺りが暗くなってきてしまった。 「そろそろ暗くなって来ました。今日はここまでとしましょう」  レイは辺りを見回してから短剣を素振りしていたアイにそう告げる。 「うん、わかった」  アイが振っていたのは"謎の黒武器"から生み出された短剣で、レイから渡された物だ。  アイは持ち手をレイに向け、短剣をレイに渡した。 「…では、帰りましょう」  その短剣を受け取り、レイはアイを連れて"ヘブンズガーデン"へと転移した。
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