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第零話‐拠点の放棄とユニコーン。

 シンがこの世界に降り立ち、1年が経った。彼らは俗世には一切関わらず、平和な日々を過ごしていた。…巻き込まれたとして、彼らに問題があるとは思えないが。 (…今日でちょうど1年かぁ…)  そんな事をシンが思うのも珍しく、もっと言えば、それに気が付いたのが"惑星(ほし)教科書(あるきかた)"のお陰であるのだから、シンが一切として外界に興味を持たなかった事実は、揺ぎ無いものだった。  彼はこの1年で魔物を狩ったり、能力の練習をしたり、"惑星の教科書"から情報を取り出したり…と、そんな具合で能力を片っ端から使用していた。…あまり計画性のある物では無い。  あっち行ったりこっち行ったりである。  当然1年が経った今、シンらは狩った事のある魔物は多種多様となった。  シンらが狩った魔物は、亜人系では、ゴブリン、オーク、オーガ。それから、ウルフ系はグレーウルフ。それなりに狩り辛かったと感じた魔物はグリフォンやワイバーンである。  単に宙を飛んで目障りに思うだけでしかない事も明言しておく。  それから洞窟の近くだけではなく、シン達の住んでいる洞窟よりも標高の高い所へと山登りをした際に、サイクロプスやマンティコアやバジリスク等に出会い、襲い掛かられた為に狩ったなんて事もあったらしい。  その中で、主にシンの記憶に残ったのはミノタウロスだった。出会ったにも関わらず…すぐに逃げられてしまったせいである。その為にシンもレイも共にミノタウロスを狩った事は無かった。  ミノタウロスが単に臆病な気質であるからである。  また、能力の練習についてシンが行った内容を大きく分けると、魔法と武器の使い方と物作りの三つだ。  様々な武器を使ったり、様々な魔法を使ったりしたので色々なスキルが増えた。  たとえば、斧術、鎌術などの少しマニアックな武器術、それから闇魔法、光魔法などのあまり使わない魔法も、ある程度使い熟せる段階まで習得した。  だが、シンが1番に精神的にも時間的にも色々な物を費やしたのは鍛冶であった。  基本的に、起きてから眠るまでにシンは2つのことを確実に決めて行っていた。  1つは、起きてから陽が真上に昇るまでの間に、様々な魔法や武器術を使って魔物の狩りしたり練習したりする事。  2つは、1つめを終えて帰って来てから、ひたすらに鍛冶の自己鍛錬をする事だ。  結果、必然的に鍛冶を行った時間が1番長くなり、更に言えば難しさもあった為、時間的にも精神的にも色々な物を費やした事となった。  それにより、シンがこの1年で"惑星の教科書"から最も情報を抜き出したのは、上の2つについてがほとんどだった。  武器の振り方や鍛冶の仕方は、全部"惑星の教科書"頼りだった事も明言しておく。  シンのモノ作りの腕は着々に進歩しており、今では1年前に創り出したヒヒイロノオオカネを使い、何とか剣を打てるようになっていた。それからはひたすらそれらを使って色々な物を作っていた。  …ヘブンズガーデンにある小屋の中に、意味の無い肥やしが増えた事はツッコんではいけない。…ああ、何処かで小屋の品は放出されるのだろうか??  それから悲報が1つ。シンが住んでいる山の、かなり広い一帯に元々生息していた魔物が居なくなってしまった。…原因はシンとレイで間違いなく、狩り過ぎである。  今では、ゴブリンやオーク等は見る影もなく、オーガやグレーウルフが頻繁に姿を見せるようになった。そして、極稀にワイバーンやワイバーン…と言う具合になってしまった。  "初めの方なんてゴブリンやオークしか現れなかったのに、今や頻繁に現れていたそいつらの姿さえも少なくなってきて、更に強い魔物ばっかりが姿を現すんだよ"と食卓でボヤいていたのは何処のどいつだろうか??  "これは私の憶測だけど、山の上から降りてきたんだろうと思う。  私達の周りの弱い魔物が生息しなくなったせいで、上の方に生息してた魔物は下の方に間引かれてしまったんだろうね。  だから、前に居た魔物よりも強い魔物が、どんどん下に降りてきてしまってるんだと思う"と告げる彼にも罪悪感があった。