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第零部‐幻魔の森へと到着。そして、アイは仲間となる。

 馬車を走らせてから約3時間、レイとアイ、それから眠ったままのシンは"幻魔の森"と呼ばれる森の目前までたどり着いていた。  幻魔の森とは、シンが向かおうとしているダンジョンの四方八方を取り囲んでいる広大な森林地帯である。  森自体が人の入る事の出来ない秘境であり、その中心部にある"始まりダンジョン"の存在を知っている者は殆ど存在しない。  それは、秘境と呼ばれるからにはそれに似つかわしいだけの強力な魔物ばかりが住み着いていて、人の侵入を拒んでいるからである。 「…結局、シン兄、起きなかったね」  馬車の中で、ずっと眠りっぱなしだったシンを見てアイがそう言う。 「1度起きましたよ?」  そんなアイに対してレイはそう教える。  実はシン、レイに気絶させられてから1度目を覚ましたのだが、眠いからとそのまま二度寝をしたのだ。  起きた際に、レイに色々と任せる事を念話で伝えた上で…。 「うえ!? …本当?」  当然、気が付かなかったその事実にアイは驚いた。 「ええ、その際に色々と任せられました。さて、アイ、到着した様ですから降りましょうか」 「え、あ、うん」  レイの提案に少し詰まりながらも頷いた上で、彼女と共にアイは馬車から降りた。 「あちらが、これから私達が向かおうとしているダンジョンが存在している幻魔の森です」  レイが降りてすぐに、目の前に広がる広大な森林を示してアイに説明した。 「……僕、生き残れるかな?」  なまじエルフであるアイはその広大な森林の雰囲気を感じ取り、少し足がすくんでしまっていた。 「大丈夫ですよ。私達がしっかりと守りますから」  そうは言うレイだったが、当然、今のアイの‐守られるだけの‐状態をずっと続ける気は無かった。 「さて、降りたばかりですが。主を起こして来てもらえますか?」  レイはせっかく馬車から降りたにも関わらず、アイに馬車の中に戻ってシンを起こしてくるように告げた。 「あ、うん。…起こすんだね?」  さっき任されたと言っていたのにも関わらず、レイがその主張を逆転させた様な事を言った為、アイはもう一度聞き直す。 「はい」 「わかった」  レイのもう一度の肯定を聞き、アイは馬車の中へと入って行った。  レイがここでアイにシンを起こしてくるように告げたのは、もし何かがあった場合に、彼がアイの周りに居る事さえ出来れば、絶対に守り切る事が出来ると判断したからだ。  顔に出てはいないレイだったが、幻魔の森をそれなりに危険な森だと判断したようだ。  無駄な意地は張らないに限る。不慮な事故など、起こす訳にはいかないから。  アイが馬車へと入って行った事を確認したレイは、その場にテントを張り始めたのだった。  ☆  一方、馬車の中へと入ったアイ。 「シン兄起きてっ!着いたよっ!」  そうシンの側で小さく叫ぶ。しかし、彼は起きなかった。  そんなシンに対して、アイは起こす為に強硬手段を使った。全体重を掛けた彼へのダイブである。 「ぐっ!? ………あ、アイか?」  なんだなんだと驚きながらも眠っていた自身の腹の上に乗っかったモノを見て、シンはそれがアイだと認識した。 「シン兄起きてーーー、着いたってレイ姉が言ってたよ?」  シン兄が目覚めた事を理解しながらも、そのまま腹の上に乗っかり足をパタパタさせながらアイはそう続けた。 「…そうか、着いたのか」  シンはそう呟き、アイの綺麗な金色の髪を撫で、更に彼女を自身の腹の上から退かして起き上がった。  それと同時に寝起きの思考もクリアになって行き、レイに任せたのにも関わらず自分が起こされたのは何故だろうかと考えた。