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第零部‐レイ、スライム脱却。

 夜遅くの就寝だった。その故に彼は起きられないかと思えば、何の事無くシンはレイに起こされること無く目が覚めた。  …が、やる事も無いので再眠に入ろうとする… 「主! 私はスライムを脱却したいです!」  …そう叫びながらレイが、シンの部屋へと飛び込んできた為に叶わなかった。  前々からスライムらしくない所はあったのだが、それを飛躍させた彼女はスライムを辞めたいらしい。 「…新しい体を作れってこと?」  シンはスライム脱却と言われても新しい体を創り出す事しか思い付かない。 「そうです! 外見を今の状態の人型に! 人でなくても良いので!」  レイは、勢い良くシンの腕を引っ張る。 「待って! 色々と準備を! レイ! 引っ張るなっ!?」  引っ張られたシンはそのままベッドから落下した。  どすんと、体が地面に叩き付けられた。 「主!?」  精神的に痛かったが、シンは何事も無かったよう-痛がるのが面倒なだけ-に立ち上がる。 「何でそんな人型になりたいのさ…、スライム便利だよね?」  シンは何となく察せられる、言葉には出来ない理由を敢えて告げずに訊ねた。 「何となく嫌なんですよ。何か、あくまでスライム?みたいな感じで、私はそもそも主に創られたので少し主の性格が入ってるのです。主だったらこの気持ち分かるでしょう?」  つまり、人の感性でスライムとして存在する事に、レイは抵抗があったと言う事だ。人であった記憶が入っているなら尚更である。 「わかった、仮に作るとしたらどんな体がいいの? …それに魂抜かなきゃいけないよね? その能力も作らないと…」  "魂を抜く"などと、あっさり提案する辺りはそういう物だと諦めて欲しい。彼は大概何でも出来る。 「色々な形に変形できる腕が付いてるのが良いです」 「最初から無理難題…」  そして、素晴らしいぐらいに無理難題に聞こえる話である。 「その通りです、主」  レイには勿論自覚がある。彼女自身は取り敢えずお願いをしてみて、無理だったら仕方が無いという心持ちであるが、そんな事まではシンはわからない。 (ううん、レイの言う事だから叶えてあげたい…けど…)  シンも流石に厳しそうだと考えた。しかし、それでも彼は"取り敢えずやってみよう"と心に決めた。 「レイ、私は暫く亜空間の中に篭ってるから…この洞窟はよろしく」 「楽しみにお待ちしております」 「やってみるだけだよ?」  期待するなと言外にレイに告げたシンは、"ヘブンズガーデン"の空間の中に建てられている一つの小屋の中へと入った。  ここには、シンが特に意味も無く生み出した物全てが置いてある。例えば"創造魔法"で創り出したは良かったが、上手く加工する事の出来ないオリハルコンなどなど…。  変形が出来る腕を作らない事には何も始まらない。そう思い、早速その小屋の中で作業を始める事にする。 (どんな感じが良いかな…、あ、スライム金属のスライム多めにすればいけないかな…。う〜ん…、取り敢えず"スライム"の様な漠然とした何かを想像して、魔力を最大限に送り込んでやってみようか)  シンは漠然と形にする様に想像を重ね、思考を重ねる。 「創造魔法 "トランスアーム"」  色々と回想をしながら創り出すモノの名を決め、目的のモノを編む様に魔力を注ぐ。  態々口に出したのは、"変形する腕"とやらをシンは知らないから、全く未知の領域で生み出す事になるから。"変形する腕"とやらを、概念的に定義付けているのだ。  そのまま少しの時間が経過し、少し形になって来た。 (お、お、形になった! やった!)  …とシンは思った直後に足が(もつ)れて倒れそうになる。どうやら、かなり疲れてる様だ。  ただそれでも、魔力以外の代償を必要とする範囲では無かったという事を自身で理解できた。  実はシンが他の何かを必要とする時、シンは自身が分裂してる感覚に陥るのだ。…勿論、代償の正体までは掴めないのだが…。  蛇足にはなるが、トランスアームに注ぎ込んだ魔力量は、間違いなく"ヘブンズガーデン"と同等だ。だが、それでも他の何かは代償にしてない結果から、それ以上で無い事の理解はシンには容易かった。  だがそれでも、月の表面積と同じ以上の面積を持つ"ヘブンズガーデン"と、注ぎ込んだ魔力量が同じであると言う事は、それだけに"トランスアーム"の規格外である事を証明している。 (次は…レイの体を作らないと。