行った張本人なのにも関わらず…だ。  完全に手遅れな状態ではあったが、シンはやっとの事でこの洞窟を放棄する事に決めたのだった。    そして、次の目的地を決める事にした彼は、ステータスがどの様な物を知っている故に、自らのレベルを上げることに決めた。この世界では他者を殺す事によってレベルとやらを上げる事が出来る。  彼のレベルも例外では無い…様に思われるが、実際は彼もレイも例外である。ステータスとやらの恩恵をキッチリと隅から隅まで受け入れられるのは、ラフタに生まれ落ちた生命体だけだ。  つまり、彼らがステータスとやらで利用出来るのは、この世界において何者かが決めた数値に当て嵌めただけのレベルでしかない。  言うなれば、別の単位で測り直している様なモノ…。  彼はその何者かを基準にしたステータスとやらに恐怖を覚えている。自らにはあまりに関係が無いのにも関わらずだ。  自らには関係が無いと理解出来ていない彼は、ステータスとやらに、少しだけ誤解をしているのだ。  それも仕方が無い。彼の情報源である"惑星の教科書"には、このラフタと呼ばれる惑星上で起こった事以外は記載されていないのだから。  というわけで… 「レイ、そろそろ山篭りを終えるよ」 「…という事は、洞窟は放棄ですね?」  彼らが1年間お世話になった洞窟にサヨナラをする為に、シンはレイに告げる。 「ああ、持ち運べるものは全てヘブンズガーデンの物置に放り込むつもりだ。だから、持ち運べる物をまとめておいてくれる?」 「承知しました」  シンの指示に従い、レイは軽く一礼して持ち運べる物をまとめに行った。 (さて、レイも行った事だし私も準備を始めよう)  シンは"創造魔法"で、これから必要になるであろうテントを作る為の素材を創る事にした。  彼は難しいものを作るつもりは無い。だって、ヘブンズガーデンに帰れば良いのだから。つまり、ヘブンズガーデンへの移動を見られないようにする為の意味合いが強い。所謂、他者の視線への障害物だ。  ヘブンズガーデンと言えばシンが創り出した亜空間の事ではあるが、最近になり、また新事実を彼らは発見した。それは、今彼らが居る世界-ラフタ-からヘブンズガーデンへと転移をする際に、彼らは魔力をほとんど使わない事である。  空間魔法は主に"転移"と"空間を作る"ことが出来る。更に、自身の見た事がある場所へと瞬間移動が出来る。  亜空間とは言え、世界から世界へと転移しているようなものだ。彼らが魔力を消費しないのは異常な事である。  シンはヘブンズガーデンに転移する時に魔力をあまり使わない事を、"自分が創った空間"だからだと結論付けようとしたが、それではレイが消費しない理由にはならなかった。  彼にとっては"う〜ん?"な状態である。答えは簡単で、レイがシンと同類だからだが、それを知る由は彼らには無い。  彼らが知らない自らの事は無限大にある。その事実は、彼らが内包する力についてを考えると、至極当たり前な事かもしれない。  だがしかし、この1年で、シンは解らない也にも自らの能力を把握していた。  例えば"能力創造"だが、いきなり能力を最高レベルにして創り出す事も出来る。  体術などの、ステータスで言うところのスキルとやらは、通常獲得した際にLv.1と表記される。  熟練度によってスキルレベルは上がって行き、レベルはやがて10で止まる。その上に無印表記があり、そこからが達人の域へと入っていく。  最高レベルで与える。それ即ち、惑星の記録をレベルに乗せて与えるのと同義である。  また、彼がやらない理由は簡単で、能力があっても、使い道が解らなければ使い熟す事が困難だからだ。素人が良い物を持っても意味が無いのと同じである。  記録如きでは生きた技術に、技能に勝てる筈は無い。    一方、シンの持っているスキルはあまり高くないが、それでも、彼は様々なことが出来るようになっていた。  一番高いので鍛冶Lv.8で、所謂器用貧乏と呼ばれる状態だ。  そんな一方、レイはLv.10の体術を持っている。シンとは真逆の一点突破型である。  必然的にそうなったと言っても過言では無い。