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1-3-16-3 【桜瀬七波】 『悪孔力学』 3

ゲフリーレン「俺がされている追跡に巻き込んで死なれたら、大切なサンプルを失う事になるのでな」 七波「……そのサンプルって言葉、人に使われていい気しないからね? って……え、何、追跡……? ……」  ――ZA! SASAZA、SASAHHH! 七波「んくっ……! ……そう、だ……フレイバーン……!」  ……闇夜に赫眼を光らせた黒い甲冑姿の男――あいつがあたしに銃口を突き付けてくる姿が脳裏をよぎった。  ゲフリーさんと会えてすっかり忘れてたけど、あたしがどうにかしなきゃいけないのは、今はあいつの事だ。 七波「あいつ……この町のどっかにまだいるんだよね……?」 ゲフリーレン「……」 七波「どうしたの?」 ゲフリーレン「……いや。あの夜に現れた『奴』がどんな生活様式で生きているかは分からんが、この町に潜伏していると判断することは可能だろう」 七波「やっぱり……」 ゲフリーレン「奴については少し調べてみた」 七波「え、まじで!?」 ゲフリーレン「寄生型の精神生命体だという。他の知的生命体の精神を乗っ取って体として、活動をするタイプの生命体らしい」 七波「……人を、乗っ取る……? ……まさか……この星の人間に取り付いたり……!?」 ゲフリーレン「可能性としてはあり得る」  ……そんな奴……この星の人間になって、町に紛れ込んだら見つかりっこないじゃないか……! 七波「えっとさ……この町で、下半身を溶かされて殺された犬がいるって話があるんだけど」 ゲフリーレン「この星ではよくある殺害手段なのか」 七波「いやー、そんなのはそれこそ映画とかアニメとかだけだよー。エイリアンとか。……『CUBE』のトラップとか怖かったなー」 ゲフリーレン「映画の話は良く分からんが、十中八九、奴の仕業だ。……やはりそうか」 七波「……やっぱりって何?」 ゲフリーレン「……奴は性格的に焦燥を煽られると感情の抑制が難しくなる傾向にあるらしい」 七波「えーと……焦るとキレやすくなるってことでいい?」 ゲフリーレン「間違いではない。奴の出身星系人特有の性質だ」 七波「そんな奴が警察やっていいのかよう……宇宙ヤバすぎ。……え、って事は」  ごくり、と一度つばを飲み込んで。 七波「……あいつはイライラ溜め込んだらブチ切れて、辺り構わずぶっぱなす事もあり得るって事? あの溶けた犬ってのは、それで殺されて……!」 ゲフリーレン「繋がる話ではある」  焦燥感が噴き出る。妄想が困ったことに、悪い方向に逞しく働く。  あいつはゲフリーさんを探している、でもゲフリーさんを見つけられずにイライラして、地球の人間を殺してそのイライラを発散する……。しかも……あいつはあいつでこの星の誰かを乗っ取って、この町に紛れ込んでるなんて……! ゲフリーレン「ナナミ……お前は奴をどう評する」  フレイバーンを、評する――あいつをあたしがどう見るか?  ……そんなの、ゲフリーさんに問われるまでもなく、決まってる……! 七波「……『悪』だよ。あたしにとっての、悪い奴。……警察かどうかなんて知った事か、テメーのモラルで、この星で好き勝手やられてたまるかっての!」 ゲフリーレン「では、どうする? 『悪』であれば、何らかの手段で解決を図らねば、それは肥大し、次の『悪』を生む」  淡々と状況を告げるゲフリーさん。 ゲフリーレン「この地球の状況を見るに、奴の事を知るのはお前ただ一人。それでも『悪』に立ち向かう手段をお前はどう講じる?」 七波「……」  フレイバーンを見つけてどうするか?  ……そこんトコはあたしもまだ、具体的な事は考えてない。  今、こうして動いていたのは、あの夜の事が現実に起きた事かどうか、その確信が欲しかったからだ。  