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1-4-23-2 【桜瀬七波】 サーキットブレイカー 2

―― ―――― ……不和無計算の 策動の向こう側 君の慟哭に 手が届かない 下りてくるナイフに 劣情の揺らめき 足止めの叫びと 不浄の響き 今、君に好きと伝えられたなら ガラクタのマーチに身をゆだねても ルサンチマンに別れを告げて 車輪の重みに心地よさすら見い出せるのに ??『――……――っ……』 Lovin' you, and call me, endless.... Lose sight of enemy, aim less..... Lovin' you, and call me, endless.... Lose sight of enemy, aim less..... Where will I go on that Absurdity...? かんかんかんかん…… かんかんかんかん…… かんかんかんかん…… かんかんかんかん…… ??『――ナミ! ……ナナミってば!』 七波「えっ……!?」  あたしはハッとして顔を上げる。  耳元で流れる軽快な音楽。  ヘッドホンから流れるそれに身を預けるようにして、あたしはただ、無心に歩いていた。 ??『うつむいて歩いてたみたいだけど、気分は大丈夫だよね?』  そう言ってあたしの真横で、併走するようにフワフワと浮いているのは。 七波「あー……うん。クレシダの言った通りみたい。今んトコ、気分が悪いとかはないみたいだよ」  キラキラと金色の光を尻尾から柔らかく周囲に散らす解説イルカ――クレシダに、肩をすくめながらあたしは答える。  自分の周囲を見回す。  あたしは今、例の、スマホでアプリを起動させると突入してしまう謎空間を歩いている。  様々な色の線が幾重にも走るその青に染まった空間で、こないだと同じく、体はいくつもの出所不明の線に貫かれてはいるけど、今回は気になるようなことはない。  あたしのヘッドホンから流れるハイテンションなメロディ――クレシダいわく、これのおかげだって話だ。 クレシダ『なんてーか、結局『気にしちゃうから』その音って聞こえちゃうんだよね。別の音に聞き入ってれば、悪孔架線(あこうかせん)の影響はないと。うん、ナナミのおかげでこの空間の仕組みがまた一つ解明されたワケだ!』  かく言うクレシダの声は、発せられると直接頭に入ってくるような感覚があって、音楽を聴いていても、その伝達内容が阻害されることはない。  ちなみにこのヘッドホンは、いつもリュックに入れて持ち歩いてる、ネックバンドタイプのもの。  折りたたみも可能で、桜色と白の、実にスタイリッシュな一品。耳をすっぽり覆い込むタイプで、音質もお気に入りだ。 七波「……解明って、そんなに知らない事がいくつもあるって事なワケ?」 クレシダ『そりゃそうだよ。この空間でこうして生きるために、ナディアシステムをマスターが初期リリースしてから、この星の時間で言えばまだ56259992秒ほどだからね』 七波「……日とか年で言ってくんない?」 クレシダ『え、伝わってないの?』 七波「伝える気ねーだろ! この星にはもっと分かりやすい単位がちゃんとあんの!」 クレシダ『あー、ナナミじゃしょうがないか』 七波「待て待て! あたしが例外じゃないからね!?」 クレシダ『えーとね、1年288日15時間47分12秒になった』 七波「……それなら分かった」 クレシダ『良かったー、通じたよー』 七波「その内、絶対お前を消す方法を見つけてやるからな」  ふん、と鼻を鳴らす。  多分、いつもの変顔になってると思うが、美意識とは無縁と思われるこの魚類には、顔の繊細な変化なんぞ理解できない事であろうて……。 クレシダ『知らない事があるどころか、まだまだ空間の意義や物理解釈の触り程度しか解明できてないんじゃないかな。何が起きるか分からない事だって色々出てくると思うんだよね』 七波「そっか、あたしはそう思っちゃってたんだけど、ここはあんたのマスターが作った空間ってワケじゃないのか」 クレシダ『この次元に自分の意思で新しい空間を作るなんて、5次元以上の存在でもない限り無理なんじゃない? そんな人に会ったことないから知らないけど』  割と適当な事を言う補助システムである。