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1-2-12-2 【桜瀬七波】 約束 2

 ……問診が終わって、先生は肩を竦めて、ため息をつきながら病室を出て行った。看護師さんは苦笑しながら終わった点滴を抜いて出て行ったけど、先生の呆れたという態度に対してというより、あたしの問診中の態度への苦笑いだったと思う。 七波「……怒らせちゃったかな」 人治郎「問診中に『ぼ、ぼくは、おにぎりがすきなんだな』はないでしょ」 七波「言ってないからね!? お腹はすいたけど!」  いやまぁ……お兄ちゃんが言いたいのは、そういうおどおどしたような態度だったって事だろう。 だって『何があったのかな』って聞かれたって、悪いけど心の準備ができてない中で、先生には答えられないもん。  もちろん、先生からしてみれば、肩やら足やらに強烈な打撲痕――肩に至っては骨に僅かにヒビが入ってるらしい――の原因が分からないと、治療に差支えが出るんだろうけど。  でも、いろいろ考えた挙句、結局正直に話すことができないと悟ったあたしは、おどおど娘を演じるに徹した。その方がぶっちゃけ都合が良かったんだよね。……ごめんなさい、先生。 人治郎「とりあえず食事は普通で大丈夫だってね。食べたいものある? 病院食も出るみたいだから、そっちでもいいけど、キャンセルするなら早めにしないとダメ……」 七波「お兄ちゃん」  あたしはおどおど娘を演じている間に色々考えた結果、それをするに至った。 人治郎「うん、ご飯抜く?」 七波「(ちっげ)ーよっ! お腹すいたって言ってんじゃん! 人の話聞けっ! ……ってか……」  ……。  ……ったく……言葉を繋げづらいけど。 七波「……話……聞いてくれる?」 人治郎「いいよ」 七波「早っ!?」  相変わらずこっちがどんなに悩んでても、打てば響くを地で行く人である。  お兄ちゃんはパイプ椅子に深く腰を掛けて、足を組みながら笑う。 人治郎「そりゃ、俺が迷うとこじゃないからね」 七波「そーなんだろーけどさー……」  バツが悪いというかなんというか……とは言え、聞いてほしい人が聞いてくれる体勢になってるのに、あたしが話さないとか無いわけで。  少し悩み、もう一度何を話すかを頭で整理してから、切り出す。 七波「……えっとね、まず言っときたいんだけど」 人治郎「うん」 七波「もしかしたら、そうじゃないかもしれない。現実的に考えたら、もしかしたら頭のおかしい人がそう名乗ってるだけで、実は人間なのかもしれない」 人治郎「うんうん」 七波「ただ、あたしはあの時見て、聞いたことだけを話す」 人治郎「全然それでいいんじゃない? 客観的な分析なんて、したい人に任せたらいいんだから」 七波「……そだね、ありがと。……じゃ」  あたしは改まったように、一つ深呼吸をして。  一気にその言葉を吐き出す。 七波「あたしは宇宙人に殺されかけた」 人治郎「……人型の」 七波「そう、人型の。……え、何。それ以外にあんの?」 人治郎「ほら、火星人タコじゃん?」 七波「タコはタコだろう。火星『人』じゃないって。そもそも火星人はゴキブリじゃね?」 人治郎「アレは地球原産でしょ」 七波「常時?」 人治郎「常時」  なんだこの会話は。 人治郎「でもまぁ、とにかく人型なんでしょ?」 七波「うん。……え、なんで?」 人治郎「頭のおかしい『人』がそう言ってるだけかもしんないって言ったから」 七波「あ、まぁ……うん……」  ……。やっぱり……。 七波「……やっぱり宇宙人なんて……信じてもらえないよね……?」  うつむき加減でそんなことを口にしながら、お兄ちゃんから視線を外してしまう。  でも、お兄ちゃんは組んでいた足を下し、少し前に体を出して、あたしに言ってくれた。 人治郎「信じてもらえないって不安になるよね」 七波「……ん……」 人治郎「でもね七波ちゃん。俺の中ではその話はとっくに終わってる。むしろ始めてさえいないって言った方がいいかな」 七波「始めて……さえ……?」  