そしてすぐに、自身らが到着した目の前の森が危険であるからだと理解した。 「アイはユウの所に行っててくれる?」  ユニコーンのユウならば、何かがあってもアイを守れるだろうと判断して彼女にそう指示する。 「うん!わかった」  アイはそんなシンの言葉を疑う事無く、そう返事をして馬車伝いにユウの背中へと乗った。  それを見たシンは"少し近辺調査をしようかな…"と思い、馬車から飛び降りるのだった。  ☆ 『アイ?どうした?』  そんな中、突然背中に乗られたユウはアイに訊ねる。 「シン兄がユウの所に行けってさ」 『そうかそうか、お主は私の背中に乗って待っていろと言う事か』  ユウはアイの言葉を聞いて、理由をすぐに理解したようだ。 「どうして?」 『この森が危ないからだろう。私に子守を頼んだと言うところじゃないか?』  アイの疑問にユウはそう答える。 「…ねえ、僕はいつになったら守られなくなるかな?」  実はアイ自身も守られて甘やかされてばかりの自分は少し嫌だった。だからする必要も無さそうな弓の練習を合間を縫って行ったりしていたのだ。  そんな中での、少しの心情を零した様な言葉だった。 『お主が彼らよりも強くならなければ無理ではないか?』  ユウが言うほどでは無いが、少なくともシンやレイが心の底から後ろを任せても大丈夫だとアイに思わない限りは彼女を守る事を止めないだろう。  シンやレイもまだ出会って数日でしかないアイが兄弟の様に慕ってくるせいも相まって、見殺しには出来なくなってしまっているのだから…。 「・・・・・・」  ユウにそう告げられて黙り込むしかないアイ。 『はっはっはっ! 私でも無理な話だろうにアイにそれが出来るのか?』  そんな黙りこくってしまったアイに、更に面白そうにそう念話で告げるユウ。 『そもそもだが、シンやレイは自身の生き方をお主に押し付けているだけだぞ? 彼らがやりたい様にやっている中にアイを守ろうとする意志があるだけだ。…そこまで深刻に考える必要があるとは思えないがな』  ユウは今までのシンやレイとアイのやり取りを一番近くで客観的に見ていた1人であり、だからこそ、そんな事が言えた。 「…それは、…うん、わかってる。…でもさ、それでも強くなりたいかなー…って」  ユウの言葉をそのまま受け取ったアイは、"確かにそうだな"と今までの生活で思う反面、それとは関係なく"そう考える自分"が居る事を理解した。  それはシンやレイに結果的に救われた事への感謝を。ほんの少しだけ含んだモノだった。 「おーいっ! 準備が終わったよっ!」  近辺の調査を終えたシンがそう言い、その隣にレイが居る光景がアイの視界に写り込んだ。 『了解した。主』『ほれ、お主も行くぞ』  シンとアイ、別々に念話を飛ばしたユウは、シンにより与えられた自身専用のアイテムボックスに馬車を仕舞った。 「うん」  そんなアイの返事を聞いて、シンの元へと彼女を乗せたまま向かうのだった。  それからシン、レイ、アイ、ユウの4者はシンが天地創造をした"ヘブンズガーデン"へと戻り一夜を明かした。  ☆☆☆☆☆☆☆ 「くあっ…‥・」  翌朝の時刻になりシンは目を覚ました。それなりに眠そうな顔をしている。  シンはそのまま自身のベッドから転がり出て、階段を降り、ダイニングルームの扉を開けた。  アイが仲間に増えてから、シンの"ヘブンズガーデン"の中にそびえ立つ一軒家は増設されていた。 「おはようございます。主」  そんな彼を見ていつも通りに挨拶をするレイ。 「おはよー! シン兄!」  年相応のはしゃぎ方をしながらも彼に抱き着こうとタックルをしようとするアイ。  …アイはシンやレイに慣れてからというもの、本当に遠慮が無くなったと言うか甘えん坊になったと言うか…。 「おはよう、レイ」  アイを躱し、レイと挨拶を交わすシン。