インターステラーとかかなー……。 七波「えーと、悪孔架線(あこうかせん)? ってのは? この、あたしをザックザクに貫いてくれてる線?」 クレシダ『そそ』 七波「……誰かが、何かに引っ張られてる心……だよね?」 クレシダ『うふふ……具体的に教えてもないのに、いい勘してるじゃない。その『何か』ってのには、ナナミは気付いてるんでしょ?』 七波「やだ、そんなの……言うの、はずかしいよ……」 クレシダ『……思ってないよね、絶対』 七波「うん」  ぐっと拳を握り締め、身構えるようにしてポーズ。 七波「くくく……我は高らかに人の幹に根ざす導きの牧童の名を放吟しよう! その名は『悪』!」 クレシダ『はいはい』  悪そうな笑顔で。 七波「悪!」  戸がガラガラっと。 七波「開く!」  お玉で掬って。 七波「灰汁!」  寝転がって。 七波「飽く!」  クレシダの頭に手のひらを乗せて。 七波「握ッ!!」 クレシダ「ギャー!! ……って何してくれてんのっ!」 七波「頭部を破壊して失格にしようと」 クレシダ「何言ってるか分かんないけど、ボクが壊れたらナナミのサインアウトだって保証できないんだからね!?」 七波「ふんふんふーん♪」  『悪』……ね。  もちろんそれは端的に表現した場合の言葉以上のものじゃない。……ってゲフリーさんは言ってた。  実際には、あたしの言う厨二的な『悪』以上の概念というものがあるんだろうけど、まぁ、今はそれは言及する必要はないだろう。  少し心を落ち着ける。  そしてあたしの知る空とは違う、不安を湛えた深い青色を見つめた後、静かに目を閉じて……。 七波「……っ……」  あたしは、首を撫でる。  それは、あの時――ゲフリーさんの巻きつけられた腕を、思い出しての事。  そこにあるのは『恐怖』という名の悪。  だけど、なぜだろう。  それを乗り越えた今、『恐怖』の端っこで見え隠れする、別の感情があるのは……。  ……。  ……ゆっくりと目を開くと、あたしの体から真っ直ぐ伸びる鈍い銀色のような輝きの線。 七波「引っ張られてるんだ、あたし……。この線の先にいる人に」 クレシダ『マスターは、引っ張られるというよりも、『落ちる』っていう表現をしてたけどね』  落ちる……落ちる、か。……あたしは何に落ちてるのかな。  まぁ、今はそれはどうでもいい。  基本的に、この線にあたしはぐいぐいと――要は、物理的に引っ張られることはない。  でも、あたしの意思は、導かれるようにその線を辿って真っ直ぐに歩く。  ――それこそ、この空間の言う『孔に落ちる』という事なのかもしれないと思った。  周囲には、障害物を示す白いラインがいくつもある。  ……これは前に予想したとおり、あたしのいるべき元の空間の建物の縁取りのようなもの。  でもこの謎空間は、それを無視して歩いていくことができる。 七波「クレシダ。なんてーか、こんな風に何でも通り抜けちゃったらさ、地面とかに立ってられなくなるんじゃない?」 クレシダ『それは大丈夫。ボクがこの空間上での地面をオートで設定してるから、ナナミは地面を歩くみたいに、この空間を歩けるんだよ』 七波「ほーほほー。じゃ、その設定がなくなったら、あたしはブラジルの皆さんにご挨拶ができるって事かな?」 クレシダ『重力のコントロールもしてるから、すぐにはそうならないと思うけど』 七波「……ふむ」  実際、病室から出ることができたのは、この空間の補助システムであるクレシダの重力コントロールによる。  この空間に入り、窓から度胸で飛び降りたが、その際にクレシダが重力を10分の1に落としたことで、5階の窓から飛び降りてもあたしは怪我一つ負わなかった。  感じたことのない綿のような落下だったから、逆にタイミングが掴めずに着地でよろめいた程だ。  ……ってか。 七波「この空間でコケたら怪我とかするの?」 クレシダ『するよ。