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1-3-17-2 【桜瀬七波】 開扉の先 2
七波(まって、待ってよ、待って……! 考えろ、あたし……!)
誰かが中にいる可能性。それが濃厚にはなった。誰かが中に入って、その時にそいつが扉を開けっ放しにしたのかもしれない。
……いや待て待て、このビルは古い建物だ。立て付けが悪くて勝手にドアが開いちゃうって可能性もある。
ひとつ分かる事は、中に何があるにしろ、その先に何があるにしろ、今のこのドアの状態だとそれに遮られて、向こう側が全然分からない状態だってこと。
写った写メをよく見てみたものの、そのドア以外に気になるものはない。誰も写っていない。
……あたしの捜査は結局、閉めて先へ行くにしても、そこからビルの中を覗き込むにしても、そのドアへと辿り着かなきゃいけないって事らしかった。
ドアはこちらに向かって開く形で、中の様子はあたしのいる側からじゃ、全く見えない状態。
……距離にして5mぐらい。
あたしはもう一度角から……今度はあたし自身が顔を出して、自分の目で状態を確認する。
……特に写メの状態から変わってはいない。
一度深呼吸で、呼吸を整える。
くっそ、心臓のバクバクが収まらない。でも、気にしてたら余計に緊張するだけ……!
ゆっくりと、恐る恐るそこから出て――状況の変化が怖くて、一気に扉へと駆け寄っ……!
??「寝ぼけた事言ってんじゃねェぞコラァっ!!」
七波(っ……!?)
びくりと身を竦め、あたしの足はびったりと止まる。扉までたった1m。でも、それ以上進めない。
やっぱり、誰かいた。警戒は間違いじゃなかった。
慌てて壁に背を預け、早鐘を打つ心臓が生む呼吸を抑えて、聞き耳を立てて中の様子を探る。
??「あと何人殺せばあいつを逮捕できるってんだ? あぁっ!?」
誰かと、話してる……? 一人じゃないって事?
……それは分からない。ここから聞こえる声は一人だけ、その怒号を張り上げてる奴の声だけだ。
しかも、そのキレたような声の張り上げ方……あたしは聞き覚えがあった。
七波(あの、夜の……)
◆
――『ガキが……浅知恵でくだらねェ事してくれるじゃねェか……少しばかり焦ったぜ?』
◆
『フレイバーン』――あいつの口調じゃないのか?
やっぱり、ここはあいつの根城になって……!
あたしは聞き耳を立てながら、壁に体を押し付けたまま、ドアへとゆっくりと近づいていく。
……壁に背を預けていなかったら、震える膝が簡単に折れてしまいそうだった。
??「ああ、また殺すぜ……! もう……形振 りなんか気にしてらんねェからな……!」
七波(んくっ……!)
攻撃的なその台詞があたしの足を押し留めるかのよう。
ギリギリと歯を食いしばって、その恐怖を奥歯で噛み殺し、荒い息を小さくついて勇気を振り絞る。
七波(……くっそ……ヤバいよ、コレ……!)
ゲフリーさんの情報が頭をぐるぐる巡る。
あいつは焦りで情緒が不安定になるって……今のあいつの状態って正にその通りじゃんか……!
放っておく事は出来ないけど、あたしに何ができる……?
七波(そんなの……分からないけど……とにかく今は、奴の姿だけでも……!)
あたしはそう考えて、ドアから恐る恐る中を覗き込む。
でも。
あたしがそいつの姿を捉えるよりも
先に、目についたそれに。
あたしの目は釘付けになった。
七波「……ぅぁっ……!?」
倒れた、人。
人……!
人の……死体……!
七波「ぁ……ぁっ……!!」
死んでる……。
上半身の、
左半分が、
溶けて、
死んでる……!
扉から向こう側へうつ伏せになった男。
……青い制服は恐らく警察の物。ぞぶり、と左上半身が食いちぎられたようになくなり、頭部もほとんどなく、下の歯がわずかに残っているのみ。
赤や白の肉がむき出しになって、中の体液や臓物がどろどろと零 れ出て建物の床に大きく生々しいシミを広げていた。
どさっ、とあたしは尻餅をついて、『その死体を凝視することしかできなかった』。
??「……何……っ……!!?」
その死体の向こう側にいた男。
そいつはあたしに、背中を向けていた。
でも、あたしのその尻餅の音で、顔だけこちらに向けてきた。
その顔。
あたしはその顔に、再び目を見開く。
あのオフィス街で、物陰からあたし達を見ていた男。――それはこいつだ。
そしてその姿は見覚えがあって当然だった。
その男の顔は――穂積の常連の――
七波(作……家……!?)
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