でも……少し休憩しよう、疲れ過ぎてるみたいだ)  シンはオンボロな椅子を取り出し、それに座った。  ☆☆☆  暫くの時間が過ぎ、シンは目を覚ました。  自身の身体の調子を確認すると、シンは多量に使った魔力が回復し切っている事を理解した。  丁度一段落を終えたとシンは思い、"よし、レイに会いに行こう"と、自身が居る空間をねじ曲げてレイの居る洞窟へと空間を繋げた。 「主っ!?」  繋げた瞬間に、レイがそう悲鳴の様な叫びをあげてシンに抱き着いた。 「…どうした?」 「どうしたではありませんよっ!? もう既に1日以上経ってますっ! 心配したのですからね!?」  レイの突然の行動に驚き訊ね、叫ばれた訳の叫びを聞くと、シンは1日が経過している事をやっと理解した。 「あれ? でも、レイって空間魔法使えるよね?」  だが、シンは"空間魔法"が空間を創り出す事と、知ってる場所に転移する事の2つが主な能力であったことを思い出した。 (…来ようと思えば来れたんじゃ…)  そんな思いがシンの頭に浮かぶ。 「行った事も無く、記憶もしてない所には行けませんよ?」 「あれ? そうなの? でも…見せたよね?」  シンの記憶では、空間魔法で空間をねじ曲げて、無理矢理に此処とヘブンズガーデンを繋いだのを一度見せた筈だった。  シンはそれを自身の記憶違いかと思いそう聞くと… 「すみません。……記憶してませんでした」  少し"しゅん…"としながらレイはそう告げた。 (…ああ、なるほど、うん)  そんな態度のレイに、シンは何かを言う気にはなれなかった。 「まあ良いや、レイの体を作るからこっちに来てくれる?」 「…はい、わかりました」 (…少し落ち込んでる? 初めて見た…かな?)  目に見えて落ち込んでいるレイに掛けられる言葉は、シンには思い当たらない。  少し気にしつつもシンは、レイとヘブンズガーデンへと入った。  そしてシンは、レイに改めて"どのような外見にするか"を尋ねる。すると、"このような体が良いです"と自身の体を示して、レイは即答した。  因みに今、シンの前にいるレイの身体は彼のどストライクだ。  黒髪で碧眼、胸は可もなく不可もなく、さらにスレンダーボディで、身長は彼より高い。…シンの記憶を持っている証拠である。  とは言え、好みである事と性欲が溢れることは全く違う。 「創造魔法、"レイの身体"」  シンは創り出そうとした。先に作ったトランスアーム同様、手抜きをする気は全く無い。魔力をありったけに注ぎ込み、今度はなんと、自身が分裂する様な感覚に襲われた。  それに耐え続けていると、やがて小屋の中にあるテーブルの上に、求めていたレイの身体-腕の部分は存在していない-が横たわった。  黒髪碧眼、それから大き過ぎない胸を兼ね備えた、それはとてもとても綺麗な身体だった。 「主っ!?」  それを見て達成感にあふれたシンは、ゆっくりと後ろへと倒れる。 「…少しお休み下さい」  そんなシンを受け止めたレイは、そう告げるのだった。  ☆☆☆☆☆ 「ん……、…ここは?………洞窟かな?」  シンは目を開いた。一瞬何処かと思い、そう呟くも自身の寝床であることを理解した。 「そうです。主」  ベッドの隣で控えていたレイが答えた。 「レイ、ありがとう」  シンはそう言い、早速立ち上がろうとする。 「もう少し休んで下さい。…そこまで急ぐ必要はありませんから」  しかし、レイに止められた。  実はレイには、少し無理難題を言い過ぎたという罪悪感があり、若干反省気味な状態だった。だからシンが起きるまで、付かず離れず彼の側に居たのだが、勿論、彼にそれを知る由は無い。  我儘は言ったが無理をして欲しい訳では無かった。そんな事を彼に告げた所で、それは後の祭りだろう。 「そっか、じゃあ、もう少し休むよ」 (そう言うなら思いっ切り休む事にしよう)  心の底からそう思い、シンは再度眠りについた。  ☆☆☆☆☆☆  それからまた、シンは目を覚ました。  よく眠った。その思いから一想いに、レイの身体を仕上げてしまおうと彼は考える。彼は"ヘブンズガーデン"へと移動した。  シンは手始めに、レイの身体を創る為に必要な能力を揃える事にした。 「能力創造、"魔術"、"身魂分離"」  魔術は魔法陣を模倣したり、書いたり、発動したりする技術で、魔力が無ければ意味の無い技術である。  もう1つの"身魂分離"というのは、文字通り身体と魂を分離させる能力である。  さらに、創ったばかりの"魔術"と"創造魔法"で、とある魔法陣を続けて創り出した。 