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第零部‐エルフを保護。そして、無双する。

 シンやレイが"ヘブンズガーデン"に引き篭もってる間、彼が組み立てたテントの周辺はなかなかに騒がしくなっていた。 「ハァハァ…」(早く逃げないと…)  息を切らし、そう思いながらも歩いていたのはエルフだった。 「あのガキどこ行った!」 「捕まえろ!」 「捕まえりゃあ高く売れるぞ!」  金髪金目、身長は低く、耳は尖っている。まさに少女と呼べる体型の彼女を悪党共が捕らえようとする。 (やばい、逃げないと…)  自身の使える"風属性魔法"で、体を軽くし、足早に逃げようと詠唱を唱えようとした。 「ぐッ!?」  当然悪党とは言え、そんなスキを見逃す訳もなく、彼女の肩には1本の矢が突き立てられてしまった。 「あんまり傷つけんなよ?」 「分かってるって」  しめしめと近づいてくる悪党を見て、少女は痛む身体を我慢し、走り出した。…じっとしていては捕まってしまうから。  それから、しばらくの間を走り続けた。 (ああ…何処まで走ったのだろう?)  かなりの距離を少女は走っていた。 (まだ追いかけて来る…)  もう無理か…という絶望を感じる。 (もう…限界…、かな)  その思考を最後に彼女は壁に手を付けて寄りかかろうとした。…が、そこの壁は何故かすり抜け、そのまま地面へと倒れ込んでしまった。  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆  場面は一転して"ヘブンズガーデン"の1室へと…どうやらシンは、時計のアラームで目を覚ました様だ。それは片や剣と魔法の世界に居るとは思えない目の覚まし方であった。 (身支度もろくにせずに…夢中になってそのまま寝たんだった)  シンは昨日に自身が腕輪(ブレスレット)の改造をした事を思い出し、更にそれのお陰で眠る準備無く自身が眠ってしまった事にも気が付いた。 (うわぁ…少しべとべとする)  体の衛生面を思って内心に少し苦い顔を浮かべる。まずは風呂場へと行く事とした。  シンは1階に降りて風呂場に向かい、脱衣場の扉を開けた。 「主、おはようございます」  タオルを巻いた状態の、お風呂上がりのレイがシンの視界へと入り込んだ。 「おはよう、レイ」 (うん、何か少し気まずいね)  平然と返事をしたが、シンにも思う所はある様だ。 「…主、このシーンへの反応をしてくださいませんか?」  少しシンの反応に、少し不服に思ったレイは反応を要求する。 「反応するも何も…、うん、綺麗だよ?」  とは言え、シンは創った時に‐言い方は悪いが‐隅々まで見てるのである。見慣れた物であると言っても過言では無いかもしれない。 「主は不能っと」 「ちげーわ」  自身の主を煽る様に"不能"と言い、それに半ば反射的に否定を返すシンは服を脱ぎ捨てる。それから、それらをとあるバスケットにいれ、風呂場の扉を開けた。 「主、脱いだ服を回収して装備の方を置いてきますね?」 「あー…お願い」  そこらの気の利きようは"流石、メイド"とシンに思わせる物だった。  そうしてシンはシャワーヘッドからの温水を浴びて再度2階に上がった。改良したブレスレットを回収する為である。  そして、それを手に取るなり1階へと戻り、リビングのソファに座って、ブレスレットを弄りながらグッタリしていた。 「主、食事が出来ました」  そう言いながらレイは食事の乗ったお皿をテーブルに置き、ソファに座った。  レイは勿論-先程も若干言ったが-メイドとしての立ち振る舞いも出来る。それをやらないのはシン以外に他者が存在して居ないからで、シン自身もそれをされたら面倒だと思っている。  シンとレイだけの世界を固っ苦しくされても面倒なのだ。  レイがテーブルの上へと置いたものはサンドイッチだった。 