何故なら、前に創られたトランスアームが体の一部として見なされたからだ。  トランスアームがどんな形をしていようが、それで行った攻撃は全て"体術"に分類される様だった。  …また、余談ではあるが、 シンが技能だと理解しているモノも、能力だと理解しているモノも、この世界のステータスでは一括されて"スキル"として扱われるらしい。  そんな事を語り手が語っている間に、シンはテントを作り終えたようだ。  それから最後の仕上げとして、シンは"隠蔽"と呼ばれる能力を創り出した。テントに能力を与える為…と、彼ら自身の能力を隠す為の能力だった。 「終わりました。全てをヘブンズガーデンの物置に置いてきました」  片付けを終えたレイがシンの前に現れた。 「わかった。レイはもう行ける?」 「はい、問題ありません」  レイには問題が無く、シンも準備を終えた。…さあ、出発だ。 (1年間お世話になりました)  最後に心の中でそう告げて、シンはその洞窟を後にした。  ☆☆☆  彼らはシンの考え通りに、これから行こうとするダンジョンに向かう為、山を下りることになった。  洞窟は木々が生い茂っている山の中にあった。 「そう言えば、主は何故、人に会われないのですか?」  レイが変形させた腕で、オーガを串刺しにしてから、シンにそう問い訪ねた。 「この力がバレると面倒くさそうじゃない? それに街とか行かなくても生きてけるし、無理して会う必要はないと思うんだよね」  レイはそれを聞いて刺さった腕をオーガから抜いた。そもそも彼らの生命維持に他の個体は必要が無い。 「それは、つまり、主は人が嫌いだという事ですよね?」  断定した答えを訪ねるレイを尻目に、シンはそのオーガの死体をアイテムボックスに仕舞った。 「それは否定しないよ、人は種族としては好きではないからね」  好きか嫌いかであれば、シンは間違い無く嫌いを選ぶ。 「種族として?とは?」 「うーん、なんて言うんだろ、個人個人としてはその人を好きになる事はあっても全体を好きにはならないんだよね。人は集まればめんどくさくなる?みたいな? 文殊の知恵じゃなくて、足を引っ張り合う?みたいな感じかな?」  それはシンが自身の内に秘めたものがそう言わせているのか、シン自体の考え方なのかはわからなかった。  彼は自身の内を知らないのも事実だ。  だがそれ以前にシンは他人を信用していない、レイとだって契約の魔法陣を使っているのだから。 「ああ、そういう事ですか。確かにメンドクサイですね。しかも今回は国家が関わる可能性があるから「そのとおり!」」  レイの言う通り、そんな事柄はゴメンなのである。 「最後まで言わせてください、主」  少し不平を口にしたレイを受け流しつつ、シン達が歩いていると、彼らは何かを感知した。 「レイ…」「ええ、感知しました」  シンはその気配にバレないように近付き… 「真・鑑定」  種族 ユニコーン  Lv.50  スキル  突進Lv.7  気配察知Lv.10  ユニークスキル  元魔法Lv.7  言語理解 (…スキルが強い…あと、ユニコーン初めて見た。一点突破型かな?)  ぱっと見でおおよその戦い方を予想する。  そのユニコーンは草をもしゃもしゃ食べている最中で、シンとレイは別に襲う気も無かった為、素通りしようとした。  しかし、そのユニコーンはとても早い首の動きでシンらの方を見た。シンの内心は"やらかしたか…"と毒づく。  レイが即座に迎撃する体制を整えると、そのユニコーンが突っ込んで来た。それをレイが腕を盾の形にして受け流す。受け流された直後にシンが、ユニコーンの脚の間に棒を挟ませ押し倒し、首に刀を突きつけた。  幾ら聖獣等と崇められるような存在であっても、シンとレイの二人が居れば相手にすらならない。 (ぜひ彼を仲間にしたい、良い足になりそうだ) 「私の仲間にならないか?」  シンはそう思い、そう告げる。 「勿論食料や生活は保証しよう。良ければ首を縦に振れ、嫌なら首を横に…だ」  ユニコーンはこくんこくんと首を縦に降った。降伏しなければ首ちょんぱになる事は予想に容易い。 「ならば、この紙に魔力を流せ。