「創造魔法 "接合魔法陣"」  それは名の通り、物と物をくっつける魔法陣だ。今回はレイの身体とトランスアームの接続に使う。 (さて、始めようか)  身体を創る為のそれらを揃え終えたシンは、やっとの想いで、レイの身体の組み立てに着手し始めた。  レイの身体とトランスアームを接合した。当然、妥協の欠片すら残さない様に魔力は潤沢に使った。これで身体の方は完成しただろう。 (…さて、最後の仕上げにレイを呼ばないとね)  そう思い、シンは身体を送る存在の元へと移動した。  ☆☆  シンはレイを呼びに行き、洞窟で彼女が作り出した食事を食べ、彼女を連れて"ヘブンズガーデン"へと戻って来た。  これからが、レイがスライムから脱却する為の最終段階だ。  唐突ではあるが、このヘブンズガーデンと名付けられた亜空間は太陽が登りっぱなしで、尚且つ、洞窟は外の明かりはあまり入らない。 (…どれくらい"レイの身体"を創る為に引きこもってたかな? いや…………そんなに言うほどは掛かってないかな。…寝ている時間の方が長い……?)  今まで、その様な空間に引き篭もっていた事も相まって、シン自身、少し訳がわからなくなっているのも事実である。 (…気にしてもしょうがない) 「レイ、今からレイの魂をそっちの体に移すから、その台の上に横になって」  思考を放棄して、シンが指示を出す。レイは人型からスライム型へと変身し、そして、指定した台の上に‐液状に‐広がった。 (…さて、出来るだけ慎重にやらないとね) 「身魂分離」  とうとう、最終段階が始まった。  シンは手を翳して、そのレイの魂をスライムの体から抜き取り、新しい体にレイの魂を入れ込んだ。  それから暫くすると、レイの新しい体は起き上がった。  最後の仕上げは、今までの苦労がまるで嘘だったかのような、そんな呆気無さであった。 「主、恥ずかしいので服を下さい」  その体でレイが発した‐表情に変化はなく‐初めの言葉はそれだ。とりあえずシンは、彼女に謎のローブを羽織らせた。 (…エロい…ね、とにかく早くレイ用の服を作らないといけなさそうだ…)  内心で舌を巻くくらいに綺麗なレイの身体に、シンはそんな感想を浮かべる。 「どんな服が欲しい?」 「とりあえずズボンとシャツ…全般的に主と同じ物で構いません」 「わかった、じゃあ、作るから待ってて」  取り敢えずは、今の状況を変える為に‐シンが着ていない彼自身の服‐ズボンとシャツをレイに投げる。  それらは耐久性も何も無い、只々シン自らが物作りが上手くなる様に…と作っていただけの余り物である。 (何となく着ていたローブをレイに持たせたけど、…初めからズボンとシャツを渡せば良かったかな…)  シンは少し反省しつつも、レイに自身が着けている装備と同じ物を作る事にした。  やがて、自身の装備を作る時と同じ手順で、それらを作り終える。一度創り出したモノの為、それなりに時間が掛かってない様にシンは思っていたが… 「レイ、出来た…よ? あれ?」  自身の後ろにレイが居るものだとばかり思っていたシンは、後ろに彼女が居なくて拍子抜けする。と、同時に案外時間が掛かっていた事も理解した。 (ここに居ないって事は、洞窟の方に居るのかな?)  そう考えたシンがヘブンズガーデンから洞窟へと移動すると、予想通りにレイはそこに居た。 「主、お疲れ様です。食事の用意が出来ていますから…先に食事にしましょう」  レイは先に戻って食事を用意してくれていたらしい。 「あ、うん、ありがとう。レイの装備はこれに入ってるから」  シンは食べる前に、作り終えた衣服類や、その他の使えそうな道具が入っているアイテムボックスを渡す。今、彼の手を離れたアイテムボックスは昨日、とんでもない事実に触れた原因になった。  そう…、"ステータス"の存在意義だ。 「ありがとうございます」  レイは軽く頭を下げ、それを受け取った。  ステータスについてを語るのは、今はまだ時期ではない。何故なら、未だにシンも理解が出来ていないからだ。 (さて、食事だ食事だ、今までちょっとドタバタしていたから、今くらいはゆっくりしたいな)  そうしてシンとレイは共に食事を取り、彼の思惑とは真逆に、彼自身がゆっくりと過ごすことはなく、すぐに眠りについてしまった。  レイが食事を取る事に、少し驚きを覚えたシンが居たことは蛇足になるだろう。
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