「サンドイッチだよね?」  シンは自身の記憶にあるものと同じなのかを確かめる為に聞いた。 「はい、昼食と同じ物にして時間を短縮しました。残りはアイテムボックスの中に入れてあります」 「なるほどね、昼飯と同じか」  どうやら朝と昼は同じ食事になる様だ。…当然シンに不満などは無い。 「そう言えば…、レイはユウに食事を持って行ってくれた?」  サンドイッチを口にしてから、ユウに持って行ってない事に気が付いたシンはレイに訊ねる。 「はい」  そこら辺が抜けていないのは、自身の主とは正反対なレイだった。  シンが色々とやるべき事を忘れるのは、"自身のやりたい事"が何か1つの物事を行っている間に出来てしまうせいだ。一年前とは真逆な状態である。 「ありがとう、すっかり忘れてたよ」 「ええ、時間があったので行ってきました」  レイはシンの言葉にそう答えるが、今の時間は朝の5時半である。  …ふと考えてみると、シンはレイがいつも何時に起きてるのかを知らないことに気が付いた。 「レイは今日何時に起きたの?」  シンは気になって聞いた。 「今日は4時です」  それを聞いたシンは若干絶句気味になったのだとか…。  それから、シンとレイは黙々とレイが用意したサンドイッチを食べていた。皿の中身が無くなった頃には半時が経過していた。 「じゃあ、片付けは任せていいかな?」   食べ終わり、シンは出発の準備をしようとレイに頼み事を告げる。 「はい、主はテントの周りを見てきてください」 「了解、あっ、ちょっと待って」  シンはそれを聞いてテントの中へと転移しようとするが、その前にレイへと渡すべき物を渡していない事に気が付く、自身のポケットの中から腕輪を取り出した。 「これに追加した機能は、持った者同士だと会話ができる機能と、あとは転移の座標になる機能だよ。それと見た目も少し良くなった」  腕輪を取り出し、それらの説明をざっとしたシンはレイに突き出した。 「これを、私に?」(また無茶をしたのですか…) 「勿論、レイにも私の所へ直接転移出来るようになる」 「……わかりました。では、いってらっしゃいませ」  呆れ半分に話を切ったレイは何かを考えたが、大人しく腕輪を受け取り、若干にシンを急かした。  シンも急かされた事に気が付き、言われるがままにテントへと転移した。  ☆  転移した先のテントの中を見回すと…シンの視界には驚くべき物が目に入った。  …何とテントの中に血まみれの人型が倒れていたのだ。 (だいたい、背丈的に…まだ、子供の範囲かな?)  おおよそで倒れている人を理解し、更に"気配感知"でその子の気配が感知出来た事により、その子が生きている事を確認した。  気配感知とは、シンが創り出した能力の一つだ。もし、目の前の存在が死んでいるのなら、感知に引っかかりはしないだろう。 (金髪…?…それはいいや)  綺麗な髪だなとは思ったが、その思考の意味の無さから断ち切る。それからやっと、"真・鑑定"を使ってその子を調べる事にしたのだった。  ・名前 アイリス  ・種族 妖精人族(エルフ)  ・性別 ♀  ・年齢15  ・Lv.20  ・職業 弓士  ・スキル  弓術Lv.3  風属性魔法Lv.3  気配探知Lv.5 (あー、女の子だった、…触らなくて正解だった)  まず初めに思ったのがセクハラにならなくて良かったな、と言う事だった。  遠目から見た感じ意識は無いと思えたシンは寝ているものだと判断して、これらの事柄全てを丸投げするためレイの所に転移する。 「どうしたのですか、主?」  レイは突然現れたシンに少し驚きながらそう言った。当然だ、テントの片付けを終えるのには少し早過ぎるのだ。  そんなレイにシンはテントの中で見たモノを話した。 「ですが、主、私は光魔法も闇魔法も持ってませんよ?」  そう言うレイに、シンは創り出した回復薬を渡した。