肩を撃たれた怪我があっても、どうしてもリアルにならなくて。  でも……今、目の前には、これ以上ない生きた証――ゲフリーさんがいる。  スタート地点には立てた。そしてフレイバーンの何となくのイメージも見えた。  ここからは、あいつをどうにかするための手段とあいつの行動を探っていく必要がある。そして、警察なりなんなりの力を借りてこの町で起きる事件を防がなきゃならない。  ただ、警察は生半可な事じゃ動いてくれないだろう。だから、より具体的な形にして、あいつの前に警察を放り込んでやらないと……! 七波「……一番手っ取り早いのは、ゲフリーさんをあいつに突き出す事なんだよね」 ゲフリーレン「お前にそれが可能なら、そうしたらいいだろう」 七波「それしかあたしに手段がないなら、遠慮なくそうさせてもらうから、覚悟しといてよ?」 ゲフリーレン「『悪』への手段を講じるという事だな。結構な事だ」 ゲフリーレン「それが、世界を動かすエネルギーだ。この星が求める化石燃料よりも、原子の力よりも。何よりも、知的生命体が己の意思で動かす手、歩む足こそが――悪孔へと立ち向かう意志こそが、世界の動力となるのだから」 七波「いい事言った気になって、あたしに取っ捕まって後悔しないでよね」 ゲフリーレン「構わん。そこまで含めて、お前は俺に求められている」 七波「……その物言いはやめろっての」  ……一瞬でもドキッとするから。 七波「……そうだ、ゲフリーさん、お腹すかない?」 ゲフリーレン「何?」 七波「お昼ご飯食べてないでしょ? 簡単なものでよかったら奢ってあげてもいいよ? ……感謝してよー? 万年金欠に悩む女子高生に奢られるなんて、この星じゃ滅多にある事じゃないんだからね?」 ゲフリーレン「……お前の話の後半部分が、全くと言っていいほどよく分からないのだが」 七波「ダメだなー、さっきもそうだったけど、翻訳機仕事してないんじゃないの?」 ゲフリーレン「そんな事はないと思うがな」  まぁ、多分……そこをゲフリーさんが理解できないのは、言語がどうのじゃなくて、文化がどうのって事なんだとは思うけど。  同じ日本人のおじさん達ですら、あたしらJKを宇宙人とか言うぐらいだからな……。 ゲフリーレン「この星の食文化というのも、興味はある。ただ……俺はやはりお前たちとは違う星の生命体という事だ」 七波「はぁ。……どう違うの?」 ゲフリーレン「体に必要なエネルギー摂取量と、その変換効率が明らかに違う。ある時に食事を行えば、ある程度、そこから栄養を摂取しなくとも長期間の活動が可能だ」 七波「え……ご飯、全然食べなくていいって事?」 ゲフリーレン「ああ。お前から一度すでに、この星の食料を貰って食しているからな」 七波「……あれ、そんな事したっけ?」 ゲフリーレン「糖分の塊をくれただろう?」 七波「……。……んんんー……?」  ……あたしの記憶を探ると。  なぜか『ガリッガリッ』って音がするんだが。  ……。  ……えっ……? 七波「……ちょ、まっ……あの……イチゴミルクアメか!? あんなの一つで、何にも食べないで大丈夫なの!?」 ゲフリーレン「エネルギーの変換効率が良く、助かっている」 七波「アメ食べてそんな感想を口にする奴はいない! ……え、一個でそんなに持つの?」 ゲフリーレン「いや、あの場で一つ食した後、残りの二つもくれただろう。流石に今日の朝方食した分で無くなった」 七波「そんなに腹持ちのいいお菓子だと思ったことはないのじゃが……」  そりゃあたしも、夕方とかお腹がすいた時には食べるけどね……。 七波「アレばっかり食べて、飽きたりしない?」 ゲフリーレン「特に気にすることはない。ここへの訪れ方を考えれば、食に我が儘は言えんな」 七波「じゃ、コレ。袋ごとあげる。その辺のゴミ箱とか漁っちゃダメだよ」  あたしがもう半分ぐらい食べちゃったけど、リュックからアメの入った袋を渡す。