死んだりもする』 七波「マジでか」 クレシダ『まぁ、何かあってもボクがナナミのステータスをフォローしてるから、滅多に怪我や事故で死んじゃったりはしないけどね』 七波「……滅多に?」 クレシダ『うん。重症でも即死じゃないなら、この空間の生体ステータスは、長くても……そうだね、13秒で完全に元の値に戻せる』 七波「……HPの数字を元に戻すみたいな?」 クレシダ『この星のゲームの事だね。その認識で間違ってはないかな。残念ながら値を『書き換える』って形での対応はできない。一定の数値を生成して、足していくってイメージしてもらえばいいかな』 七波「僧侶クレシダが、ベホイミを何回も使う感じか……」 クレシダ『この星の有名なRPG、だっけ?』 七波「お? 分かるの?」 クレシダ『むふふ、ちょっとマスターから言われた事があって、そういうのを独自に調べててねー』 七波「んんん? ……何それ?」 クレシダ『まーまー、それはそれって事で』  この星原産でもないクレシダがゲーム、しかもRPGなんて略語まで理解してるとは、結構がっつり調べてる印象がある。  何を調べてるんだろう? ……ってか何を企んでるんだろう……。 クレシダ『話を戻すと、もしもこの空間で何らかの外的要因による事故が発生した場合、ボクの治療が追いつかないことがあるって事。その時は死んじゃうから気をつけてね』  ……。  ……今この現状がある程度安全だから、どんなヤバい事が起きるか想像できないけど、例えば。 七波「……ゲフリーさんに刺されると死んじゃうって事?」 クレシダ『マスターだけじゃないかもよ』  どれも少し距離はあるけど、周囲にちらほらと見える『人』を示す球体に一度視線を向けて。 七波「周りの、あの球体がなんかしてくるとか」 クレシダ『あの球体――孔球(こうきゅう)って言うんだけど――それから直接ナナミに何かするって事はないよ。ま、さっきも言った通り、ここは結局解明し切れてない空間だから、何が出るか分からないって事で』 七波「……何が……『出る』か?」  うーむ、こいつはなんとも伏線的な……。  ……一体この空間に、何が現れるってんだろう?  とにもかくにも、あたしは詩遥ちゃんが出て行った後、病室から出る手段を講じるため、この空間に来る事を選んだ。  さっき病室で目を覚まして最初にスマホを手にした時、クレシダからプッシュ通知によるメッセージが入ってたから。  『悪孔空間での悪影響のない滞在方法が見つかったよ! ヘッドホン、持ってたよね? それを装着してサインインして来てね!』  その後詩遥ちゃんと色々話したけど、そのメッセージを読んだ時点で、既に病室からの脱出方法は決定していた。  ドアからそのまま出ても良かったんだけど、どうせならこの謎空間――悪孔空間の一部を紹介するって、クレシダの勧めで窓からダイブしたんだよね。  ……一瞬クレシダからのメッセージ忘れてて、カーテンを窓枠に結ぶトコまでして。 七波『よっしゃカーテンで脱出! ……って出来るかい、こんな短さで! 5階だぞ5階!!』  って一人ノリ突っ込みは入れたけど……。……ん? 何か聞きたいことある? クレシダ『で、ナナミは大丈夫?』 七波「……何が?」 クレシダ『さっき。歩きながらぼんやりしててさ』 七波「……あ、さっきの」  ……変な空想した。  あたしは手に持つスマホの画面を覗き込む。それはこの曲のせいなのかな……?  作詞作曲・cybo-X。シボXさんとか、シボックスさんとか呼ばれる。  ボカロPとしては、動画投稿サイトのミリオンの常連さん。  これまでリリースしてきたどの曲も超カッコよくて、歌詞もすごく詩的なんだよね。  この人の39作目となる『サーキットブレイカー』がこの曲だ。  もうリリース当初から必然的な人気に溢れ、色んな人が我も我もと、どんどん『歌ってみた』動画を公開してる。  あたしは原曲も必ず一度は聞くけど、歌い手さんたちの多様なカラー溢れる『歌ってみた』動画も一通り聞いて回ってお気に入りを探すタイプ。  その中でも今回あたしにジャストフィットしたのが、玖龍(くーりゅー)さんというイケボ(イケメンボイス)の歌い手さんだ。こちらも『歌ってみた』の常連さん。最近ではTVアニメのボーカルもやってるのが個人的に嬉しい。  