彼女に回復系の技能も能力も無いのは今の彼女の発言の通りだが、彼も創造魔法でいちいち創り出さなくてはいけない為、回復技能と呼べるかは怪しかったりする。 「こいつを傷口に塗ってきて」 「承知しました。では、食器の片付けはお願いしますね」  シンに言い残し、彼女は転移した。  シンが渡したのはそれなりに強力な回復薬だ。  ラフタと呼ばれる世界では"エリクサー"と呼ばれる恐ろしいとも思える類の回復薬ではあるが、レイがシンから詳細を聞き"それって中々に良い物なのでは?"と忠言するだけに終わったのだった。  シンは塗っとけば何とかなるだろうと、若干の投げやり気味であった。…人を治すことに詳しくないのだから仕方が無いと言えば仕方が無いが…。  レイが転移を終えると早速、彼女の視界にも血濡れの人型が目に入った。  シンの言ったことが本当だったのかと思いつつも、刺さっている矢を抜くなど、せっせと行動を始めていく。様々な部分が傷だらけな為、様々な所に受け取った回復薬を塗りたぐる。  やがて全てを塗り終えた彼女は、シンが何となしに手渡した回復薬の効果に舌を巻いた。もう既に傷口が塞がり始めているからだ。  まあ…エリクサーと名が付くくらいなのだからそれくらいの性能はあって叱るべきだとも思うが…。  ここで些細な問題が発生した。少量が残ってしまったのだ。  レイ自身少し迷いはしたものの、すぐに目の前の人型に回復薬を飲ませる事にした。  レイは倒れている人型の口を開け、気道を確保し、ゆっくりと流し込む。すると人型は光り始めた。 (おぉ、光ってます、すっごく…眩しいです…)  その光にそんな感想を抱いたレイ。 「んっ…」  光が収まり、人型の目が覚めたようだ。改めて彼女の外見を見ると金髪金目で長耳を持つエルフであった。身長は…低かった。 「目が覚めましたか? アイリスさん」  レイはシンから聞き及んだ名を口にし、少女に呼び掛けた。  そう呼び掛けると、アイリスと呼ばれた少女は飛び跳ね、警戒を露わにする。  言葉が通じるのは、これもまた、シンがその為の能力を既に創っているから…。 「あなたは!?」 「私はレムと名乗っています。貴方を見つけたのは主です」  レイはそんな少女を見てもいつも通りの反応だったが、ちゃっかりと彼女自身が見つけていないことも告げた。責任転嫁?にも聞こえる。 「…………何が目的なの?」  アイリスはレイから距離をとって警戒しながらそう問い訪ねる。 「さあ? 主には特に考えも無いと思いますよ?」  当然シンの考えがわかる訳ではないレイだったが、今回、彼が何も考えていない事くらいは理解していた。  あわよくば…と、彼が人と触れ合える事に期待をしている可能性は無くはないが…。 「信用できない」 「信用していただかなくても問題ありません。される必要も無いので」  当然アイリスは理解出来ない為に信用も出来ないが、レイからすれば、相手がどう思っていようが関係が無かった。 「貴方の選択肢は3つ、1つ、このまま私達を信用せずに出て行く。2つ、私達に甘え、保護対象になる事、その際は本当の名前を教える事は出来ません。3つ、私達の仲間になる事、ただし、こちらを選ぶ場合は、輪廻転生の輪から外れます」  そしてさっさとアイリスが取り得る事が可能な三択を突き付けた。  レイは仲間でも何でもない存在がテントの中に居ることが鬱陶しいのだ。 (流石に年端もいかない傷ついた彼女にとどめを刺すほど、主も心が死んではいなかったのでしょう)  そう内心では思いつつも、一思いに殺してあげるのも手だったのでは…とレイは思う。  一方、突然に突き付けられた三択に動揺するしかないアイリスは、頑張って落ち着こうとする。 「…レムって偽名なの?」  何とか絞り出す様に声を発し、アイリスは少しでも情報を集めようとする。 