創造魔法"契約の魔法陣"」  魔術で魔法陣を頭中に組み立て、創造魔法で実体化させる、そのユニコーンは契約の魔法陣に魔力を流し、シンもその直後に魔力を流した。  彼らは良い足…じゃなかった、ユニコーンを仲間にした。 「主、ユニコーンに名前は付けないのですか?」  レイはユニコーンと一々呼ぶのを面倒に思い、シンに訊ねる。 「どんな名前がいいと思う?」  すると、彼は何も考えずにそう返した。興味の無い事にはトコトン放置プレイをかますのがシンだ。 「主がシンで私がレイですから、二文字が良いですね」  レイは呼びやすさを重視したい様だ。 「うーん? レアとかシア? とかは?」  一方、シンは何も考えていなかった。際限無く彼はテキトウだった。 (…紛らわし過ぎますよね…それ) 「せめて私たちと頭文字と名前変えませんか? ユウ…など…」  レイはシンに1例を示してみる。 「ユウで良いよ。確定」  するとシンはそう告げた。…本当に興味が無さそうである。 「主…いえ、なんでもありません」  レイは訂正しようとしたが、訂正するのも面倒に思い口を閉じた。結局、レイもシンと同じ穴の狢である。 (ユニコーン、申し訳ありません)  そう内心謝るのなら訂正してやれよと思うが、それが彼らである。 「じゃあ、そこのユニコーンの名前はこれからユウだ。よろしく」  ユニコーンは理解を示し2回ほど首を縦に振った。"ユウ"という名で決まってしまった様だ。  不意にもレイが名付け親になってしまった。だからどうと言う訳では無いが…。  これからユウも共に暮らしていく事になるだろう。その為、シンはコミュニケーションを取れるようなスキルと、身を守るスキルを与える事にした。 「能力創造"気配隠蔽Lv.1""意思疎通"」  彼はユウに与える為の2つのスキルを作った。 「ユウ、ちょっとこっちに来て」  更にそう言い、彼は自身の前にユウを呼び寄せ、能力を与え、それから"真・鑑定"でステータスにしっかり追加されたことを確認した。  そんな事をし終えると、辺りが暗くなっている事に彼らは気が付く。  不意打ちされたら死ねる自信があるから、早めに休みを取るべきかもしれない。とは言え、彼は今日中に完全に下山をしてしまいたい。 (…あ、そういう能力を作れば良いのか) 「能力創造"夜目"」《※夜目=暗視が出来る》  シンは思い付いた能力をすぐさま形にする。 「レイもこっち来て」  それからレイも自身の前に呼び寄せ、レイとユウの両方にその能力を与えた。 「レイ、ユウ、これでまだ進めるから山を下り切ろう」  シンは与えてすぐに、レイとユウに確認を取る。 「承知しました」  レイだけではなくユウからも了承の意が送られてきた。 (へえ、意思疎通って意思がそのまま伝わるのか……、私の想像通りだね)  少しだけ面白い能力だなと思いつつも、そんな事も内心に思う。ただ、小難しいことは伝えられなさそうだった。 「ユウの背中に私達を乗せてもらうから。良いよね?」  そう言いながらユウへと耳を傾ける様にしたシンに、ユウは了承の意を向けた。ユニコーンに乗る以外に役目が 「じゃあレイは…もう乗ってるね。…私はレイの後ろに乗るから」  そう告げたシンは、ユウの背中に乗ってるレイに後ろからくっつく様に乗り-レイの体は柔らかい-、しっかりと抱きついた状態で進む事になった。  シンが後ろに乗ったのは手網はレイが持っているから…ではなく、レイのトランスアームが手綱になれるから…と、彼女の方が彼より背が高く、彼女が彼にしがみつくよりも彼が彼女にしがみついた方が良いからだ。  …いきなり手綱は作れない、それは至極当たり前ではあった。  それから少しして、シンはユウに"走って良い"と"山を下りる"の2つを伝え、進んでもらうことになった。  ユウは走り始め、徐々に速さが増していった。やがて、その速さは恐ろしい程のものになり、あっという間に山を下り終えてしまった。  とてつもなく速くて、山を下り終えるまでがあっという間で、シンはこれだけで仲間にしたのは絶対に正しかったなと考えていた。あそこまでどうでも良いという反応をしていたのにも関わらず…だが。  