と言う訳で、今回の玖龍さんの歌う『サーキットブレイカー』は、今あたしが絶賛激ハマり中。  聞いてないと、頭でヘビーローテーションが始まるので、生きるのがつらいです……。カラオケ熱唱必至。  曲調は完全にロックなんだけど、ラストのサビ前の長めの間奏と、エンディングに少しアンビエントな色があって、不思議な雰囲気を醸し出してて。  更にそこに玖龍さんの加工された神秘的なコーラスが入るから、ふっとした瞬間にトランス状態に入ってしまいそうになる。  ……実際、そうだったのかもしれない。  この曲には、既に共感した動画職人の手によって、原曲ボーカロイド・葦原ミズホが主役となるセルアニメーションの動画も投稿されてる。  曲の厨二的な、鉄臭い世界観を描いたハードなアニメーション。  恋人と、死と、理想とが折り重なり合う歪なシチュエーション。  その中でずっと響くあの音……  かんかんかんかん……  かんかんかんかん……  あのアニメーションの中で……葦原ミズホが『あの場所』で物憂げに佇む絵に……あたしは何かを重ねたんだろうか……? 七波「……そうだ、クレシダ」 クレシダ『何?』 七波「この空間って、電波は……あー、うん、繋がんないよね」  燦然と輝く『圏外』の二文字。かけてみても、当然コール音に変わらない。 クレシダ『そりゃ、ナナミの基茎座標空間とは隣接空間とは言っても結局、別空間だし。その端末の電波はこの空間には存在しないワケだから、通じないでしょ』 七波「じゃアレだ、一回外に出してくんない? ちょっと電話しときたいトコがあって」 クレシダ『別にサインアウトは自由にしてもらっていいよ。ボクはナナミの行動を阻害するように出来てないし、サインアウト出来ない時はナナミの端末側が拒否するし』 七波「あ、そうだったね。……あれ、でもここ大丈夫だよな……?」  サインアウトできると言っても、あたしの立場的に出てはいけない場所というのはあるわけで。  しかし、都合よく正面から人――を示す孔球とかいう、小さめの丸い黄色の球体。  どうやらあたしは今、周囲の白いラインから判断するに、普通の道の真ん中にいるらしく、その球体はあたしの横を一定の速度で通り過ぎていく。  ……まぁ、向こうはこちらが見えてないだろうけど。  とりあえずこないだみたく、マッシヴな人たちの裸体の園に出てしまうことはないらしい。  ――サインアウト。世界がパタパタと折りたたまれていく……。    ◆ 七波「……」  一瞬、周囲は真っ白になり、それが明けた後は呆気なく――今回は実に何事もなくこうしてこの空間に戻ってくる。  別に吐き気があったりストレスがあったりすることもなく、体にも何の影響なく、ただ周囲がすり替わっただけ。  無機質な3D空間に色がついた、とも言えるかもしれないけど、とにかく大した感慨もない――そんなサインアウトだった。 七波「……どこだー、ここは……?」  曲を止めながら周囲を見回せば、辺りは既に暗い。  大分静かだけど、住宅街のはずれ。古い一軒家が立ち並ぶけど、前方――少し離れた場所には、でかくて古い建物が結構並ぶここは…… 七波「……南与野城(みなみよのしろ)の……倉庫街かな……?」  どうも線を辿ることで、あたしは町外れに向かっているらしい。  確か大分昔、遠足だかで、この辺の林間公園まで来たことがあったはず。ここから先は林が広がり、更に先には山間部になるため、人が住むには適さない。  あんな感じの倉庫を並べとくには、いい場所なのかもしれないけど。  ……なるほど、そういう事か。  『人が隠れて過ごす場所』なら、人の出入りが少ないほうがいいはず。  ……最後のタイミングだったかもしれない。電話しなきゃ。  コール。   ◆  ――LINEにあったお兄ちゃんからのメッセージ。  『無理はしないで、休めるならちゃんと休む事! 必要な時には誰かをちゃんと頼る事!』  『夜までにはそっちに行くからね、こっちは心配しないで大丈夫』  たったそれだけだったけど、それを読んだら、急にお兄ちゃんの声を聞きたくなった。  ……いや、多分文面がどんな内容でも、そうなっちゃっただろう。  