「はい」  そのレイの返答に、アイリスは"やっぱり…"と思う。 「じゃあ…、輪廻転生って?」  そこで止めずに次の質問をするアイリス。 「簡単に言うと死ぬことが無くなります。まあ、死なないだけですが」 「不死?」 「はい、ただし、勘違いしないでくださいね?どこかの吸血鬼等とは全く別物ですので」  どうやらレイも、アイリスの質問に答えてあげるくらいの心積もりは有る様だ。  吸血鬼などの話はこの世界でも有名な為、アイリスもレイが告げることを理解出来たが、不老不死という概念にはいまいちな理解だった。  また、輪廻転生とやらは惑星に付随する。彼らは死なないので必然的に外れる事となる。 「どのように、ですか?」  取り敢えず理解出来ない物は仕方が無いと、アイは話を進める。 「秘薬を飲んで頂きます」 「…信用出来ない」  流石にレイが告げる秘薬と言う言葉をアイリスが信じるのは無理があった様だ。至極当たり前な結果だ。 「信用して貰わなくて結構です。では、1の選択肢で良いですか? 正直2を選ばれると迷惑なので」  レイはそう告げて、1番自身らにとって楽な選択肢を選ばせようとする。 「駄目!」  アイリスは勢いを付けて拒否した。 「え、何ですか? 2なんですか? …嫌ですよ…」  半ば愚痴の様にそう告げるレイに、 「私が住んでた村は無くなった。帰る場所なんてないから…」  アイリスは弱った様にそう告げた。 「………では、選択肢は2つですね?」  それを聞いたレイは確認する為に問う。さっきまでの態度が少し崩れ始める。 「そう、私が帰る場所は無い、けれど貴方達を信じて良いか分から「はっきりと言わせて頂きます」」  更に言葉を続けようとしていたアイリスを遮ってしまったレイは、 「何も特別なスキルを持っていないただのエルフ如きに私達からすれば何の価値もありません、それに殺すんだったら殺してますし、実験に使うのであったら元魔法で手足を拘束すれば良いだけです」  そう告げてアイリスという存在が、自身らに意味が無い事を理解させようとする。アイリスの意見を聞く必要が無いと、そう理解した上で告げるのだった。 「でも、他の人族から見たら…」  だが、アイリスも"エルフは高く売れる"と聞いた事くらいはあった。 「ですから、あなた如きを売った金など私達には必要有りません。それとも風俗的な価値があると思われてますか?その様なものは求めてません」  しかし、それも俗世に関わっていればの話で、レイは勿論シンにも意味を成し得ないのは明らかであった。まあ…ぺったんこだし。  部屋が静まり、沈黙が流れる。 「やあ、私はシアと名乗る者でレムの主だよ?」  その沈黙をブチ破り、突然アイリスとレイの間に割り込む様に現れたのはシンだった。…本当に突然、唐突過ぎる出現であった。 「うわぁぁぁぁ!」  当然アイリス驚き慌て、突然に現れたシンから距離を取る。何故? どうして? シンが突然に現れたのかを理解出来ないでいた。 「主?何故こちらに?」  レイは当然、シンに問い訪ねる。 「いやー、だって皿洗い終わったのに帰って来ないんだもん」  シンはやるべき事が終わったからここに顔を出しただけだった。 「…あの、皿洗いとは?」  アイリスは突然現れた、茶髪紫目の特徴を持つ男に、珍しい色合いだなと思いつつも問い訪ねた。 「あー、その事は教えられないよ、仲間にならないとね」  …がその質問はバッサリと切り捨てられた。 「あの、私は価値が無いのでしょうか?」  そこでは止まらずに、アイリスは"レムが彼を主と告げたのだから"と思い、先程の話をシンにぶつけた。 「んー?何の事?」  シンは当然、唐突な質問に理解を示さない。 「主、今、私が、彼女が余りにも信用してくれないので、売る価値も殺す価値も無いと説明したところです」  レイはさらっとシンに説明する。  そんなレイにアイリスも視線を移す。