1 / 176

プロローグ

 とある世界とも呼べず、とある場所とも呼べぬ場所に何かが存在していた。 その場はあまりにも閑寂で寂寥感に包まれていた。  一滴でも水滴が落ちれば…、その音は響き渡ってしまうであろう静けさだった。 (…ここはどこだ? 何も無い白い部屋)  その何かはやっとの事で思考を動かし始めた。 けれど、その空間に変化を齎したのは、"意識が一つ出現した"、その事実だけだった。 「あら、何故ここに意識が?」  そんな空間に別の意識が出現する。その意識が先の意識と違う点は一つだけ、"意識が一つ出現した"、その事実以外にも、空間に変化を齎していた。  まるでこの空間が――――――、彼女の所有物であるかのように…。 (…貴方は誰?)  彼は自らとは違う存在に問い訊ねる。彼は口が無い事に疑問を持たない。 「私はこの家の主です。貴方には…そう、ですね。どっかの世界にでも降りてもらいましょうか。どちらにせよ、この空間に居て貰っても困りますから」  少しだけ困った様な顔をした彼女は彼に喋りかける。 (世界って…何だっけ?)  彼の記憶は"世界"という言葉を知らない。――いや、記憶が混濁しているだけかもしれない。 「そこから…ですか? いえ、…ああ、なるほど」  彼の思考に対して、彼女は不審な目を向けて()の意識を覗く。そして、そう言う事かと勝手に納得する。 (何か?) 「いえ、何でもありませんよ。でも…そうですね、貴方が降り立つ際に(記憶)を開けて差し上げましょう」  彼は記憶を持っていない訳では無いのだ。 「そうですか、そうですか」  彼女は頷きながら彼に手を翳した。彼の意識を包み込むように肉体が生み出された。    ――思えばここから、彼女は彼に唾を付けていたのかもしれない。彼が良き隣人に成り得るように。 「…これは、いったい」  声が出る。彼の意思は受肉する事で、幾千もの存在しあう様々な世界の外で産み落とされる。 「私は貴方の母です。母はもう一人で居る事に疲れました」 「…何を…」 「貴方に私の力の殆どを…与えます」  彼女の手が彼の体に触れられる。彼の体は様々な光を発散、光の奔流が彼と彼女の周りを漂った。    ――彼の体にまるで竜巻の芯の様に、それは吸収される。 「母が我が子に願うのは、我が子が幸せであれ…それだけです」  ぽつり、ぽつりと彼女は言葉を紡ぐ。 「故に、貴方が良き家族を得て、良き住まいを手に入れたのなら…私は貴方の住まいにお邪魔しましょう」  今だ紡がれ続ける言葉。 「故に、貴方にはここでの記憶を忘れて貰います」 ――――彼の意識は暗転した。 ☆☆☆☆ 「…ここは?」  彼は目を開く。彼は大の字に横たわっていたらしい。彼の目線の端には青々とした木々が見える。 (私は誰なんだろ?)  自問する。…が、答えとなる記憶は持っていなかった。だがしかし、彼が住んでいた世界を、記憶の一端を思い出していた。  ――それは彼が"地球に住んでいた"という証明。 (これが…私なのか? わからないな)  彼はその記憶に少なからず違和感を覚えた。何となく、その記憶だけではない気がした。…けれど、彼はその記憶を受け入れた。  "ガサガサっ"、彼の右上から音が聞こえる。 (なんだろう?)  彼は疑問を抱きながらも起き上がり、物音がした方を向いて立ち上がった。彼の目には緑色の人型が映る。映ったと同時に彼の頭中に浮かぶ様に、彼が見知らない表が出現する。  ・名前  ・種族 人族?  ・性別 ♂  ・年齢18  ・Lv.1  ・職業 世界の旅人  ・スキル   無し  ・ユニークスキル   無し  ・ゴッドスキル   不老不死   超再生  ・???スキル   能力創造 (なんだ…? これ…?)  彼はこの表を知らない。…が、何となく自らを指し示しているのだと理解する。  彼が考えている間に、緑色の人型が棒を彼に振るった。緑色のそれの大きさは、彼の身長の二分の一程だった。  彼は反射的に、緑色の身体を蹴り飛ばす。飛び掛かってきているのだから、緑色の身体は踏ん張れずに空中を飛んで行った。 (なるほど、あれが敵なんだな?)  彼が持つ"地球の記憶"以外に、目の前の敵を排除しろと衝動を走らせる何かがあった。彼は緑のそれが落とした棒を手に取る。  めきゃめきゃめきゃ  棒の先っぽを圧し折る。簡単な刺突武器が出来上がった。  彼は飛んで行った緑のそれに向かって走り出した。その速度は人の物ではない。彼は知らぬ間に自らの身体を強化していた。  そしてそのまま、緑の頭に棒を突き刺した。 (これで終わった)  彼はそれの息の根を抜いた事を確認する。 (何処かに住まえる場所は無いか?)  それを視界の外に捨て去り、彼は記憶にあった住まいを探し始めた。 ☆☆☆☆ (…"能力創造"とやらは言葉のままなのか?)  彼は地面を歩きながら、自らの能力の検証を行っていた。 (ならば…"能力創造"で、この地に関する事柄を理解出来るようにしよう)  彼は自らの足が着いている惑星を知れる能力を欲した。 ("能力創造"発動。…発動しない)  物は試しだとやろうとしたのだが、発動しなかった。かくなる上は…、とそう思い彼は口に出すことにした。 「"能力創造"、"惑星(ほし)教科書(あるきかた)"」  彼の表には"惑星の教科書"という名前が表記された。  何故こんな名前になったのか、それは彼の記憶には"物事を教わるのは教科書からである"と覚えているから、そして"旅をする際に使っていた教科書がそんな名前だったな"と思い出したから。 (発声する必要があるのか?)  彼は疑問に思う。そんな中、彼の視界の隅には洞窟が見えた。雨風が凌げそうな場所だ。  彼の足は洞窟目掛けて進み始めた。
良い
エロい
萌えた
泣ける
ハラハラ
アツい

ともだちとシェアしよう!