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1-3-15-2 【桜瀬七波】 スタートライン 2

 ――昨日の夜、作家が帰って他のみんながもう少しとコーヒーを飲んでいる中。 咲子『よっしゃ、じゃ、どんな絵描こかな?』  いきなりノートと筆記用具を取り出し、カチカチとシャーペンの芯を伸ばす咲子。 七波『うぉ、いきなりだな!?』 咲子『ふぃ? そかな? パッとイメージ出来たらすぐラフだけでも描かんとやなー、思うねんよ。その場のテンション、大事やと思うねん』 七波『……あー、分からんでもないけど……でもテンション上がる事、あったかぁ?』 咲子『うん! ……元気なナナちゃんに会えたやし』 七波『……』 咲子『赤くならんでや』 七波『じゃ、突発的にリアクションに困るような事言わないでください!』 咲子『えへへ、赤くなったナナちゃん描くのも楽しそうやなぁ』 七波『うー……』  まー、そんな事を言いながらも、ニコニコしながらノートにペンを走らせる咲子の姿を見て、どっかの芸能人が言ってた話を思い出した。  その芸能人、足が速いのを天賦の才と言われた時に、『そうじゃない』ってその才能という言葉を突っぱねた。  今、この場で、何の前触れもなく『走ってこい!』って言われて、走るか走らないかと言えば、フツーの人は走らない。苦笑いでもして躊躇うのが関の山だろう。  でもその人は走ると。全力で走ると。だから誰よりも自分の方が早いんだ、と。  ……ちょっと尊敬した。  そうゆー、フツーの人が理解できないような瞬発力を持ってる人が、大成する人なのかなって思う。あたしはなんでも後回しにしちゃいそうだしな……。  そんなワケで、咲子の熱気に当てられたように、あたしはネットで色んな、カッコいい構図とか検索しまくってた。 七波『咲子、もっとギューン!! って、こう……捻りを加えた方が、しゅっとした動きが出ると思うんだけど』 咲子『ギューンでしゅって。擬音で説明かいな』 七波『いや、でも……ほら、例のマンガ描くマンガでさ、主人公達のライバルの超人気漫画家が擬音口走りながらマンガ描いてたじゃない? あれ、あたし割と分かる気がするんだよね。『ずどーん!!!』って口走りながら拳振ると、なんかフツーより凄い何かが出そうな気がするじゃない?』 咲子『ナナちゃんなら出しそやな』 七波『まぁ、イメージだよイメージ。体をぎゅんっ!って勢いよく捻っている感じを口で叫びつつ、頭で描いて、それを絵にドカンと叩き込む! ……まぁ、やり方は人それぞれだから、誰かのマネをするってのが咲子に合ってるかは分かんないけど、あたしはそのキャラになり切るってところから説明しちゃうから』 咲子『あはは、ナナちゃんらしぃな。でも『なり切る』言うんは、何となくわかるかもしれへん』 七波『そうなの?』 咲子『うん。描いてくと分かるけどもやな、結局描きたい絵ー言うんは『自分やったらどないな恰好するか』いう所から始まって『自分がこうなりたい』言う所に行き着く気がするねんよ』 七波『さっすが咲子! じゃ、ギューン! で行こう!』 咲子『もっとスマートに、しゅーん!! やったらどない?』 七波『ほほー、細い感じだね。でも勢いはデカい方がいいかも。きゅわわっ!! って感じは?』 咲子『せやったら一回やないな。ぎゅぎゅーん!!』 七波『おお! いいぞぅ! 自分出してけ、咲子!』 咲子『おう!』  ……後で常連連中に、心配されるほど盛り上がった。ああ見えて、咲子は好きな事にはノリがいい。  残念ながら、まだ咲子はそこから出てきた構図をラフ状態からちゃんとした形にできてはいないけど、あの調子ならそんなに時間はかからないと、あたしは思ってる。  それはいいんだけど、問題はあたしの方。  やっぱり体力的にはどこか衰えていたらしく、咲子にそれを気遣われて、昨日はある程度でひとまずお開きに。そのまま良く慣れた自分のベッドにばったり倒れ込んで、朝までスヤスヤ。  スマホの充電なんてすっかり忘れてたけど、お兄ちゃんがお店にほっぽらかしにしちゃったあたしの荷物から携帯バッテリーだけ充電しててくれたからありがたかったね。
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