黒髪碧眼の彼女も彼と同じように、目立つ外見である事を彼女は理解した、 「金銭的な価値だったら私から見ても価値はないね」  それを聞いたシンは、全く詰まらずにストレートにそう言い捨てた。 「そう、ですか」(………そんなに要らないんだ…)  何故かはわからないが、アイリスはそう告げられてショックを受けてしまう。 「まあ、私達からしたらだけど。ねえレム、いったい何を選択肢に出したの?」  間延びした声をシンは出してそう聞くと、 「私が出したのは、すぐにここから出て行くこと、私達が彼女を保護すること、それから、仲間になることの3つです」  レイはそう返し、 「まあ、妥当な選択肢だよね。…確かにこの世界で私達が初めて見た人種だし、仲間になってくれると私の精神面が潤うかもね」  シンもそれに納得した。 (初めて見た…? この世界…?)  シンの会話を聞いて真っ先にアイリスは疑問を持った。 「…初めて見た、とはどういうことですか?」  そして、問い訊ねる。情報が得られるかもしれないのなら、彼女は口を開かずにいられない。 「ああ、それは、私達は異世界から来た存在だから、だよ。あれ? レム説明してなかったの?」  シンは少し驚きながらもレイに尋ねる。 「そちらに関しては話していいのか、私には判断ができなかったので」 「ああ、なるほどね」  レイが言うべきかの判断に迷ったその思考は、シンにも理解出来た。それを言いふらす事に良い事があるとは思えなかったからだ。 (今、異世界から来たって……)  当然アイリスは驚いていた、完全な爆弾発言だったから。…とは言えシンのその言葉は必ずしも正しい訳では無いのだが…。 「勇者さまですか?」  アイリスは異世界からの存在など勇者しか知らなかった。故にそう聞く。 「勇者が何なのか知らないけど、絶対に違うよ?」  シンはそれは無いと断言した。彼の中の本能的な否定が混じっていた事が否定出来ないだろう事を語り手は明示しておこうと思う。 「じゃあ「それの答えが欲しいなら私達の仲間になる事だ」」  固い声音で、キツイ口調で話していないので、シンは何でも答えてくれるようにも思えるが、それは無い。 「まあ、いきなり不老不死ってのはキツいだろうから、君が私達に着いて来て信用出来るか確認すると良いよ、ただし私達の事は他言無用の契約を結ぶからね?」  目の前の少女が信用し切れないのは仕方が無い事だとシンは思っていた為、落とし所を提案してみる事にした。 「契約って?」  すると、アイリスは緩くなった事柄に早速食い付いた。 「創造魔法"契約の魔法陣"」  シンがそう呟くと、彼の手元には1枚の紙の様な物が現れた。 「契約内容は、君は私達に対して何も口外しない、また、私達は君を裏切りはしない…だ。さあ、ここに魔力を流してくれる?そうすれば契約は完了するから」  彼女からすれば、シンの言葉は悪魔の囁きの様にも思える。 (契約? ここに魔力を流せば終わるの?)  シンの甘言とも言えない様な言葉に誘われ、アイリスはすぐ様に魔力を流し込んでしまった。  今までキツい物言いをしていたレイのせいで、精神的に疲労していた…という事もあったのだろう。 「契約は完了した、確認したければ外にでて私達の事を叫んでみるといい、体を激痛が襲うはずだよ」  シンは自身の持っている能力の証明の為に必要な事柄をアイリスに告げた。彼女は未だに彼らの能力が半信半疑な為、言われた通りに試そうとする。 「ーッ!?」  叫ぼうとした瞬間頭に激痛が走り、アイリスは地面をゴロゴロと転がった。 「分かった?」  年端も行かない外見をしているアイリスが最後に見たのは、そう言ってシンが得意げに笑う光景だった。  ☆  それを見届けたシンは、面倒な事を終えた気分になっていた。 「レイ、今からメイドゴーレムを作ろうと思う。勿論喋るやつだけど」  メイドゴーレムとは言葉のままである。