洞窟のあった山を完全に下山し終えたシンは、"ここら辺にテントを立てて一日を過ごそう"と、そう考え、更に"ユウ、この中に入っててもらえるかな?"と口に出してから"ヘブンズガーデン"への道を作った。  流石のユウも驚いたようで、意思疎通で焦っている事がシンに伝わってきたが、ユウにその空間の事と、彼自身も、後にその空間に行くことを軽く説明して、半ば強引な説得で"ヘブンズガーデン"へと入ってもらった。そして、その入り口を閉じた。 「人目に付かない様に、木の上にテントを張ろうと思うんだけど…どうかな?」  出て来る時、人や獣に鉢合わせをするのは避けたかった。 「そうですね、どこかに太い木でも有ればいいのですが…」  レイがそう言い、シンと彼女は太い木を探し始めた。が、そんな木は無かった。 「元魔法で穴を掘ってみてはどうでしょう? その中にテントを広げれば良いのでは無いでしょうか?」  レイは更に代案を口にする。 「それだと崩れた時に危なそうだからなー……」  出て来たら埋まってました…は当然嫌である。 「それもそうですね、諦めたらどうですか?」 「…よくある盗賊との遭遇とかいらないんだけど?」  ありそうで怖い…と思うのでは無く、面倒くさい気持ちが強いシンだった。そもそも盗賊をやってる程度の人型が彼らに敵う筈もない。 「ここまで遠回りしてそうなるのでしたら、諦めた方がいいのでは?」  実は彼らが今まで通って来た道は、人が多そうな道を避けて通っている為、既に遠回りをしているのだ。そんな議論を重ねることがレイにとっては面倒くさかったりする。 「…そうだね」  レイの言う通りだ。それで遭遇するのなら、諦めてしまった方が早いかもしれない。シンは自身にそう言い聞かせてテントを組み立て、それに軽く土を被せた。  勿論、テントの隠蔽も発動している。他者が気が付かないことを祈る。 (……問題は無さそうかな)  テントの状態を見て、シンは心にそう決めつける。 「よし、テント張ったし、中に入ってからヘブンズガーデンに行こうか」 「承知しました」  そうしてシンとレイはヘブンズガーデンに入る事になった。  因みに、ヘブンズガーデンにもこの1年で住み心地の良い家を建てている。キッチン、トイレ、バスルーム、それから地下には鍛冶室などの多種多様なものが設備されていた。  ただし、今は、ユウの小屋を追加で作らないといけない。 (あ、でも雨とか降らないし要らないかな? ………一応作っておこう)  シンは少し迷いながらも"鍛冶"と"創造魔法"と"元魔法"を併用してユウの小屋を作った。  それからシンはユウに、ヘブンズガーデンに居る間は、基本的には小屋の中に居るようにと指示する。理由は簡単、"ヘブンズガーデン"はかなり広いため、探し回るのが面倒だからだ。  今回も指示する為に、ユウを探す為だけに転移しまくったらしい。  ガチャ(家の扉を開ける) 「主、私は食事の準備を致します」  レイは家に入って来たシンを見て言う。 「お願いね~」  それに対して、手をひらひら振ってシンは2階の自室に向かって行った。  シンの自室には時計が置いてある。  シン達の今居る世界の時計だ。この世界-ラフタ-は地球と同じ24時間、今までの1年間の間に"惑星の教科書"で1日単位の時間を確認し、"鍛冶"のレベルを上げるために作られた物だ。  素材はミスリルと青銅である。  今は夜8時だった。シンは特にやる事もなく、ベッドに吸い込まれる様に自然と横になってしまう。  時間が流れて…。 「主、食事の支度が出来ました」  レイがそう言いながら、眠りについてしまったシンの体を揺すった。 「ふあ~…、今日のメニューは?」  寝起きの状態のシンは体を起こしてレイに訊ねると、 「今日はオークのステーキと白米に、"ヘブンズガーデン"の地下で採れた野菜添えになります」  レイはそう答えた。  野菜と言えば…ではあるが、"ヘブンズガーデン"の地下では野菜が作られている。   地下で行う理由は、ヘブンズガーデンの地上は日が沈まないからだ。逆に言えば、野菜を作る地下は昼にも夜にもなるのである。 それはシンが創り出しただけの簡単な話で、何かの特殊な技術もへったくれもなかった。  