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1-4-22-3 【卍山寺詩遥】 心中、披歴 3
??「……さん。……卍山寺 さん」
詩遥「は、はいっ!?」
呼ばれて慌てて顔を上げると、傍らに看護師さんが医療器具の乗ったカートを押して立っていて。
看護師「桜瀬さんの回診なんですけど……いいですか?」
詩遥「あ……あわっ!? あそっか、ハイどうぞ!」
慌ててそこを――扉の前を飛びのく。
ものの見事に出入口を封鎖してしまっていた。
看護師「ふふ、ありがとうございます」
同じ歳ぐらい『であるはずの』看護師さんに笑われた。……やっぱり小学生扱いされてんのかなぁ……。
詩遥「ちょっと……私もご飯買いに行ってきますね」
看護師「分かりました。お帰りまで私が見てますから」
そう言って入る前に、何やらてきぱきとカートの上で準備をする看護師さん。
歩き出す前に、私はもう一度考える。
何を話してもいいという事――私に与えられている中途半端な情報で知っていることを話すなんてのは、それは七波ちゃんの心を煽るという事に他ならない。
それをする事で、どんな結果を期待されているのか。
……最終的な上の考えは私には分からない。
だけど、それをする事で、何が起きるのか――その方法は分からなくても、容易に想像……。
看護師「……卍山寺さんっ!!」
詩遥「えっ……?」
部屋の中から、悲鳴にも似た声。
看護師「桜瀬さんが……いませんっ!」
詩遥「……えっ、早っ!?」
看護師「はや……?」
詩遥「い、いや、なんでも!」
そう、遅かれ早かれ、こうなる訳だ。なるほど『色々便利』ですか……。
でも、ここまで早いとは私も想像していなかったんだけど……!
……部屋の中のベッドはもぬけの殻。
荷物もわざわざ全部この部屋に置いておいたから、着替えには困らなかったろう。
看護師「……そんな……こんな所から……!」
そう絶句する看護師さんの視線の先に、開かれた窓。
その窓には、外に向かって窓のカーテンがぶら下がっており……。
詩遥「……いやいやいやいや! ないないこれはない!」
ここは地上5階。窓の外を見ると、カーテンは一本しかぶら下がっておらず、5階のここからこれを使って降りるという事は、最低でも4階分は自由落下する事になる。
4階の窓から部屋に入るという手段もあるだろうけど、ここから乗り出して見る限り、ガラスが割れているようにも、階下の窓が開いている様子もない。
これは何ともミステリー。
一体七波ちゃんは、どうやってこの部屋から抜け出したのか。
ずっと扉の前に私はいたわけだから、出入口は使っていない。なら『扉を潜らなくても部屋を出る方法』というものを七波ちゃんは持っていると思われる。未知のテクノロジーか、それとも魔法か。
……宇宙人と言う存在の出現で、私はその辺はもう綺麗に割り切っていた。そんなものに横っ面を殴られれば、嫌でもそうなるって話で。
ただ、この窓のカーテンを見た私には、一つの確証があった。
『七波ちゃんは自分の意思で、この部屋から出て行ったという事』。
少なくとも、唐突に消えたからと言って、あのフレイバーンとやらにさらわれたとかいう事はない。それならこんな物は残らない。
……私にはこれが、そのメッセージに見えた。
詩遥「とりあえず、病院全体に通達してください!」
看護師「分かりました!」
この部屋からの脱出の方法は今はいい。
私はスマホを取り出して、課長に事態を告げる。
そうすれば、エクシコムとやらに課長から連絡してくれるはずだ。
私もそこへ合流しなければならない。
でも、その前に。
私は私に課せられた『大切なことのため』に、走り出していた……。
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