だが、そんなモノはラフタには存在していないので、完全に創作である。とは言え、ラフタに存在しているゴーレムを弄るだけなので、特段に難しい話ではない。 「そうですね、私も外を見て歩きたいので。コイツが起きるまで面倒を見るなんて…絶対に嫌です」  レイは少し棘を口にしながらも、彼女もそれが良いと考えている。 「じゃあ作っちゃおうか、……ちょっと試してみようかな?創造魔法"ミスリルゴーレム"」  シンは物は試しにこの世界にいるゴーレムを想像しながらそう唱えた。  結果、出来てしまった。 (う〜ん………相変わらず、創造魔法が使える基準が良くわからない)  そう思いつつもシンは、"知識の魔法陣"を魔術を使ってミスリルゴーレムに書いていき…完成させた。  シン自身、その魔法陣に大そうな知識が詰め込めるほど魔術に詳しい訳は無く、せいぜい詰め込めるのは言語理解と歩き方と、基本的な物の持ち方の知識くらいな物だったが、それでも充分だった。 「彼の名前はm−1だよ、レイ?」  レイにそう告げると同時にそれに名を決めた。 「承知しました。しかし、ここまで露骨にゴーレムだとメイドらしくないですね」  レイの言う通り見た目はゴーレムだ。 「姿形はどうでもいいのさ。m−1、そこのアイリスが起きたら、私達が戻って来るまで大人しくしてるようにって説明しといてくれる?」 「承知しました。御主人様」 (…あれ?話せるの?)  シンはゴーレムが言葉を発した事に驚いたが、今その件を解明しようとすると、またもや脱線してしまう為、何とか脱線しない様に自身を抑え込む。 「じゃあレイ、アイリスとゴーレムを家に置いてきたら、出発しようか」  「承知しました」  シンがゴーレムを、レイがアイリスを持ちそれぞれが家に置き、それぞれが支度を始めた。 (よし、よし、行けるかな?…レイはどうだろう) 「主、支度が終わりました」  シンがそんな事を考えていると、丁度良いタイミングでレイがそう言った。 「じゃあ、そろそろ行こうか。ユウの小屋に行って、そのまま転移しようと思うんだけど…何かある?」  シンはレイに確認する。 「いえ、特にはありません」 「じゃあ、それで決まりだ」  それからシンとレイはユウが居る小屋の扉を開けて、ユウと共にテントの中へと転移した。  このまますぐに出発したい所ではあったが、テントを片付け終えていなかった。ユウとレイには外に出てもらい、シンは黙々と手早くテントを解体して仕舞った。 (忘れ物、落し物は無し…っと)  最終確認は大切だ。 「さて、レイ?ユウ? そろそろ行こうか」 「はい」  ユウも首を縦に振った為、早速、シンとレイはユウに乗った。 「ユウ、今日は君の本気を見せてね? めちゃくちゃ急いで欲しい」  シンは過分の期待を込めてそう言った。何故ならアイリスの件があり、既に日が登ってしまっているからだ。  夜まで走り続けたとしても…時間が少ないのだ。  しかし、ユウはそれを遮るように、シンに意思疎通で意思を伝えようとした。 「会話がしたいって事?」  漠然的な意志から予想し、シンがそう聞くと、どうやらそれが正解らしい。 「わかった。……念話で良いかい?」  そのシンの言に、ユウが了承の意を示した。 「能力創造"念話"」  シンは念話の能力を創って……、 「能力譲渡"念話"」  それをユウとついでにレイにも渡した。  すると、早速ユウが話し掛けてきた。 『主、本気で走らなくてはダメしょうか?』  少し嫌そうな感情が共にシンに伝わって来た。 『……昨日の最後の方の速さで走る事は出来ない?』  昨日のシンが速いと思えた速さで走ってくれれば、彼にとっては充分だった。 『それ位なら…しかし、かなり揺れますよ?昨日はほとんど直線だったものの今回は凸凹してるかもしれませんし』 『…揺れる事は考慮しなくて良いよ。