シンはレイに連れられて下の階のリビングルームに移動し、彼が椅子に座ると前に料理が置かれた。  そして、シンにテーブルを挟んで向かい合うように、レイも自身のステーキを持って座った。 (…………美味しそう) 「ステーキ………、出来は?」  料理を見て浮かんだ思いから、シンはレイに聞いた。 「いつも通り、でしょうか?」  その返答にシンは期待して良さそうだと思った。  実はこのオークのステーキ、案外上手いらしい…が、時と場合によってはあまり美味しくなかったりする。それは肉を取った個体の個体差だろう。 「じゃあ、美味しく食べさせてもらうよ」  シンはそう言ってそれに手を付けた。  ☆ (あ~本当に至福だ)  やがて半時くらい経ってシンはそれを食べ終えた。 (…美味しかった…)  シンはその1つの思考に尽きた。 「今日も美味かったね、私はユウに食事を与えて来るから食器の片付けはよろしく」 「はい、わかりました」  しかし、やらなければいけない事もある為にそう言い、気分を切り替えて、シンは家から小屋へと向かった。  小屋の近くまで行くと、ユウが小屋の外で草を食べているのを見つけたシンは、ユウに野菜のバスケットを差し出した。  中身はかなり色とりどりに敷き詰められてる。 「ユウ、食べ終えたら…バスケットは小屋の前に置いておいてね」  そう言い残して、シンはすぐに小屋を後にした。  シンは家へと戻る途中に全く関係ないことではあるが、本当に不意に、レイが不老不死になった時の出来事を思い出した。  それは、シンが"レイも私を置いてきっと先に逝くんだろうなあ…"とボヤいたのをレイに聞かれた時だった。これを聞いた時のレイは当然驚いていたのだ。それはレイのスライム気分が抜け切っておらず、体が変わった事による結果を理解しきっていなかったが故の結果だろう。  簡単に言えばレイは自身を不老不死だと思っていたのだ。それから、不老不死ではない事をシンがレイに告げると、彼女が成る事を懇願した訳だが…当然、彼はそれを受け入れた。  …1人で過ごすよりも断然に心が潤うからだ。  "不老不死になれる液体"とやらを創造魔法で創り出し、それをレイに飲ませることでそれを完了した。…その時の、飲んだ直後の体を構築する痛みに苦しんだ彼女の顔が今もシンには忘れられなかった。  そんな事を思い出したのも、シンが歩きながらボーっとしていたからだろう。また、そんな事を考えていると、彼は家に着いた。  転移で帰れば良いものを…とは思うが、彼は彼なりに楽しみ方があるようだ。  そんな能力ゆえの便利な事だけを優先してしまったら、きっと存在してる意味は無くなってしまうのだろうとも思える。   便利な事は非常時だけ…それもまた、シンの存在を肯定する時間だった。  ガチャ(扉を開ける) 「おかえりなさいませ、主」  実際レイがメイドらしいのは口調だけで、服装は黒いズボンに白Yシャツだ。…今はエプロンを着けているが…。 「ただいま、私はシャワーを浴びて眠らせてもらうよ。あと、少しアイテムボックスの腕輪を貸してもらえるかな?」  良い機会だと思い、シンはレイにそう告げた。 「それは良いのですが、主、寝る気が無いですよね?」  ヘブンズガーデンが明るいとは言え、既に夜の時間である。レイがそう言うのも仕方が無い事だった。  シンが告げた"眠る"は、自室に引き篭もるとの意味合いが強かった。 「否定はしないけど、しっかりと何時間かは寝るよ?」 「それなら良いのです」  レイはダイニングテーブルの所に置いてある椅子にエプロンを掛け、腕輪をシンへと渡した。  彼女は内心で、彼はきっと眠らないだろうと思っているが、それには言及しない事にした様だ。 「私は野菜を地下に取りに行ってきます」  それからシンにそう告げてレイは外に出ていった。  何だかんだ言って、レイが居れば1日くらいシンが動けなくとも何とかなるのだ。だからこそ彼は少し無茶を出来る。 (さて、私も腕輪の改良を始めようかな)  そんな緩い環境が整っている事が、彼は少し嬉しかった。
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