その言葉で、あたしは外していた視線をお兄ちゃんに戻した。 人治郎「俺は七波ちゃんの事はよく知ってるつもり。真剣な七波ちゃんが俺に嘘ついた事ないでしょ。言いたくない時は『言いたくない』ってはっきり言うんだし」 七波「う……うん……多分……」 人治郎「ね。……でも、もしも言葉として必要だっていうんなら」  とんとん、とお兄ちゃんは、自分の胸を人差し指で軽くたたいて。 人治郎「俺は七波ちゃんのこれからの事は全てあった事として信じて話を聞く。……これでいい?」 七波「お兄ちゃん……」 人治郎「むしろ、俺が信じないかもって思われる方がカナしいんだけどなー」 七波「うわわわっ! ごめんごめんごめんごめん!!」 人治郎「あはは。冗談だよ」  そんな言葉で、あたしの不安を取り去ってくれるお兄ちゃん。  それだけで、あたしがこの後の言葉を続ける事にどれだけ安心したか知れない。  と、お兄ちゃんはそのまま言葉を続けた。 人治郎「それはともかくね。俺にとってはこの話は信じるか信じないか以上に。七波ちゃんに何か良くない事が起きたりしないかって事が大事なんだ。俺は話を聞いてその……対策ってのを考えなきゃいけない」 七波「……対策」 人治郎「……その肩」 七波「え……」  お兄ちゃんの声のトーンがわずかに下がったのをあたしは聞いた。 人治郎「その怪我は事故でできたものじゃないって先生が言ってた。つまり七波ちゃんに怪我をさせた奴がいる。そして更に――今の話を聞くに、俺の妹を、殺しかけた奴がいる」  お兄ちゃんの声のトーンは低く下がったところから変わらない。  だけど、明らかに、あたしが聞いた事のない声色で、お兄ちゃんは言った。 人治郎「……俺はそいつを許さない」  一瞬、ぞくりとする。  当然だろう、優しい姿しか見せてこなかった人が、心の底にしまったままの全く正反対の感情を乗せて発した言葉が、人の心を震わせない訳がない。  でも、それが通り過ぎた後に残る感情は。 人治郎「何ができるか分からない。だけど。何かをできるようにするためにも――」  偏に、『心強さ』だった。 人治郎「話を聞かせて、七波ちゃん」  一昨日の夜のことを、あたしは(つぶさ)にお兄ちゃんに話して聞かせた。  いつもはにこにこ笑ってるだけのお兄ちゃんが――これまで、怒られなきゃいけないような事でも、諭す以上の事はしなかったお兄ちゃんが、今は本気で心の中で火のようなものを揺らめかせながら、それを聞いてくれていた。  もちろんずっと怒りっぱなしなわけじゃない。  あたしに話しやすいように柔らかく頷き、促し、それでも目の中には普段の軽いスタンスにはない確固とした気持ちが見える。  気が付けばあたしは、記憶にある一昨日の夜の光景全てを言葉にして、お兄ちゃんの前で走り切っていた。 七波「――でまぁ……フレイバーンが絆創膏貼られて、失敗したブレイクダンスみたいにもんどりうってる間に、あたし達は逃げ切ったって感じ」 人治郎「うん。……その後は?」 七波「えっと……そこまで、かな」 人治郎「ゲフリーレンって人はどうしたの?」 七波「ああ。……そのまま逃げてったよ」 人治郎「ふーん……で、その後七波ちゃんは?」 七波「……え?」 人治郎「ゲフリーレンを逃がして、そのまま?」 七波「……。……ああ! えっ……ええーと……」  ……。 七波「あー……多分……そのまま倒れた――気絶したんだと思う。さすがに怖かったから……そのショックかな……?」 人治郎「……オフィス街で?」 七波「……そう! そこが不思議なんだよ! あたしはオフィス街で倒れたの! それは間違いないんだけど……でもその後……どうやって店の前まで行って倒れたのか分かんなくて……」 人治郎「うーん……もしもオフィス街で倒れたのが記憶違いじゃなければ……まぁ、誰かに運ばれたと考えるのが妥当なんだろうけど」 七波「え……誰よ?」 人治郎「いや、それは流石に俺にも」  お兄ちゃんが首を傾げる。  そりゃ当然だろう。