躱された彼女はその勢いのまま"ガツン!?"と良い音を立てて壁へとぶつかった。 「避けないでよ…シン兄…」  涙目になりながらシンに対してそう言うアイ。 「主、今日の朝食はフレンチトーストになります」  そんなアイをレイは完全に無視し、 「お、美味しそうだね。もう皆は食べたの?」  シンもそれに乗っかる様に無視をした。 「いいえ、主が起きるのを待っていました」  実はシンはいつもよりも少し起きる時間が遅かったのだが、それでもレイとアイは彼を待っていてくれたらしい。 「そっか。…じゃあ、食べようか」  そんなレイ達の気遣いを嬉しく思い、思わず優しい声音になってシンはそう言った。 「はい。……アイ、そこで拗ねていないでさっさとこちらへと来て下さい」  壁にぶつかった事をレイとシンの無視されて拗ねていたアイに、レイはそう告げると同時にアイの頭を鷲掴みにし持ち上げて、強引に椅子へと座らせてしまうのだった。…完全な力技だった。  そんなレイ達を横目で見つつも、シンは自身の椅子へと座る。  レイはアイを座らせた後に焼きあがったフレンチトーストや、それに乗せる果物などの様々な物をテーブルに並べ、それから自身の席へと着いた。  そうして、朝食の時間が始まったのだった。  シンは今日から"幻魔の森"でアイを鍛えようと考えていた。これは彼とレイの間で共通の認識で、勿論、彼女もアイを鍛える事に賛成だった。  そんな考えもあり、食事を終えて少し時間が経ってからシンはとある提案をしようとしていた。  かなり重要な話な為、シンはアイとしっかりと向かい合い、彼女に少しばかりの魔圧‐魔力の圧‐を掛けて緊張感を無理矢理出させた。 「アイ、落ち着いて聞いてね。アイにはここで"不老不死になる為の薬"を飲むかどうかを決めて貰う。この薬を飲むと半日以上の痛みに襲われてしまうから、アイがこの薬を飲むと決めた場合は無理矢理にでも眠らせなければならない。それから…既にレイが説明しているだろうとは思うからあまり深くは言わないけれど、これは後戻りが出来ない。「それでも、貴方()はこの薬を飲みますか(むかい)?」」  最後だけ、まるで台詞を取る様にレイはシンに合わせてアイに続けた。  半日以上の痛みと言うのは、レイもその薬を吸収する際に経験した痛みである。彼女の場合はあまりの痛みに耐えられず、半日が経つ前に気絶をしてしまったようだ。 「飲みます」  アイのその返事は迷いと濁りの無いものだった。 「これを飲む。…と言う事はこの世界の住人に戻れないと言う事だよ?」  "不老不死になる為の薬"をアイが飲んだ以上、シンは絶対にどんな場所へも連れて行くだろう。彼の職業は前に語られた通り、"世界の旅人"なのだから…。 「それでも、僕は飲みたい。シン兄やレイ姉と離れたくない。…少しの間だけど、一緒にいて楽しかった。…温かかった。だから一緒に居たい。…ずっとここに居たい」  アイは自身の想いを言葉に乗せて告げる。 「本当にその選択に悔いはありませんね? …アイリス?」  更にもう一度、レイが問い掛ける。 「ない。ずっとレイ姉達とここに居る」  その問い掛けに、アイは先と同じ様に迷い無く答える。  それを聞いたレイからは、竜等の幻獣の類すらも震え上がらせてしまうような濃密な威圧が放たれた。…まるで、こっちに来るなと言わんばかりに…。 「・・・」 「・・・」 「・・・」  三者とも完全に黙り込み、静寂の時が続いた。 「ふう…、わかりました。主、今から地下の研究室に行きましょう」  やがて、静寂の時を破る様に、レイはシンにそう告げるのだった。  ☆☆ 「…怖い?」  いかにも実験をしてますと言えそうな研究室にアイを連れて来たシンは、唐突に彼女に訊ねた。 「怖…くない」  いかにも不気味な雰囲気のする部屋を見て、アイは痩せ我慢をしつつもそう答える。  