後、前に立ち塞がるのはレイか私が止めるまで無視して進んでいい、止まれないなら突進で突き壊して貰って構わない。こっちはレイの腕で何とかするから』  シンは出来るだけ先を急ぎたいし、無駄な時間は出来るだけ削りたい。その為に少し無茶をする様な事柄をユウに告げる。 『承知しました。では…』  それを聞いたユウは念話が切り、次の瞬間にかなりのスピードで走り始めた。  ☆☆☆☆☆  ユウは陽が暮れるまでの間、ただひたすらに走り続けた。  もちろん彼にとって、その走りは一定のペースを守ったものではあったが…。  やがて陽が暮れ、しかし、陽が暮れてなお、シン達が更に先に進もうとしていると…彼らは大きな障害にぶち当たる事になってしまった。 「レイ、敵だ」  レイの後ろから抱き着いてるシンがそう告げる。当然レイもその存在を捉えた。 「これは…ゴブリンですよね?」 「多分そうだと思う」 「……凄い数ですね」  彼らが感知できるだけで既に数え切れない数のゴブリンが近くに居たのだった。 「避けて通るのですか?」  一縷の望みを掛けてシンに訪ねる。 「いや…これ、多過ぎて避けられなくない?」  しかし、シンが告げたのは残酷な結果だった。…当然、レイも無理だろうとは考えていたが…。 「これってさ、頭を潰したら全てバラバラになるかな?」  シンは続けてそう話をレイに振った。 「…まあ、それなりに統率は無くなると思います」  話を振られたレイもシンと同様に大量の魔物の集団を倒した事は無かった為、煮え切らない返事をした。 「じゃあ…頭から狙おうか。ユウ?ゴブリンキングが居そうな所に全力で走ってね。止まったら駄目だからね」  どうするかは決まった。シンは、ゴブリンキング…恐らく、ゴブリンのリーダー種だと思われる存在の名を口にして、ユウにそう指示を出す。  ユウからシンへと嫌そうな感覚は伝わって来たが、当然シンは無視をした。  ユウは少しして、今まで以上に物凄い速さで走り始めた。  そしてゴブリンの集団の1番前に辿り着くと、それを出来るだけ避ける為にユウはその速度のまま跳躍し、ゴブリンの集団の中に-着地した所に居たゴブリンの頭を潰しながら-着地した。  ユウ自身、どうにでも成れと思いそう行動した訳だが、あながち間違いとも言えない行動だった。むしろ、少しばかり手間が省けたと言っても良かっただろう。 「レイ、出来るだけユウが走れる様にしてあげて」 「承知しました」  シンの指示を聞いたレイは片手を鞭に変形させ、ユウの前に飛び掛かるゴブリンをピンポイントで叩き落とす。 (…長いですね、やはり…物凄い量のゴブリンです)  内心、数に感心しながらも叩き落とし続けるレイ。  当然、他もしっかりと働いていた。  ユウはゴブリンを踏み潰しながら走り、シンは後ろから土属性の槍を飛ばし、ゴブリンを串刺しにしていた。  暫く彼らがそれらを続けていると、彼らは一回り大きく姿形もそれなりに変わっているゴブリン達の所まで辿り着いた。  そう、それらがゴブリンキングやゴブリンジェネラルなどのゴブリンの群れを総まとめする上位種であった。 「レイ、降りて、あれらを仕留めに行くよ。私は1番デカイのを行こうと思う」  レイは自身の主が示した‐周りとは際立って違う‐ゴブリン達を見つめた。 「…承知しました」  ゴブリンキングはシンに任せる事にしたレイは、それのすぐ側に居るゴブリンジェネラルを倒す事に決めた。  ユウがそれらの前に辿り着いた、と同時に、レイとシンはユウから飛び降りた。 「先は貰います」  そう告げたレイはシンよりも前へと飛び出し、キングの周りに居る-周りとは違うゴブリンの-ゴブリンジェネラルの2体のうち前方に居る1体の両腕を、それらに急接近して-変形した腕で-切り飛ばす。そして、防御をする術を失ったそれの頭を貫いた。  すると次の瞬間、彼女の主は空を2回蹴り、彼女の倒したそれの後ろに居るキングの頭をあっさりと斬り飛ばしてしまった。  