当事者であるあたしですら全然予想がつかないんだから。  フレイバーンもゲフリーさんも、あの状況であたしを安全な場所へ運ぶ理由がない、ハズ。  一体あたしが気絶してる間に何があったんだろう? 人治郎「でも、そんなトコなんだよね?」 七波「話し忘れた事がなければ、一応」  と、答えた。  ……この時点で、あたしは一つだけお兄ちゃんに『隠し事』をしている。……気づいてもらえてるよね?  お兄ちゃんには悪いけど、あたしにはそうしておきたい理由があったんだ。 人治郎「おっけ。……ふぅ……」  ずっと表情の張りつめていたお兄ちゃんは、そこでようやく息を吐いて、椅子に寄りかかって、うんうんと頷いて。 人治郎「……かなりヤバかったね、七波ちゃん」 七波「……うん」 人治郎「今の話聞いて。……こうして帰ってきてくれて、改めてホッとしてるよ」 七波「……。……心配かけてごめんなさい……」 人治郎「んー……。……七波ちゃんさ」  ふと、お兄ちゃんは、少し声の小さくなったあたしに、軽い声で顔を寄せた。 人治郎「一つ聞かせて?」 七波「な……何?」 人治郎「自分のやった事に間違いはなかったと言える? 正しい事をしたって言える?」 七波「あ……」  それはいつもお兄ちゃんが言っている言葉。  何かあたしが外で問題をしでかした時、お兄ちゃんが背中のあたしに優しい声で語り掛けてくれる言葉。  お兄ちゃんの大切なカップを割った時も。  学級会で、みんなのしてる事がイヤだと口にした時も。  犬を怪我させて、その飼い主に怒られた時も。  それぞれのシチュエーションで、言葉は違っても、お兄ちゃんがあたしに言いたい事は、いつも一つ。  『間違っていないと思ったら、七波ちゃんはそれを貫き通していい』。  うん、どれも間違ったことなんかしてないって胸張って言える。  カップを割ったのは、積み上げたお皿を倒れないように抑えようとしたから。  みんなに間違ってると言ったのは、みんなが休んだ子に学級委員長を押し付けようとしたから。  犬を怪我させたのは、飼い主が放置してたあの犬が、友達に噛みつこうとしたから。  その度ごとに、お兄ちゃんはあたしを――あたしの心を守ってくれたんだ。  だからあたしは。  その背中を見続けてきたあたしは。  いつかはお兄ちゃんに頼ってただ謝るだけじゃなくて、自分で自分のした事に責任を持ちたいって思ってた。  従兄妹同士って言うのも、理由として大きかったかもしれない。  親子だったら子を守るなんてのは当然の事かもしれないけど、直接血が繋がっていないからこそ、あたしはそうされることに尊敬の念を抱いたのかなぁって思ったりもする。  ……家族として一緒にいるなら、あんまりしちゃいけない、文字通り『遠く慮る』の『遠慮』なのかもしれないけどね。  とにもかくにも。  一昨日――あたしは自分の命よりも、ゲフリーさんを助ける事を選んだ。  お兄ちゃんに、顔を背けたくなかったから。誰かを見殺しにして平然と生きていけるほど、図太くはなれないから。  誰からも責められないとしても、思い出すたびに胸を締め付けられるような思いをするなら、あたしはあたしとして、あたしが考える正しい選択をする以外に――『あたしになる』以外に、その痛みの鎖を引き千切ることはできない。  ただ……今回みたいなことは初めてだ。  命を天秤にかける事。  だから、あたしはお兄ちゃんに確認する。その究極の選択が間違っていなかったか。  それが正しければ―― 七波「……質問に質問で返しちゃうけど」 人治郎「うん、大丈夫、爆破とかしないから」 七波「当たり前だ。……もしも、さ……あたしが死んでみんなに迷惑をかけても、それは――あたしの思う正しいことは、正しいのかな? それをしてもいいのかな?」 人治郎「そーね。『大切な人が死んで、残された人間が悲しいと感じるかもしれない』、それがいい事か悪い事かって事でしょ?」 七波「うん」 人治郎「命を賭ける時、ギリギリの局面でそう考える事ができる人は、きっと優しくて強い人だとは思う。