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1-4-22-2 【卍山寺詩遥】 心中、披歴 2
……さて。
立てた右肘を、左手で支える。
そして額を、右拳の人差し指でこんこんとノック。
病室でやるべきことは全て出来たはず。
懸念は色々あったけど、まずそれはよしとしよう。
私は七波ちゃんの傍につくという任務を受けて、ここにいる。
表向きはあのフレイバーンとやらからの警護と言うのは七波ちゃんに話した通り。
でも、裏の事情というのは、実は私もはっきりと伝えられたわけじゃない。『自分で考えて』導き出したものだ。
そもそも私にとっても今回の件はまだまだ謎が多すぎる――。
◆
詩遥『……課長、それはつまり』
昨日の夜、捜査二課に戻って課長に怒られた後に交わした会話。
詩遥『その『えくしこむ』という組織は、この国のうちゅーじん対策本部であるという事ですか』
課長『眉唾と言いたいのは分かるが、要所を全部ひらがなで喋るんじゃない』
苦虫を噛み潰したような顔で課長が私をたしなめる。
課長『地球外特異点収束対策局、略してExsicom 。……俺だってこの国にそんな厨二臭い名前の組織があるなんて今日初めて聞いて、その構成員の顔、三度見ぐらいしたからな』
詩遥『大分見ましたね……』
課長『それ以上はあまり見る気にはならん顔だったけどな。……美人ならまだ見る価値もあったんだが……』
詩遥『それ言いながら視線逸らしてくの、やめません?』
課長が私に視線を戻し。
課長『美人ならまだ見る価値もあるんだが』
詩遥『後で殺します。で……どれぐらいの署員がその組織の事を知ってるんです?』
課長『署内の上の方は分からん。しかし少なくとも俺らレベルの署員なら、俺とお前だけらしい』
詩遥『機密レベルとしては、かなり高い方ですよね』
課長『本来なら、ここまで緊張感無く話す内容ではないだろうな』
詩遥『それは課長のせいだと思います』
とは言え、若干ちゃらんぽらんに見えても、捜査員からの信頼は厚い人ではあるのだけど。
実際、大目玉を食らったとは言っても、開口一番、『勝手な動きをするな、馬鹿野郎! それでだ!』って確かに怒鳴られはしたけど、テンションそのままで今のこの話に流れた感じで。
本来なら謹慎モノなのに、その程度で済むとか本気で怒ってたように感じられない。
そもそもあの七波ちゃんのファイルを私の目の前で取り落とした事も、今にして思えば作為的な匂いすらするんだけど……。
まぁそれは今は措く。
詩遥『で、今日の、あの現場に現れた連中は、全員その組織の構成員ってことですか』
課長『だろうな。そうでなければ機密は守れん。どうも完全に周囲を封鎖してから突入をしたらしいが』
詩遥『何が完全ですか……笊 もいいトコでしょう……!』
課長『辛辣だな』
詩遥『当たり前です! その人たちがちゃんと仕事をしてれば、咲子ちゃんがあんな事になったりしなかったのに……!』
……あの時。
絶叫し、暴れ狂う咲子ちゃんを押さえつけて、何とかその腕を止血しようと試みた。
無我夢中であったことが幸いしたのか、私の心に彼女の声は障らなかった。
でも、エクシコムとやらに連れていかれる時の咲子ちゃんの顔は、完全に無。
鎮静剤を打たれ、がくがくと震えながら、運ばれる――いや……連れていかれるその姿が、その顔が、私の脳裏に焼き付いて離れない。
いっそデスマスクの方がまだ、人の顔を成しているかもしれないと感じたぐらいだ。
生きているからこそ――あの表情は私を身震いさせた。
課長『あの区画は古いせいで、地元民しか知らない私道がいくつもあったらしい。……青川咲子が抜けて行った道も、そういう道の一つだという事だそうだが』
詩遥『……。……咲子ちゃんはどこに収容されたんですか』
課長『情報が下りてきていない』
詩遥『……そうですか』
課長『そもそも下りてくる保証もないがな』
詩遥『……っ……! ……そうかも、知れませんが……』
宇宙人と呼ばれる存在によって、体を損傷した人物。
……それが――咲子ちゃんが一体どうなってしまうのか、目が覚めた彼女は、いったいどういう扱いを受けるのか――私の想像では及ばないのだが、国家の厳重な管理下に置かれる事は間違いない。簡単に所在は開示されないだろう。
そして……私が知らないと口にするだけで、七波ちゃんはショックを受けると覚悟はしてたけど……あんなにまで――『人のあるべき表情を捨ててまで平静を装おうとする』その姿には……私の方が激しいショックを受けざるを得なかった。
詩遥『で、課長。私はどこまで七波ちゃんに情報を開示していいんですか?』
課長『……とりあえず、Exsicom って組織の名前だけ伏せとけば、組織の存在は喋っていい』
詩遥『そんなこと言っていいんですか!?』
課長『俺が言うのもなんだけどな、多分言っちまった方が色々便利に動くんだよ。例え桜瀬七波がそれを周囲に吹聴したって、誰がそんなSFみたいなもの信じるかって話でもあるしな。上にも確認済みだ』
詩遥『……』
……色々便利という言葉が、まず私に引っかかる。
詩遥『それだけ開示して、組織の名前だけは伏せろってのも変な話に聞こえるんですけど……』
課長『それも上からの指示でな、理由は俺にも分からない。……上にしか分からない不都合ってのがあるんだろうな。それに名前が分からないって事は実態を想像しづらい。そういう事も含めてって事だろう』
詩遥『はぁ』
全く……いいように使われる事は癪だが、何も知らないという現状では、一刑事として与えられた任務を全うする事しかできない。
詩遥『……他に喋っていい事は?』
課長『あとは俺らが知る程度の情報なら、何を話してもいい』
詩遥『……』
課長『何だ』
詩遥『いや……警察組織がやる事にしてはフワッとしてるなーって』
課長『そうだな』
……意図的であると。……それなら。
詩遥『……課長の情報で』
課長『あん?』
詩遥『私が勝手に色んな事を想像するのは自由ですよね』
課長『思想犯にでもなって俺の手を煩わせるような事にならないなら好きにしろ』
詩遥『……あんまり保証できませんね』
課長『さっさといけ』
詩遥『了解。任務に就きます。……』
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