地下の研究室は本来、シンが自身やレイの能力や、身体の造りを調べる為に作られたものであり、当然、多少危険な実験も行ったことがある場所だ。  …腕を切り落としたり…とか。  そんな、少しバイオレンスな雰囲気を醸し出し出している研究室に対して、アイが少したじろぐのは仕方の無い事であった。  …が、アイが痩せ我慢をしているのは何もそれだけが原因ではなかった。  これから自身が不老不死‐簡単に言ってしまえば自身が知っている伝記や神話に極一分現れるような存在と同じ‐になる事に対して恐れを抱いているのだ。 「いい?アイよく聞いてね?これからアイは不老不死になる。これから何億と長い月日を存在し続けるだろう。でもね【存在する】という事と【生きる】という事をが全く違う物だと言うことを覚えといてほしい」  シンはそんなアイに対して、少しダラダラと長く口を開いた。 「…?…わかった」  アイはその意味がわからなかった様だ。 【生きる】事と【存在する】事は違う。不老不死というのは身体が朽ちなくなるというだけで、それは精神すらも朽ちないようにさせる訳では無い。  例えば、一つの惑星が一つの生命体だとしよう。  惑星という存在は人に比べて悠久に存在し続けるが、そこに基本的には自身の意思は存在しない。  だってそうだろう? 惑星が何かを好きになったりは基本的にしないのだから。  …まあ、その惑星の精霊に好かれることが"惑星がとある存在を好きになった"という考え方も存在するにはするが、今の所はそれは隅にどけておく。  そして更に、人と言う存在は、生まれ落ちて生を全うしようとすると、段々と生きる事が存在する事へと変わっていってしまうのだ。  簡単な例で言えば、人が歳を重ねると"感情が薄くなる"、"達観出来る様になる"、と言われるのは人が【生きる】事から【存在する】事に変わっていっているという事なのだ。  結局、シンがアイに対して伝えたかった事は"いつまでも自身の意思を持っていて欲しい"と言う事だった。  意味はわからず、少しだけキョトンとしているアイの頭を、シンは優しく撫でた。 「主、準備が整いました」  そんなシンにそう告げたのは、これから行う事の準備をしていたレイだった。  これから行う事に-本来レイは必要無いが-それでも少しだけ関わっていたかったのだそうだ。 「そっか、ありがとう。…レイ、アイを台の上に」 「…承知しました。アイ、こちらに…」  レイはシンの言葉を聞き、アイを自身の手の届く所に呼び寄せる。それから、小さな少女の体を持ち上げ、台の上に丁寧に寝かせた。 「…じゃあ、始めようか。チクリとするけど我慢してね」  シンはレイが用意した麻酔針を手に持ち、アイの腕にぷすりと刺した。 「ッツ!?…これって…何?」  アイは涙目になり、そう言った。 「大丈夫、すぐに眠くなるから」  シンがそう告げて、優しくあやしながら麻酔がアイの身体に回るのを待った。  やがて彼女の意識は落ち、"不老不死になる為の薬"を投与する為の準備が完全に整った様だ。 「レイ、呼吸の妨げにならない様にしてくれる?」 「はい」  シンの指示を受け、レイはアイの上体を持ち上げて更に顔を少し上に上げさせて液体が中に入る様に気管を確保する。 「じゃあ、…行くよ」  シンは手に持った薬の瓶の蓋を開け、ゆっくりと丁寧に開けられた、アイの口の中へと流し込んでいった。 「・・・」 「・・・」  シンとレイは共に、流し終えるまでの時間をかなり緊張していた様だ。 「はあ…、よし、終わった」 「…そうですね」  シンが流し終えたのを確認して大きく一息を吐き、レイもアイの上体を丁寧に寝かせて無意識に入っていた肩の力を抜いた。
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