……でも、ね、七波ちゃん」  お兄ちゃんは少しだけこめかみのあたりを、コリコリと掻いて。 人治郎「俺は『残される人』が『悲しいと感じたくないから危ない事はやめろ』ってのは、残される人の結構勝手な言い分だと思うんだよね」 七波「……え……」  あたしはお兄ちゃんを真っ直ぐに見つめる。 人治郎「もしも七波ちゃんが今回の事で死んじゃってたら、俺は凄く悲しんだ。自分を責めて、泣き腫らして、誰かを憎んで、七波ちゃんを殺した奴を叩き殺しても晴れないぐらいに悲しんだと思う。それに絶対間違いはない」 七波「……分かる」 人治郎「うん。……でもね、当事者になれなかった俺が、自分を偽らない――正しくて誇れる生き方をして、その結果死んじゃったのなら、そんな七波ちゃんを非難するのは間違ってるって思うんだ」 七波「お兄ちゃん……」  椅子に座り直しながら、お兄ちゃんは言葉を続ける。 人治郎「……人間はいつか死ぬよね。だけど満足な生き方をするなんて、難しいったらありゃしない。生きてりゃいつだって選択肢ばっかりだよ。正しいと思っても、周りのせいでそれを選ぶことすらできないことだっていっぱいある。――なら命を賭けて自分で正しいと思う生き方を選ぶ事ぐらい、その人個人に許されたっていいじゃない」 七波「……うん、いいと思う」 人治郎「ね。もちろん俺に、七波ちゃんがどんな気持ちで最期を迎えたかを知る事は出来ない。だから俺は七波ちゃんを信じたいっていつだって思ってる。七波ちゃんは、それを裏切らないって信じてるよ」 七波「……うん……!」  あたしは多分、頷きながら自然に顔を綻ばせていたと思う。  ……それが信じてもらえるって事の幸せの形なんだろうね。 人治郎「そうだ、もしもどうしても残される人の事を気にしちゃうようなら、一つだけいい方法がある」 七波「え、何々?」 人治郎「もしそんな事になったとしても、自分は間違いのないことをして死んだって証を残す。……それがせめてもの残された人への優しさじゃないかな」 七波「……え……例えば?」 人治郎「今回の事だって、できたんじゃない? そのゲフリーレンって人は助けられたんでしょ?」 七波「あ、うん……まぁ、でもどうなのかな? ゲフリーさん逃げちゃったし、あの人お兄ちゃん知らないからあたしの事伝えてくれたとは思えないしなー」  ……そもそも『悪い人』だしね。 人治郎「なるほど、それはそうかもね。でも例としてはそういう事だよ」 七波「うん。……大丈夫!」  わざとらしく、親指を立ててみたりして。 七波「お兄ちゃん、あたしは、何一つ間違ってない」 人治郎「それでいいじゃない。……あ、でももう一つ。……今言ったこととちょっと矛盾するかもしんないけど」  最後にお兄ちゃんは、微笑みは残しつつ、真剣に。 人治郎「どんな状態に陥ったとしても。正しいことをする中で、『生きるための最善の努力』を、絶対に諦めないで」 七波「分かったよ、お兄ちゃん」  誰かを悲しませないで済むなら、その方がいいに決まってる。  そもそもあたしだって死にたくないし。  そういう意味じゃ、作戦が外れたから陥った状況とは言っても、今回のあのフレイバーンに銃を突き付けられた時の事は割と無謀だったとは思う。……次は無いこの頭で、もっと考えないといけないな。  でも……ちゃんと理解できた。理解し合えた。  あたしが自分で正しいと思う事。あたしがあたしであろうとする事。  ……お兄ちゃんとあたしという家族の中で、もうそれを貫き通すことに何も躊躇いもない。  お兄ちゃんはあたしを信じてくれている。  あたしがしなきゃいけないのは、それを裏切らない事、つまり――結局話は立ち返るだけの事。  『あたし』がいつだって『あたし』でいる。  そう言う生き方を、いつだって努力していけばいいんだよね。 七波「……ねぇ、お兄ちゃん。あたしの今の話……どうしたらいいと思う?」  とりあえず分かり合えたところで、もっかい元に戻って。 人治郎「確かに……今のを聞いてる限りじゃ先生には話せないだろうな。