だからLINEは、病院を出てから見ようと思った。  病室で読んだら、お兄ちゃんを待ちたくなっただろうから。  『しなきゃいけない事』を、ずるずると先延ばしにしてしまいそうだったから。  もっとも詩遥ちゃんのお願いで電話は一回かけたけど、その時お兄ちゃんが出なかったのは逆にあたしの、『今のこの行動』の決意を固めるいいきっかけになったと思う。  後に引けない状態で、お兄ちゃんの声を聞くべき。  そうすれば、あたしは――。   ◆ 人治郎『もしもーし! 七波ちゃん!?』  ヘッドホンから、聞き慣れた声。 七波「おお、出た出た! うぃす、お兄ちゃん」 人治郎『起きたんだ、良かったよー! ごめん、電話出れなくて。ちょっとお店がどたばたしてて、気がついたの、ついさっきだったんだよね』 七波「え、マジ? 大丈夫、電話してて?」 人治郎『もちろん。今は大丈夫だよ。……体調、どう?』 七波「……。……うん、体調は大分いい」 人治郎『あ、ホント? 良かった良かった。えっとね、もうちょっとして、ちょっと会わなきゃいけない人と会ったらすぐ病院に行くから』 七波「……っ……」  そうか……お兄ちゃんは、まだあたしが病院にいると思ってるみたいだ。  そんなお兄ちゃんは、相変わらず細かい事を聴こうとしない。  話したい事があるなら話せばいい。  お兄ちゃんは全てを聞いてくれるだろう。  ……でも、今はダメだ。  思い出すな。 七波(んっ……!)  遮断しろ。  遮断しろ。  遮断しろ……。 七波「……。……了解! お兄ちゃん、後で会おうね! 約束!」 人治郎『ほーい。……。じゃあ、後ほど!』  その僅かなやり取りを最後に……少しだけ向こうのリアクションを待ち、通話が切れた音を聞いて、あたしも終話ボタンを押す。  ……お兄ちゃんは知っているはずだ。  あたしの今置かれた状態が。  そして……何があたしの身の回りに起きたかも、絶対に。  でも、それを言葉にしなかったお兄ちゃん。  ありがとう…… 七波「あたしの決意を……変えないでくれて……!」  その一言で、あたしはキャスケットを被り直す。  後に引けない状態で聞いたお兄ちゃんの声。  それはあたしに帰るべき場所がある事を教えてくれた。  そして、闇の帳が下りてこようとする倉庫街を、ぎらりと睨み付けて目的を再確認する……! 七波「……行って来ます……!」  あたしは再び謎空間にサインインする……!    ◆ クレシダ『……ステータスチェック開始。バイタル安定。メンタルポテンシャル水準値。体温異常なし。アバターリンク正常。リアクションバッテリー64%。装備システム条件付き起動。装具・オールアクセプト。システムユーザー・『ナナミ』、IDを認証。サインインを完了。……おかえりー。』  再び青と白、そして幾多の線が支配するここへと戻ってくると、キラキラ、すいーっと優雅に空中を泳ぎながらやってくるクレシダ。 七波「ただいま、クレシダ。さ、行くよ」 クレシダ『あ、うん。……でもね、もう行かなくてもいいかも』 七波「え?」 クレシダ『ほら』  クレシダの鼻先が、あたしの歩むべき方角の前方を指す。  ……鈍い、銀色の孔球。  あたしの体からも同じ色の線が発せられている。  それはつまり、その人はあたしにとって少なからず『悪』であるということ。  あたしは、あたしにとっての悪と対峙する。 七波「あっ……」  銀色の球はゆっくりと、その形を変えていく。  この空間における、人間をあらわす球体とは明らかに異なる形状へと。  『人の形状』へと。  そしてその人は、何事もないかのように『音を発する』。 ??「……言っただろう。お前は必ず、この空間に接すると」  そしてその姿は完全に人の形を取り、白いロングコートの男が現れる。  あたしを救い、そしてあたしを殺しかけたその人が、悠然とあたしの前に立っていた。 七波「……ゲフリーさん」  その人は――ゲフリーさんは相変わらず無表情のまま、いつものように右手の親指で左の耳たぶを擦っていた。
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