残り10個ぐらいは入ってるハズ。 ゲフリーレン「……む、助かる」  大事そうに袋を小脇に抱えるゲフリーさん。  ……うわー……ピンクと白基調の袋が、スゲー違和感……。……かわいいけど……。 ゲフリーレン「これはこれでありがたいが……ナナミ」 七波「何?」 ゲフリーレン「いずれお前の食事の招待にも応えたいと思う。食を心理学問と切り離して考える事は出来ない。折があれば、この星の食事を教えて欲しい」 七波「……。……招待するとか、そんな上等なもんじゃないからね」  ゲフリーさんの口ぶりだと、高級フランス料理のレストランにでも連れて行かなきゃという使命感に駆られそうだが、あたしの奢れるものなんて、いいとこマックかファミレスだしな。  でも、ゲフリーさんと高級レストランでディナーねぇ……ふーん……。  ……。  第一印象。……会話に苦労しそうだな……。  ……まぁ、そんな妄想はさておき。 ゲフリーレン「……さて、俺は行く」 七波「え……どこへ?」 ゲフリーレン「少し、調べたい事がある。この星にいるのであれば、俺の目的は研究である事に変わりはないからな」 七波「あ、うん……そうなんだろうけど……」  ……ゲフリーさんを昼食に誘ったのは、共同戦線を張れないかって提案をしたかったからだ。  状況を知ってる人がいれば、あたしも心強いし、ゲフリーさんは色々頼りになりそう。  もちろん、心を許しちゃいけないのは承知の上だ。だけど、目的は一緒なら……。  と……ゲフリーさんは一歩、あたしへと足を踏み出して……! 七波「なっ……ちょっ……!」 ゲフリーレン「……動くな」  あたしの体の眼前に立つゲフリーさん。  流石に油断できないとか考えてた手前、ビビッて後退りしかけてしまったけど、ゲフリーさんの一言で、あたしはびったり動きを止めてしまう。 七波「な、何かなー……」  ほぼ、密着。ゲフリーさんの胸に頭を預けちゃえそう。  あたしはドギマギするしかなかったのだが。 ゲフリーレン「……俺の肩越し、直線上」 七波「はい?」 ゲフリーレン「先ほどから俺たちを見ている奴がいるようでな」  ……言われて、ちょっと背伸び。  それであたしの頭は、ちょうどゲフリーさんの肩の上ギリギリに目が出る位置になった。  言われるがまま、ゲフリーさんの肩越しに見えるビルの陰へ視線を送ると……。 七波「ぁっ……!?」  あたしの視線に気づいたのか、すっと、体を隠した奴がいるのが見えた。  あたしはよく見ようとゲフリーさんを避けて一歩前に出るが、そいつはもう、こちらへ体を出して来ようとはしなかった。 七波「……あれって……」  見えたシルエットは、あたしの視線には一瞬気付かなかったはず。  だから断言できるんだけど、それからして、この星の人間で間違いない。  ただ、あたしとゲフリーさんに注目するような人間がいるとすれば、この場合、それはどんな人間か?  ……背筋が震える。……奴……だろうか?  ただ、あの姿……どこかで見たような気が……。 七波「ゲフリーさん、あいつ……!」  と振り返るが……。 七波「……。……え……?」  そこには誰もいなかった。 七波「……ゲフリーさん?」  周りを見回しても、隠れている気配はない。  今の今まで話していた『その人』は、『あの時』と同じように、姿を消したのだった。 七波「……」  体を、抱きしめる。  孤独を、癒すように。  別の誰かを求めて、抱きしめるように。  でも、誰もいない。  あたしはやっぱり、一人だった。 七波「……ゲフリーさん……」  そう小さく呟くあたし。  その心細さは……どうやら、孤独の戦いを感じて、って事だけじゃ……なさそうだった。
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