まるでシンは、宙に鋭角三角形の様な角度を描く様に方向転換をしたのだった。  残り1体…、レイは主に譲ろうと考えていたが、ユウがそれに自らの角をぶつけるように突進し、そのまま、それは息絶えてしまった。  ユニコーンというのは通常の馬よりも数倍大きい。そんな巨体が止まることを知らずに突っ込んだのだから、さしもジェネラルとは言えあっさり突き殺されてしまったのだった。 「これで終わりですか?」  レイは地面に着地した主に問い尋ねる。 「ああ、終わりだよ」  シンの返事に少し味気ない終わりだったなとレイは思った。 「主、どちらが多くを殲滅出来るか勝負しませんか?…ただし殲滅系の魔法は無しですが…」  レイはこの味気無さを払拭する為にシンにそう提案する。 「…別に良いけど…どうしたの?」  彼女の主はレイらしくない提案に困った様な顔を向けた。 「あ、いえ…単純に味気が無いな…と。あっさり終わってしまったな…と」 「良いよ、やろうか」  少しあたふたとしたレイを見たシンは、レイに異常がある訳では無い事を理解してその提案に乗る事にした様だ。 「じゃあ…そうだなぁ…、うん、始めよう」  シンはそう言うと武器を取り出し、ゴブリンの群れに突っ込んで行ってしまった。…完全なフライングである。 (……私も行きましょう)  遅れる訳にはいかない、そう思いレイも後を追うように走り出した。  シンは"謎の黒武器"で応戦していた。  大剣で振り向きざまにゴブリンの胴体を6体を無き別れにし、持ち直す前にとある空間-空間魔法によって創られた-にしまい、大鎌を取り出す。更にゴブリンの首を5つ撥ねた。  更にまた、持ち直す前にとある空間から取り出し、振り抜いた。  自身の上から取り出し、振り下ろし、振り下ろした勢いのまま、とある空間に仕舞う。  言うなれば2剣流の大剣と大鎌版だが、振りあげる動作が要らないというのは恐ろしいものである。  シンはこれをひたすらに続けた。  一方、レイはシンに向かってくるゴブリンを後ろから、こっそりと近づき殺していた。  とは言うものの、気づいてもお構い無しに貫手を決めていき、また、レイ自身の周り…半径10mにゴブリンが存在しない場合は、謎の黒武器シリーズの大剣を振り抜き、それを投げ出した。  …訂正する。全くこっそりとは言えない様だ。  レイの大剣にはレイの腕が変形した鎖が付いていた。その為、大剣の遠心力を使い、別のゴブリン達の集団へとレイごと飛んだり、その飛んでこられた集団が一瞬のうちにレイに串刺しにされるなど、とても効率的とは思えない戦い方をしていた。…まあ、本人が楽しそうなので何も言うまい。  蛇足ではあるがレイとシンのアイテムボックスのブレスレットは肩の少し下辺りにあり、レイの腕の変形に干渉することは無かった。  シンとレイが暴れる中、1番困っていたのがユウだった。  彼はスキルをあまり持っていない上に身体能力が一番低かった。それが原因で彼はひたすらゴブリンが少ない場所を目指し逃げ続けていたのだ。  ただ、逃げてはいたものの、彼も囲まれれば踏み倒し蹴り飛ばし突破することが出来た為に、困ったとは言え、高が知れたものではあったのも事実だったが…。  そんなこんなで、レイが6092体、シンが5970体、ユウが59体という数を倒し、狩りは終了したのだった。  最初のゴブリンキングがどれくらいの強さだったかなどと彼らが知る由もないし、全てノリだったと言えよう。  当然彼らは目敏く倒していた訳では無い為に撃ち漏らしもあったが、それは彼らの預かり知らぬ所であるし、もっと言えば、ここに集まっていたゴブリンの集団が人の街を襲おうと今か今かと準備をしていた集団である事など、より一層知る由はなかった。
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