そういう意味では七波ちゃんのさっきの問診の態度は正しかったかもしれない」 七波「うん」 人治郎「今は状況に任せてみるのがいいと思う。人が死んでるって話なんだよね? だとすれば警察が動き出してると思うんだ。俺ら一般人じゃどうにもならないトコがあるし、どう動いていいかが分からないって事もあるから、まずはそっちの動きを待ってみようよ」 七波「そうだね」 人治郎「よし、じゃちょっと家から七波ちゃんの着替えとか取ってくるから」 七波「え……もしかしてあたし入院? 泊まりとかなの?」 人治郎「うん、病院の経過観察だってさ。流石に丸一日寝てたワケだから、何かあるかもしれないし。今日一晩は大人しくしてようよ」 七波「うーん……あたし大丈夫だけどなぁ」  正直、色々納得できてない事がいっぱいあるから、動き出したい気持ちでいっぱいなんだけど。 人治郎「気持ちはわかるよ。体だけ見れば打撲三か所と擦り傷だけだしね。でも、今日は俺もゆっくりしてほしいと思う。他に問題が無ければ明日にでも退院できるって」 七波「……まぁしょうがないか」  まだ足は痛むだろうから、ばたばた走り回るのが良くないのは分かる。  今回の事は、迂闊に突っ込めば怪我じゃ済まないかもしれない。そんな時、足が動かないでゲームオーバーなんてのは一番考えたくないトコだよね。 七波「あれ? そういえばお兄ちゃん……お店は……」 人治郎「ああ、みんなが任せろって店番買って出てくれたよ」 七波「……あいつらがぁ!?」  あいつらってのはウチの常連達。揃いも揃ってクセの強いやつらばっかり。  ……正直……心配でしょうがないんだけど……。 人治郎「そう言わないの。みんなが見つけてくれなかったら、一晩外で寝てたかもしれないんだから」 七波「それと店番は話が別だよぅ」 人治郎「はは、そうね。それも見てくるか。じゃ、待ってて……」  と、出て行きかけるお兄ちゃんに。 七波「……お兄ちゃん!」 人治郎「ん?」  振り返るお兄ちゃん。  ……あたしはあたしであるために。  お兄ちゃんに、嘘はつかない。そう言う生き方ができるように心がけていくと決めた。 七波「ごめん! あたし……一つだけお兄ちゃんに隠し事してる! でもそれは……あたしが『それ』を話すには、確信が持てない事があるからだよ。だからその確信が持てるまで、この隠し事――しててもいいよね?」 人治郎「それは七波ちゃんにとって正しいこと?」 七波「正しいかは分かんない。でもあたしという人間にとって、間違いではあり得ない!」 人治郎「凄くいい返事だよ。流石は七波ちゃん。……もう俺は、不必要におんなじ質問を七波ちゃんにはしない。自分らしく、間違いのない自分になってね」  お兄ちゃんは満足そうな笑顔で病室を出て行った。 七波「はぁ……」  ……話のし通しでちょっと疲れた。  あたしはベッドに横になる。  お兄ちゃんとこんなに真剣に、長々と話をしたのは久しぶりだ。……ぶっちゃけ、話をしていても不思議な人だとは思う。  『いのちだいじに』よりもどっちかと言えば『ガンガンいこうぜ』な性格になっちゃったのは、あの人の影響が大きい。  お兄ちゃんはお兄ちゃんの考えで、あたしに後悔の無いように生きてほしいって願ってる。その形が普通よりかなり特殊な形だってのは、アニメやら本やら映画やらのフィクションでしか見かけない事からしても分かるってモンで。現実は『もっと大事に生きろ』が基本だ。  でも他人がどう思おうと、あたしはその生き方に共感してる。  あたしが記憶を失う8年前。そしてその更に前から……お兄ちゃんはどんな生き方をして今みたいな考え方をするようになったんだろう……。  ……っていうか。 七波「……お腹すいたって言ったのにぃぃぃっ!! ごーはーんーっ!! お兄ちゃんのバカーっ!!!」  ばったんばったんと左手で布団を叩いて抗議。  お腹が見事にぐぅぅぅっ……とヘヴィサウンドを奏でた。
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